
「緑の葉っぱが灯る夜」 第7章:まだらの悲悶(ひもん)②
小さな社の屋根に腰かけて、レモテは箱庭のような境内をぐるりと見回していた。
どっちを向いても点火を終えた木々が、巨大な燭台と化して、灯ったばかりの葉をチロチロと揺らしている。それよりも前に点火した下草は、やや落ち着いたとはいえ、まだ乾いていない絵の具のような光沢を放ちながら波打っていた。
「これで全部すんだかな」
まるで会心の作を完成させた芸術家のような、あるいは満足のいく剪定を終えた庭師のような、そんな面持ちだ。
そのとき、
「おい、聞こえるか?」
ふいにアルグの声が響いてきた。
「なになにどうしたんだい?」
「今、公園にいるんだが、ちょっと変なんだ」
いつになく切迫した口調だ。
「変て……具体的にどういう状況なんだい?」
レモテの問いに、
「う~んと……。とにかくすぐ来てくれ」
うまく説明できないようだが、何やらただならぬ事態であることだけは、なんとなく伝わってくる。
「わかった。すぐ行くよ」
そう言ってうなずくと、レモテは広場に向かって飛んで行った。
アルグはイチョウの根元のあたりに立って、しきりに首をひねっていた。
一体、何をどう間違ったらこんな風になってしまうのか、さっぱりわからない。
と、そこへレモテが舞い降りてきた。
「何があったんだい?」
レモテがたずねると、
「……とにかく見てくれよ」
アルグは力なくイチョウを指さした。それを見上げるなり、
「なんだこりゃ?」
レモテも眉をひそめた。それから枝のそばまで上昇し、もう一度つぶさに眺めてみる。
「ひどいなあ。何か大きなミスでもやったのかい?」
球体の中から、呆然とこっちを見ている相棒を振り返りながら問うたが、
「それが……俺にもわからないんだ」
アルグは腕を組みながら首を振った。
「道具は何を使ったんだい?」
「これと同じやつだよ。こいつもさっき調べてみたんだが、どこにもおかしいところはないんだ」
アルグが指さした足元には、さきほど点火に使ったのと同じ網状の点火装置が、なかば投げやりな状態で広げられていた。
それに目を向けながらレモテが言った。
「ふうむ。どうやら使う道具は間違っていなかったみたいだね。じゃあまず考えられる原因としてはそれがうまく木に――」
「かかってたよ。何度も確認したんだ」
「ふむ」
レモテはひとしきりうなずくと、いったんアルグのところまで降下し、道具のすぐ上を低空飛行しながら細部を見て回った。
「だとしたら導火線にうまく――」
「全部完全に燃えた」
「玉のいくつかが不発だったとか――」
「ひとつ残らず破裂したよ」
「だとするとその火力が――」
「じゅうぶん強かったよ」
「……」
レモテもそれ以上聞くことがなくなってしまった。
たいていの原因は、彼が来るまでに、あらかた調べ尽くされていた。
「この木に問題があるというわけでもなさそうだなあ」
レモテがひとり言のようにつぶやくと、その言葉にアルグの語気がやや強くなった。
「だって三本目だぞ。俺だって二本目ぐらいまではその可能性も考えてたけど、ここまで続けばそうじゃないってことぐらいわかるさ」
「そうだよなあ。見たところ春の息吹もちゃんと出てるみたいだし――」
草の生えた地面に降りたレモテは、頭をかきながら、再度、イチョウ並木を見上げた。
「……」
しばらく沈黙が続いたあと、
「そうだ、おまえがやってみてくれないか?」
唐突にアルグが切り出した。
「えっ僕が?」
自分を指さすレモテにアルグがうなずく。
「そうさ。どこかやり方がまずかったってこともあるだろうし――」
「なるほどそれもありうるな。なにしろ僕たちは仕事を始めてから間がないんだから。どこか不都合があってもおかしくないよね。イチョウは神社で経験ずみだからやってみるとするよ」
そう言うと、すぐさま四本目のイチョウのわきへと飛んで行った。
「なんなら俺も手伝おうか?」
アルグが呼びかけると、レモテは空中でくるりと振り返って言った。
「気持ちはありがたいんだけどとにかく自力でやってみるよ。別に君の腕を信用しないってわけじゃないけどなるべく正確なデータを得ながら状況を把握したいんだ。そのためにはすべての作業を同一人物の手で行うほうがより確実だろう?」
「なるほど言われてみりゃそうだな。じゃあ、任せるよ」
そう言って、アルグがその場にぺたりと座ると、レモテはイチョウに向き直り、早速作業に取りかかった。
【クイズ・妖怪そらみみ】
問13)英単語を並べて音読したら妖怪の名前になりました。なんて聞こえる? ⇩ ⇩ ⇩
問12の答え:ろくろ首
使った単語: luck luck bee