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新任管理職が陥る「優しい上司」の罠 〜部下へのフィードバックをためらう理由〜【#657】

    kuuie | 質問力マニア

    前回、新任管理職が不安になる7つの理由について書きました。

    その中で、「部下から嫌われたくない」という気持ちが、必要な判断を先送りさせることがある、という話に少し触れました。

    今回は、このテーマをもう少し掘り下げます。

    初めて部下を持つと、多くの人が「良い上司でありたい」と思います。

    話をよく聞く。
    否定しない。
    無理を言わない。
    相談しやすい雰囲気をつくる。

    どれも間違ったことではありません。
    しかし、「良い上司でありたい」という気持ちが強くなりすぎると、必要なフィードバックをためらったり、問題を曖昧なままにしたりすることがあります。

    部下を思いやっているつもりが、かえって部下から成長に必要な情報を奪ってしまう。なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか。

    今回は、新任管理職のフィードバックに関する調査データと、私がこれまで複数の組織を横断して見てきたケースから考えます。


    1.新任管理職の6割超が、フィードバックをためらっている

    ALL DIFFERENT株式会社が、管理職向け研修の受講者415名を対象に行った調査によると、部下へフィードバックする際に「ためらったことがある」と回答した新任管理職は63.2%にのぼります。

    この調査では、1~3年目の課長クラスを「新任管理職」、4年目以上の課長クラスを「ベテラン管理職」、部長クラスを「幹部候補」としています。
    「ためらったことがある」と回答した割合を比較すると、

    • 新任管理職:63.2%

    • ベテラン管理職:53.2%

    • 幹部候補:39.3%

    となっており、管理職としての経験が浅い人ほど、フィードバックをためらう傾向が見られます。

    では、なぜためらうのでしょうか。

    新任管理職が挙げた理由は、次のとおりです。

    • 部下の反応に対して不安があるから:47.8%

    • 自分が本当に正しいかに自信がなかったから:40.3%

    • 適切な伝え方が分からなかったから:38.8%

    この結果からは、新任管理職がフィードバックをためらう背景に、「部下がどう反応するか」という不安があることが分かります。

    一方で、

    「自分の見方は、本当に正しいのか」
    「どのような言葉で伝えればよいのか」

    という迷いも小さくありません。

    単に知識が足りないというより、相手との関係、自分の判断、伝え方という三つの不安が重なっているように見えます。

    さらに、フィードバックを伝えれば、それで終わりでもありません。

    同じ調査では、フィードバック後の悩みとして、「部下が自分の課題を認識しているが、すぐに行動につながらない」が最も多く、全体の46.8%、新任管理職では44.3%でした。

    つまり、新任管理職には二つの難しさがあります。

    一つは、必要なフィードバックをためらわずに伝えること。
    もう一つは、伝えた後、実際の行動変容まで支援することです。

    ただ耳の痛いことを言えばよいわけでもなければ、何も言わずに見守ればよいわけでもありません。

    2.「心理的安全性」を勘違いしている?

    ここ数年、「心理的安全性」という言葉が広く使われるようになりました。
    心理的安全性という概念を提唱した、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、これを、

