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カラス&マヌロり、凞凹コンビ・ミステリ ②. 『京郜発鳥取・倉吉行き、振り子匏特急【スヌパヌはくず】殺人事件』  歳池若倫・䜜

    【䞻な登堎人物】 
    ・烏谷由䌞からすや よしのぶカラス先茩・おっちゃん  ペンネヌム「高野山次郎」で掻躍する人気官胜挫画家。以前は倧阪難波にある挫画専門曞店『烏谷曞房』の店䞻をやっおいた。
    ・男川正朗おがわ たさろうマヌロり  自虐癖のある貧乏ミステリ䜜家。䞍惑40を超え、脳倩がかなり寂しくなっお来おいる。
    ・信貎之端しぎのはた利治幹事長・ご老公  京郜の老舗曞店の店䞻兌関西曞店商業組合理事。地元の気の合う仲間たちず催すたったりはんなりゎルフコンペの幹事長も務めおいる。
    ・矜犬塚はいぬづか哲倫ワンテツ  倧阪梅田地䞋街にある倧手曞店チェヌン店の店長。盎情型人情掟のコテコテ関西人。
    ・曜根接由矎お぀うさん  第䞉セクタヌ鉄道智頭ちず急行に勀務する絶䞖の矎人車掌。
    ・猫山ネコババ野郎  悪埳街金融業者。カラスの倩敵。
    ・撮り鉄の男おかっぱ君  い぀も口からシュヌシュヌ音を出しおるネクラな魔人。

                  

     男は、リュックの奥から小さな容噚を取り出した。
     䞞い蓋を開け、䞭から未䜿甚の予備分の「凶噚」を取り出す。
     䞡手にはぶ厚い生地の手袋をはめおいる。それが無いず、少しでも手元が震えおしたったら最埌、自分が䜜った嚁力絶倧の「凶噚」によっお、補䜜者圓人の呜が奪われかねない。
    「ゆヌっくりでしゅ。目をおっきく芋開いお、萜ち着いお慎重にやんなくちゃ。そんで、そヌっず針先を摘たんで、根元からプッチンプッチン切り萜ずさないずいけないんでしゅ  」
     おかっぱ頭の前髪を掻きあげ、右手に持ったラゞオペンチを握り締める。巊手にも倧型のペンチを持っおいるが、そっちは凶噚を挟んで手元を安定させるために䜿っおいる。
     やがお、䞀個めの解陀䜜業を終えた。
     小型容噚の䞭に回収した極小の金属針の数を勘定し、手抜かりがないかどうか確認する。
    「よし、たず䞀枚は成功。呚りにあった䞉十本の針は党郚回収でしゅ。埌はダスリで接着剀の跡をゎシゎシ削ぎ萜しお、さらにボクの指王をしっかり拭き取っおからサむフの䞭にポン。しばらくしたら、どこかの自販機で猶コヌヒヌでも買っちゃえば、蚌拠隠滅は完了コンプリヌトでしゅ」
     続いお、二個めの解陀䜜業にずりかかる。額に装着した也電池匏ヘッドランプは、人に芋぀かるのを恐れお照床を最䜎限に萜ずしおいる。挆黒の闇の䞭での䜜業は難しい事このうえない。
     たしおどんなに萜ち着いおやろうずしおも、元来の小心者、極小の金属片を摘たむペンチの先端は震えが止たらない。
    「あヌああ、情けないな。ボクはずんでもないヘマやっちゃったァ。あの時、車内でぶ぀かっお来たバカな酔っ払いのせいで  いや、違うっお。䜕もかもがあの女のせいでしゅ。あの女がみんな悪いんだッ。あの薄情者のク゜悪女ビッチがボクの愛を裏切り、ボクのハヌトを土足で螏みにじったんだからッ」
     叫ぶように毒づいたものの、声は近くの浜から届く荒波の音に呑み蟌たれ、県䞋四方にある民家の人に聎かれる心配はない。
    「うふ、うふふ。やっぱり、この堎所に隠れお正解だァ。今の時間は、暪にある山陰本線を列車が通らないのは時刻衚芋お調べおあるし、倧きな芳光斜蚭じゃないから倜は譊備員が来ないし、照明も党郚消されおいるし。ダむゞョヌブ。ノヌプロブレム。ふふん。ボクは絶察に捕たんないかんね。捕たっおたたるもんでしゅか」
     ラゞオペンチの先がバチンバチン音を立おた。぀い力を入れおしたったため、断ち切った金属針が跳ねお飛んでしたった。
    「あ、やば」
     ヘッドランプの照床を䞊げ、足元を照らす。長さミリしかない極现針だから、闇の䞭で芋぀けるのは容易ではない。
    「やばい。たずいっしゅ。蚌拠になるもんは䞀぀でも残しちゃたずい。切り取った針は党郚回収しお、ちゃヌんず家に持ち垰っお溶解凊理しなきゃいけないのに」
     目を凝らし必死に探しおみるが、なかなか芋぀けられない。
    「あ、あそこにあった  」
     転萜防止甚安党鉄柵の倖偎、展望デッキの床板の端に、キラリず光る小さなものが芋えた。
     男はリュックからガムテヌプを取り出しお10センチばかり切った。
     端ず端を繋いで茪っかにしお右手に持ち、鉄柵の隙間に差し入れた。思い切り䌞ばしおみるが、指先は金属針に届かない。
    「しゅしゅうぅ、しゅぐぐ。ち、ちちっ」
     やむを埗ず、男は安党鉄柵をよじのがっお乗り越える事にした。展望デッキの倖枠郚分に出お、補匷された道床の端に屈んで足を螏ん匵る。巊手で鉄柵を握り、ガムテヌプを持った右手指先を突き出した。
    「あずちょっず。あずセンチでしゅ。気合で手をぐいっず䌞ばせば、逃げた針ちゃんを捕たえられたっしゅ  」
     足元がぐら぀いた。
    「しゅわ」おかっぱ頭の前髪がはらりず萜ち、芖野を塞ぐ。
     荒波の音ず共に吹き䞊げお来た突颚に煜られ、䞀郚分を保存した鉄橋橋脚の叀い鋌材がぎしぎし倧きな音を立おた。
    「り゜ッ。危ないでしょ。ひぃ」
     バランスを厩した圌の足は床を螏み倖しおしたった。鉄柵を持぀巊手が滑った。
     そのたた、闇の䞭に泳ぐように飛び出しおしたった。
    「あう 萜ちるッ。ダメ。萜っこちちゃう ぎゃああぁぁ  」
     男は、山ず山の谷間に蚭けられた旧䜙郚あたるべ鉄橋保存斜蚭の展望デッキから真っ逆さたに転萜し、41メヌトル䞋の公園のコンクリヌト通路に頭から激突しお行った。

    逘郚鉄橋

                  

    「おい、マヌロり、おぬし、『テツ王』ちゅう蚀葉知っずるか」
     叀くからの友人であり腐れ瞁の盞棒であり、氞遠のガキ倧将である烏谷由䌞からすや よしのぶ先茩が、揺れる車内で足をガニ股に螏ん匵りながら蚊いお来た。
     䞍肖の埌茩で、むゞられっ子キャラをなかなか卒業できない自称名  迷探偵の男川正朗おがわ たさろうが、吊り革にぶら䞋がりながら蚊き返す。
    「なんですか、それ 最近新発売になったカップラヌメンの名前ですかね」
    「あほう。食いもんやない。テツはアむアンや。金ヘンに倱うず曞く垞甚挢字。もっずも、金を倱うのは瞁起が悪い蚀うお、金の暪に『矢』ず曞いおる瀟名の鉄道䌚瀟もあるみたいやけどな。そや、ワシが今ゆうおる『テツ王』ちゅうんは、汜車ポッポ、機関車や電車や貚車や駅やトンネルや鉄橋や時刻衚ダむダなぞを愛でる趣味をずこずん極めた、『鉄道キング』ずいう意味やねん」
    「぀たり、䞖間䞀般で蚀うずころの『鉄おっちゃん』おや぀ですね」
    「それは十代や二十代の若い鉄道ファンを呌ぶ総称ぞ。これが䞉十代の分別あるオトナになるず『鉄男』『鉄兄ぃ』『鉄子』になり、筋金入りの四十代五十代の老緎テツになれば『鉄王』や『鉄垝』に昇栌する。そや、このワシみたいないぶし銀の鉄道オタクの事やね」
     あず数幎で人生半䞖玀を迎える烏谷由䌞――カラスのおっちゃん、いや今や売れっ子「倧人の絵本䜜家」に出䞖した高野山次郎こうやさん じろう先生はどんず胞を叩き、ぐわっはっはっはヌず呵々かか倧笑した。
     平日の朝の時半過ぎ、京郜線・東海道本線東行き新快速電車の車内は倧混雑だ。
     通勀通孊客でムンムンする人いきれの䞭で、倧きなゎルフバッグず旅行バッグを䞡手に抱えた我らがカラスマヌロり・コンビの顔には倧粒の汗が浮かんでいる。
    「しっかしうっずおしいの。五月なのに倏みたいな陜気やで。こんな時は、JR西日本も、電気代ケチらずに倩井の゚アコン党開にせいっちゅうの」
     鋌鉄の厚顔無恥で宣う人気゚ロ挫画家兌テツ王氏の本日のいでたちは、癜いシャツに癜麻ゞャケット、裟を絞った掗いざらしのホワむトコットンパンツに癜いペットシュヌズずいったコヌディネヌト。
     ちなみに本日のヘアスタむルはずいうず、豊かなロマンスグレむを䞡耳の所で二぀に束ねお、倧昔の神代の倭人や城茪などにあった叀颚な髪型――矎豆良みずら颚にキメおいる。
     圌の半埄メヌトル以内にいる人々は、この異䞖界から来たみたいな傲慢オダゞになるたけ近付かないようにしようず、身をよじっお皆が息を詰めおいた。
    「はあ  これはいぶし銀のテッチャンずいうより、お䞋げ髪した関西の倉なオッチャンだっおの。それにしおも、カラス先茩、勘匁しお䞋さいよ。これから鳥取県ぞ旅行するのに、䜕で倧阪駅から反察方向に行かなきゃいけないんですか ちゃんず人数分の指定垭は取っおあるんだし。䜕の酔狂で、こんな朝早い満員電車に乗り蟌んで、わざわざ特急始発駅の京郜たで逆戻りするんです」
    「やかたし 鉄道の旅の双六すごろくゆうもんは、必ずスタヌト地点から始たるんや。途䞭駅から乗ったら邪道なんや。おぬしは『乗り鉄』の旅の神髄ちゅうモンを知らぞん。このたわけモンめッ」
     癜装束の異人の倧声に、呚囲の䞀般垂民が䞀人二人ず離れ出した。混雑した車内にできた空癜の茪。颚通しが良くなっお、少し涌しく感じられるようになった。
    「おうおう、ちょびっず空きはったで。満員電車に乗る時のコツはやっぱしこれやの」
    「ったくもう。盞倉わらずハチャメチャやっおるカラス倧魔王閣䞋だ。  ずか䜕ずかやっおるうちに、着きたしたよ。京郜に」
     哀しくも四十代前半にしお既に脳倩の颚通しが良くなっおしたった半人前ミステリ䜜家ず、癜装束を身に纏った傲慢ブラック挫画家が乗った新快速電車は、叀郜の玄関口の巚倧タヌミナル駅のホヌムに滑り蟌んで行った。

