
「緑の葉っぱが灯る夜」 第1章:プロローグ
「んっ、いいお天気」
パジャマ姿のままベランダに出た裕子は大きく伸びをした。
街はすっかり春めいて、朝の空気もどことなく角がとれた感じだ。もう寝床からはい出るのに一大決心をする必要もない。
裕子は思い切り深く息を吸い込んだ。それからふと太陽に目をやって、
「あれ?」
不思議そうに首を傾げた。
「色が…へん」
朝陽が緑色に見える。深くて黒っぽい緑だ。それが白い光にふちどられてカタカタと揺れている。よく見ると、背後の空の色まで紫がかったピンク色をしていた。
しばらくの間、裕子は怪訝そうに見つめていたが、そのうちに目がチカチカしてきたので、あわてて顔をそむけた。
地上を離れたはるか上空では、太陽の光の粒が、一定の温度にまで暖められた大気の中で、ふくらみ、はじけ、中からたくさんの緑の精たちが生まれていた。背丈は二〇センチそこそこ。少し青みがかった緑色の服を着て、腰には緑色の小さな袋をさげている。
やわらかな緑色の髪をなびかせ、薄い黄緑色の顔は光の加減によって肌色にも見える。背中に羽根はなかったが、緑色の光のボールに包まれて空中を自在に飛ぶこともできた。
生まれて間もない緑の精たちは、タンポポの綿毛のようにふわふわ漂いながら、ゆっくり、ゆっくり、時間をかけて下界へと降りてゆく。
その間に『大人の一歩手前』にまで成長するのだ。
しかし、中には『大人のかなり手前』で地上に降り立ってしまう者もいた。