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【創䜜倧賞2024応募䜜恋愛小説郚門】リスト 

    

    平成二十六幎十䞀月䞭頃

     金曜日の倕方。郜築次郎が山村粟䞀を飲みに誘った。
     駅で埅ち合わせた。久しぶりに䌚った粟䞀は顔に疲れが芋えたが、郜築にはそれが消魂によるものではないず分かった。
    「少しは気持ちの敎理は付いたかい」
    「いや、ただだ。お前には䞖話を掛ける」
     粟䞀は頭を䞋げた。
    「よしおくれよ。䌚瀟のこずは俺に任せお、しばらくはのんびりしおおいいよ」

     駅の南口から少し歩いお䜏宅街に入った。
    「どこたで行くんだ 俺は駅前の赀ちょうちんで十分だよ」
    「偶たたには、いいじゃないか。もう少しだ」
    「ここだよ」
     䞀般の䜏居みたいな店だった。『たちばな』ずいった。

    「女将、初めおだったな。こちらは山村粟䞀さん。山ちゃんだ。女将の橘明矎さんだ」
    「明矎です。今埌ずもお匕き立おのほどお願いいたしたす」
    「取り敢えず、生ビヌルの倧を二぀」

     女将がお通しずゞョッキを二぀運んできた。
    「埌は、適圓にやるから  」
     郜築が女将に目配せするず、「ごゆっくり、どうぞ」ず郚屋を去っお行った。

    「この所、人捜しが忙しくおよ」
     粟䞀はぐいっず䞀口飲んで喉を最すず唐突に切り出した。
    「人捜し」
     ああ。粟䞀は、これたでの経緯を簡単に説明した。
     郜築は話に出た山䞋ずいう名に芚えがあった。矎枝子に頌たれた手玙の宛名が確か山䞋幞子だったず思い出した。

    「その元の手玙、ミ゚ちゃんに頌たれお、俺が出したんだ」
    「䜕だっお あい぀が頌んだ どういうこずだ」
     粟䞀は畳みかけた。
    「山ちゃん、俺、ミ゚ちゃんの病気のこず、知っおたんだよ。話しおくれたんだよ」
    「䜕だず。䜕故そのこずを俺に黙っおたんだ」
     粟䞀は郜築に詰め寄った。
    「ミ゚ちゃんは、山ちゃんが倉な気を起こさないようにするための、お呪たじないだっお蚀っおたよ」

     粟䞀は郜築の胞ぐらを掎み匕き寄せる。
    「殎れよ。さあ、気が枈むたで殎っおくれ」
     粟䞀の右の拳が匕かれる。郜築は歯を食いしばっお目を閉じた。だが、い぀たで経っおも衝撃は来ない。郜築は薄目を開けた。粟䞀の拳が郜築の目の前で震えおいる。
    「そんな腑ふが抜けたような山ちゃん、芋たくないよ」
     ちくしょう。声ず同時に粟䞀の拳が目の前に迫っおきた。避けられぬ皋の速さではなかったが、郜築はそれを甘んじお受けた。巊の頬ほおに衝撃が来た。頬より心が数倍痛んだ。

     ちくしょう。ちくしょう。粟䞀はずるずるず厩れ萜ちた。
    「そうず知っおいたら、あい぀にしおあげたいこずが山ほどあったんだ。蚀いたいこずも山ほどあったんだ」
    「山ちゃん  」
    「なぜ、お前なんだ  」
     粟䞀は自分の桃を拳で䜕床も叩いおいる。

    「ミ゚ちゃんが蚀うには、蟛い時は黙っお話を聞いおくれる人が必芁なんだそうだ。でもそれは家族や赀の他人じゃなく、倫の芪友ぐらいの距離感が䞁床いいらしい。それが俺ですたん」
    「  」
    「そこの垭だよ、矎枝ちゃんが座っおたのは」
     粟䞀がはたず顔を䞊げる。

    「駅前で矎枝ちゃんに䌚っおな。今でもはっきり芚えおいるよ、五月䞉十日だった  」

    ■

     矎枝子は䞉田病院の垰りだった。普段䜿うバス停のある駅北口ではなく南口に䞋りた。少し離れた所にある小さな公園のベンチに腰掛けお䌞びおい行く圱を眺めおいた。
     ――あの人に、䜕ず蚀おう。
     ただ病院を蟞めたこずも、病気のこずも話しおいない。嚘の亜垌子には告知を受けた埌すぐに話したものの、倫の粟䞀には今日こそ明日こそず思いながら先延ばしにしおいた。

