
「緑の葉っぱが灯る夜」 第7章:まだらの悲悶(ひもん)③
「え~っとまず――」
そう言いながらレモテは、地図に似た図面を広げ、その上で長い糸のついたおもりを振り子のように吊り下げた。円錐を逆さにしたようなおもりは、しばらくクルクルと円を描いていたが、やがて磁石にでも引っ張られるかのように、斜め40度に傾いて止まった。
「何してるんだ?」
アルグがたずねると、レモテは図面をじーっと見つめながら答えた。
「地磁気の強さと方向を確かめているんだ」
「そんな道具、俺、持ってないぞ」
「自分で作ったんだ。必要にかられてね」
「へえ~」
感心するアルグにかまわず、レモテはさらに作業を進めた。
「さてこの位置から点火するとして――」
おもりが指した位置に印をつけ、それから三脚みたいな道具を取り出し、上に取り付けられた筒をのぞく。
「うん間違いないな。風向きや地形から見てもここが最適だ」
「それも自分で作ったのか?」
ふたたび声をかけると、相棒は大きく息を吸い込んで言った。
「悪いけどちょっと静かにしてくれないか?集中できないじゃないか」
「あ、すまん」
アルグは思わず頭をかいた。
同じ点火をするにも、レモテの場合、自分の知らない道具を次々と出してくる。しかもすべて自作だという。それでつい興味をそそられたのだが――。
(ここまで徹底すれば大丈夫かもしれないぞ)
その間にもレモテは着々と準備を進めた。それがひとしきり終わると、
「そうだな。この種の木の高さとしてはだいたい平均的なものだと考えられるな。枝はちょっと広めだから必要とされる総面積は――」
しばらく目を閉じて考え、
「よしわかったぞ」
おもむろにうなずき、てっぺんへと舞い上がった。
待ちくたびれていたアルグは心の中でほっと息をついた。
ところが、
「だいたいこれで十分だよな」
アルグがやったのと同様に、網型アイテムをばっさりと木にかぶせると、
「おっとこっちが偏っているな。その分あっちがまばらになってしまった」
周囲を飛びながら、網の張り具合を事細かに調べてまわった。まるで木に直接、図面を描くように玉の配置をひとつひとつ丁寧に調整している。ひととおり手を加えたあと、少し離れて全体を見渡しては、
「いやあそこがもうちょい右だな」
ふたたび枝に近づいて玉の位置を調整する。それを何度も繰り返した。
しびれを切らしたアルグは、いつの間にか柵の上で寝そべっていた。
しばらくして、ようやくレモテが降りてきた。
「終わったのか?」
ゆっくり起き上がるアルグに、
「うん」
うなずきながら、さっき印をつけた場所に立って杖を取り出す。
「頼んだぞ」
アルグは両手を握りしめた。が、
「……」
レモテはその場に立ったまま身動きひとつしない。
「どうした?」
不思議に思ってたずねると、友人は口元に手をあてて振り向いた。
「今タイミングを見計らっているんだ。点火する瞬間までは関係ないけど葉になった直後で風の影響をもろに受けるだろう?太陽の位置も重要でどの方角にあるかで葉の出方も違ってくるんだ」
「なるほど……ねえ」
いつものようにアルグは、早口でしゃべるレモテの説明に圧倒されていた。
木や草の芽は、春の息吹の状態だと、見えない世界と見える世界の境界にある。それらは緑の精たちが点火することによって、目に見える物質となり、風や陽射しの影響を受けるようになる――というのだ。
レモテは続けた。
「そういった状況を風力や火力、地磁気といった要素を踏まえて総合的に判断するんだよ。そしてもうすぐ太陽が点火にとって最良の位置に差しかかるはずなんだ」
言いながら足音に伸びる木の影をじっと観察している。よく見ると導火線の置き方にもひと工夫ほどこしてある。先端が上を向くようにピンと折り曲げられ、しかも動かないように小石ではさんで固定してあった。もちろん、杖につけたひもの輪にはちゃんと手首を通していた。
(すげえな)
ここまでくるともはや感心するほかはない。
しかし、アルグは気づいていなかったが、杖を握ったレモテの手はかかすかに震えていた。
タイミングを見計らっているというのは決して嘘ではなかったが、なかなか点火に踏み切れないでいることもまた事実であった。
「そろそろ……だな」
じっと影を見つめていたレモテは小さくつぶやくと、
「十秒前。九、八、七……」
自分を奮い立たせるかのように、秒読みを始めた。まるでロケットの打ち上げだ。数えていくにつれ、アルグの表情も緊張でこわばっていった。
「四、三、二、一、点火っ」
大きなかけ声とともに、杖の先からエメラルドグリーンの閃光がほとばしる。
両足を地面に踏ん張ったまま、アルグは前のめりに倒れんばかりに、ぐう~っと身を乗り出した。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問14)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問13の答え:つるべ火
使った単語: true baby