
その提案、お客様を「買えない人」にしていませんか?|希望条件100%の罠
「お客様のご希望に寄り添う」
営業として、とても大切なことだと思います。
ただ、不動産営業を長くやっていると、時々こんなことを思います。
お客様が言った希望条件を、そのまま100%受け入れることが、本当にお客様のためなのか。
良かれと思ってやっていることが、逆にお客様を「家を買えない人」にしてしまうこともある。
今回は、そんな話です。
「分かりました。探します」だけでいいのか
新人営業マンの頃は特にそうだと思いますが、お客様には嫌われたくありません。
「駅徒歩10分以内がいい」
「もう少し広い方がいい」
「できれば築浅がいい」
そう言われれば、
「分かりました。探します」
となります。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
ただ、
「この物件は少し狭いですね」
と言われたら、もっと広い物件。
「設備がもう少し良ければ」
と言われたら、もっと設備のいい物件。
そんなふうに条件を一つずつ足していくと、当然、価格も上がります。
最初は5,000万円くらいだったはずなのに、
5,500万円になり、
6,000万円になり、
いつの間にか、
「やっぱり、これくらい出さないといい家はないですね」
となる。
現場では、珍しい話ではありません。
でも、私はここで一度考えます。
本当にそこまで予算を上げる必要があるのか。
家だけ良くなっても仕方がない
お金に余裕があるなら、希望条件は全部叶えればいいと思います。
駅に近い。
広い。
新しい。
日当たりがいい。
学校も近い。
買い物も便利。
全部揃っている方がいいに決まっています。
でも、ほとんどのお客様には予算があります。
住宅ローンを払っていかなければならない。
子どもの教育費もある。
車を買い替えることもある。
旅行にも行きたい。
家を購入したあとも、当然生活は続きます。
だから私は、物件の条件だけが良くなって、毎月の生活が苦しくなるような住宅購入はおすすめしたくありません。
何を一番大切にするのか。
そして、
何なら少し譲れるのか。
ここを一緒に考えることも、不動産営業の仕事だと思っています。
一度上がった目線は、なかなか下がらない
これも、長く営業をしているとよく分かります。
最初は4,500万円、5,000万円くらいの物件を普通に見ていたお客様が、
5,500万円、
6,000万円、
6,500万円と見ていく。
当然、高くなれば物件も良くなります。
広くなる。
新しくなる。
立地も良くなる。
設備も良くなる。
そして、それを何件か見てしまうと、それが普通になってきます。
以前なら、
「ちょっと見てみましょうか」
と言っていた物件も、
図面を見ただけで、
「これはいいです」
となる。
別にお客様が悪いわけではありません。
私だって、いいものを見ればそちらが欲しくなります。
だからこそ、営業マンまで一緒になって条件を上げ続けてしまうと、最後には本当に買える物件がなくなってしまうことがあります。
家をご購入いただくことだけではなく、
そのあと無理なく生活していけるのか。
私は、そこまで考えたいと思っています。
図面だけで外してしまうのは、もったいない
私は、図面を見せた時点では反応が良くなかった物件でも、現地をご案内することがあります。
「まあ、一回だけ見てみませんか?」
そんな感じです。
実際に行ってみると、
「思ったより明るいですね」
「隣の家と結構離れてますね」
「ここ、静かですね」
「この景色はいいですね」
と、急に反応が変わることがあります。
逆に、図面ではものすごく良さそうだったのに、現地に行ったら微妙だった、ということもあります。
家と家との距離。
風の抜け方。
道路からの視線。
周辺の雰囲気。
坂道の感じ。
こういうものは、図面だけでは分かりません。
それなのに、
「このお客様は駅徒歩10分以内だから」
「庭はいらないと言っていたから」
と営業マンが最初から候補を消してしまったら、お客様はその物件を見ることすらできません。
もしかしたら、そこに合う家があったかもしれない。
私は、そちらの方がもったいないと思っています。
最初の希望とは、ほとんど真逆の家を選ばれたお客様
以前、ご夫婦とお子さん一人の3人家族を担当したことがあります。
最初の希望は、
「駅から近ければ近い方がいい」
でした。
3階建てでも構わない。
とにかく徒歩圏。
さらに、
「庭はいらない」
とも言われました。
理由を聞くと、
「草取りが面倒だから」
とのことでした。
普通に考えれば、駅徒歩圏で庭の小さな家を探します。
ところが、最終的にそのお客様が購入されたのは、
駅からバス便で、高低差のある高台の家でした。
敷地も広い。
車も何台か停められる。
そして、かなり大きな庭もある。