    チームが対人関係上のリスクを取っても安全な場所であるという、メンバーに共有された信念

    と定義しています。

    Googleが社内の数百のチームを調査した「プロジェクト・アリストテレス」でも、効果的なチームを構成する最も重要な要素として、心理的安全性が挙げられています。

    ここで誤解されやすいのが、心理的安全性は「いつも仲良くすること」や「相手が不快になることを一切言わないこと」ではない、という点です。

    心理的安全性の高いチームとは、不快なことが一切言われないチームではありません。

    分からないことを質問する。
    自分の失敗を認める。
    上司と異なる意見を述べる。
    仕事上の問題を指摘する。
    必要な助けを求める。

    そうした対人関係上のリスクを伴う発言や行動をしても、人格を否定されたり、不利益を受けたりしないと信じられるチームです。

    したがって、衝突を避けるために耳の痛いことを言わない状態は、心理的安全性が高いとは限りません。

    むしろ、必要なことを言えないという点では、心理的安全性が低い可能性があります。

    私がこれまで見てきた職場でも、間違っていると思いながら、関係が悪くなることを恐れて意見を控える場面がありました。

    これは、部下だけに起きることではありません。

    上司もまた、

    「部下と対立したくない」
    「やる気を失わせたくない」
    「厳しい上司だと思われたくない」

    という理由で、必要な指摘を控えることがあります。

    部下が上司に本音を言えない状態と同じように、上司が部下に必要なことを言えない状態も、健全とはいえません。

    お互いに気を遣い、表面上は穏やかでも、仕事上の問題が話し合われない。

    それは心理的安全性の高いチームではなく、単に問題を表面化させないチームになっているかもしれません。


    3.「優しい上司」の下で、成長が止まっていた部下

    以前、複数の組織を横断的に見る仕事をしていたとき、あるチームで、部下からの評判が非常に良い上司に出会いました。

    話をよく聞き、無理を言わず、いつも部下の味方でいてくれる。

    部下たちは口をそろえて「働きやすい」と話していました。

    ところが、そのチームのメンバーの数字を追っていくと、他のチームに比べて、成長の伸びが緩やかでした。

    あるメンバーに話を聞くと、こう言っていました。

    Aさんは優しいんですけど、何がダメなのか、あまりはっきり言ってくれないんですよね。だから、このままでいいのかどうか、正直よく分からないんです。

    その上司自身に話を聞くと、

    部下のやる気を削ぎたくないので、あまり厳しいことは言わないようにしている

    とのことでした。

    善意であることは間違いありません。

    しかし、部下からすれば、自分の課題がどこにあるのか分からないまま、時間だけが過ぎていく状態でした。

    反対に、別のチームには、仕事上の課題を比較的率直に伝える上司がいました。

    最初は部下から「厳しい」という声も聞かれましたが、半年後、そのメンバーは、

    あのとき指摘してもらえたから、今の自分がある

    と話していました。

    もちろん、厳しく言えば人が育つという話ではありません。

    客観的な事実を示さず、感情的に責めたり、人格まで否定したりするような指摘は、部下を萎縮させるだけです。

    必要なのは、厳しさそのものではありません。
    成長や仕事の改善に必要な情報を、曖昧にしないことです。

    優しさそのものが問題なのではありません。
    優しさが、必要な指摘をしないことの言い訳になっていないか。
    問題は、そこにあります。

    4.言えないのは、「優しいから」だけではない

    ただし、ここでもう一つ考えておきたいことがあります。

    新任管理職がフィードバックをためらうのは、部下に嫌われたくないからだけではありません。

    そもそも、伝える根拠となる事実を十分に観察できていないことがあります。

    例えば、部下に対して、

    「主体性がない」
    「仕事が雑だ」
    「周囲への配慮が足りない」
    「責任感が弱い」

    と感じていたとします。

    しかし、これらは観察した事実ではなく、上司による評価や解釈です。

    「主体性がない」と感じたのは、どの場面で、何をしなかったからなのか。
    「仕事が雑」と感じた資料には、どのような不備が、何回あったのか。
    「配慮が足りない」と感じたとき、本人は誰に、どのような言葉を使ったのか。

    ここを説明できなければ、上司自身も「自分の好き嫌いで見ているのではないか」「たまたま一度失敗しただけではないか」と不安になります。

    その不安が、調査にあった「自分が本当に正しいかに自信がなかった」というためらいにつながっている可能性があります。

    一方で、根拠が曖昧なまま伝えれば、部下も納得できません。

    もう少し主体的に動いてほしい。

    と言われても、本人には、いつ、何を、どう変えればよいのかが分かりません。

    フィードバックの前には、伝え方の技術だけでなく、日頃から部下の仕事を観察することが必要です。

    ただし、観察は監視でも、失敗の証拠集めでもありません。

    部下を評価するために粗を探すのではなく、本人が成果を出すうえで、何がうまくいき、どこで支援が必要なのかを理解するために見ます。


    5.評価語ではなく、「行動・状況・結果」を記録する

    観察するときは、人物像を記録するのではなく、次の三つに分けます。

    1.行動―本人が実際に何をしたか、何を言ったか

    「消極的だった」ではなく、

    企画会議で意見を求められた際、「特にありません」と回答した。

    「報告が遅い」ではなく、

    納期遅延の可能性を月曜日に把握していたが、上司への報告は木曜日だった。

    と記録します。

    2.状況―どのような条件や背景で起きたか

    行動だけを切り取ると、誤った判断をすることがあります。

    意見を出さなかったのは、資料が事前に共有されていなかったからかもしれません。報告が遅れたのは、本人が解決してから報告すべきだと思っていたからかもしれません。

    いつ、どのような場面で、何を期待されていたのかを確認します。

    3.結果・影響―仕事や周囲に何が起きたか

    行動が、顧客、期限、品質、他のメンバーの仕事に、どのような影響を与えたのかを確認します。

    ここまで整理すると、

    責任感が足りない。

    ではなく、

    月曜日の時点で納期遅延の可能性を把握していましたが、共有は木曜日でした。そのため、後工程の担当者が予定を組み直すことになりました。

    と伝えられます。

    なお、記録するのは問題行動だけではありません。

    うまくいった行動も同じように残します。

    顧客から追加要望が出た際、その場で回答せず、関係部署へ確認して当日中に回答した。その結果、誤った約束をせずに済んだ。

    改善点だけを探していると、観察は粗探しになります。成果につながった行動も見つけて言葉にすることで、部下は「何を続ければよいのか」も理解できます。

    観察メモは、短くてよい

    毎日詳しい日報をつける必要はありません。

    次の四項目を、気づいたときに数行残します。

    日時・場面:いつ、どの仕事・会議で起きたか
    行動・発言:実際に見聞きしたこと
    結果・影響:仕事や周囲に何が起きたか
    未確認事項:本人に確認しなければ分からないこと

