
「緑の葉っぱが灯る夜」 第6章:変なおばさん⑤
それまで、どことなくためらいがちに降っていた雨は、急に足を速め、本格的にあたり一面を濡らしはじめた。
裕子は眉をひそめながら片手をかざして空を見上げた。
雲はますます色濃くなり、気温も思っていた以上に下がって、ときおり吹き抜ける風に全身が凍りつきそうになる。昨夜のぬるんだ霧雨と違って、一気に冬へと逆戻りしたみたいだ。
「ねえ。これからどうするの?」
少しでも寒さをまぎらわそうと、裕子はその場でせわしく足踏みしながら二人に話しかけた。
表面で水を弾いているわけでもないのに、緑色の球体の中だとどうして濡れないのか聞きたいところだったが、さすがにそんな余裕もない。
レモテが答えた。
「僕はさっきの神社に戻ることにするよ。エネルギー自体が澄んでいて環境としても申し分ないからあそこを本拠地にしようと思うんだ」
アルグはしばらく決めかねていたが、
「とりあえずどこかで雨宿りして、そのあとで考えることにするかな。それに――」
言いながら裕子に小さな手を差し出す。
「なあに?」
「杖だよ、杖」
「あっ、そっか、忘れてた」
裕子は慌てて手のひらサイズの杖を手渡した。それを袋にしまいながら、
「それに――」
アルグはためらいがちに間をおいたあと、
「明日からはひとりで仕事に専念しようと思うんだ」
どこか遠くを見るような目で、ひとりごとのようにつぶやいた。
「そうね……。それもいいかもね」
裕子がうなずく。花の精に言われたことはもちろん覚えていたが、アルグがそう決めたのなら、わざわざ口をはさむこともない。彼なりに何か思うところがあるのだろうと裕子は考えていた。
そんな二人のやり取りを聞きながらレモテが満足そうにうなずいている。
「じゃあ、わたし、いい加減に帰らなきゃ。このままじゃ風邪ひいちゃうし」
そう言って手を振ると、
「そうだな。とにかく助かったよ」
言いながら、アルグはすぅっと上昇していった。
「あっ、待ってくれよ」
レモテも慌てて後を追う。
裕子は遠ざかる二人にひとしきり手を振ると、くるりときびすを返し、そのまま木々の間を速足で抜けていった。梅林の出口で振り返ると、エメラルドグリーンの球体がふたつ、薄暗い雲を背景に淡く光りながら、それぞれの方角へと飛び去るのがかろうじて見えた。
(また、いつか、ねっ)
心の中でつぶやきながら、もう一度大きく手を振った。が、もう例の無線のような返事は返ってこなかった。
しかし――。
「はい?」
まったく別の場所から、ふいに声をかけられたような気がした。思わずあたりを見回したが誰もいない。ふと足元に目を向けると――。
(?)
濡れた草の上で何《なに》かが光っている。
「なに、これ?」
首を傾げながら指先でそっとつまみあげる。
それは紅いビー玉を思わせる小さな光の粒だった。ゆっくり呼吸をするように、かすかに明滅しているようにも見えた。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問10)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問9の答え:ねずみ男
使った単語: nails me all toe call