最初に聞いていた希望とは、ほとんど逆です。
しかも最終的には、最初に考えていたご予算よりも安く購入することができました。
もちろん、私が無理にすすめたわけではありません。
何件も一緒に物件を見て、いろいろ話をしているうちに、
「このご家族が本当に欲しいものって、駅近だけじゃないんじゃないかな」
と思うようになりました。
休みの日に家族でゆっくり過ごしたい。
子どもと庭で遊びたい。
家族や友人が来ても車を停められるようにしたい。
そして将来、子どもが大人になって家を出ても、
「実家に帰ろう」
と思えるような家がいい。
そんな話が少しずつ出てきました。
そうなると、駅まで何分かということよりも、広い敷地や庭があることの方が、このご家族には大切だったんです。
最初は、
「草取りが面倒だから庭はいらない」
と言っていたお客様が、最終的には大きな庭のある家を選ばれました。
今でもお付き合いがありますが、
「あの家を買ってよかった」
と言っていただいています。
こういうことがあるから、住宅営業は面白いと思います。
もし私が最初に聞いた、
「駅近」
「徒歩圏内」
「庭はいらない」
だけで物件を探していたら、この家はまず紹介していません。
つまり、
営業マンが勝手に候補から消してしまうことで、お客様に合っていた家を見せられないこともある。
私は、そこは気をつけなければいけないと思っています。
「もう少し広い」を、そのまま受け取らない
たとえばお客様から、
「もう少し広い方がいいですね」
と言われたとします。
そのとき、すぐにもっと広い物件を探すのではなく、
「どこが狭く感じましたか?」
と聞いてみる。
リビングなのか。
収納なのか。
子ども部屋なのか。
同じ「狭い」でも、中身は全然違います。
「駅に近い方がいい」
も同じです。
毎日の通勤なのか。
奥様の帰宅時間なのか。
子どもの通学なのか。
それとも、駅近の方が資産価値が高いと思っているのか。
「築浅がいい」というお客様も、本当に築年数が問題なのか。
もしかしたら中古住宅が何となく不安なだけかもしれません。
理由が分かれば、別の提案ができます。
場合によっては、予算を上げなくても解決できます。
だから私は、条件を聞いたときに、
「なぜですか?」
を大切にしています。
条件そのものより、その条件が出てきた理由の方が大事なことは多いです。
気に入った物件でも、すすめないことはある
お客様が、
「この家、気に入りました」
と言ってくださる。
営業マンとしては、もちろん嬉しいです。
ただ、その物件に大きな問題があると分かっていたら、私は伝えます。
場合によっては、
「私はこの物件、あまりおすすめしません」
と言うこともあります。
返済がかなり厳しくなりそう。
将来売却するときに大きなデメリットがありそう。
お客様が気づいていない問題がある。
分かっているのに黙って進めるのは、私は違うと思っています。
せっかく気に入っているのに、と思われることもあるでしょう。
それでも家は、契約して終わりではありません。
そのあと何十年も住むものです。
お客様に寄り添うことと、お客様の言いなりになることは違う。
ここは、私はかなり大事にしています。
言われた物件を出すだけなら、営業マンでなくてもできる
少し厳しい言い方になります。
お客様から、
「この条件で探してください」
と言われる。
その条件を検索画面に入力する。
出てきた物件を紹介する。
「もっと広い家がいい」
と言われれば広い家を出す。
「もっと駅近がいい」
と言われれば駅近を出す。
今は、それだけならお客様自身でもできます。
ポータルサイトで条件を入れれば、物件はいくらでも出てきます。
では、私たち営業マンがいる意味は何なのか。
私は、
お客様が知らないことを伝える。
まだ気づいていない選択肢を見せる。
物件の良いところだけではなく、悪いところも伝える。
そして、一緒に考える。
そこだと思っています。
言われたことをそのままやるだけなら、
ただの御用聞きです。
そこから一歩踏み込むのが、営業だと思います。
最後に決めるのは、もちろんお客様
これは絶対に間違えてはいけません。
営業マンが、
「この家を買ってください」
と決めるわけではありません。
住むのはお客様です。
住宅ローンを払うのもお客様。
そこで生活するのもお客様です。
最後に決めるのは、当然お客様です。
ただ、その前に私たちができることはあります。
知らなかった物件を見てもらう。
良いところも悪いところも伝える。
条件を変えたら何が良くなって、何を譲ることになるのかを説明する。
「こういう考え方もありますよ」
と、違う角度から見てもらう。
そのうえで、
「自分たちで考えて、この家を選んだ」
と思っていただければ、それが一番だと思っています。
お客様を「買えない人」にしていませんか?
