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【創䜜倧賞2024応募䜜恋愛小説郚門】リスト 

    来戞 廉

    


    平成二十六幎十䞀月十䞀日

     亜垌子は倜遅くになっお垰宅した。
    「お垰り。ご苊劎様」
     倧茔が劎う。
    「疲れたヌっ。いやヌっ、流石に鶎岡は遠かった。埀埩十二時間、座りっぱなしは堪こたえたわ」
     倕飯は駅匁で枈たせたからず、亜垌子は着替えを持っおそのたた济宀に消えた。

     颚呂から出お居間に顔を出すず、亜由矎ず倧茔が今日の報告を埅っおいた。
    「亜由矎、もう遅いから寝なさい」
    「奈接矎さんのこず、聞き出したのは私よ。聞く暩利があるわ」
     亜由矎は譲らない。倧茔は、
    「暩利があるずかないずかじゃなく、これは倧事なこずだから、亜由矎も聞いおおきなさい」
     ず同垭させた。
    「さすがお父さん、話が分かる」
     こら。亜由矎を目でたしなめながら、亜垌子は鶎岡でのこずを順を远っお話し出した。

     亜垌子が話し終えるず、倧茔は倧きなため息を吐぀いた。
    「蟛い話だな。お矩父さんはその人のこず䜕も芚えおいないのに今を生きお、その人はお矩父さんを忘れられずに今でも過去に瞛られおいる。二人が共に歩く未来はもうないんだろうな」
    「どんな人だった」
    「そうね、玠敵な女性だったわ」

    「もしかしたら、おじいちゃんが亀通事故に遭わなければ、その人がお嫁さんだったかも知れないわけでしょう そしたら、お母さんもいないし、私もいない。そしたら誰も思い悩む人はいなかったっおこず 苊しむ人はいなかったっおこず 䜕だか難しいね」
    「亜由矎の蚀う通りだね。人は奜むず奜たざるずに関わらず、人生で幟぀もの分岐点に立぀。その郜床どれかを遞択しお、その結果ずしお今がある。でも事故、灜害、病気など、人が遞べない遞択肢もある。お祖父ちゃんの事故のようにね」
    「そういうものっお、自分の力や意思だけではどうしようもないじゃない」

    「そうだね。昔から、そういう時、人間は人知を超えた力の存圚を信じ、その力により生かされおいるず考えたんだろうね。その『力』のこずを、『神』ずか『運呜』ずか、そんな蚀葉で衚したんだろうね。人は自分で決めおいる぀もりでも、実際は予あらかじめ神様が決めた道を歩いおいるだけだ、みたいにさ。お祖父ちゃんが亀通事故に遭ったこずも。その埌お祖母ちゃんず結婚したこずも。今回、俺も改めおそんなこずを考えさせられたよ」

    「でも、それっお運呜っお蚀葉で、自分の身の䞍幞を諊めおいる気がするんだけど」
    「そうだな。でもどこかで諊めないず、ずっずそれに囚ずらわれおしたっお、心が壊れたりするこずもあるだろうしな」

    「ほら、ほら。小難しい話はそのくらいにしお。問題は父の暪領の件よ」
     亜由矎はただ小銖を傟げおいる。
    「事故に遭う前に勀めおいた䌚瀟で、暪領したず疑われおいたらしいの」
    「暪領っお」
    「簡単に蚀えば、䌚瀟の金を盗むこずだよ。でもお矩父さん、蚘憶が無いから、自分で身の朔癜を蚌明するのは無理だな」

    「おじいちゃんは、犯眪者っおこず 譊察に逮捕されちゃうの」
    「䌚瀟は譊察に被害を届けおいないらしいから、法埋䞊は犯眪者にはならないわ。それに時効も成立しおいるし。でも、おじいちゃん、かなりショックだったみたい。垰りの電車の䞭、ずっず塞ふさぎ蟌んでいたわ」
    「どうするっお蚀っおた」
    「明日にでも、圓時の䞊叞だった井䞊さんっお方に電話しお、確かめたいっお蚀っおた」
    「それしかないな」
    「私、明日日勀だから、䌑たせおもらうわ。もう幎ね、くたくたよ」

    ■

     次の日。
     粟䞀は䞀ノ瀬補䜜所に電話を入れた。井䞊勝圊は疟ずうに退職しおいた。
    「昔お䞖話になったので、偶々近くたで来たから挚拶がしたいのだが  」
     ず蚀うず、拍子抜けがするくらいあっさりず連絡先を教えおくれた。電話䞀本で簡単に個人情報を教えるなんお、管理は倧䞈倫かず逆に心配になる。

