
「緑の葉っぱが灯る夜」 第2章:霧雨の晩に②
沈丁花の木の上で、そいつは腕を組み、あぐらをかいていた。
「やな天気だ……」
青みがかった緑色の服を着て、腰に深緑色の袋をさげた緑の精――。しかし、不機嫌そうにしかめたその顔は大人にはほど遠い。彼は『大人のかなり手前』で地上に降り立ってしまったのだ。
「もうちょっと、のんびりできると思ってたのになあ」
もやもやと立ち上る香りの中で、彼は不服そうにつぶやいた。
緑の精たちは、地上に着くと同時に一人前とみなされ、すぐにでも『仕事』を始めなければならない。仲間のほとんどは、まだずっと高いところに漂っているのに、どういうわけか自分だけ、みんなよりも早く地上に着いてしまった。それが残念でならないのだ。
「あ~あ、ついてねえや」
緑の精は深くため息をつくと、ボールの真ん中に浮いたままごろりと横になった。
その拍子に、
「おっ」
はじめて自分に視線が向けられているのに気づいた。
誰かがじっとこっちを見上げている。
一瞬ぎょっとしたが、それが女の子だとわかると、すぐに元の表情に戻った。
(なんだ、花でも見てるのかよ)
ふつう人間の目に彼らの姿は見えない。
今、自分の下には、固く小さな赤紫色のつぼみがぽつぽつと開き始めている。濃厚な香りは、まわりの空気まで華やかに染め変えていた。おおかたそれでも眺めているのだろう。
それはそれでかまわないが、
「なんだか、こっちが見られているみたいでヤだな」
地上に着くタイミングばかりか、降りた場所までついてない。その間も女の子は身じろぎもせずに立っている。
(ああ、もういい加減に――)
そう思いかけて、はっと顔をこわばらせた。
目が……合ったような気がしたのだ。
(まさか、そんなはずは……)
緑の精は、がばっと跳ね起きると、相手の顔をじっと見つめた。
やがて、
「あなた、だれ?」
女の子が真剣な表情で口を開いた。
「えっ、おれ?」
思わず自分を指さすと、相手はこくりとうなずいた。
(やっぱり、見えているんだ)
それから、ずいぶんと長い間、ふたりは無言で互いの顔をじっと見ていた。