
「緑の葉っぱが灯る夜」 第5章:シツボウ ①
広場のわきの道路をたどると、その先は広い窪地になっていた。
「ねえ、今度はどれにするの?」
裕子がたずねると、アルグは、
「う~ん……」
と、うなったきり返事はなかった。何をためらっているのか、窪地や、窪地をすり鉢状にとり囲む雑木林を見渡《みわた》すように目線を行き来させている。
しばらくして、
「よしっ」
意を決したようにうなずくと、向かい側の斜面を指さした。
「次はあれにしようと思うんだ」
そこには淡い黄土色の竹林がぬるんだ風に、さわさわとやわらかくうねっていた。これまでの木や草と違って何やら複雑そうな雰囲気を漂わせている。
「難しいの?」
裕子が聞くと、
「まあ、そんなところかな」
言いながらアルグは地面を離れた。
窪地の底には、こぢんまりとした梅林が広がっていた。白や紅の色彩がところ狭しとひしめきあっている。ピークをわずかに過ぎたのか、地面の上には、おびただしい数の花びらが星屑のように散りばめられていた。
一幅の巨大な点描画と化した木々を囲み、感慨深げに見上げる母娘づれ、三脚のカメラのピントを真剣に調整する若い男性、ベンチでコンビニのおにぎりを食べている高校生――。さまざまな人たちが魅せられたように集まり、めいめいのスタイルで梅花を愛でていた。
弁当を広げたシートのまわりでは、花そっちのけで走り回る子どもたちに加え、おこぼれを狙う鳩がちょこちょことうろついていた。
そんな光景に裕子は見入っていたが、それを察してかアルグもいつもよりゆっくりと飛んでいる。が――。
「あらっ」
なかばを過ぎたあたりでふいに裕子が声をもらした。
「どうした?」
「ほら、あそこ……真ん中の大きな木のところ……」
最初は鏡の反射か鳥だと思ったのだが――。
(あの色……)
給水タンクのところで光ったのと同じ色だ。それが木々の間をぬうようにさっと横切った。
「おまえ、あれまで見えるのか?」
アルグの驚く声がした。
「あれって……?」
「花の精だよ」
「あ……」
瞬時に裕子の中で何かがつながった。
「ここもあの花の精がやったのか。やっぱ、かなりの職人だな」
アルグはしきりに感心している。そのうち、彼を丸く包んだ光の膜が音もなく消え、竹林の端に着地するのがわかった。
「え~っと――」
早速、アルグは腰の袋に手をつっこんだが、しばらくごそごそと音がしたあとで、
「ややっ」
突然、奇妙な声をあげた。
「なに、どうしたの?」
裕子が声をかけると、
「いや、杖が……」
さらに袋をまさぐる音が続き、それから消え入りそうな声で返事が返ってきた。
「その……ないんだ」
「えぇ~っ!」
部屋にいるのも忘れ、裕子は大きな声を出した。
「ほんとにないの?」
視界がこくりと上下に動く。
「あれがないと点火できないんでしょ?何か代わりはないの?たとえばスペアとか――」
「そんなのあるわけないだろ」
ふてくされたように答えるアルグに、裕子も思わずむっとした。
(こっちは心配してるのに……)
それからしばらく、気まずい沈黙が流れたが、やがて、
「なあ」
アルグが思いつめたように切り出した。
「来てくれないか?」
「へっ?」
裕子はとっさに意味がのみこめなかった。
「その……、たぶん、さっき飛んでたときに落としたんじゃないかと思うんだ。袋にしまったつもりで、ちゃんと入ってなかったんだよ」
「入れたつもりで落ちちゃったってこと?」
「――だと思う。だから、悪いけど、いっしょに探してくれないか?」
「要するに、わたしが直接ここに来ればいいわけね」
その言葉に窪地の梅林が大きく縦に振れた。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問2)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞きこえる? ⇩ ⇩ ⇩
問1の答え:砂かけ婆
使った単語:snacker kebab are
※snacker:スナックを食べる人、間食する人