
「緑の葉っぱが灯る夜」 第5章:シツボウ④
梅林のすぐわきはフェンスと生け垣《がき》に隔てられて車道が通っていた。車道の上は急な傾斜で雑木林が続いている。その雑木林の地面すれすれの高さを光のボールがゆっくりと行き来していた。やがて、
「おい、そっちはどうだ?」
アルグが梅林をはさんだ反対側の斜面に目をやりながら声をかけると、
「いやあ全然だよ」
すぐにレモテの返事が返ってきた。ここから姿は見えないが、あのどこかで杖を探してくれているのだ。
「本当にここに落としたのかい?僕が見落とすなんてまずあり得ないと思うんだけど――。もっと別の場所で失くした可能性もあるんじゃないかな」
「そんなことはないよ。この上から飛び立つ前までは、たしかに手にしていたんだ」
二人は離れた場所から、まるで無線で話すように声をかけあっていた。
「しょうがないなあ。じゃあもう少し念入りに探してみることにするよ」
「うん、頼む」
そう言って、アルグが再び探しにかかろうとしたとき、
「あっそうそう」
レモテが何やら思いついたようにつぶやいた。
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「だからさあ僕は思っていたんだよ。しょせんは住む世界が違うんじゃないかってね」
「は?」
アルグが首を傾げると、相棒はいつになく真面目な口調で続けた。
「人間といっしょに仕事をするなんて状況としてあまり好ましいとは言えないよ。お互いに良い影響を与え合っているとは考えられないしだいいち自分の仕事に専念できないだろう?」
裕子のことだ。アルグは一瞬ぴくっとしたが、
「そうかなあ、俺は別にそうは思わなかったけど」
さして気にもとめていないふうに装った。
すると、
「いや絶対にそうなんだ」
相手の口調がほんの少し強まるのがわかった。それを聞いてアルグの表情がさっと引きしまった。彼はレモテがしばしば用いる『絶対』という言葉に弱いのだ。
レモテは続けた。
「だって杖を失くしたこと自体それを明確に表しているじゃないか。身のまわりで起きることがそのときの自分の状態を反映しているって前々から言ってきただろう?今回の出来事がまさにそのいい例なんだよ。今の君はその事実から目をそむけようとしているんじゃないのか?」
「……」
何か重大な宣告でも受けた気分だった。
アルグにしてみれば、裕子が見ていると仕事に張り合いが出てくるから、いっしょに行動していたにすぎない。彼女といると点火の作業が楽しくて仕方がない。ただそれだけで他にはなんにも考えていなかった。しかし今の話を聞くと、それが何かとんでもない間違いのように思えてくる。
「う~ん、だとすると……、やっぱりひとりで仕事に専念したほうがいいよなあ」
「当然だろう」
そう言って、レモテはまた一気にしゃべりはじめた。
「点火は僕たちに課せられた使命なんだ。それを人間といっしょにやる緑の精なんて僕の知っている限りでは君ぐらいのもんだよ。つまり前例というものがないんだ。人間に僕らの姿が見えないのは見るべきではないという自然の意志が働いているからなんだよ。物事にはそれなりに意味というものが必ず含まれているからね。彼女が特殊なんだよ。その特殊な人間にたまたま会っただけなんだ。いっしょに行動する理由なんてどこにもないしむしろ避けるべきなんだよ」
言葉のはしばしに何やら重々しい用語が並べられている。アルグは重々しい用語が苦手だったが、それ以上に『べき』という言葉にも弱かった。内容は今ひとつわからなかったが、とにかく、とんでもないことのように思える。
「う~ん、じゃあ、そうしようか……な」
心細げにつぶやくアルグにレモテがうなずく。
「悪いことは言わない。早めにそうしたほうがいいよ」
「うん……そうだな」
とはいったものの、やっぱり裕子のことが気にかかる。梅林に目を向け、それとなく探してみたが、木の陰にでもなっているのか姿が見当たらない。
「……」
アルグはあきらめたように肩をすくめると、下生えに覆われた斜面をすべるように上っていった。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問5)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問4の答え:豆腐小僧
使った単語:tough cause all