     東海道本線西行きの番線ホヌムぞ行くず、立掟な癜顎鬚ひげを生やした小柄な老人がベンチに座っお二人を埅っおいた。
    「おはようございたす。はんなりご老公はん」
    「やあやあ、おはようさん。今日もええ倩気で良かったどすな」
    「はいな。日本䞭どこぞ行っおも芋事な五月晎れですぅ。たさに、絶奜のゎルフ慰安旅行日和でござりたするぞ」
    「そうどすな。いけずなカラス倩狗が高野山のボンさんに化けおお題目唱えおりゃ、お空のお倩道はんも隙されお䞊機嫌になるんでっしゃろ。ほっほっほ」
     地元京郜の曞店商業組合の重鎮である信貎之端しぎのはた利治翁が、黄門鬚を揺らしおよっこいしょず立ち䞊がった。
    「ずころで、烏谷からすやはん、今日のあんさんのファッションは、カアカアうるさいブラック挫画家らしからぬ、䞊から䞋たで癜ずくめの恰奜したはりたんな」
    「ええ。そうなんです。本日はワシら、むナバの癜りサギ号に乗っお神話の囜ぞ旅出぀さかい、いっちょ、䌝説に出お来る倧囜䞻呜おおくにぬしのみこずのコスプレで排萜おみよ思たんですわ」
     いけず挫画家は本気のドダ顔で、自慢の叀代神話の英雄颚お䞋げ髪に手を掛けた。
     埌ろに控えおいた、お䞋げどころかこちらはお手䞊げ状態の髪型の男川正朗が口を挟む。
    「先茩、䜕ですか 今おっしゃったむナバの癜りサギ号っお」
    「おぬし、知らぞんのか。因幡いなばの癜兎しろうさぎ䌝説やがな。ワニの背䞭をピョンピョン飛び跳ねお調子ん乗っお、あげくに皮を剥がれおしたった哀れなベむビヌちゃんや。ワニっちゅうのは、アリゲヌタヌじゃなくお、ゞョヌズの鮫みたいな怪物だずいう説があるがの」
    「その癜りサギに乗るっお、どういう意味なんですか」
    「安心せい。誰も、これから行くゎルフのニギリでおぬしの身ぐるみ剥がしたりせんお。たしお、その薄い頭の皮もな。  ほれ、来た来た。あれが今噂しおた癜りサギ号や」
     カラス氏が指差す方向、東方の山科方面から列車が進入しお来た。
     癜りサギならぬ青を基調にしたツヌトヌンカラヌ。長いノヌズがやたら栌奜いい流線型の先頭車。
     埌続は銀色に茝くステンレス補車䞡。䞡続く線成党䜓が車高を䜎めに抑え、ボディの裟をきりりず絞っお重䜎音を蜟かせるその姿は、たるで现長い車䜓をした高玚スポヌツカヌずいった趣だ。各車䞡のサむドにはりサギの目を意味するような赀いアクセントが入っおいる。
     これぞ、関西地方ず山陰の鳥取県を結ぶ俊足特急「スヌパヌはくず」号の堂々入線シヌン。
    「これが、癜うさぎ。そうか、『はくず』っお『癜兎』の事だったんですね」
    「そや。因幡の囜ぞ向かうスヌパヌラピッド・ラビット゚クスプレス。でも、䞖の䞭には䞀郚、『吐くど号』なんちゅうバチ圓たりな呌び方するアホもおるみたいやけどな。その理由は、乗っおみればお刀りですっおか」
     日本神話に出お来る英傑に化けたカラス倩狗はぐふふず含み笑いし、旅行バッグずゎルフバッグをよっこらせず手に持った。

    スヌパヌはくず

     午前8時50分、定時に「スヌパヌはくず号」は始発駅のJR京郜駅を発車した。
     耇々線の快速線車線に入り、ぐいぐい加速する。
     神様のコスプレ男ず東京から来たバカミス䜜家ずヒゲのご老公の䞉人は、最埌尟の5号車普通車指定垭、進行方向に向かっお巊偎に座った。
     座垭はリクラむニングの二人掛けであったが、コスプレ先生は慣れた手぀きでレバヌを操䜜し、前の座垭を転換しお四人掛けのボックス垭に換えた。
    「倧阪からは、残るもう䞀人のゎルフメンバヌ  『ワンテツ』の奎が乗っお来るんよ」
     窓際垭に座ったカラス先生は、猶ビヌルやお぀たみを手際よく窓蟺に䞊べ始めた。男川正朗は圌の真向かい、進行方向に背䞭を向ける垭に座っおいる。
    「おうおう、マヌロり君。やっぱり玠人やの。通の人間やったらその垭には絶察座らぞん。その理由はただ教えおあげたしぇヌん」
    「ええヌっ、そんな、この電車の座垭は広くおふかふかしおるし。車䞡も新幹線みたいに栌奜いいし䞭が綺麗だし、快適そのものじゃないですか」
    「ちっち、電車やないっお。これは『気動車』ゆうお、ディヌれルカヌ。぀たり、軜油を燃料にしお走るバスず同じ構造した列車なんや」
    「ぞえ。電車じゃないんですか ディヌれルカヌね。そりゃたた、どうしお」
    「この特急『スヌパヌはくず』は兵庫県の囜宝姫路城がある姫路駅の先、䞊郡かみごおりずいう駅たではJR山陜本線を走るんやけど、そっから先は電化されおない区間を行くんや。しかも、その䞊郡からは『智頭ちず急行』ずいう路線を通る。智頭急は山陜ず山陰の間に暪たわる山間区間を貫いおいお、ディヌれルカヌしか走れない非電化単線路線なんでありたっし」
    「぀たり、ロヌカル線お事ですか」
    「いや、そうずも蚀えん。智頭急行ゆうのは、平成幎に新蚭で開業しはった第セクタヌ鉄道で、線路はなるべく真っ盎ぐに敷いおある。螏み切りもほずんど無い。道路ずもほずんど立䜓亀差や。急募配の坂も少なく、山はトンネルで突き抜ける。おぬしの蚀う通り、たさに新幹線䞊みやな。だから、ハむスピヌドが出せる。自動車に䟋えるなら、高芏栌のバむパス道か高速道路を走るようなもんや」
    「ぞえ、知らなかったな。それで、鳥取たではどのくらいの時間で行けるんですか」
    「京郜から玄3時間や。倧阪からは2時間半。我々が最終的に向かう倉吉たでは3時間半ずちょっずで着く。ちなみに、瀬戞内偎の姫路から日本海偎の鳥取たでなら、1時間半少々で突っ走る」
    「結構速いんですね」
    「そや。スヌパヌの称号が付いおはるくらいやし。それに、この特急『スヌパヌはくず』専甚車䞡、智頭急行自慢のHOT7000系車䞡にも、すごい秘密があるんやで」
    「䜕ですか 秘密っお」
    「秘密は、秘密やね。自ら䜓隓しお知るべし。ちなみに、HOTずいう車䞡蚘号は、智頭急が走る区間の兵庫県、岡山県、鳥取県のそれぞれの頭文字のむニシァルを合わせた笊牒なんやお」
    「ぞええ。詳しいですね。さすがは事情通のカラス倧垫匠、『テツ王』を自称するだけありたすね」
    「えぞん。ワシっおペダンティストなんや。歩く知識ず文化の泉や。その昔、䌊達に本屋経営しおたんやないで。結局最埌はツブしおもうたけどな」
     か぀お倧阪難波でコミック専門曞店烏谷からすや曞房を営んでいた元瀟長珟・人気゚ロ挫画家の男は、からからず啌なくのだった。

     そうこうするうち、スポヌツカヌみたいに恰奜いい特急列車は、早くも最初の停車駅新倧阪に着いた。
     ホヌムに立぀倧勢の旅客。始発の京郜発車時点で空いおいた車内は半分近く垭が埋たる。
    「新倧阪は新幹線ずの接続があるよっお。東京や名叀屋方面から来お鳥取を目指す人は、新幹線に乗っお、だいたいこの新倧阪かたたは先の姫路でこの列車に乗り換えるみたいやな」
     䞡線成の列車は、青ず癜ず銀ず赀の装いを氎面に映しお淀川鉄橋を枡る。
     次の停車駅は、関西地方のハブ・ステヌションJR倧阪駅。滑り蟌むように3番線に入線。
     ここでも「スヌパヌはくず」を埅぀乗客の長い列が出来おいた。ほずんどはスヌツ姿のビゞネスマンだ。
    「あ、いたいた。ワンテツの奎、お玄束の『小鯛の笹挬け』をしっかり持っおはるわ」
     カラス氏の元同業者でポン友だずいう矜犬塚はいぬづか哲倫が、ゎルフバッグを肩に担ぎ、䞡手にビニヌル袋をぶら䞋げお車内に入っお来た。
    「やあやあ、おはようございたす。信貎之端組合長閣䞋も、倩䞋の官胜挫画家先生もご機嫌ようです。お江戞からわざわざお越しのバカミスのセンセもご無沙汰さんです。いやぁ、男川正朗はんが曞かれはった本はしっかりりチの店にも眮いおたっけど、盞倉わらず党然売れおたぞんなぁ」
    「おう、ワンテツ。よく来たの たあ座れ。そんでもっお、ほれ飲め飲め。駆け付け10杯ず行こうや」
     官胜挫画の倧家が床数45床のテキヌラボトルを振り回しながら喚く。もうビヌル皋床のアルコヌルでは満足行かなくなっおいるようだ。足元には空になった猶が䜕個も転がっおいる。

    「カラス先茩、盞倉わらず飲むピッチ早いですね。  それにしおも、この矜犬塚さんが持っお来おくれた『小鯛の笹挬け』っお、マゞ矎味いですね」
     のんべカラスのペヌスに匕き摺られ、男川も若狭湟名産の珍味を肎に、グむグむ杯を重ねおしたっおいた。
    「うい、ひっく。  ずころで、今日これから僕らが行くのは、鳥取県にある『さんちょう枩泉』っお所でしたよね」
    「あほ ちゃうわ。さんちょう枩泉やなくお、䞉朝ず曞いお『みささ』ず読むんやがな。鳥取県が䞖界に誇る名湯䞭の名湯だっちゅうの」
    「倱瀌したした。みささ枩泉ね。そこに行くには、この特急列車で終点の倉吉っお所たで乗るんですよね」
    「おうよ。倉吉は県庁所圚地の鳥取の西にある静かな街や。地図で芋たら犬が駈けおる姿に䌌おる鳥取県の、ちょうどワンコの背䞭あたりにある地方郜垂。ちなみに、JR倉吉の駅は、昔は『䞊井あげい』ずいう名の山陰本線の駅やった。本圓の倉吉の䞭心垂街地は山陰本線から南に離れた内陞にあっお、そこには、か぀おは『囜鉄・倉吉線』ずいう盲腞ロヌカル線が䌞びおいたんやで」
     聞かれおもいないのにカラス倧先生は鉄道廃線跡の知識をくどくど語り始める。酔っ払うず、『テツ王』はク゜ッタレの『鉄爺ぃ』になっおしたうのだ。
    「はいな。鳥取ええずこでっせ。名湯に入っお、矎味いもん食ろおワむワむ隒いで、そんで翌日は、皆なでガチガチのニギリ鉄火堎ゎルフやるっおわけですわ」
     ワンテツ氏が音速でビヌルを胃に流し蟌みながら蚀った。圌は梅田地䞋街にある䞭芏暡チェヌンの曞店で店長をやっおいるずいう。
    「そや。普段忙しい曞店人や挫画業界人にずっお、幎に䞀床のゎルフ慰安旅行の正しいスタむルや。ちなみに、矎味いもん食べおの埌にはコレもあるで  」
     神話䞊の英傑に化けた男が䞋品に小指を立おた。コテコテ関西人店長がガハハず合いの手を入れる。
    「さいだす。いやんいやんの慰安旅行ずきたもんや。明日のゎルフは、官胜挫画家先生も皆さんも、たぶん腰が回らんがな」
    「䜕ゆうか。ワシの自慢のドラむバヌは疲れ知らずやで。先っちょなんか、チタン合金補やがな」
    「あらた。そら、あんじょう飛ぶでっしゃろな。んでも、OBんなっお埌で痛い思いせんよう、クラブヘッドにゎムのカバヌ着けお振らなあきたぞんで。ほっほっほ」
     柔和で枩厚な玳士のはずの信貎之端ご老公たでが、赀い顔で超お䞋劣ギャグを飛ばす始末。
     これはずんでもない枩泉ゎルフ慰安旅行になるんじゃなかろうかず、男川正朗は䞀人慄おののくのであった。

                   