    最後の「未確認事項」が重要です。

    観察できるのは行動と結果までです。本人が何を考えていたのか、なぜそうしたのかは、外から見ただけでは分かりません。推測で埋めず、対話で確認します。


    6.率直さと思いやりは、対立するものではない

    「厳しいことを言う」と「部下を大切にする」は、必ずしも対立するものではありません。

    大切なのは、「厳しいか、優しいか」だけではありません。

    何を、どのような事実に基づき、何のために伝えるのかです。

    前述の調査では、フィードバック時に「事実や結果に基づく具体的な内容」を伝えるよう心がけている管理職は、新任、ベテラン、幹部候補のすべてのステージで7割を超えていました。新任管理職でも72.6%にのぼります。

    また、新任管理職では、「フィードバックの意図や理由」を伝えるよう心がけている人が56.6%でした。ベテラン管理職の51.4%を上回っています。

    なぜ、その指摘をするのか。何を責めたいのではなく、何を改善したいのか。

    その背景を言葉にして伝えようとする姿勢は、新任管理職の強みといえるかもしれません。

    フィードバックでは、次の四つを分けます。

    1. 観察した事実

    2. 仕事や周囲への影響

    3. 伝える目的・期待

    4. 本人の認識を聞く質問

    例えば、次のように伝えます。

    最近、提出期限を過ぎることが3回ありました。期限を過ぎると、後工程を担当するメンバーが予定を変更しなければなりません。責めたいのではなく、チーム全体の進め方を改善したいと思っています。何が起きているのか、まず聞かせてもらえますか。

    「最近、仕事が雑だ」
    「もっと責任感を持ってほしい」

    という評価だけでは、部下は何を変えればよいのか分かりません。

    一方で、事実と影響を示し、本人の認識も聞けば、フィードバックを一方的な通告ではなく、問題を一緒に整理する対話にできます。

    本人の話を聞いた結果、上司の見方が修正されることもあります。それはフィードバックの失敗ではありません。十分に見えていなかった背景が分かり、より適切な支援や判断ができるようになったということです。

    「優しさ」を「言わないこと」で表現するのではありません。

    必要なことを曖昧にせず、相手が考え、行動を変えるための情報として伝える。それもまた、部下に対する思いやりだと思います。



    まとめ―フィードバックは、伝える場面ではなく観察から始まる


    「良い上司でありたい」という気持ちは、悪いものではありません。

    むしろ、その気持ちがあるからこそ、多くの新任管理職はフィードバックに悩みます。

    新任管理職の6割以上がフィードバックをためらい、その理由として最も多かったのが「部下の反応への不安」だったという調査結果は、多くの人が同じ場所で迷っていることを示しています。

    だから、フィードバックをためらうこと自体を、管理職としての弱さだと考える必要はありません。

    ただし、そこで何も言わないことが、部下のためになるとも限りません。

    また、必要な指摘ができないとき、伝え方だけを練習しても解決しない場合があります。そもそも、伝える根拠となる行動や影響を観察できていない可能性があるからです。

    フィードバックは、面談室で言葉を発する瞬間から始まるのではありません。

    日頃の仕事を見て、行動と解釈を分け、結果への影響を確認し、分からない背景は本人に聞く。そこから始まります。

    必要なのは、「言わない優しさ」ではなく、

    よく見たうえで、事実に基づき、伝える理由を明らかにし、相手の考えも聞く優しさ

    ではないでしょうか。

    優しい上司をやめる必要はありません。

    優しさの中に、観察と率直さを加える。

    新任管理職として部下と向き合うとき、その両方を持っていたいと思います。


    次回は、ここまで扱ってきた「不安」や「迷い」を踏まえて、着任前から30日目までに、新任管理職が実際に何をすればよいのかを時系列で整理した実践ガイドを鋭意作成中です。

    初日の挨拶、部下との最初の1on1、自分の上司との期待値確認などを、そのまま準備できるチェックリストと質問例にまとめる予定です。


    最後までお読みいただきありがとうございます。どこか参考になるところがあれば嬉しいです。


    参考にした調査・資料

    ※本記事は、新任管理職の「最初の1か月」を考えるシリーズの第2回です。

    第1回はこちら

    第3回はこちら

    ※記事内の事例は、個人や組織が特定されないよう、一部の設定を変更しています。

     
     
     
    外資系企業で働く50代の中間管理職。自称「質問力マニア」。日系大手企業と外資系企業2社で、営業、新規事業、組織・業務改善、社内外の研修などを経験。複数の組織で見てきた事例と、自身の管理職経験をもとに、マネジメントや質問について書いています。

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