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第23回坊っちゃん文学賞に挑戦

第23回坊っちゃん文学賞

イベント開催場所またはURL

https://bocchan-shortshort-matsuyama.jp/

公募期間: 2026年5月1日(金) - 2026年9月30日(水)

応募概要

ここはあなたの「文学の入り口」です。アイデアとそれを生かした印象的な結末のあるショートショートの応募をお待ちしています。

応募要項

■ 募集作品 4,000字以内のショートショートを募集します。 テーマは問いません。あなたの想像力を作品に生かしてください。 日本語で書かれ、未発表で筆者自身のオリジナルな作品に限ります。 ■ 応募資格 年齢、職業、国籍、プロ・アマは問いません。 ■ 応募方法・募集締切

・インターネットでの応募:令和8年5月1日(金)8時30分から9月30日(水)23時59分までに、 公式サイト から応募フォームに進みご応募ください。


試行錯誤中のLaLaLaです。

次の公募チャレンジは第23回坊っちゃん文学賞4000文字以内ショートショート何作品でもいいみたいです。

誰か一緒に応募しませんか?



『パーフェクト・ウィン』

五分やり直すごとに、僕の心から無駄な記憶が消えていく。 競馬場の雑踏を駆け抜ける足が軽くなるのは、過去の敗北という余計な重荷を、一歩ごとに投げ捨てているからだ。

ゴール前で歓声が弾けた瞬間、僕の視界には敗北の文字しかなかった。 三番人気の馬が差し切り、僕が全財産を注ぎ込んだ本命馬は、無残にも掲示板の外へと沈んでいった。 だが、僕は絶望しない。 右ポケットの奥に忍ばせた、安っぽいプラスチック製の赤ボタン。それをカチリと深く押し込む。

世界がぐにゃりと歪み、巻き戻る。

気がつくと、僕は出走の五分前に立っていた。 勝つ馬は分かっている。あとは締め切りまでに窓口へ走り、マークシートを滑り込ませるだけでいい。 「邪魔だ、どいてくれ!」 人波をかき分け、僕は窓口へ猛ダッシュする。しかし、前を歩く男に肩がぶつかり、マークシートを床にぶちまけてしまった。拾い集めて飛び込んだ時には、無情にも締め切りを告げるブザーが鳴り響いていた。

チッ、と舌打ちを漏らす。 ポケットの中で、もう一度ボタンを押す。カチリ。

五分前へ。 今度は男をかわした。だが長蛇の列に捕まり、あと一人というところでブザーが鳴る。 カチリ。五分前へ。 強引に割り込もうとして警備員に引き留められた。 カチリ。五分前へ。

何度も時間を巻き戻す。 そのたびに、僕の頭の中でポロポロと何かが剥ぎ取られていく感覚があった。

「これで勝てば、あの人に怒られずに済む」 走りながら、ふとそんな思いが頭をよぎり、僕は首を傾げた。 あの人。 泣きそうな顔で「もうやめて」と僕の手を払いのけた、髪の長い女性の姿が一瞬だけ脳裏を掠めた。……あれは、誰だっけ。 思い出せない。まあ、いい。僕の人生に関係のない人間だろう。

カチリ。五分前へ。

「この大金で、返さなければならない数字を消せる」 次にボタンを押した瞬間、そんな安堵が胸を占めた。だが、すぐに違和感が襲う。 数字? なぜ僕が誰かに金を返さなければならないのだ。僕はこれまで真面目に生きてきたはずだし、口座の残高がゼロなのは、今日この勝負に全財産を賭けて大儲けするためだ。どこにも返すべきものなんてない。

カチリ。五分前へ。

走る身体が、どんどん軽くなる。 かつて自分を苛んでいたはずの焦燥感も罪悪感も、五分遡るごとに綺麗に削ぎ落とされていく。 息は上がっているはずなのに、頭の中は澄み渡った秋空のようにクリアだった。

何度目かの、五分前。 僕は人波を風のようにすり抜け、マークシートを手に窓口へ滑り込んだ。 「三番人気、全額で!」 発券機が吐き出した紙きれをひったくる。その直後、締め切りのブザーが鳴り響いた。間に合った。

数分後、地鳴りのような大歓声の中で、三番人気の馬が一番にゴール板を駆け抜けた。

「……やった」

払い戻し窓口で、僕は言葉を失った。 機械から吐き出されたのは、見たこともない分厚さの札束の山だった。それを両腕で抱え込むと、ずっしりとした本物の重みが伝わってくる。

周りの客たちが、羨望と驚愕の視線で僕を見つめている。 僕は天を仰ぎ、お腹の底から笑い声を上げた。

「なんて素晴らしい人生だろう」

不思議なくらい、胸が軽い。 嫌な思い出も、自分を責める人間の声もない。 過去を振り返ってみても、思い出すのは輝かしい出来事ばかりだ。 苦しかったことや、失敗したことなんて、僕の人生にはただの一度も存在しない。 最初からずっと、僕はついていたのだ。こんなに幸せなのは、生まれて初めて――いや、たぶん生まれてからずっと幸せだったのだろう。そう思えるほど、僕の人生には傷一つなかった。

「さあ、帰ろう」

僕は誇らしげに胸を張り、大金を抱えて夕闇の街へ歩き出した。 ふと、自分の左手の薬指に目をやる。 そこには、日焼けから取り残されたような、白い筋の跡がくっきりと残っていた。 何の跡なのか、僕には分からなかった。けれど、それを考える必要もなかった。僕の人生に、失うものなど何一つないのだから。

カサリ。 ポケットから赤いボタンが落ちた。 「RESET」の文字は、何度も押されたせいですっかり擦り切れている。

僕はそれを拾わなかった。 その音を、僕はもう覚えていなかった。

了



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