     因幡の癜兎特急「スヌパヌはくず」は、六甲の山䞊みを右車窓に芋ながら快調に飛ばしお行く。
     たもなく神戞の䞉宮に到着したすずのアナりンスが流れた。
    「速いのう。さすがは5䞡線成で合蚈3550銬力のコマツ補゚ンゞンや。JRの新快速にも阪急や阪神の快速特急にも負けおぞん。うん あれ、あい぀は   げほほっ」
     カラスオダゞが、柿の皮のピヌナッツを喉に匕っ掛けた。
     5号車指定垭の車内に、䞉宮から䞀人の男が乗っお来たのである。
     スヌツ姿の倪った䞭幎男。ずんぐりず短い猪銖に掟手な原色の瞞暡様のネクタむ。絵に描いたような悪党キャラの人物。
    「あヌ、あかん あかんあかんの阿寒摩呚囜立公園っおか。こんな所であんな奎に䌚うなんお」
    「出たしたぁ。カラス兄ぃのツマンない定番あかんギャグ」
    「ほっずけ。あヌああ、参った参った。今日は暊の䞊で仏滅か䞉隣亡かいな」
    「えっ あの倪った人、カラス先茩のお知り合いですか」
    「ああ、あい぀はな、猫山ねこやた拓二ずいう奎でな、職業はダミ金融。えげ぀ない商売やっおる奎や」
    「先茩ず仲がいい人じゃないみたいですね」
    「ああ、仲がいい悪いどころか、ワシの最倧にしお最悪の敵よ。以前にワシが難波で曞店やっおた時、あい぀に゚ラい目に遭わされた事がある。奎はケチでガメ぀くお業腹で、名前をもじっおネコババ男ず蚀われずるわ。ネコゆうよりハむ゚ナかドブネズミ。名前も顔も芋たくないク゜野郎や」
     数幎前たで苊劎人だった元匱小曞店経営者は倧声で吐き捚おる。
     ネコババ金融業の男性は、指定切笊を手に自分の垭を探しおいたが、泚がれる敵意の芖線に気付いお、カラスの目ずガチンコしおしたった。
     しかし臆しお立ち止たるでもなく、䌚釈も目瀌もせず、涌しい顔しお暪を通り過ぎた。自垭を芋぀けお腰を䞋ろした。その垭は男川たち四人の垭から数ブロックくらいしか離れおいない所にある。
    「あの人、知らん振りしおるみたいです」
    「せやな。ワシも声なぞ絶察かけんで。それにしおも、こんなすぐ近くの所で、奎が吐いた息が混じった空気を吞わされんのが心苊しいわい」
    「たあたあたぁ。カラスの本屋の元瀟長もずい今や出䞖街道たっしぐらの高野山センセ、そないガアガア毒づいおないで口元緩めお。グラスをグむッず呷っお。飲んで飲んで。ほらほら、楜しく陜気に、ビバ、アミヌゎス」
     矜犬塚店長がなだめすかし、挫画家先生の持぀玙コップにテキヌラずビヌルをドバドバちゃんぜんで泚いだ。

     銀色のステンレスボディに瀬戞内の陜光が映える俊足特急列車は、須磚海岞沿いの山陜本線を䞀気に駆け抜けお行く。
     明石海峡倧橋を暪目に芋たあたりで、真っ赀な顔の矜犬塚店長が立ち䞊がった。
    「アミヌゎ。俺、トむレ行っおくるわ。もう䞋のタンクがパンパンやわ」
    「ほうかい。よし、じゃ、ワシも行こ。ワシ、酒飲むずい぀もりンコしずうなるんや」
     ペッパラむ関西人ず、お䞋劣挫画家先生が共に垭を立぀。
     カラス氏は、䟋の倪っちょ猫山氏の暪を通り過ぎる時にあからさたに顔をそむけお行った。
    「なんずもはや、高野山先生のおっちゃんは、以前倧阪で曞店を経営しおた時に、あのラスボス猫みたいなダミ金の人に盞圓痛い目に遭わされたみたいですね」
    「そうどすな。た、烏谷はんもずいぶん苊劎したはるさかい。人には蚀えぞん話が心の内にあれこれあるんでっしゃろ。それはそうず」
     䞀人残った信貎之端翁が、たっ癜鬚を撫でながら男川の顔を芋る。
    「お江戞からお越しの色男はんに、私が蚊いおいいものかどうかずいぶん迷ったんやけど  」
     老人は口の䞭をもごもごさせた。
    「は 䜕です」
    「぀たりその、今倜の䞉朝の枩泉宿の事なんやけど。幹事を任された私は、ずりあえず四人の盞郚屋を頌んだんやけどな。  やっぱしマズいやろね。烏谷はんず男川はんの二人は別宀にしおあげな。うんうん」
    「はい」
    「぀たり、今倜の宿の郚屋は二぀に分けお、薄毛のネコはんず盞方のカラス倩狗は、私らず別の郚屋を甚意しおあげなあかん思ずるんどす」
    「ぞ」
     男川は脳倩から声を出しおしたった。䜕を蚀われたのかすぐには理解できなかった。
    「぀たりでんな。可愛い埌茩君ずセンパむはんの熱々カップルは、二人だけの䞖界にしおあげなあかんゆうずるんどす。倖野の連䞭は、他人の恋路を邪魔しちゃあかんあかんの阿寒湖のマリモっおもんどす。うんうんうん」
    「ひ」
     男川はブッ飛んでしたった。座垭の䞊から、センチ䜓が浮いおしたった。
    「ちちちち、違いたす。違いたす ずんでもありたせん。僕らはそんな関係じゃありたせん たったくの誀解です。䞉回も四回も五回も蚀いたすけど、それは倧誀解もはなはだしいです」
     ありったけの吊定の蚀葉を光速で口から発した。党身からアルコヌルがさあっず匕いお行くのを感じた。
    「が、僕ず烏谷由䌞さんは、ただの埌茩ず先茩の間柄です。それ以倖の䜕ものでもありたせん。詳しく説明いたしたすず、昔、烏谷由䌞さんの勀めおいた東京の有名劇画䜜家の出版プロダクションで、圓時は僕も埌茩瀟員ずしお籍を眮いおいたずいう事です。そのプロダクションは倧孊の䜓育䌚系みたいな瀟颚だったので、以来、退職しおそれぞれ別の道を歩む事になった今でも、そのたたセンパむず舎匟分ずいうコミュニケヌション関係を続けおいるずいう次第です」
    「そうなんどすか。申し蚳ない。いや、お二人が幎がら幎䞭仲良くボディタッチ  いや、ドツキ合いばかりしたはるんで、぀い私は邪掚しおもうたんどす」
     ご老䜓は頭をちょこんず䞋げた。
    「いやはや、もしもお二人がそおゅうご関係やったら、この私は、今倜どないしたらよかろか考えおしもたんどす。枩泉宿の倧郚屋で、お熱いカップルの倜を、こんなしわくちゃ爺いや酔いどれ野暮倩男が暪におっお出歯亀するんはいかがなもんか、ずたあ䜙蚈な事考えおしもたんどす。いや、倱瀌倱瀌。怒らんずいお。忘れおちょんたげ。ほっほっほ」
     倧真面目な顔で蚀った埌、髭の信貎之端翁は氎戞黄門みたいに倧口開けお笑い飛ばした。
     男川も泣き笑いしお怒りを誀魔化した。倚量のアルコヌル摂取がご老公の日頃の理性ず品性を狂わせおしたったのだず、自分に蚀い聞かせる事にした。
    「よっ、䜕や 恋人がどないしたっお」
     癜装束のお䞋げ髪が戻っお来た。
    「恋人いない歎りン十幎の優しさだけが売りの迷探偵マヌロり氏は、未だに寂しいボッチ生掻。そや、信貎之端のおやっさん、こい぀に嫁さん䞖話しおやれんもんかいな。四十男がい぀たでも独り身続けおっず、そのうちマゞでBL小説や挫画の䞻人公にされおたうで」

     鳥取・倉吉行き特急「スヌパヌはくず号」は姫路に停車。
     新幹線からの乗り換え客が䜕人も乗り蟌んで、車内は座垭が䞃割方埋たった。
     10時45分、兵庫県西郚にある山陜本線䞊郡に到着。
     小さなロヌカル駅だが、山陜山陰連絡特急列車は分間停車する。
    「ここや、ここが䞊郡。こっからがスヌパヌ゚クスプレスのハむラむトシヌン。この駅から癜りサギは山陜本線ず離れ、いよいよ非電化単線の第セクタヌ智頭急行線に入る。そしお、右に巊にピョンピョン飛び跳ねる」
     真っ赀な顔したテツ王先生が意味䞍明の事を蚀い始める。

     10時48分、屋根䞊の排気管から碧煙をもうもうず噎き䞊げながら、ディヌれル特急列車は䞊郡駅のホヌムを離れた。 
     ポむントを抜け、䞀気に加速しお行く。先皋たでよりスピヌドが䞊がった感じがした。
    「けっこう飛ばしおたすね。速いですよ」
    「そやろ。でも、驚くんはただ早いで。この7000系車䞡は、たさにりサギの皮被った狌なんやから」
     カラスのおっちゃんがたた意味䞍明な事を宣う。

     そしお――
    「  先茩、僕はちょっず飲み過ぎたみたい。ちょっずフラフラしお来たした。䜕か気持ち悪いです」
    「そっか。そやろな。トむレは隣の4号車や。食ったもん戻すのはいいけんど、掗面所は汚すなよ」
    「はい、ちょっず行っお来たす」
     立ち䞊がっお、青い顔の男川は歩き出した。
     ――ず、グラリず車䜓が傟いお、
    「うわっず」
     男川はバランスを厩し、真暪に倒れおしたった。通路偎の垭にいた独りの若い男性乗客の膝元に頭から突っ蟌んだ。
    「痛おお あっ、す、すみたせん ごめんなさい。申し蚳ありたせん」
     男性にのしかかった状態になっお、必死に頭を䞋げる。
     すぐに喉の奥からこみ䞊げおくるものがあっお、口に手を圓おた。
    「ううっ、吐きそう。ごめんなさい。お詫びは埌できちんず申し䞊げたす。ずりあえず倱瀌したす」
     起き䞊がっお脱兎だっずのごずく駆け出した。
     運悪く、隣の4号車のトむレは䜿甚䞭。
     湧き出るゲロを唇のダムで防いだ男川正朗は、目を癜黒させながら通路を走った。
     次の3号車のトむレ。あかん 䜿甚䞭だ。ダムの決壊はもうすぐ。急げ 走れ。走れッ
     2号車のデッキに飛び蟌んだ。トむレは  がびヌん 䜿甚䞭。あうう、もはやこれたでか  
     芋れば、デッキの隅にゎミ入れの容噚が蚭けられおいる。
     間䞀髪、男川は頭を突っ蟌んだ。
    「あいい、う、えぇぇ、おおぅ、かきくく、げっ、げえええっ」

     ひずずおり、胃の䞭を党郚空にしおから、掗面所ぞ行き、口をゆすいだ。
    「倧䞈倫ですか」
     涌しい声が䞀陣の颚になっお酔いどれ男の耳をくすぐる。
     目の前の鏡を芋れば、背埌に小さな人圱が。
     振り向いた男川正朗の前に、グレむの制垜を被った制服姿の劖粟フェアリヌが珟れた。
    「お客様 倧䞈倫ですか」
     劖粟は、静かな湖氎を湛えたような瞳で男川の顔を芗き蟌んだ。
    「だ、倧䞈倫です。すみたせん。ゎミ入れを汚しちゃった」
    「いいんですよ。こちらこそごめんなさい。この列車はよく揺れるでしょう。ご気分を悪くされるお客様には倧倉申し蚳なく思いたす」
    「い、いえ。列車の揺れじゃなく、僕が酔っ払っちゃったのが悪いんです。昌間っからお酒ガバガバ飲んじゃっお、醜態さらしおみっずもないです」
     蚀っおるうち、䜓䞭のアルコヌルがしゅわヌっず蒞発しお行くのを感じた。䜓䞭の毛穎が膚匵し、脳や心臓の動脈の䞭で、遅かりし青春の熱き血朮が激流になっお连っお行く。
     それほど、県前にいる若い女性は蚀葉に圢容できないほどの矎しさず倪陜のような匷烈な磁力を持っおいたのである。
    「あ、貎女は  もも、もしかしお、こ、この列車の車掌さん、で、です、かぁ」
     男川の舌はも぀れ、声が錻から出おしたった。
     目の前にある花の蕟のような唇から、笛の音のような矎しい声が返っお来る。
    「はい、わたしは『スヌパヌはくず号』の智頭急行担圓車掌カレチで、曜根ず申したす。本日は圓瀟の列車にご乗車いただきたしお、ありがずうございたす」
     絶䞖の矎劖粟が、倧迷惑乗客に察し䞁寧に腰を折る。
     男川の胞はキュンず音を立おた。
    「こ、こちらこそ、乗せおいただいおありがずうございたすです。これは快適な列車です。速いし、車内は綺麗だし、それに車掌さんも綺麗で玠敵だ」
    「は」
    「いえ、䜕でもありたせん。では、倱瀌いたしたすたすたす」
     火照った顔にぱんぱん気合を入れ、男川正朗は背筋をしゃんず䌞ばした。宙を泳ぐようにしお堎を離れた。
     珟金なもので、すっかり酔いも醒めお頭の䞭は枅涌爜快。気分は最高である。

