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便器の上の王様

便器の上の王様

 夢宮三太は、自室の机でnoteの画面を見つめながら、ずっと乾いた山を登っているような心地でいた。
「今日の分の記事を、早く仕上げなきゃいけない」
 自分で決めた1日1記事のルーティン。気づけばそれは、コヴィーの法則でいう「最優先の義務」になり、三太の頭をパンパンに締め付けていた。
 そんな時だった。下腹部に、ゴロゴロと雷が落ちたような激痛が走った。

 急な腹痛。それも、限界突破寸前のやつだ。
 三太は冷や汗を流しながら、慌ててパソコンを閉じ、立ち上がった。自室を出て、廊下の奥にあるトイレへと急ぐ。こういう時に限って、衣服のボタンが引っかかったり、ドアのノブがうまく回らなかったりする。一秒が、一時間のように長く感じる。
 noteの更新も、社会的な地位も、承認欲求も、すべてが頭から吹き飛んだ。今の三太にとって、宇宙で一番重要なのは「便器に間に合うか、漏れるか」それだけだった。
「頼む、間に合ってくれ……!」
 必死に耐え、ズボンを剥ぎ取るようにして、ようやく便器に滑り込んだ。

 次の瞬間、一気に出し切った。

「……あぁーーーー」

 天を仰ぎ、身体中の力が完全に抜けた。深く、深い、魂からのため息が出た。
 漏れそうな地獄から解放されて、ただ無事に出た。それだけのことなのに、頭の中にはこれまでにない極上の平和が広がっていた。涙が出そうなほど、ほっとしていた。

 ふと、昔読んだ物語を思い出す。
 ある王様が「世界で一番幸せな瞬間とは何か」と家来に問い詰めた。家来たちが富や名声を挙げるなか、王様は笑ってこう言ったのだ。
『違う。お腹が痛くてたまらないときに、便所に駆け込んで一気に出し切ったあの瞬間こそが、世界でいちばん幸せだ』

 本当にその通りだ、と三太は便器の上で深く頷いた。
 これはマズローの欲求段階説の、いちばん底にある「生理的欲求」そのものだ。私たちはもっと幸せになろうと山を登り、人気や成功を追い求める。けれど、その途中はいつでも苦しい。でも、今この瞬間、ただお腹がスッキリしただけの自分は、世界で一番幸せな自信がある。

 振り返れば、自分がやっているペイフォワードの活動だって、誰かに強制されたわけじゃない。「しなくてもいいこと」だ。1000人以上の記事を読み、ただ誰かのために紹介文を書く時間。それも、この「うんこ」と一緒で、義務から完全に解放された、ただ純粋に心地いい、究極にどうでもいい時間だったのだ。

 三太はスッキリとした顔でトイレのドアを開けた。
「記事なんて、書きたい時に書けばいいや」
 義務の山を降りた足元に、人間のいちばん本物の幸せが、静かに転がっていた。



女性の「我慢強さ」への感心

観光地や商業施設、あるいは病院に行くと、いつも驚かされる光景がある。
女性用トイレの前にできている、あの長い、長い行列だ。

男性用トイレならすっと入れるような時でも、女性たちは静かに、じっと順番を待っている。
お腹が痛い時や、限界突破寸前の極限状態の苦しさは、人間にとって何よりも耐え難いものだ。私なら一秒だって早く便器に滑り込みたい。あの行列の後ろに並ぶことになったら、絶望で目の前が真っ暗になるだろう。

それなのに、あの長い列の中で、平然とした顔を装いながら耐え忍んでいる女性たちを見るたびに、私は心の中で「よく我慢できるものだ」と深く感心してしまう。

人間にとって、出し切って「ほっとする瞬間」が最高の幸せだとするならば、あの行列を耐え抜いた先にある解放感は、一体どれほど凄まじいものなのだろう。

女性たちのあの底知れない我慢強さには、いつも本当に頭が下がる思いである。








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