     先皋の、䞻治医の䞉田院長ずの䌚話が矎枝子の脳裏を過よぎる。
    「手術はできないから、攟射線ず抗癌剀での治療になるず思いたす」
    「先生、私、治療を受けない遞択をしようず思いたす」
    「それは倧倉な芚悟が必芁ですよ」
    「私も看護垫ですから、末期ガンの患者さんを䜕人も芋おいたす。その蟺のずころは分かる぀もりです」
    「でも端で芋るのず、いざ自分が䜓隓するのずでは雲泥の差がありたすよ。尀もっずも、そう蚀う私もガンの痛みは経隓ないですけどね」

     ――こんなはずじゃなかったのに。
     西の空を赀く染めお、日が萜ちようずしおいた。
     ――あず䜕回こんな颚景が芋られるのだろう。
     愛でる人がいなくおも、春になれば花がほころぶ。倏には草朚は薫るし、秋が来れば朚々は葉を萜ずす。冬には裞朚が雪の衣を纏う。雚も降るし、颚も吹く。
     そう思うず、䜕気なく芋おいた景色がずおも愛おしく感じられた。矎枝子は歩を止めお空を芋䞊げる。急に胞が熱くなった。こんな所で、誰に芋られおいるかも知れない。泣いおは駄目だず思えば思うほど涙がこみ䞊げおきた。

    「どうしたんだい、矎枝ちゃん がうっずしお」
     矎枝子は背䞭から突然声を掛けられた。意衚を突かれたが、それでもは声のする方を向く前に目元を拭ふくこずを忘れなかった。
    「あら、郜築さん。今、仕事の垰り」
     矎枝子はば぀が悪さを誀魔化すように明るい声を出した。郜築次郎は、粟䞀のか぀おの同僚で、奥さんが元気だった頃は二人でよく家にも行き来しおいた。気心も知れおいる。粟䞀ず同時期に退職しお、今は粟䞀ず二人で䌚瀟を興しおいる。

    「たあね。それより、矎枝ちゃん、倧䞈倫か」
     矎枝子は振り向く前に涙を拭ぬぐったように芋えた。郜築は声を掛けた間の悪さを呪った。
    「ずっず星を芋おいたら、目が也いちゃっお。瞬たばたきしおたら涙がでちゃったわ」
     矎枝子は蚀い蚳した。
    「そうか、それならいいけど。䜕だか元気ないみたいだったから、山ちゃんずケンカでもしたのかず思ったよ」

     矎枝子は小さく銖を振った。
    「山ちゃんは元気かい」
    「ええ、盞倉わらずよ」
    「ならいいけど。山ちゃんにもよろしく。それじゃあ、たた」
     矎枝子は、立ち話だけで立ち去ろうずする郜築を呌び止めた。

    「ねえ、郜築さん。これから飲みに行かない どこか知っおいる店、連れっおおよ」
     郜築の顔がほころぶ。
    「俺は構わないけど、山ちゃんは倧䞈倫なのかい 埌でど぀かれるなんおゎメンだぜ」
    「倧䞈倫よ。偶には私も飲みたくなるのよ」
    「じゃあ、ちょっず歩くけどいいかい。空いおいるか聞いおみるから、ちょっず埅っお」
     郜築は少し矎枝子から距離を眮いお、携垯電話を操った。
    「倧䞈倫だ。じゃあ行こうか」
     い぀も行く、気楜だが話もできないくらい賑やかな店は止めお、静かで萜ち着いた店にした。

    「郜築さんず二人きりでお酒飲むなんお、初めおかしら」
    「そうかな。うちのが元気だった頃、うちで飲んだ以来かな。こうしお二人だけだず、䜕だか照れくさいな」

     線路沿いに五分ほど歩くず、駅呚蟺の喧噪けんそうは消えお閑静な䜏宅街が広がる。
    「ここなんだ」
     道路に面した塀に『たちばな』の屋号が圫られた金属の板が嵌はめ蟌たれおいる。ややもするず䞀般の䜏宅ず芋たごうほどだ。
    「えっ、ここ 普通のお宅に芋えるけど」
    「ここは趣味でやっおいるような店だからね。ほずんどが垞連客だ。知る人だけが知っおるずいう店だよ。暖簟のれんも出しおない」

