
「緑の葉っぱが灯る夜」 第2章:霧雨の晩に③
しばらくして、
「おまえ、なにもんだ?」
今度は緑の精が話しかけた。
「わたし、裕子――」
ちょっと間をおいて裕子が答えた。
「どうして俺の姿が見えるんだ?」
「どうしてって……。見えちゃいけないの?」
「いや、いけないことはないんだけど、本当は見えないはずなんだ」
「ふうん、そうなの。でも、見えるんだからしかたないじゃない」
「そりゃ、そうだけど……」
口ごもる緑の精に裕子がたずねた。
「ねえ、あなたは誰なの?」
「おれ?俺は緑の精だよ」
「みどりのせい?」
緑の精がうなずく。
「そうさ。地上の草木に新しい緑を『点火』するために空から降りてきたんだ」
「緑を……『点火』するの?」
「そっ」
「ガスみたいに?」
「がす?がすねえ……」
その『がす』っていうのが、どういうものなのかよくわからない。
緑の精はちょっと考え込んでから答えた。
「つまり、木の枝とか地面から出てる『春の息吹』に緑を灯して、葉っぱや草の芽を生えさせるんだよ」
「へえ」
とっさに想像がつかなかったが、話を聞いて、どうしてもそれが見たくなった。
「ねえ、ちょっとやってみせてよ」
すると緑の精はげんなりした様子で――。
「え~、今やるのかよ。俺はついさっきここに着いたばかりなんだぞ。もうちょっと、のんびりしていたいんだよ」
本当は空の上でもっとのんびりするつもりだったのに、降り立ってからひと息つく暇もないなんて、
(冗談じゃない)
緑の精はぷいっとそっぽを向いた。
しかし、
「ねえ、お願い。一回だけ。ねっ」
裕子はなおも頼み込む。その様子をちらりと横目で見てみたが……。
(ちょっとやそっとじゃ引き下がりそうもないな)
このまま居座られてもかなわないし――。
「しょうがねえなあ。ほんとに一回だけだぞ」
緑の精はしぶしぶ向き直ると、腰の袋から一本の杖を取り出した。オレンジ色で大きなマッチ棒みたいな形をしている。
それを見て裕子が首をかしげた。
「ねえ、変だよ」
「変って何が?」
「だって――」
緑の精の手のひらより少し大きな袋から、彼の腕の長さほどもある棒が出てきたのだ。
「どうやって出したの?伸びたり縮んだりするの?」
「どうやってって……」
実は彼にもよくわからない。緑の精は不機嫌そうに口をとがらせた。
「いいから黙って見てろよ。ごちゃごちゃ言ってると見せてやらないぞ」
「わかった……」
裕子はそれ以上聞かないことにした。