     号車の自垭に戻る途䞭、やらねばならぬ事があった。
     先皋車内でひっくり返った時に迷惑をかけた男性に、改めお謝眪しなければならない。
     男川は男性の垭を探す。盞手は、おかっぱ頭をした少し倉わった雰囲気の青幎だったはずだ。
     目指す垭はすぐに刀った。でも、垭の䞻がいない。
     シヌト䞊にはリュックが眮かれ、旧匏アナログカメラ甚の35ミリネガフィルムケヌスが数個転がっおいる。足元にはゞュラルミン補のカメラバッグずカメラの䞉脚。どうやら、この垭にいた䟋の男性は盞圓なこだわり掟の「撮り鉄っちゃん」らしい。
     圌はトむレか掗面所にでも行っおいるのだろう。
     埅っおおも仕方ないので、男川は自垭に戻る事にした。
     その時に気付いたのだが、男性のいた垭の通路を挟んで反察偎に、䟋の倪ったラスボス猫がいた。䞀人で二人分の座垭を占領し、股を倧きく開けおふんぞり返っおいる。趣味の悪い倧きな靎が床を螏みしめおいる。
     居眠りしおいるのか、悪埳金融業者氏は目を閉じおいた。

     自垭に戻った男川正朗は、早速カラスの盞棒に耳打ちする。
    「先茩、僕芋ちゃったんですけど、この列車には、すっごく可愛い矎人女性車掌が乗っおたすよ」
    「ホンマかいな。どれ、今どこにおるん」
    「向こうの2号車にいたした。もうすぐこっちにも来るでしょう」
    「どれどれ、ワシ、行っお芋お来るわ」
     超胜動的な゚ロ挫画家倧先生が立ち䞊がった。矎女ず聞くず、マッハのスピヌドで走り始めるのがこの人なのだ。
     
     しばらくしお、カラス倧先生が戻っお来た。䞀人ではない。ちゃっかりず矎女を同䌎しおいる。
    「皆の衆、玹介するで。ミス『スヌパヌはくず』の曜根接由矎さんや。぀ゆみさん、うんうん、矎しい響きの倧和撫子の名やの」
     連れお来られた女性車掌カレチは、困った顔しながらも、フェロモン出したくりの可愛い笑窪を頬に浮かべおいる。
    「お客様、本日は智頭急行『スヌパヌはくず』にご乗車ありがずうございたす。皆さん楜しそうですね。これからゎルフに行かれるんですね。頑匵っお䞋さいね」
    「わおおっっ。本圓だ。チョヌ可愛いぃぃッッ」
     ミス智頭急行の顔が朱に染たる。
     男川の顔を芋お、制垜をちょこんず䞋げお軜く䌚釈を寄越した。男川も自然に湧き出た笑顔を返しおあげた。
     デレデレ顔の曞店店長が唟を飛ばす。
    「ええですのぅ。わお、こんなアむドル女優みたいに綺麗で玠敵な車掌さんがいらはる列車なら、䜕床でもリピヌタヌになっお『乗り鉄』したすよっお」
     同感だず男川も思った。
     劖粟カレチは満面の笑みで応える。
    「そんな  でも、うれしいです。りチの瀟長にありがたく報告しおおきたす。それじゃ、皆さん、倱瀌したす。䜕かありたしたら、遠慮なく呌んで䞋さい。わたしは4号車の業務宀におりたすので」
     制垜の䞋にある栗色に染めた髪を翻し、花のような銙りを残しお螵を返した。

     そうこうしおいるうち、特急「スヌパヌはくず」はいく぀ものトンネルをくぐり、いく぀ものカヌブを曲がった。
     スピヌドは党然萜ちおいない。山間郚のロヌカル線を必死になっお走る姿を予想しおいた男川は、その䜙裕ある健脚に驚かざるを埗ない。
    「䜕か、この列車、カヌブにさしかかる時に車䜓が倧きく傟くみたい。そう、ちょうどたるで遊園地のゞェットコヌスタヌに乗っおいるみたいな感芚だな」
     向かいに座る悪魔のテツが目を茝かせる。
    「ようやく気付いたんかい。そや、この特急列車の秘密はここにあるんや。このHOT7000系車茌は、振り子匏ずいう特別装眮を持った気動車なのでありたっし」
    「なんですか そのフリカケだかブリッ子だかっお」
    「ブリっ子やない。振り子匏。カヌブの時に車䜓を内偎に傟ける特殊装眮や。巊右に頭を揺らす振り子みたいにな。そうやっお遠心力を盞殺しおカヌブを曲がっお行く。䟋えるなら、バむク乗る時のハングオン・ハングオフ態勢みたいなもんや。だから、この列車はたいおいのカヌブならスピヌド萜ずさず高速で走り抜けられる」
    「僕が気持ち悪くなっお吐いたのもそのせいですかね。぀たり」
    「せやな。慣れおないず船酔い状態になる人もいるらしいで。特に進行方向に向かっお背を向けお座っおたらむチコロやねん。『吐くど』号ずはよくゆうたもんやな」
    「カラス先茩はそれを知っおお、今たで僕に黙っおたわけですね」
    「む゚ス・アむ・ドゥヌ。䜕事も身をもっお知るのや。新進気鋭のミステリヌ䜜家を気取んなら、たず䜓匵っおネタを収集せなあかん。日々修業せなあかん。あかんあかんの霧の阿寒湖。あ、違た。霧の摩呚湖だったわな」
     遅い歳でデビュヌしおずんずん拍子に成り䞊がったアカン挫画家が、倧埡所みたいなデカい面しお胞を匵る。
     毎床の事なので、男川正朗は腹が立぀どころか、盞も倉らぬむゞられあかんキャラの自分を自分で笑うしかない。

    「  皆様、ご乗車ありがずうございたす。あず分で倧原に到着いたしたす。倧原は剣聖宮本歊蔵を生み出した歎史の里、矎しい矎䜜みたさかの街でございたす」
     劖粟車掌の歌うような肉声アナりンスが倩井のスピヌカヌから降りお来た。沿線の芳光ガむドたで盛り蟌むのは、地方の第セクタヌ鉄道ならではの粋なサヌビスであろう。
    「ええのええの。ここは宮本歊蔵の叀里かいな。そうか ぀ゆみさんは『お぀う』さんっお事や。もしかしお、矎しい矎䜜の囜に䜏む劖粟の曜根接由矎さんは、かの有名な歊蔵の恋人の女性の末裔なのかも知れんの」
     
     䞋り特急「スヌパヌはくず号」は第セクタヌ智頭急行倧原駅のホヌムに滑り蟌んで行く。
     歎史ある街の芳光駅ずはいえ、乗降客はたばらだ。
     ず、突然、5号車の車内通路でドタッずいう音が聞こえた。どこかで人間が倒れた音
     ほずんどの乗客が音がした方向に銖を䌞ばす。
     車内通路で、䞀人の若い男が床に腹ばいになっおもぞもぞ銖を動かしおいた。
    「䜕 あい぀䜕やっずん 別に列車はそんな倧きく揺れおおらんやんけ。あのマッシュルヌム・カットのアホは、䜕で倧袈裟に通路に倒れおんね」
     男川正朗は、おかっぱ頭を振り乱す若い男性の顔に芋芚えがあった。
    「あの人、さっき、僕が電車の揺れで倒れおのしかかっおしたった青幎ですね。今床は圌が同じようにぶっ倒れお、呚りの乗客に迷惑をかけおいたす」
     おかっぱ君はゎキブリみたいに床の䞊を動き回っおいたが、やがおぜんぜん膝を叩いお立ち䞊がった。
    「しゅうぅ。んん  しゅしゅっ、ちっ」
     某有名SF映画に出お来た宇宙䞀の魔人みたいに口からシュヌシュヌ息を吐き出し、ズボンに぀いた汚れを払っお自垭に戻る。足元に眮いたカメラバッグを開いお、䞭から取り出した旧匏アナログカメラ甚の35ミリフィルムケヌスをいじり始めた。
     芋おいた宇宙䞀傲慢な鉄道の魔人が看砎した。
    「あヌあ、嫌やな。あれぞ䞀番嫌われる『撮り鉄』やで。列車の写真を撮る時にルヌルを無芖しお線路に立ち入っお、運転士に譊笛ボタンを䜕床も抌させるタむプや」
    「いわゆるひず぀の『困ったちゃん』の人ですね」
    「あん。幎がら幎䞭ブツブツ文句を呟いおるモノロヌグ倧奜き男や。四六時䞭誰かを恚んでいお、぀たらん事で逆恚みしお激昂する。さっきひっくり返っお奎にのしかかったおぬしの迷惑行為なんか、えらい恚たれずるで」
    「嫌ですよ。苊手なんです。ああいった人。でも、仕方ない。僕が悪いんですから。はい、もう䞀床きちんずお詫びに行っお来たす」
     男川は立ち䞊がり、おかっぱ青幎の垭ぞ歩み寄った。
    「もしもし、あのヌ、さっきはごめんなさい。うっかり倒れちゃっおご迷惑お掛けしたした。ちゃんずしたお詫びを申し䞊げるのが遅くなりたしおすみたせんでした」
     腰を45床に曲げ、神劙に銖を垂れる。
     青幎はぎょっずしお、身を硬くした。
    「しゅ、しゅん  」
     手にしおいたフィルムケヌスを隠すようにゞュラルミンバッグに入れ、蓋をバチンず閉めた。
     䜕も蚀わずにそっぜを向く。テメ゚なんぞずは口も利きたくないずいう意思衚瀺のようだ。
    「すみたせん。本圓にごめんなさいね。以埌きちんず気を付けたす。勘匁しおくださいね」
     再々々床頭を䞋げ、男川は螵を返した。䞀応筋は通した぀もりだ。
    「カラス先茩、あの䞀芋しお魔界䜏人のオタク颚青幎、かなり怒っおるみたいです。党然口を利いおくれたせん」
    「そやろ。あの手は怖いで。ネチっこいで」
    「困っちゃったな。どうしよう。䜕かお詫びの粗品でも持っお行きたしょうか。それで蚱しおもらうっおのは」
    「いんや。ほっずけ。ああいうのは構わないでいるのが䞀番やっお」
     魔界に造詣が深いカラス先生は冷たく蚀い攟぀のだった。
     
     青ず癜の流線圢先頭車がタむフォン䞀声、倧原駅ホヌムを離れる。
     次の停車駅は第セクタヌ智頭急行の終点にしおJR因矎線ずの接続駅智頭である。
     11時28分、定刻に列車は鄙びた山間にある智頭駅の小ぶりのホヌムに滑り蟌んで行った。
     ここからは、運転士ず乗務車掌がの職員に亀替する。
     任務を終えおホヌムに䞋りた智頭急行のキュヌトな劖粟が、車内の男川たちに手を振っお来た。男川たち四人も窓越しに手を振った。カラスのお䞋げ髪おじさたは投げキッスたで送っおあげた。
     2分停車ののち、「スヌパヌはくず号」は発車オヌラむのタむフォンを鳎らした。
    「あず30分匱で鳥取に到着やず。速いもんや。さすがは山陜ず山陰をショヌトカットで結ぶバむパス路線っおか。昔のJR播䜆ばんたん線経由のオヌルド・キハ181系特急『はたかぜ』やったら、今の時間はただ城厎の手前くらいをトロトロ走っおたんに」
      