お客様に嫌われたくない。
これは私にもあります。
できれば好かれたいです。
でも、その気持ちが強すぎて、
何を言われても、
「分かりました」
となってしまう。
条件が増えれば増やす。
予算を上げると言われれば上げる。
希望から少し外れた物件は最初から見せない。
それを続けて、本当にお客様のためになるのか。
私は、そうは思いません。
希望条件から少し外れていても、
「これは一度見てもらった方がいい」
と思えば提案する。
予算を上げようとしているなら、
「本当にそこまで上げますか?」
と一緒に考える。
気に入った物件でも、問題があればきちんと伝える。
それも含めて、私はお客様に寄り添うことだと思っています。
言われたものを出すだけなら御用聞き。
言われた条件の奥まで考えて、別の選択肢を見せるのが営業。
もし今、お客様から言われた条件をそのまま検索して、そのまま紹介するだけになっているのであれば、一度だけ考えてみてください。
その提案で、お客様の選択肢を広げていますか?
それとも、
良かれと思ってやっていることが、
お客様を「家を買えない人」にしていませんか?
私は長く営業をしてきましたが、最初からそう考えていたわけではありません。
たくさんのお客様とお会いして、
うまくいったこともあれば、もちろん失敗したこともあります。
その中で少しずつ気づいたことがあります。
お客様が最初に口にした希望条件は、
必ずしも、そのご家族が本当に欲しい暮らしそのものではないということです。
「駅から近い家がいい」
「庭はいらない」
「もっと広い方がいい」
その言葉だけを見ていたら分からないことが、その先にはあります。
なぜ駅に近い方がいいのか。
なぜ庭はいらないと思ったのか。
その家で、家族とどんな時間を過ごしたいのか。
そこまで一緒に考えて初めて見えてくるものがあります。
先ほどご紹介したお客様もそうでした。
最初は駅近を希望し、庭はいらないとおっしゃっていた。
ところが最終的に選ばれたのは、バス便で、大きな庭のある家でした。
そして今でも、
「あの家を買ってよかった」
と言っていただいています。
私はその言葉を聞くたびに思います。
あのとき、もし私が最初の希望条件だけを守っていたら。
「庭はいらないと言っていたから」
「バス便は希望外だから」
そう決めつけていたら。
あの家をご紹介することはなかったでしょう。
そして、お客様もあの家に出会うことはなかったかもしれません。
そこで私は気づきました。
営業マンの仕事は、お客様の希望条件に合う家を探すことだけではない。
その条件の奥にある、
「本当はどんな暮らしがしたいのか」
を一緒に見つけることなんだと。
家を選んでいるようで、
本当は、その先の暮らしを選んでいる。
駅まで何分か。
何LDKか。
築何年か。
もちろん、どれも大切です。
でも、お客様が最後に思い出すのは、数字ではないのかもしれません。
家族で庭に出た時間。
子どもが走り回ったこと。
友人を呼んだこと。
大人になった子どもが、
「ただいま」
と帰ってくること。
私たち営業マンが扱っているのは「物件」ですが、
お客様が買おうとしているのは、
そこでこれから始まる生活です。
そう考えるようになってから、私は希望条件の見方が変わりました。
条件から外れているから紹介しない、ではなく、
この家は、このご家族の暮らしに合うだろうか。
そこを考えるようになりました。
もし今、お客様から言われた条件をそのまま検索して、そのまま紹介するだけになっているのであれば、一度だけ考えてみてください。
その条件の向こう側に、
まだお客様自身も気づいていない「本当に欲しい暮らし」が隠れていないでしょうか。
それを一緒に見つけることができたとき、
初めて、
「あの営業マンに相談してよかった」
と思っていただけるのではないか。
そして何年か経ったあと、
「あの家を買ってよかった」
その一言をいただけたら。
私は、それ以上に嬉しい営業の答えはないと思っています。
では、実際の接客で何を聞けばいいのか
ここまで、
お客様が最初に口にした希望条件だけを見ていてはいけない。
その条件の奥にある、
「本当はどんな暮らしがしたいのか」
そこまで考えることが大切だと書いてきました。
でも、
たぶんここまで読んだ方の中には、
こう思っている人もいるはずです。