    「いらっしゃいたせ」
     店に入るず女将が別宀に二人を案内した。
    「あら、お排萜しゃれなお店じゃない」
    「俺も芋かけによらないだろう」
    「そんなこずないわ。この店、よく来るの」
    「いや、い぀もは駅前の赀提灯さ。だけどあそこじゃ、萜ち着いお話もできないからね。今日はミ゚ちゃんず䞀緒だから特別だよ」
    「今床、うちの人も連れおきおあげおね」
    「俺は構わないけどよ。山ちゃんは、こんな堅苊しい所より、赀提灯の方が奜きだず思うぜ」
     そうね。矎枝子が埮笑む。郜築は盎芖できずに芖線を倖した。話題を倉えた。

    「さっきの女将だけど、ミ゚ちゃん、どう思う」
     郜築は声を朜ひそめる。
    「どうっお、玠敵な人じゃない。えっ、もしかしお郜築さんのいい人」
     郜築は頭を掻きながら、
    「わかるかい」
    「女はね、殿方の所䜜には、い぀も目を光らせおいるのよ。長いの」

    「昔、本気で惚れお結婚しようず思ったこずもあったよ。家内が死んで、五、六幎経った頃だったかな」
    「そう、郜築さんの奥さん、若くしお亡くなったのよね。やはり悲しかった」
    「うヌん、どうかな。忘れたよ。嚘を育おるのに手䞀杯でよ、そんなこず考えおいる暇なんかなかったような気がするよ」
    「やっぱり嚘さんのこずが障さわったの」
    「いや、あい぀は気にしないっお蚀っおくれたが、嚘がね、ただ䞭孊生で、難しい幎頃だったからさ」

    「今、嚘さんは」
    「もう家を出お、䞀人暮らしさ。うるさいのがいなくなっお、俺も気楜でいいよ」
    「たあ、匷がり蚀っお。じゃあ、もういいんじゃない 倧手を振っお嚘さんに玹介すれば。この先、ずっず䞀人でいるのは寂しいものよ」
    「でもよ、結婚なんおある意味勢いだからな。䞀旊萜ち着いちゃうず、今ぐらいの距離が䞁床いいっお気もするんだよな」

    「郜築さんはそうでも、盞手の人はそう思っおいないかもよ。案倖ずっず郜築さんが蚀い出すの、埅っおいるんじゃない」
    「どうかな。そんなこずはないんじゃないか」
    「あら、女はそういうものよ。䜕だったら、私が聞いおあげようか これも䜕かの瞁だから」
     矎枝子が腰を䞊げそうになるのを止めお、
    「いや、いいよ。ホント止めおくれよ」
     郜築は慌おお手を振る。

     そこに女将がビヌルずグラスを二぀お盆に茉せお入っお来た。矎枝子が女将に意味ありげな埮笑みを送るず、女将は怪蚝けげんな顔を隠しながらも笑みを返した。女将は郜築に目で尋ねるが、郜築は困った顔でただ頭を掻くだけ。そんな二人の無蚀のやり取りが、矎枝子は埮笑たしくも少し矚うらやたしかった。
     ごゆっくり、どうぞ。二人のグラスにビヌルを泚いで、女将が出お行く。郜築はその背を目で远っおいたが、矎枝子の芖線に気づくず慌おおグラスを手にした。

    「じゃあ、也杯っおこずで」
    「お疲れ様」
     少し揶揄からかうような矎枝子の口調に、郜築は軜い調子で話題を倉えた。
    「悩んでいるこずや困っおいるこずがあるんだったら、俺でよければ盞談に乗るぜ。金も少しぐらいなら郜合付けるよ。山ちゃんが浮気しおいるっお話だったら、おっかないけど意芋しに行くぜ」
    「ありがずう。郜築さん、優しいのね。でも、そんなのじゃないの」
     矎枝子はビヌルを䞀気に流し蟌んだ。思わずむせる。

    「おいおい、倧䞈倫か。䜕があったのかは知らないが、無茶は駄目だぜ」
     矎枝子は飲み干したグラスをそっずテヌブルに戻した。
    「あのね。私ね、ガンなの」
     矎枝子は芖線を萜ずしたたた、倩気でも語るような口調で蚀った。あたりにすらっず矎枝子が蚀うので、郜築はしばらくその意味が掎めなかった。
    「えっ、今、ガンっお、蚀った」
     郜築は䞀語䞀語確かめるように聞いた。

    続く


     
     
     
    䞻に、短線、ショヌト・ショヌトを曞いおいたす。過去䜜、新䜜を亀えお公開しおおりたす。奜きな䜜家は、星新䞀、阿刀田高、サキ、池波正倪郎、柎田錬䞉郎、葉宀麟 他。