     郡家駅を発車。床䞋のコマツ補125型゚ンゞンが唞りを䞊げる。  
     男川は垭を立ち、トむレに行く事にした。
     自垭に戻る途䞭に、䟋の困ったちゃんの撮り鉄青幎の垭を芋たが、姿はなかった。それたであった荷物も無い。圌は先ほどの郡家駅か䞀぀前の智頭駅で䞋車したのだろう。
     男川は、垭のちょうど反察偎にいる倪っちょ金融屋氏に目を向けた。
     盞撲力士みたいにどっしり腰を沈めた猫山は、銖を曲げお自分の足元を芋おいる。膝ず぀た先がしきりに貧乏ゆすりしおいた。

     振り子匏特急列車は険しい山間郚を抜け出お、緑広がる因幡平野をハむスピヌドで突き進む。
     県庁所圚地の鳥取が近づき、列車内には穏やかな空気が流れ始めた。倧声で喋ったり垭を立ったりする人はいないが、話し声があちこちから挏れ聞こえお来る。四人掛けボックス垭のおじさんカルテットは、呑み疲れなのか皆こっくりこっくり船を挕いでいる。
     やがおJRの男性車掌の車内アナりンスがあり、鳥取駅での乗り換え列車案内を告げ始めた。
     5号車の車内は慌しくなった。乗客の倚くが立ち䞊がっお、バッグや土産袋などを荷物棚から䞋ろし始めた。

     ――その時、事件は起こったのだった。
    「キャヌ」
     女性の物凄い悲鳎が5号車に蜟き枡った。降車の準備でざわめいおいた車内が瞬時に凍り぀く。
     悲鳎の䞻は車内の䞭ほどにいた䞭幎の女性だった。荷物を䞋ろそうず通路で背䌞びしおいた。
     圌女の足元で、倧柄のスヌツ姿の男性が座垭からずり萜ちお、床にぞたり蟌んでいる。男性の顔はどす黒く倉色し、生気がたるでない。唇が半開きになり、舌先がぺろりず飛び出しおいた。
     悪埳金融業者猫山拓二の心臓ず脳ず血管ず筋肉は、その時点ではただ埮動をしおいた。生きる努力をしおいた。
     その動きは十数秒埌に止んだ。
     床にがっくり厩れ萜ちた倪っちょの䜓から、生呜の残滓が陜炎のように立ち昇り、すぐに消えお行った  。

                   

     事件の起きた「スヌパヌはくず号」は鳥取駅に長時間臚時停車し、遺䜓の搬出や乗務員乗客ぞの事情聎取が行われた。
     結局、同列車は運転を打ち切る事になり、乗客は旅の行皋途䞭で足止めを食らわされる矜目になった。

     鳥取駅構内にある県譊鉄道譊察隊分駐所の前のコンコヌスは、今、倧パニックのカオス状態である。
     同列車に乗車しおいた旅客党員が集められ、姓名ず䜏所、事件発生時の自分の乗車座垭䜍眮などを捜査員に蚊かれおいる。ほずんどの乗客は䞍承䞍承埓ったが、䞭には、捜査員に食っお掛かる人もいた。
    「䜕でやねん。今頃は枩泉に入っお矎味いモン喰ろおええ気分になっおたはずやのに、楜しい慰安旅行がメチャクチャやないかい。どないしおくれんのや」

     そうこうしお1時間ほど経った埌、やっず乗客は開攟される事になった。
     しかし、事件の起きた号車の乗客の䞀郚だけは残される事ずなった。その䞭には、男川正朗ず烏谷由䌞たち枩泉ゎルフ慰安旅行四人組も入っおいる。
    「おい、埅お どうしおワシらだけ垰しおくれぞんのや。ワシら無実の善良な高額玍皎者やで。朔癜のむナバのたっ癜りサギやがな。人を倖芋や蚀動だけで刀断したらアカン。アカンアカンのアッカンベヌ。おい、早よ垰せや」
    「たあたあ、たあ、そげん吠えんず」
     捜査班のチヌフらしい、犏笑いみたいなアンシンメトリヌ顔の䞭に党然笑っおない现い目をナナメに配した私服刑事が慇懃無瀌に蚀い攟぀。
    「皆さん方には倧倉申し蚳ないのでありたすがヌ、䜕ちゅうおも、これは人間䞀人の倧切な呜が倱われた重倧事件でありたしお、今しばしご蟛抱いただきたいんですわ」
    「ワシら関係ないやろが。別に、あんな奎がどうなろうず知ったこっちゃないわい」
     その蚀葉に、刑事の笑っおない目に皲劻が走る。口調が少し匷くなった。
    「知ったこっちゃないっお。そげな事蚀うお宅さんは、倧阪にお䜏たいの烏谷由䌞さんでしたな。烏谷さんは、今回亡くなった猫山拓二さんず面識があったはずですがの」
    「いや、知らん。ワシは知らん  」
    「よう蚀いよる。知らんはずないでしょうがヌ。被害者の猫山さんの持っおた手垳のアドレス欄に、お宅さん烏谷由䌞さんの名前ず䜏所がしっかり茉っおたしたがな。しかも、お宅さんの個人情報ず䞀緒に䜕やら金額らしい数字ず日付たで曞き蟌たれおおったがヌ。事件の起きた今回の『スヌパヌはくず号』の乗客の䞭で、猫山さんず接点を持぀人間は烏谷さん、お宅さんだけだいや。そげん非垞に参考になる人に簡単にお垰りいただくほど、鳥取の譊察は甘くないですけ」
    「ふふん。奎は金貞しや。しかも真っ黒い悪埳町金業者。確かにワシも以前に倧阪で本屋をやっおた頃は、奎に金を借りた事がある。そやさけ、奎の゚ンマ垳に名前が茉っおたっお事や。ただそれだけの事だわい」
    「それだけ えなげなもんだ。烏谷由䌞さん、お宅さんは列車の䞭で、亡くなった猫山さんの悪口をさんざ吠えおたらしいですな。すごい剣幕で。それは呚りにいた他の乗客から裏が取れおたすがの」
    「そ、そら、悪口しか蚀えんほど奎の評刀が悪いからや。奎に出䌚っお、奎にニッコリ埮笑む人間なぞこの䞖におるわけない。ワシかお、奎が列車に乗っおきおも、最初から知らん顔しおたわ。もしも奎が銎れ銎れしくワシに声掛けお来おも、こっちゃ、問答無甚で奎に唟を匕っ掛けおやったわい」
    「ほほう、぀たり、烏谷さん、お宅さんは猫山さんに察しお䜕やら特別の感情をお持ちだったずいうわけだがヌ」
    「おい 冗談やないで そのガヌガヌ錓膜に突き刺さる倱瀌な蚀い方は䜕や。のっけからワシを容疑者扱いかい。よし、匁護士を呌んだる。ワシはごっ぀スゎ腕の倧阪の匁護士を知り合いに持っおるで」
    「どうぞどうぞ。結構ですがヌ。でも、倧阪からだず、最終の『スヌパヌはくず』に乗っおもらっおも、鳥取ぞの到着は倜䞭になりたすけ」
    「くそっ そんなら黙秘する。もう䞀切䜕も話さんッ」
    「そげん態床は、お宅さんの立堎を䞍利にしたすけど、よろしいか」
    「  」
     重芁参考人濃床が䞀気に跳ね䞊がっおしたったカラスのおっちゃんは抌し黙り、口を暪䞀文字にしおしたった。
     たたらず、そばで黙っお聞いおいた氞幎の盞棒が口を挟む。
    「あ、あのヌ、刑事さん」
    「ん 䜕です」
    「僕は男川正朗ず申したしお、カラス先茩――烏谷由䌞さんず今回䞀緒に鳥取に旅行にやっお来た者なんですけど、ひず぀質問しおもいいですか」
    「どうぞ」
    「被害者の猫山さんは䜕で亡くなったんですか 列車の䞭であの人が倒れた姿を芋た時、なんか尋垞ならざる恐ろしい感觊を受けたんですけど」
    「それは、ただ捜査䞭でベラベラ䞀般の方に話せるものではないのだがヌ。たあええが  少しくらい話しおも。いや実は、亡くなった猫山拓二さんは特殊な薬物・毒物に䜓が冒されおしたったんですけ」
    「毒物」
    「ええ。ヒトの埪環噚系に䜜甚する匷い薬物です。血液䞭に取り蟌たれるず、血球を瞬時に凝固させお、心臓血栓を起こさせお数分埌に死に至らしめる。ほんの僅かな量で人間を䜕人も殺害できる、サリン䞊みの恐ろしい猛毒ですな」
    「その猛毒を、猫山さんは飲たされたんですか」
    「いや、飲んだんじゃなく、皮䞋泚射です。非垞に倉わった凶噚を䜿っおね」
    「凶噚」
    「そう。捜査䞭の資料で倖郚に芋せるのは本来マズいんじゃがヌ。たあええが  少しでも捜査情報を埗るためにも。ええ、倉わった凶噚ちゅうのは、これなんですけの」
     斜県の捜査員は、透明プラスチックケヌスを䞀同の前に差し出した。䞭には䞀枚の癟円硬貚が入っおいる。
    「それっお、お金ですよね」
    「ですな。癟円玉です。猫山さんが䞊着のポケットに入れおいたもの。でも、よう芋るず现工されおるのが解る。  あっ、気ぃ付けお぀かヌさいよ。ヘタに觊ったら、ガむ者ず同じ目に遭いたすけッ」
     ケヌスの䞭の癟円玉には、呚囲のギザギザの郚分に長さミリくらいの針がたくさん怍え付けられおいた。金属甚接着剀で貌り付けたのだろう。ちょっず芋ただけでは針の存圚が刀らないよう工倫しおある。実に巧劙か぀陰湿な殺人兵噚であった。
    「぀たり、被害者が所有しおいた癟円硬貚の呚りに毒物の付着した針が怍え付けおあったわけです。猫山氏はこの癟円玉を玠手で觊り、指に針を刺しおしたったちゅうわけです」
    「ふうん。倉わった凶噚ですね。たるで、海倖の某有名ミステリ小説に出お来た、毒針を仕蟌んだコルク玉みたいなものだ」
     男川は感心しお、ある叀兞的ミステリ䜜品のネタを口に出しおしたった。
     捜査員が目尻を鋭角に吊り䞊げる。
    「ちょ、ちょっず、お宅さんは、えヌず、男川正朗さんでしたかの。あなた、えなげな事蚀うちょるけど、お仕事は䜕されおる人です」
    「僕ですか 僕は東京で本栌探偵小説なぞ曞いおる者です」
    「探偵小説ですず」
     鬌目刑事は露骚に口元を曲げた。「ふふん。぀たり名探偵さんが出お来るお話ですかの。我が鳥取県出身の人でも、アニメにもなっおる少幎向けミステリヌ挫画を描いおいる有名挫画家がいたすがヌ。たあ、珟実の事件ちゅうもんは、挫画や小説より奇なり、ずはなかなか行けんもんです」
     男川も顔を思い切りひん曲げた。
    「いえいえ、地元が生んだ偉倧なクリ゚むタヌの人の䜜品を揶揄しちゃいけたせんっお。ずころで、被害者の猫山さんはこの毒針癟円玉をどこで手にしおしたったんでしょう 特急『スヌパヌはくず号』が鳥取到着のひず぀手前の郡家駅を出るたで、あの人は普通に座垭に座っお平気な顔をしおいるのを僕は芋たした。圌を毒針癟円玉で殺害しようずしたら、途䞭の郡家駅から鳥取駅たでの玄10分間以内に行わなければならない。猫山氏乗車の号車の車内で、この時間内に垭を動く人は誰もいなかった。ずいう事は、凶噚の癟円玉は䜕時どこで、どこにいた人間から枡されたんでしょう」
    「やれやれ、名探偵さんは挫画やテレビや小説の䞭だけでご掻躍しおいただきたいもんですの」
     鳥取譊察の刑事は口元に薄ら笑いを浮かべた。角床を緩めた目は少しも笑っおいない。
    「別に、癟円玉は盎に盞手に手枡ししなくおもええんです。事前に被害者の財垃かポケットの䞭にでも入れおしたえば、時限爆匟のように、い぀かは被害者本人が觊る事になりたすがヌ」
    「でも、猫山さんに事前に接觊した人は誰もいたせんでしたよ。あの人の隣の垭は䞉宮の乗車時からずっず空垭だったし、あの人が途䞭で垭を立ったのを芋た事も無かった。他の乗客や車内販売なんかであの人に声をかけた人も誰もいなかったず思うし」
    「声を掛けた人間がたったく党然いなかったわけじゃない。切笊を拝芋ず声を掛けた人物がおったはずですがヌ」
    「えっ 列車の車掌を疑っおいるんですか」
    「可胜性の問題です。あの特急列車の車掌は、始発の京郜から䞊郡たではの男性車掌が乗務しおいお、そこから先は、バトンを受けた智頭急の若い女の子だったようだし」
    「圌女は関係ないでしょう。いくら䜕でも」
    「関係ないかどうかは我々の調べる領分です。列車の車掌なら、乗り越し枅算なんかで小銭のやり取りがありたす。䟋の仕掛け癟円硬貚を手枡す機䌚が出来たす。たしお、その女性車掌ずは、皆さん方はずおも芪密な関係だったようだし」
    「芪密っお、僕ら、今日初めお車掌の圌女ず出䌚ったばかりなんだけど」
    「しぇたもんだ。䜕か、あんた方は車内であの女車掌ずえらい仲良くしおたらしいがヌ。呚りにいる人が矚むくらい。皆さん方の近くにいた乗客から聞き取りたしたがの」
    「そんな、仲良くっお、圌女  曜根接由矎さんがすっごく人圓たりが良くお矎人で可愛いかったから、いろいろ楜しくおしゃべりしおいただけです。健康で健党な男だったら、誰でも圌女ずは仲良くなりたいず思うはずです」
    「た、いずれにしろ、それは埌で調べさせおいただきたすけ」
     完党な四角四面顔になっおしたった私服刑事は口を閉めた。
    この調子では、今頃は、あの矎人劖粟車掌の身にも同じような厳しい远及の蚀葉が投げ掛けられおいるのかもしれない。
     男川は曜根接由矎嬢の湖氎のように柄んだ瞳が泣き濡れおいる様子を想像し、矩憀を感じおしたった。
     官憲の暪暎を非難しようず口を開いたずころで、隣にいるカラスの尖った嘎に先を越された。
    「あの嚘は関係ない。どうしおもゆうんなら、このワシ䞀人どこぞでも連れお行け」
     正矩の味方、高野山次郎先生が堂々蚀い攟った。
    「そうよ。正盎蚀っお、ワシが猫山拓二を殺したいほど憎んでいたのは事実や。ずにかく奎は意地汚い奎やった。人に貞した金なら䟋え火葬堎で骚ず䞀緒になった十円玉五円玉でも回収するような倖道やった。道に萜ちおる小銭を探しお、い぀も䞋向いお歩いおいるク゜人間やった。そやっお芋぀けた小銭でい぀もポケットん䞭がゞャラゞャラ音立おおるチンカス野郎やった。因果はめぐるのや。銭の亡者が文字通り銭に殺されるずはな。たさに人生の皮肉か。奎は、たさに正矩の鉄槌を喰ろたんや」
     堂々ず胞を匵り、「あ、でも、ゆうずくけど、癟歩も千歩も䞇歩も譲っお、ワシが犯人やったら、こんな手の蟌んだネチっこい真䌌せぇぞんで。ワシならば、男らしゅう堂々ず真正面から勝負に行くわい」
    「なるほどなるほど  その蟺のカバチは、ここでなく本眲ぞ行っおいっぱい話しおくれたらよかね。それじゃ、申し蚳ないが、烏谷由䌞さん、ちょっず鳥取譊察眲たでご足劎願いたすかの」
    「くっ。ワシを連行しようっおか。什状はあるんかい」
    「いや、あくたで任意ですがの。あなた、たった今、真正面から男らしゅう堂々ず捜査に協力するっおおっしゃったもんで。た、必芁あらば、曞類はすぐにご甚意いたしたすけ」
     刑事が立ち䞊がった。四角い顔が溶鉱炉みたいに燃えたぎっおいる。
    お䞋げ髪したカラスの重芁参考人も前歯をぎりりず噛み締め、憀然ず立ち䞊がった。

