
「緑の葉っぱが灯る夜」 第4章:黄緑色の余韻①
緑色の球体が、陽射しに暖められた空気の中を軽快に進んでゆく。球体から伸びた光の尾は、薄緑色の粒をきらきらとふりまき、やがて飛行機雲のように風の中に溶けていった。
目的地が目の前まで迫ると、アルグは木々のいただきをかすめながら、弓なりに上昇した。丘の上では、雑木林に包まれるようにして、公園の広場が見え隠れしている。
その周辺では、さまざまなパステルカラーが、ところどころでひとかたまりになって独自の色彩を放っていた。
「ほら、あそこは白い花がいっぱいよ。あの紫色はスミレかな」
道路わきで黄色く光る斑点は、ほころびはじめた菜の花だ。
裕子はアルグの目に入ってくる光景を忙しそうに眺めた。例年より暖かい分、花の咲く時期もずいぶんとた早まっているようだ。
アルグが言った。
「あれはみんな花の精がやったんだ。ここの花の精は特に腕がいいみたいだな」
「花の……精?」
「そうさ。彼女らは、同じ太陽の光でも、俺たちとは別の波長から生まれるんだ」
「女の子なの?」
「そうだよ。俺たちと違って、生まれる数は一年じゅうほとんど変わらないんだ。冬はちょっと少なくなるけど、最近、また増えてきたんじゃないかな」
「会ったことある?」
裕子がたずねると目の前が横に揺れた。
「いや、会ったことはないけど――。さっきのあいつ……」
「レモテのこと?」
「そうそうレモテだ。あいつが仕入れた情報だと、紫のドレスを着てるらしい。髪はピンクで、オレンジ色のポーチから道具を出すんだってさ」
「なんだ。色以外は、あなたたちとほとんどいっしょじゃない」
「そうか?俺はぜんぜん違うと思うけど……」
ふいにさっきの横顔が裕子の頭をよぎった。いや、それともちょっと違うような――。
「まあ、いいや。とにかく降りるぞ」
アルグは公園の真上でぴたりと止まると、そのままゆっくり高度を下げていった。
降り立ったのは中央の広場だった。
一面、からからに干からびた枯れ草に覆われ、やや端のほうを細い石畳が横切っている。地面からは陽炎のようなものが、ゆらゆらと立ちのぼっていた。
(春の息吹だっ)
裕子は潜水艇の小さな窓からのぞくように、その光景に見入っていた。
むこうの林やすぐそばの茂みにも、同じものが絶えず揺らめいている。木の枝のようにところどころで噴き出ているものもあれば、地表全体からいっせいに湧き上がっているところもあった。形や勢いだけでなく色合いも微妙に異なっている。
「春の息吹にもいろいろあるんだね」
裕子の言葉にアルグがうなずく。
「そうさ。それぞれ種類によって異なるし、同じ植物でも、場所や成長の度合いで違うんだ」
それからアルグは広場の真ん中に立ってあたりを見渡した。高さ約二〇センチの視点を通すと、まるで腹ばいになった気分だ。それをいっしょに眺めながら、裕子はあることに気づいた。
「ねえ、わたしが見てるこの風景って、あなたが見てるものなんだよね」
「そうだよ。それがどうかしたのか?」
「はっきり見えるようになってるの」
どことなくぼやけていた輪郭が、いつの間にかくっきりとして、細かい部分までわかるようになっていた。
「どうしてかなぁ?」
「さあ……」
アルグもさっぱりわからないといった様子だ。いくら考えてもわからないものは仕方ない。それよりも、はっきりと焦点が合った状態で点火が見られる。裕子は密かに心を躍らせていた。
「早く点火を始めようよ」
「そうだな」
返事と同時にアルグは小さな緑色の玉を取り出した。