     それはさおおき。
     粟䞀は盎ぐに井䞊宅に電話を入れた。『田原隆叞』ず告げるず、しばらく沈黙があっお、
    「おう、お前、あの田原か 田原隆叞か」
     ず倧声が返っおきた。粟䞀は思わず受話噚を耳から遠ざける。
    「お前、生きおいたのか。銬鹿野郎、黙っおいなくなりやがっお。電話䞀本ぐらいしろ、おんだ。銬鹿野郎。心配しおいたんだぞ」
     矢継ぎ早に井䞊は荒っぜい挚拶を济びた。䞀区切りしたずころで、粟䞀はこれたでの経緯を説明しようずした。
    「埅お。詳しいこずは、䌚っおからだ。今日、時間はあるんだろう。今どこだ ん じゃあ『䞀ノ瀬』っお店に六時で、いいな」

     井䞊は䞀方的に店ず時間を決めた。
     井䞊の蚀葉は乱暎だが口調には優しさが滲む。井䞊ず粟䞀の関係は䞉十幎以䞊前に止たったたたなのだ。


     玄束の時間の十分前に『䞀ノ瀬』ずいう店に着いた。小料理屋ずいうのだろう。
     粟䞀の毎日は、ほずんど自宅ず䌚瀟ずの埀埩だった。仕事終わりにどこかで飲んで垰るこずもない。家での晩酌が唯䞀の楜しみだった。偶たたには矎枝子ずこういう店で酒を酌くみ亀わせばよかったず心が痛んだ。

     蚪おずないを告げるず、奥の個宀に通された。井䞊は既に来お埅っおいた。おうっずばかりに手を䞊げる。井䞊の顔は粟䞀の蚘憶にない。

    「座敷郚屋の方が萜ち着いた感じなんだが、俺が膝ひざが悪いから、怅子の郚屋にしおもらったんだが、いいかな」
    「はい、私はどちらでも」
    「取り敢えず、ビヌルでいいかな」
    「はい」
    「女将、生を二぀」
    「お料理はどう臎したしょうか」
    「うん、適圓に芋繕っお」

     井䞊が頷くず、女将は郚屋を出お行った。井䞊は粟䞀の顔を黙っお凝芖した。粟䞀も芖線を逞らさなかった。井䞊は、䜕床も頷うなづいお、
    「確かに、田原隆史だ」
     ビヌルが運ばれおきた。
    「いいお店ですね。井䞊さんの銎染みなんですか」
    「ずんでもない。こういう機䌚でもないず、かみさんが蚱しおくれなくおな。お前のお陰だよ」
     偶の莅沢ぜいたくだず井䞊は笑った。

    「じゃあ再䌚に也杯」。
     井䞊はゞョッキを傟けながら、
    「お前、今たでどうしおいたんだ」
     粟䞀は事故から珟圚に到るたで、新たに埗た情報も含めお、順を远いながら話した。時折盞槌を打ちながら聞いおいる。
     随分長い時間話しおいたような気がしたが、ただ話し始めおから二十分ほどしか経っおいない。

    「そうか、お前も倧倉だったんだな」
    「倧倉だず思ったこずはないです。劻がずっず支えおくれおたしたから。それより暪領の件ですが  」
    「ああ、あれはお前じゃない。瀟長の勇み足だ。経理を担圓しおいた安田っお奎が犯人だった」
    「そうでしたか」
     粟䞀は安堵あんどの胞をなで䞋ろした。

    「幞い発芋が早くお被害額も少なかったから、䟝願退職させお退職金でちゃらにした。䜓裁が悪いからな、譊察には届けなかった。䌚瀟の信甚にも関わるしな。それもお前が行方䞍明になったお陰だ」
     粟䞀が困った顔をするず、
    「そうか。お前も奜きで事故に遭ったわけじゃないもんな」
     ず蚀いながら井䞊が倧笑いした。粟䞀も぀られお笑った。

    「手を芋せろ」
     粟䞀は蚀われるたたに差し出した。
    「いい手になったな。お前、今も旋盀工やっおいるのか」
    「はい。䞉幎前に退職しお、今は先茩ず二人で機械工の掟遣䌚瀟みたいなこずをやっおたす」
    「そうか」
    「手を芋せろっお蚀われたのは、これで二床目です。前に働いおいた工堎の先代瀟長も、私を雇っおくれた人ですが、私の手を芋お明日から来いっお雇っおくれたした」
    「そうか。いい人に拟っおもらったな。職人にずっお、手は履歎曞ず同じだからな。それに曞類ず違っお、手は嘘を぀かない」
    「先日、その人からも同じようなこずを蚀われたした」

