
「緑の葉っぱが灯る夜」 第6章:変なおばさん①
どのくらい時間が経っただろうか。
裕子は木と木の間にしゃがみ込むようにしてじっと前を見据えていた。
ピンク色に光る透明な球体――。
中の人影はむこうを向いているようだったが、あの二人とはちょっと様子が違う。長い髪を後ろで結んでいるところを見ると、どうやら女性らしい。
(やっぱり、あれは……)
給水タンクで見た幻のような光景が裕子の中で重なった。
はやる気持ちをおさえながら、じりじりと歩み寄るにしたがって、中の姿もだんだんはっきりと見えてきた。
空中にじっと止まって、梅の木を一本一本、確かめるように眺めている。
(よしっ)
裕子は思い切って声をかけてみることにした。そして次の足を踏み出そうとした直後、
「えっ、なに?」
気配を察したのか、球体の中の人影が弾かれたように振り返った。
その顔を見て、
「へっ……?」
裕子も片足を上げたまま固まった。
女の……子じゃない。
おばさんと言うと身も蓋もないが、想像していたよりずっと年配で『おかみさん』みたいな貫禄すら漂う。ピンクのドレスならぬ、ピンクのスウェットの上下を身にまとっていたが、どっしりとした体型には、むしろこちらのほうが無難だろう。
(たしかオレンジ色のポーチって聞いてたけど――)
背中にはオレンジ色の大きなずた袋をしょっていた。
裕子は踏み出そうとした足をゆっくり下ろしながら、相手をまじまじと眺めた。
束ねた深い紫色の髪に、ほんのり赤みをおびたふくよかな顔。しかし、何より印象的なのは黒い大きな瞳だった。その目がなんとも言えない光をたたえながらこっちを見ている。
「あら、あなた、どしちゃったの?」
硬直したように立ち尽くしている裕子に、
スウェットの女性は顔をのぞきこむようにたずねかけてきた。どこの方言だろうか、独特の訛りがやわらかく耳に残る。
「えっ、あっ」
裕子は我に返るとあわてて切り出した。
「あの、わたし、裕子といいまして……。その、このとおり人間なんですけど、でも、見えるというか……、あなたの姿も見えちゃってて、それで……」
自分でも何を言っているのかよくわからなかったが、相手は、
「裕子さん?見えるの。そう――」
と、別に驚いた様子もない。
アルグは天と地がひっくりかえったみたいにびっくりしてたのに――。
「あの、驚かないんですか?」
意外に思ってたずねると、
「えっ?」
ピンクのおばさんは、ちょっとだけ目をぱちくりさせたが、すぐににっこりと笑って答えた。
「別にィ、そんなことぐらいで驚きゃしないわよ。だって、こんだけ人間がいるんだしさ、ちょっとぐらい見える人がいたっておかしかないでしょ。あたしの知ってる人たちだって、みぃ~んな見えるんだから。ま、どれも一風変わったやつばっかだけどね」
「えっと、わたしも変わってるんでしょうか?」
心配そうに眉をひそめると、おばさんは大きな声で笑った。
「はははっ、だいじょぶ。あなたは普通よ。いいのよ、見えても。心配しなくていいの。見たまんまでいいんだから」
その言葉に裕子は少しだけほっとした。
それはともかく――。
(このおばさんはいったい誰なんだろう?話とちょっと違うけど、やっぱりこの人がそうなのかな?)
そう思い、おそるおそるたずねてみた。
「あの、花の精……さん、ですよねぇ」
「そうよ。おかしい?」
球体の中の女性は、自分のいでたちに目を向けながら言った。
「あ~そうだ。あたしのこのかっこがいけなかったかしらね。今の若い子はみんな、ひらひらしたの着てるから。あたしも昔は着てたんだけど、でも、ちょっと太っちゃったみたいでさ、みぃ~んなサイズが合わなくなっちゃったの。背伸びした拍子に破けちゃったりして。それにさ、あたしがあんなかっこしてると、やっぱ変でしょが」
「ううん、そんなことない」
――というより、とっさに想像がつかない。
「でもさ、こっちのほうが仕事がやりやすいのよ。手間ぁかかんないし、だいいち、あたしゃ細かいことが苦手でね。ポーチだってたしかにかぁいらしいんだけど、こっちの袋のほうが持ち運びが便利だし、出し入れもしやすいのよ。やっぱ年ぃ重ねると見た目よりも効率を優先しちゃうんだよねぇ。でもさ、気持ちゃあ若いのよ」
「そうね、お肌だってつやつやだもん」
裕子が相づちを打つと、
「はははっ、そうでしょ」
花の精は嬉しそうに笑い声をあげた。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問6)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問5の答え:ぬりかべ
使った単語: gnu lick a bay