
「緑の葉っぱが灯る夜」 第6章:変なおばさん④
アルグはふいに顔を上げた。
呼んでいる――。
今、たしかに裕子の声が聞こえた気がした。
急いで植え込みから飛び出し、梅林のほうへ目を向けると、手を振っている姿が小さく見えた。もっとも裕子からアルグの姿は見えないので、その場であっちを向いたりこっちを向いたりしている。
「どうした?」
アルグがたずねるとやや興奮した声が頭の中で響いた。
「杖が見つかったのよ」
「え……」
ほんとか?と言いかけたとき、
「ええぇ~っ?」
ややワンテンポ遅れてレモテの大きな声が響き、反対側の木立ちから緑色の球体が飛び出すのが見えた
「そんなまさか。君が見つけるなんて信じられないよ。いったいどこにあったんだい?」
すると裕子が答えた。
「花の精が見つけてくれたの」
それを聞いて、
「なんだって」
二人の緑の精は同時に声をあげ、それぞれの方角から斜面を転がるように降りてきた。
そして、裕子のもとへやってくるなり、
「どこだ、どこだ?」
「どこにいるんだい?」
と、口々に叫びながら、あたりをきょろきょろと見回した。
「もう帰っちゃったわよ」
なかば呆れながら裕子が言うと、
「なあんだ」
二人はがっかりした様子で地面へと降り立った。
「で、どんなだった?」
興味深げに身を乗り出すアルグにレモテが続けた。
「僕もぜひそれを知りたいね。念のために言っておくけど別にやましい気持ちがあるわけではないんだ。彼女たちがどんな姿でどんな活動をしているのか僕なりに参考にしたいだけで――」
その言葉とは裏腹に興味深々といった感じで、いつになく目がきらきらしている。
裕子は紅色の梅の木のあたりを指さしながら言った。
「わたしが杖を探していると、あそこにピンクのボールが浮かんでいて、中に髪を束ねた女の人がいたの」
「それで、どんな顔だった?」
アルグがたずねる。
「丸顔で、目がぱっちりしてて――。ピンクのスウェットを着てたかな」
「スウェット?」
レモテの言葉に裕子がうなずく。
「うん。肩からオレンジ色のずた袋をさげてたんだ」
「ずた袋だって?」
レモテは意外そうに目を丸くしたが、すぐさま自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「そうか。やはり噂で聞いていたのとは少し異なるなあ。しかし僕の集めた情報は多少誤差はあるとしても事実に近いことは否定できないね。これは決して思い込みではなくて経験に基づいた結論なんだ」
いつになく熱く語る様子を楽しむように、
「でもねぇ――」
と、わざともったいつけながら裕子が切り出した。
「でも?」
さらに身を乗り出したところで、ぽつりと告げた。
「――おばさんだったの」
「……」
ふいに二人の表情が固まった。ぽつぽつと地面をたたく雨音がかすかに聞こえる。
アルグとレモテはしばらく顔を見合わせていたが、ようやく意味がのみこめると、
「えええ~っ」
そろって大きな声をあげた。
「お、おばさん……」
呆然とつぶやくアルグに裕子がうなずくのを見て、
「げぇ、うそ……」
と、レモテが硬直した。
かまわず裕子は続けた。
「でも、とっても優しかったよ。とにかくいろんなことを知ってて、わたし、感心しちゃった」
しかし、いくらフォローしたところで、
「別に、なあ……」
「うん」
おばさんとわかった以上、なんの意味もないと言わんばかりに、二人はうなずきあった。
「すっごく元気でね、お肌もつやつやしてて、それに、けっこうグラマーだったよ」
「想像したくない……」
アルグが顔をしかめる。
「顔も広いみたいで、たくさんお友だちがいるんだって」
「……」
「実際、知り合いの蝶さんともお話ができたし――」
「……」
「ねっ」
「……」
「ねえ、どうしちゃったのよ」
「……」
期待を裏切られたのがよほどショックだったのか、アルグとレモテはすっかり黙り込んでしまった。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問9)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問8の答え:ずんべらぼう
使った単語: zoom bay labo