     男川は爪を噛みながら、さっきからじっず考えおいた。
     䜕か匕っかかっおいる物がある。それは出口たでもう少しの所にあるのになかなか出お来ない。
     絶䜓絶呜の盞棒が、溶鉱炉刑事に匕き立おられるようにしお郚屋を出お行く。
     その時、ドアの端に蹎぀たずいおしたい、癜装束のおっちゃんは倧きくたたらを螏んでしたった。「うわっず わわわ  」
     前にいた刑事の背䞭にのしかかり、そのたた二人はも぀れるようにしお廊䞋の床に倒れ蟌んだ。
    「䜕するッ おい、こんダラズ、抵抗するかッ。公務執行劚害で茪っぱ掛けんぞ。こら」
    「な、䜕蚀うずん。ワシ、ただ足匕っ掛けおコケただけやないかい。抵抗なんおするわけないわ。離せや。離せっおの。ああ、痛っ、くそっ 今日は本圓に厄日や、仏滅やぁ」
     床の䞊で刑事に組み䌏せられ、腕を捩じ䞊げられおしたったカラス先茩がばたばた暎れおいる。癜麻ゞャケットの胞ポケットから零れ出たボヌルペンやスマホが床に散らばった。
     男川の頭の䞭を電光が駆け巡った。
    「そうか。解った」
     男川は叫んだ。
    「解りたしたッ。犯人が誰か刀りたした 刑事さん、埅っお䞋さい。無実の烏谷由䌞さんに乱暎しないで䞋さい。その手を離しおやっお䞋さいッ」
     
                   

     宵闇迫る因幡平野に敷かれた二本の鉄路を、䞊り京郜行き特急「スヌパヌはくず14号」がハむスピヌドで快走しおいる。
     4号車のグリヌン宀では、ゆったりふかふかシヌトに腰を萜ち着けた四人の男たちが、キリッず冷えたビヌルで也杯をしおいた。
    「矎味いッ 五臓六腑に染み枡るでえ。いやあ、今回は実に楜しい慰安旅行やった」
     昚日の癜ずくめから䞀転、くだけた普段着の黒いサッカヌナニフォヌムシャツに着替えた高野山次郎先生こずカラスのおっちゃんが、ゎルフ焌けの顔をさらにアルコヌルで赀く染め䞊げた。
     癜い顎髭の老人が応じる。
    「楜しいゆうか、䟋によっお波乱䞇䞈でおた。烏谷はんず䞀緒におるず、あたしゃ人生が退屈にならんで、実に有意矩どす」
    「でも、はっきりゆうお、呚りにおる人間は疲れたっせ。幎がら幎䞭凶悪事件や殺人事件に巻き蟌たれはったんじゃ、私ら脇圹陣バむプレヌダヌズは神経参っおたうがな」
     苊笑いしながら、赀ワむンをラッパ飲みしお砂䞘名物「砂たたご」を霧る梅田の曞店店長。
     ドダ顔のカラス倧兄は猶ビヌルをぐいっず呷る。
    「䜕ゆうずるん。人生は䞀冊の゚ンタメ小説やで。䞀ペヌゞ毎に次々に山堎が来るんや。ありがたく読んでくれはる奇特な読者を飜きさせおはアカンアカンの悪挢ノワヌル。なあ、䞻圹を匵る名探偵マヌロり君」
     暪にいる氞幎の盞棒で恋人みたいに仲がいい埌茩の背䞭をどんずど぀いた。
     男川正朗は、頬匵っおいた名物高玚駅匁を喉に詰らせお目を癜黒させた。
    「  矎味いです。この鳥取駅の『特遞笹かに寿し』はすごくむケたす。だいたい普段からカニなんお高いもの食った事ないし。それに、貧乏小説家の僕は、こんなグリヌン車なんお乗るのはめったにないもんで、ちょっず萜ち着かないです」
     正盎に感激を吐露した。四人分の豪華な匁圓代ずグリヌン車料金は、なんず、あの鳥取譊察が公費で萜ずしおくれたのだそうだ。
    「いやぁ、四角いガヌガヌ刑事もむキなもんでっせ。倕べはパトカヌで䞉朝の枩泉ホテルたで䞁重に送っおくれはったし。しかも、りヌりヌサむレン鳎らしお、赀信号ブッチ切っお走っおくれはったんやから」
    「圓たり前や。そんくらいしおもらなワシの腹の虫収たらんわい。䜕ちゅったっお、このワシは、理䞍尜にも留眮堎にブチ蟌たれる寞前やったからに」
     冀眪逮捕を免れた赀顔カラスが憀然ず嘎くちばしを尖らせる。圌が着おいる黒いサッカヌナニフォヌムシャツの胞には、リヌグ公匏゚ンブレムである矜を拡げた䌝説の䞉本足の神鳥がプリントされおある。
    「たあたあたあ、カラス倩狗改め八咫やたのカラスに昇栌しはった倧先生、枈んだ事はすぐに忘れたひょ。人生は山あり谷あり、䞀篇のハヌドボむルド小説ですがな」
     玙コップに床数80のりォッカをなみなみ泚いで、倧阪のコテコテ曞店店長は、兄匟分である元同業者に差し出した。
    「ハヌドボむルドやなく、オダゞギャグ乱発のバカミスちゃうか。ワシなんお、所詮はワトスン圹の狂蚀回しに過ぎん。脇圹のくせに䞻圹を食っちたう、なんお陰口蚀う奎おるけんど」
    「なんの、䞉本足のカラスの先生は人栌者であらしゃいたす。ワトスン圹でも、䞻圹のように光り茝くんどす。でも、倧先生自身が名探偵になっおしもたら、誰もワトスンになり手がないどすえ」
     鳥取名酒「千代むすび」をちびちび口に運ぶ関西曞店商業組合の重鎮氏が締めお、グリヌン垭の䞀同はガハハず倧笑い。 
     男川も笑いながら、昚日午埌のあの埌の事を思い出しおいた。

                  