「それは分かった。でも、実際にどうやってそこまで聞くの?」
ここなんです。
私は、
ここが一番難しいところだと思っています。
「駅から何分が希望ですか?」
「ご予算はいくらですか?」
「何LDKがいいですか?」
これなら聞けます。
でも、
その答えを聞いたあと、
次に何を聞くのか。
ここで営業マンによって大きな差が出ます。
「駅徒歩10分以内です」
と言われて、
「分かりました」
で終わるのか。
それとも、
そこからもう一歩入れるのか。
「戸建てがいいです」
と言われて、
戸建て客として登録するのか。
それとも、
なぜ戸建てなのかまで聞くのか。
「もう少し広い家がいい」
と言われて、
すぐに広い物件を探すのか。
それとも、
どこを狭いと感じたのかを聞くのか。
この一つ一つの積み重ねで、
数か月後の結果はかなり変わってくると思っています。
私は営業を30年以上やっています。
その中で、
うまくいった接客もあれば、
「最初にこれを聞いておけば、こんなことにはならなかったな」
と思った接客も山ほどあります。
最後になって、
「親に相談します」
「ローンが心配です」
「実は他にも気になっている物件があって」
と言われる。
営業マンからすると、
「それ、最初に言ってよ」
と思いたくなる。
でも今は、
少し違う考え方をしています。
最初に言ってもらえなかったのではなく、私が最初に聞けなかったんじゃないか。
そう考えるようになりました。
お客様は、
営業マンが聞いていないことまで、
全部自分から話してくれるわけではありません。
だから、
こちらから聞くしかない。
でも、
ただ質問の数を増やせばいいわけでもない。
30個の質問を上から順番に読み上げたら、
それはもうヒアリングではありません。
ただの尋問です。
大事なのは、
何を聞くのか。
そして、
なぜそれを聞くのか。
さらに、
その答えのどこを、もう一歩掘るのか。
ここまで分かっていないと、
質問は増えても、
お客様のことは分からないままです。
そこで、
私が実際の不動産営業で、
「これは初回接客の段階で確認しておきたい」
と考えていることを、
30の質問にまとめました。
これは、
新人営業マンだけに読んでもらいたい記事ではありません。
営業を始めたばかりの方には、
「何を聞けばいいのか」
を知るために。
ある程度経験がある方には、
「自分は、本当にここまで聞けているだろうか」
を確認するために。
そして、
昔は売れていたのに最近なぜか決まりづらいという方には、
一度、自分の初回接客を最初から見直すために。
使ってもらえたらと思っています。
営業を長くやっていると、
どうしても自分の型ができます。
それ自体は悪いことではありません。
でも、
その型の中で、
いつの間にか聞かなくなったことがあるかもしれない。
「このお客様なら、たぶんこうだろう」
と決めてしまっていることがあるかもしれない。
私自身も、
何度もそういうことがありました。
だからこの30の質問は、
単なる質問集として作ったつもりはありません。
お客様のことを、本当に分かろうとしているか。
自分自身に問い直すためのものでもあります。
営業は、
最後のクロージングだけで決まる仕事ではありません。
私はむしろ、
そのずっと前。
最初にお客様と向き合ったときに、
どこまで興味を持って、
どこまで聞けたか。
そこで勝負の半分くらいは決まっているんじゃないかと思っています。
「検討します」と言われてから、
必死に切り返す。
それも営業です。
でも、
できることなら、
「検討します」と言われるずっと前に、やれることを全部やっておきたい。
私はそう思っています。
もし、
今の自分の初回接客に、
少しでも、
「まだ聞けていないことがあるかもしれない」
と思ったなら、
ぜひ一度読んでみてください。
30個すべてを覚える必要なんてありません。
たった一つでも、
明日の接客で今まで聞いていなかったことを聞けたらいい。
その一つの質問から、
今まで見えていなかったお客様の本音が出てくるかもしれない。
そして、
その本音が分かれば、
提案する物件まで変わるかもしれません。
営業は、最後の一言でひっくり返すより、最初の一問から変えた方が強い。
私はそう思っています。
ここから先は、
実際の接客で使える形まで、
さらに深掘りしています。