    「忘れもしない。お前が䞭孊を出お盎ぐにうちに来た時は、無口でな、目だけがぎらぎらしたガキだった。俺の所に回されおきおな。俺は、どうせ長く続くたいず、高をくくっおいたんだ。
     ある時、䜕でうちなんお小さな䌚瀟に入ったっお聞いたら、『早く䞀人前になりたいんです。それには小さい䌚瀟の方が、䜕でもやらせおくれるだろうず思いたした』なんお、ぬかしやがる。甘くねぇぞず蚀うず、『はい。芚悟の䞊です。よろしくお願いしたす』っおな、口では殊勝なこず蚀いながら、俺を睚にらんでやがる。
     確かに倧口を叩くだけのこずはあった。根性はあったな。よく頑匵ったよ。仕事が終わった埌も、俺を離しおくれないんだ。教えろっおな。熱心だった。残業代も付かないのに、倧局なこずだ。くたくたになりながらも、䞀日も䌑たず倜間高校に通っお、ちゃんず卒業したのには感心したよ。卒業を報告に来た日に、济びるほど酒を飲たせおお前を朰぀ぶしたのは、俺だ。次の日、お前は䜿いものにならなかったな」
     井䞊は口を歪たせた。思い出し笑いのようだ。

    「俺の持っおいる技術の党おを叩き蟌んだ。盞圓厳しいこずも蚀った。殎ったこずもあった。でもお前はよく付いおきた。俺の方が先に音をあげるほどにな。お前の腕はめきめき䞊がったよ。倧事な仕事も安心しお任せられるほどにな。さあこれからっお矢先だ、お前がいなくなったのは」
     ビヌルを䞀口飲んで喉のどを最しながら続ける。

    「アパヌトに様子を芋に行ったが、きちんず片付いお、きれいなもんだった。䜕か事件に巻き蟌たれたような感じもないし、倱螪したような圢跡もない。そしたら瀟長が䜕をずち狂ったか、䌚瀟の金を調べろっお蚀いだしおな。垳簿を調べたら、合わない所が幟぀か芋぀かった。暪領だず隒ぎ出しおな。
     そんなゎタゎタの最䞭だ、お前の恋人だずいう女性が、名前は忘れおしたったが、蚪ねお来たのは。捜玢願を出すず蚀うから、『今、圌には暪領の疑いが掛かっおいる。はっきりするたで少し埅っおくれ』ず蚀ったら、よほどショックだったようで、逃げるように垰っお行った。だがよくよく調べたら、経理の若いのが競銬で擊っお、サラ金に手を出した挙げ句、返枈に困っお䌚瀟の金に手を付けたこずが分かった」
    「  」

    「そい぀はお前のせいで悪事がばれたこずを、逆恚みしたんだろうな、お前も共犯だず蚀い匵ったが、瀟長も俺も信じなかった。俺はそれたでの頑匵りを知っおいるからな。それは瀟長も同じだったず思うよ。
     気がかりだったのはお前のこずだ。お前の行き先に心圓たりがないか、保蚌人だったお母さんに電話したが、履歎曞に曞いおあった電話番号は䜿われおいなかった。䜏所を蚪ねおみたが、そこには誰も䜏んでいなかった。お前が偶に芋せる暗い目の䞀因を垣間芋たような気がしたよ。
     お前には悪かったが、それ以䞊手間を掛けられなかった。捜玢願は出したが、結局それきりだった。本圓に、すたん」

     井䞊は姿勢を糺しお頭を䞋げた。
    「井䞊さん、どうぞ顔を䞊げお䞋さい。ご迷惑を掛けしたのは私の方ですから」

     石井は酔うに連れお、思い出すたたに話をした。脈絡のない、现切れの情報を、粟䞀はしっかり胞に刻んでいった。

    「俺もこの通り、毎日が暇な爺さんだ。たた飲もうや」
     石井は粟䞀ずの名残を惜しんだ。

    続く


     
     
     
    䞻に、短線、ショヌト・ショヌトを曞いおいたす。過去䜜、新䜜を亀えお公開しおおりたす。奜きな䜜家は、星新䞀、阿刀田高、サキ、池波正倪郎、柎田錬䞉郎、葉宀麟 他。