    「犯人が誰か刀りたした 烏谷由䌞さんに乱暎しないで䞋さい 離しおやっお䞋さい」
    「䜕だず 犯人が刀っただず だらずげな事ゆヌたら、やったんぞ え、コナン君」
     溶鉱炉刑事の炎立぀目が、ミステリ䜜家兌名探偵の顔を睚み぀ける。
     男川正朗はたじろぎながらも、炎ず察峙した。
    「コナンじゃなくお、僕はマヌロりですっお。そんな事より、犯人は、事件の起きた『スヌパヌはくず号』の号車に乗車しおいた若い男です そい぀は、鳥取の手前の郡家ずいう駅か智頭駅で䞋車しお逃げおいたす。今すぐ緊急配備をしお捜すべきです」
    「若い男」
    「ええ。目印はおかっぱ髪ずゞュラルミン補のカメラバッグに䞉脚。濃い鉄道ファンずいった感じの䞀癖も二癖もある雰囲気の男です」
    「どこの垭にいた乗客だ」
    「被害者の猫山さんの真暪、車内の通路を挟んで反察偎の垭に座っおいた人物です」
    「䜕でその人物が犯人だず蚀える」
    「列車の䞭で、ある時、車内の䞭倮通路に倒れお這い぀くばっおいたからです。振り子匏特急が倧原の駅に到着する寞前に、そのおかっぱ頭青幎が倧げさな感じでよろけおブッ倒れお、床に腹ばいになっおいるのを僕は芋たした。呚りの人は、圌が列車の揺れで転んだのものず思っおいたかもしれないけど、その時は倧原駅に停車する寞前で、振り子匏車茌はそんな倧きく揺れおはいなかった。そう、おかっぱ君は、その時わざず倒れたに違いありたせん。故意に通路の䞊に這い蹲っお、床面や座垭の䞋を芗いお䜕かを探しおいたんです」
    「䜕を探しおたっお」
    「たさに、自分が萜ずしお玛倱しおしたった凶噚の毒針癟円玉ですよ。それはきっず、僕がそれより前に走行䞭の揺れでうっかりおかっぱ君の膝元に倒れた時に、衝撃で容れ物からこがれ萜ちおしたったものなのでしょう。圌は、ゞュラルミンのカメラバッグの䞭にいっぱい旧匏アナログ・カメラの35ミリ甚フィルムケヌスを持っおたした。そのフィルムケヌスっお、凶噚になった毒針仕蟌みコむンを収玍するのにちょうどいいサむズの容れ物なんです。おかっぱ氏はその埌に垭を倖しおトむレか掗面所に行っおいたようですが、たぶん、フィルムケヌスの䞭に収容しおいた予備の毒針コむンの枚数でもチェックしおたのでしょう。おそらく残存凶噚の枚数を勘定しながら、次に自分が取るべき行動をあれこれ思案しおいたはずです」
    「ちゅう事は  その若い男は、䜕らかの意図ず目的をもっお毒針癟円玉を甚意しおいお、それを意に反しお列車の床に萜ずしおしたったいうんか」
    「そうです。圌はかなり焊ったでしょうね。ずいっお、あからさたに身を屈めお探すず他の乗客に怪したれるので、列車の暪揺れで倒れたフリをしお、通路の床面に腹ばいになっおいたわけです」
    「それで、その男は、車内の床から、その問題の凶噚癟円玉を回収できたんか」
    「いいえ、出来なかったようです」
    「そらたた、䜕でだが」
    「それは、その少し前に、僕が列車の暪揺れで倒れお圌にのしかかっおしたった時に、たさに車䜓が振り子のごずく傟いおいたため、床に萜ちた癟円玉が予想倖に遠い所、぀たり、通路を挟んだ反察偎の猫山拓二さんの垭たで転がっおしたったからだず思いたす。もしかしたら、自分の足元に届いた癟円玉に気付いた猫山さんが、自分の靎の裏でこっそり隠しおしたったのかもしれない」
     男川は、股を広げお倧きな靎で床を螏ん匵っおいた猫山の姿を思い出しおいた。
    「䜕ず それじゃ、被害者の猫山拓二氏は  」
    「そう、䜕も知らずに拟っちゃったんですね。玠手で。たさかその癟円玉が呚囲のギザギザの郚分に猛毒を塗った針が仕蟌たれおいる恐ろしい殺人兵噚ずも知らずに。でも、圌はすぐには拟わなかった。鳥取駅到着間際たで埅っお拟ったのは、誰にも芋咎められないようにしお自分のポケットに入れる算段だったんでしょう。猫山氏は、道に萜ちおる小銭を芋぀けお自分の懐に入れおしたうのが埗意技だったみたいです」
    「そや。あい぀はネコババの倩才なんや。自業自埗やッ」
     カラスのおっちゃんが怒鳎った。芋豆良ヘアヌの無実の朔癜先生は、床の䞊に転がっおフテ寝しおいる。
    「  むむむ。なるほどなるほど。理屈は通るがの。それでたた、その若い男は䜕でそげな手の蟌んだ猛毒兵噚を所持しおたんだ」
    「さあ、『スヌパヌはくず』の乗客を無差別に殺戮する぀もりだったのか。それずも特定の人間を狙ったのか。もし特定の人間を狙ったのだずすれば、䞀般流通貚幣を悪甚した点から考えお、列車の䞭で小銭をやり取りする盞手、぀たり車内販売の人か車内怜札の車掌さんを狙ったんじゃないでしょうか  」
     男川正朗は蚀っおから、䟋の智頭急行の矎しすぎお可愛らしすぎる女性車掌の顔を思い浮かべた。
     圌女の吞い蟌たれるような深淵の瞳は、時に深い恚みを呚囲から買う事があるのかもしれない。
     珟に、曜根接由矎嬢ず仲良く䌚話をしおいただけで、男川ず烏谷たち四人は、他の乗客の劬っかみを受け、譊察にチクられお悪い印象を持たれおしたったではないか。
     あのダヌクサむドのおかっぱ頭青幎も、垞人なら䜕ずも思わない些现な事に䞀人で逆䞊し、異垞に捻じ曲がった特殊な感情を心に抱いおしたったのかもしれない。

     その埌の譊察の調べでは、結局、緊急手配がなされた䟋のおかっぱ頭青幎は、倜のうちに、珟堎から少し離れた堎所にある山陰本線逘郚あたるべ駅に䜵蚭された旧䜙郚橋梁の鉄道遺産斜蚭から飛び降りお、自らの呜を絶っおしたったずいう話である。
     圌は予想倖に早い捜査圓局の远跡を知り、もはや逃げられないず芚悟したのだろうか。遺曞や釈明の曞眮きなどはなかったが、旧匏鉄橋䞀郚分保存の展望デッキの䞊に眮かれたゞュラルミンバッグには、幟぀もの旧匏アナログ35ミリフィルムケヌスが残されおいたらしい。
     䞭には、男川正朗の指摘通り、猛毒仕蟌みの癟円硬貚や切り取った毒針の砎片が入っおいたそうだ。
     調べを進めるず、おかっぱ君は理科系の倧孊の化孊研究宀の倧孊院生だった事が刀明した。猛毒は倧孊の研究宀から無断で持ち出したものらしい。   
     圌は超の字の付く「撮り鉄掟」鉄道ファンだったらしく、カメラバッグの䞭に残されおあったデゞタルカメラには、䜕枚もの写真デヌタも蚘録されおいた。「スヌパヌはくず」のHOT7000系をはじめ、鉄道車䞡の写真に混じっお、列車の車掌や運転士を写したものも䜕枚かあった。
     そうしお、心の闇の郚分が充分解明されないたた、犯人ず断定された鉄道倧奜きの魔界青幎は氞遠に口を閉ざした。倧昔のシロクニやデゎむチやゎハチやロクサンや、新幹線系や100ç³»300系が走る異䞖界――劖かしの圌岞の囜に䞀人で逝っおしたった。

    逘郚鉄橋1

                  

     鳥取発䞊り関西方面行きの最終特急列車は快走を続け、因矎線ず智頭急行の分岐駅智頭に到着した。
     乗務員から智頭急行職員に亀替し、俊足特急列車は、闇に沈んだ山間地垯の隘路に螏み出しお行く。
     間もなく、倩井のスピヌカヌから女性の声が聞こえお来た。
    「  皆様、本日は智頭急行をご利甚いただきたしお、たこずにありがずうございたす。この列車は、䞊り䞉宮・倧阪・京郜行きの特急『スヌパヌはくず14号』でございたす」
    「うおおっ、あの声は『お぀うさん』や 昚日あんな事件があったっちゅうに、䌑たずに今日もしっかり乗務しおはるんやな」
     やがお、おじさん軍団のいるグリヌン車宀内に、グレむの制服制垜姿の矎しい劖粟がやっお来た。
    「あららぁ、こんばんは。賑やかなおじさたたち、いえ、お客様方。本日もご乗車ありがずうございたす」
    「わおおっ、キュヌトな倩䜿の車掌さん、埅っおたしたぁ」
     酔っ払いカルテットが拍手で迎える。倩䜿ははにかみながら小さな笑窪を頬に浮かべた。
    「お぀うはん、昚日は倧倉やったな。ガヌガヌうるさいお奉行様の吟味を受けお、悔しくお倕べは寝られぞんかったやろに」
    「いえ、倧䞈倫です。普通にいろいろ質問されただけですから。でも正盎蚀えば、少し震えちゃったかしら」 
    「接由矎はんも倧倉どすなぁ。こうゆう仕事しおるず、いろいろ倉な茩に出くわす事があるでっしゃろ。蟛くお嫌な目に遭う事もしょっちゅうでっしゃろに」
    「ご老公はん、䜕蚀うおんね。わおらだっお、その『倉な茩』のカテゎリヌに入っおるんでっせ」
    「黙っずれ、梅田の本屋のスケベ店長は」
    「すんたぞん」
    「あはは。皆さんはありがたい倧切な普通のお客様です。はい。ずにかくたくさんの人に智頭急に乗っおいただきたせんず。りチは小さな第セクタヌ鉄道ですから。儲からなかったら赀字で廃止されちゃいたすもの。うふふ」
     矎しすぎお愛くるしすぎる女性車掌は口をすがめお笑った。现くおしなやかな巊手を頬の笑窪に圓おた。薬指には、キラキラ光る指茪が嵌められおいる。
     気付いた男川正朗は、思わず口に出しおしたった。
    「あ、あれっ、それっお、ダむダモンド」
     倩真爛挫の劖粟はしれっず答える。
    「あ、これ  すみたせん。わたし、結婚するんです。来月」
    「えええぇヌっ け、結婚  」
    「はい。盞手の人は、今この列車を運転しおいる䌚瀟の同僚の運転士の人です」
     郜䌚に垰る飲んだくれ四人組は目をたん䞞にした。
    「シェヌ ナニ゜レヌ、憎いやっちゃのヌ。こんな可愛い倩䜿を䞀人占めにする男がおるずは。たさかだけど、そい぀は宮本歊蔵の子孫やないやろな」
    「うふふ、違いたす。でも、苗字は䜐々朚っおいいたす。名前はもちろん小次郎ではありたせんけどね」
    「そっかい。ちっ。ちち、し  幞せになっおね、ワタシ祈っおたすぅ。っおか。䜕はずもあれ、おめでたいこっちゃ。うんうん」
     舌打ちを䞞めお喉奥に呑み蟌んで、おちゃらけ八咫やたカラスは祝犏の蚀葉を述べた。
    「あいや、おめでずさんどす。接由矎はんみたいな別嬪はんなら、玠敵な花嫁はんになられたすえ」
    「そやそや。第セクタヌ鉄道の運転士ず車掌さん同士の職堎結婚。なかなかいい話でっせ。本圓におめでずう」
     信貎之端老人ず矜犬塚店長も砎顔䞀笑だ。
    「ありがずうございたす」
    「で、でも、昚日䌚った時は、そんな婚玄指茪なんか指に嵌めおなかったのに  」
     最埌に残った関東匁の独身四十路男の口から出たのは、祝犏の蚀葉ではなかった。
     制服制垜姿の劖粟が慌おお巊手を背䞭に隠す。
    「あ、ごめんなさい。実は車掌業務はお客様盞手の仕事だから、普段はこんな目立぀指茪は倖すようにしおいるんです。䌚瀟からもそう蚀われおたすし。でも、今日みたいに、わたしのカレ  婚玄者の人が運転する列車に䞀緒に乗務する時は、この指茪をどうしおも嵌めおいたいんです。だっお、わたしの䞀番倧切な人が運転する列車は、わたしが車掌宀にいお守っおあげたいから  」
     頬を赀く染めながら、劖粟は殺し文句を吐いた。
     矜犬塚店長が歓声を䞊げる。
    「かぁぁヌ 負けた。圌女にそうたで蚀わす男がこの䞖におるなんお。コングラチュレむション」
    「おめでずさん。幞せな家庭を築くんどす。いっぱい子䟛産んでの。あ、あかんあかんの阿寒湖。たたアホな幎寄りがセクハラやっおもうた」

     喧噪の䞭、男はツラいよ顔の名探偵はひっそりため息を぀いた。
     ガックリ党身から力が抜けおしたった。目の前にいる幞せいっぱいの衚情の女性車掌が憎らしく思えお来た。
     でも、人生四十数幎、ひたすら叩かれ続けおオトナの分別が身に付いた男川正朗は、すぐに我に返るのだった。
     そう、圌女に眪は無い。
     曜根接由矎嬢の茝く矎しさ、吞い蟌たれような柄み切った䞡の瞳、倩䜿のような可愛い仕草に幻惑された人間がいたずしおも、それはその人間の身勝手だ。
     䞖の䞭のたいおいの男は、垞識人ずしおの理性を持っおいる。それをコントロヌルできない邪よこしたな人間だけが、時にずんでもない暎走を起こしおしたう  。
     男川は、あの毒針仕蟌みコむン殺人事件の埌に投身自殺しおしたったずいう鉄道ファン青幎の事を考えた。
     きっず、おかっぱ君は、以前に䜕床もこの特急「スヌパヌはくず」に乗る機䌚があったのだろう。
     その時たたたた乗り合わせたキュヌトで魅惑的な女性車掌に、圌は恋をしおしたったのだろうか。
     偏った䞀方的な慕情を「䞀途な愛」にすり替えおしたった圌は、心の䞭に描いた自分勝手な劄想をどんどん膚らたせ、より倧胆により過激に「脚色」しおしたったのだろうか。
     そしお、ある日、女性車掌の薬指に茝くダむダモンドの指茪を芋た時、圌の「玔愛」は倧きく捻じ曲がり、醜い歪いび぀な「殺意」に倉質しおしたった  

     男川正朗はぶるるっず銖を暪に振り、すぐに倧きく頷いた。
     目の前にいる制服制垜姿の智頭急行女性車掌カレチに笑顔を向ける。
    「おめでずうございたす。玠晎らしいお話を聞かせおいただきたした。曜根接由矎さん、お幞せになっおください。心より祈念申し䞊げたす」
    「ありがずうございたす。男川さんも烏谷さんも、信貎之端さんも矜犬塚さんも、智頭急行のたたのご利甚をぜひお埅ち申し䞊げたす。特急『スヌパヌはくず』号ぞのご乗車、たこずにありがずうございたした」
     グレむの制垜の䞋の栗色の髪をはらりず揺らし、深深ずお蟞儀をしお、矎しい劖粟は去っお行った。

                  

     男川は再び倧きなため息を぀いた。隣に座る人気官胜挫画家先生に向かっお声を絞り出す。
    「カラス先茩、僕に、お酒䞋さい」
    「な、なんや。おぬし。䜕テンパっずんね  そっか、さおはお前さん、あの嚘に惚れずったな」
    「はい。恥ずかしい話ですが、僕が勝手に舞い䞊がっおたした。自分で蚀うのも䜕ですが、この傷は浅くないです」
    「おうおうおう。いい幎こいお若い女の色銙に惑わされおっお。免疫力の無い䞇幎玔情独身男はむチコロっおか」
    「  矎女ずは、眪に問われぬ殺人者ですね」
    「䜕や。䜕気取っずんね。おどれは詩人か。䞉流やけど。たあ確かに矎女は男を惑わし囜を傟け、この䞖に眪をぎょうさん䜜りよるわ。しかし、はっきり蚀えるのは、女の眪の䜕千䜕䞇倍ほど、男の眪の方が重いっちゅう事よ」
     人生の鉄人、倧阪の䞋町が生んだ圚野の哲孊者は宣う。
    「勝手に惚れお勝手にフラれお、勝手に自分が傷付いたず思い蟌んで、そんで盞手を殺そうなんお蚀語道断や。そんなク゜倖道は神の鉄槌食ろお圓然だッ。巻き添えで死んでった奎も気の毒やけど、それはそれで別の眪を背負っお行ったんや」
     䌝説の導きの神鳥を胞に掲げたカラス氏は、きっぱり蚀い攟぀。
    「  それにしおも、たかが小嚘䞀人にフラれたくらいで、いい歳した倧人が男の䟡倀ズリ䞋げおどうすんねん。そんなやから、嫁さん早く貰えゆうおんのや」
     ニダリず笑った。い぀もの砎廉恥オダゞの顔がそこにある。
    「ええか、マヌロり、男の䟡倀ちゅうもんは、脳倩にある髪の毛の量で蚈れるもんやない。しかし、量があるに越したこずはないんやで」
     い぀の間にか背䞭に隠し持っおいた小さなボトルを前に出した。
    「あっ そ、それは  有名な超匷力の毛生え薬」
    「おうよ。心優しい八咫やたのカラス神が、䞇幎倱恋のあわれな薄毛りサギ男にプレれントしたる。それこそ髪がフサフサのモテ男に再生したるわい  」
     じたばたする男川の頭を抌さえ぀け、䞉本足ならぬ十本の手を持った魔鳥は、ゞャバゞャバずボトルの䞭身の液䜓を降りかけた。
    「ひいいいい  」
    「そうれ、それそれ。生えろ生えろ。豊穣黒髪、脳倩満䜜。導きの神よ、髪のお恵みをっおか。がはは、わははははは  」

     察面で呆れ顔の酔いどれ店長ず、氎戞黄門ヒゲの老人。
    「あちゃヌ。お二人さん、盞も倉わらず仲良くドツき愛しおたんな。こんなじゃ、お江戞から来はった薄毛の名探偵には、嫁はんなんか必芁ありたぞんで」
    「そうどすな。芋おお気恥ずかしゅうなるわ。こないアホなBLカップルは攟っずいお、私らは座垭を前に向けお、知らん顔しお呑み盎そかいの」 
    「ぐわっははははは。それでいいのだ。わっはっははははは」
     氞遠のガキ倧将、真っ黒カラスのおっちゃん高野山次郎先生の高笑いをBGMに、振り子匏特急「スヌパヌはくず」は、右に巊にステップ螏みながら、星降る倜の鉄路を痛快に突き進むのであった。
                                  ――了


    この小説はフィクションです。登堎する人物や事件、刑事や刑事の蚀動、毒物や毒物による犍事等はすべお架空のものです
    ⒾToshiike Wakao 2017

    ★「カラス&マヌロり」シリヌズ。男川正朗ずカラスのおっちゃんの凞凹コンビのドタバタ探偵譚を気に入っおいただけた方は、次の䜜品もご笑読いただけたすずありがたく存じたす。
    ⇒『19th holeナむンティヌンス・ホヌル』党3郚構成
    掚理小説のゞャンルではあたり䟋が無い「ゎルフ・ミステリヌ」䞭線。(å…š3郚構成) 䞀応、フヌ・ダニットずダむむングメッセヌゞを扱ったオヌ゜ドックススタむルの名探偵トリック暎き本栌ミステリヌ小説です。
    ⇒ 『京郜発鳥取・倉吉行き、振り子匏DC特急『スヌパヌはくず』殺人事件』
    鉄道トラベル・ミステリヌ。業界人仲良しゎルフを兌ねた山陰ぞの慰安旅行に出掛けるカラスのおっちゃんず賑やかなお仲間たち。スポヌツカヌみたいにカッコいい特急列車『因幡の癜兎号』の車内で発生した陰湿な毒殺事件。超特殊な凶噚ず、犯人の意倖な動機ずは
    ⇒『巊翌倖野垭レフトスタンド』
    埌楜園の東京ドヌムで行われた䌝統の䞀戊。熱狂的虎党であるカラスのおっちゃんに連れられおレフトスタンドの特等垭に座る矜目になった隠れ巚党掟の男川正朗。二人の前垭には、䜕やら劖しげな老カップルがいお  癜熱の詊合が続く䞭で発生した猛虎軍団の倖囜人監督の䞍審死事件。プロ野球ず本栌ミステリヌを愛する男川正朗は、必死に謎を解こうずするが  
    ⇒『岩槻IC北方15キロの地点』前線&埌線
    埌玉県東郚を瞊に貫く東北自動車道。その䞋り車線䞊で発生した走行車狙撃殺害事件。走行車の埌方で譊戒護衛に就いおいたヘタレ私立探偵は、事件の経緯を小説にしお文芞SNSに投皿するが、独自の掚理考察や真盞に぀いおは、すべお読者諞兄姉に䞞投げしおしたい  
    この䜜品は、カラス&マヌロり・シリヌズの蚘念すべき第䞀䜜を䞀郚分珟代颚に改皿したものです

    ●歳池若倫・䜜 《平成異聞  それ、埡内密に。》シリヌズ。平成時代に聞いたずされる颚説をたずめた、ミステリヌ・アラカルト短線集。
    ⇒ シリヌズ第①話 『狛 刀blanc sabre〝シロむカタナ〟』 
    バむクアクション・本栌ミステリヌ。東京奥倚摩の山村で起きた自動車密宀殺人事件の謎を解く、異色癜バむ譊官安楜怅子名探偵譚。
    ⇒ シリヌズ第②話 『助手垭に、いるっ』 
    カヌ・ホラヌミステリヌ。ハむスペック・フルタむム4WDスポヌツ車を駆䜿し、日本暪断違法脱法キャノンボヌルレヌスに挑戊した走り屋小僧が䜓隓した、恐ろしい怪異の䞖界。
    ⇒ シリヌズ第③話 『ハマノマサゎハツキ(ク)ルトモ  』 
    平成円熟期のゎルフ堎を舞台にした、二十䞀䞖玀の矩賊を気取る怪盗が掻躍する悪挢小説ノワヌル
    ⇒ シリヌズ第④話 『点々ず線々 青春の旅立ちず謎の暗号』
    鉄道暗号ミステリヌ。ただ時刻衚に北陞「本線」の衚蚘があった平成時代、慣れないリクルヌトスヌツを着お、金沢を早朝に発぀特急電車で就掻面接先の京郜ぞ向かう乗りテツ倧孊生が車内で遭遇しおしたった「テロ事件」
    ⇒ シリヌズ第⑀話 『砂䞘、遥はるかに——』 
     ひず筆曞きの片道切笊を握り締め、京郜・䞹埌䜆銬地方・鳥取砂䞘を埀く倱恋自殺願望ハヌトブレむク青幎の――切なくお遣る瀬無い、鉄道旅ミステリヌ。
    ⇒ シリヌズ第⑥話 『a fantastic voyage 而立じり぀の航海』
     平成元幎、四駆ダドカリ仕様トラックに乗っお自分探しの旅に出た䞉十男が、南九州、熊本、西九州&日本海山陰石芋地方で倧冒険 前半は物芋遊山のスチャラカ旅日蚘颚だったものが、埌半になっお雲行きが怪しくなっお  ラスト行に至っおは、いきなり芖界が単色モノクロに反転する衝撃怒涛のロヌドドラむブ・ミステリヌ。
    ⇒ シリヌズ第⑊話 『山梔子dollず旅する男』最新投皿
     朚枯らしが舞う冬の或る寒い倜、東京は䞊野駅䞍忍口しのばずぐちガヌド䞋で——
     ギタヌケヌスず重い旅行カバンを䞡手に䞋げおタクシヌを降りた疲れ顔の若者は、垰宅客や酔客で混み合うコンコヌスを足早に突っ切る。改札口を抜けお、構内奥にある堎末感挂う地平ホヌム13番線ぞ急いだ。
     今宵、倧郜䌚からこそこそ逃げ出しおいく哀しい旅人の宿は、北ぞ向かう叀臭い寝台特急列車ブルヌトレむン。
     深倜、狭くお固いB寝台垭ベッドで、寒さず振動ず他の乗客の倧錟で眠れなくなった若者は、気晎らしで煙草でも吞おうずデッキの掗面所スペヌスに向かった  ず、そこで、怪しく䞍思議な「父嚘おやこ」に出䌚う。
     父芪は、やたら慇懃無瀌で、笑うせぇるすたん顔をした小倪り坊䞻頭男。糊のきいた着叀しワむシャツを着こなし、现いサスペンダヌでズボンを吊り䞊げおいる。そしお、傍らにいる嚘の方はずいうず、女子高校生らしき制服を着お、瞳がきらきら茝く絶䞖の〝矎少女〟  なのか
     叀き良き、悪しき劖しき平成官胜ロマン。什和の今では乗るこずも叶わぬ倜行寝台列車内で起きた、めくるめくスリラヌ・ナむト。


     
     
     
    原皿甚玙のマス目を懐かしく感じる、隅の老人です。倧奜きな本栌ミステリを習䜜するのは䞀䌑みしお、次は、長く勀めお来た出版業界のりラ話でも曞き綎っおみようかず思いたす  

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