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事務方クエスト(1) ~うちのパーティーは全滅寸前です

    くりす

    『この物語は現代の事務方仕事を、
     ファンタジーの世界に落とし込んだお話です』

    【あらすじ】

    かつて魔王を倒した勇者が、
    「たまたま」生まれ育っただけの田舎の国。

    「兵(つわもの)の国」

    その国の冒険者達の管理協会に、
    クリスという名のベテラン僧侶がおりました。
    彼は唯一の同僚・魔法使いのアイラと2人で、
    必死に日々の仕事をこなしています。

    えっ、どんな冒険をしているのかって?
    彼等は冒険なんてしません。
    魔物と戦うことも、ありません。

    彼等にできるのは、
    ただひたすら『机仕事』だけなのです・・・

    ここは、兵の国・冒険者協会事務方。
    『
    彼』はそこで、重いため息をついていた。

    「・・・クリスさん。
     また自分に回復魔法かけてるんですか?」

    「疲労回復には、ほぼ効かないんだけどね」

    彼の名前は「クリス」(僧侶 LV48)

    職歴20年を超えるベテラン冒険者だが、
    魔物の1匹も倒した事がない。
    来る日も来る日も机仕事ばかり、
    やってきた男である。

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    「そう言うアイラさんは、
     廃棄書類の焼却終わったの?」

    「バッチリです!
     私の火の魔法、戦いには使えませんけど、
     ゴミ燃やすには最適です!」

    謎の自信にあふれてるのは、
    配属されて1年程度のクリスの後輩。
    魔法使いの「アイラ」さん。

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    「ゴミ燃やせるだけでも、役には立つか」

    「えっとぉ、ゴミ燃やす以外だと・・・
     冬に暖をとる時、使うくらいですかね。
     こないだ、靴に引火して大変でしたけど!」

    自信満々に答える姿が、妙に愛らしくはある。

    そう、僕らの仕事は事務処理だ。
    魔物に立ち向かう事はもちろん、
    外で働く事すらほとんどない。

    「そういや、クリスさん。
     今日は【安乗管理】の講習会ですよね?」

    「あぁ、そろそろ行くよ。
     今日は戻ってこれないから、後よろしくね」

    【安乗管理】安全乗馬管理者
    5名以上の騎馬戦士を有する国は、
    最低1人の管理者を選出し、
    馬の運用を管理しなければならない。

    冒険者管理基本法 第74条より

    冒険者管理基準法。
    略して【冒基法(ぼうきほう)】

    そこに明示されてるこの役職。
    権限などは何もなく、
    只々、面倒と責任だけが付きまとう役職だ。
    悲しいかな、現状クリスの唯一の肩書きである。

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    「えー、安全乗馬管理者の職務その1。
     管理者は出発前と帰還後!
     冒険者のアルコールの検知を行い・・・」

    (この話、毎年聞いてるよなぁ)

    年に1度とは言え、何回も聞いてる話は退屈だ。
    前の席の男は、教本で隠して何か仕事をしているし、
    隣の男に至っては完全に寝ている。
    気付いているはずの教官達も、特に注意もしない。
    クリスとしても、寝てしまいたいくらいだが。
    そこまでの度胸はない小心者なのだ。

    だけど、クリスはこの時間が嫌いではない。
    なぜならこの時間は「余程のこと」がない限り、
    他の仕事をすることはできないのである。
    その限定的な状況が、一時の解放感を与えてくれる。

    (今日は1日、ボケっと話を聞き流すだけ。
     そうだ、休憩は隣の酒場でランチにするかー♪)

    プルル・・プルルッ・・・

    少しテンションが上がっていたそんな時、
    懐の通信用のクリスタルが、無情な振動を始めた。

    (アイラさん?
     余程のことがない限り連絡するなって、
     あれほど言っといたのに・・・)

    つまり「余程のこと」があったのか?

    見たくないな、見ないでもいいかなぁ?
    恐る恐る、メッセージに目をやった。

    アイラ 「クリスさん大変です!
         王子が馬で事故りました。
         ケガの方は・・・」


    ブツッ!!(通信遮断)


    (気付かなかったことにしよう!
     せめて、昼食を食べ終わるまでは。
     それまでは気付かなかったって事にっ!)

    そう、現実逃避に走ろうとしたが。
    それを貫けるほどの度胸は、やっぱりなかった。

    そもそも通信を見てしまったので、
    アイラさんには「既読」で伝わっている。

    「見なかった事にしましたね!」

    そう攻められるのも忍びない。

    結局、講習会は中座。
    昼食をとらず、事務所にとんぼ帰りした。

        ・
        ・
        ・

    「ケガ人はなし、双方無事」

    通信文の続きを最後まで読んで、
    クリスは安堵の息を吐いた。
    だが、すぐに次の問題が頭をよぎる。

    事故の当事者は、この国の王子だ。
    「若い時分は戦士団で修行する」
    そんな昔からの風習のせいで、
    今は一介の冒険者をやっているが。
    自他共に認めるVIPである。

    「私もヒヤッとしましたぁ~」

    アイラさんの声は呑気に聞こえる。

    「王子に何かあったら、葬儀から後始末まで。
     クリスさん、不眠不休待ったなしですからね!」

    (アイラさんに悪気はない、多分)

    思ったほどの事態ではなさそうだが、
    面倒には違いない。
    クリスは現場に直行してもらってる、
    『保険ギルド』からの連絡を待っていた。

    プルル・・プルルッ・・・

    (お、早速キラさんからだ)

    保険ギルドの担当者・キラさん。
    誠実で迅速に動いてくれるので、
    個人的にも信頼している人だ。

    「お世話になりますクリスさん。
     事故現場の確認と【判定】完了しました!」

    魔法 【判定】(ジャッジメント)
    一定のエリアにかけることで、
    そこで起こった事象に対し行動の判定が行える。
    魔王の時代には戦術の練り直し等に使われた。

    「向こうの担当者が来る前に【判定】しときました。
     こちら主導で進められますよ。」

    「責任割合はどんな感じですか?」

    「こっちが3割、相手が7割です」

    「それは朗報ですね!」

    こちらの馬はしばらく乗れそうもないが、
    7割も相手もちなら、
    保険金で新しい馬を手配できるかもしれない。

    「・・・なんですけど、
     ひとつ大きな問題がありまして」

    「相手側がゴネてるとかですか?」

    「いえ、そうじゃなくて・・・
     実は相手が乗ってたのが、ね。
     【ドラゴン】なんですよ」

    「・・・はい?」

    「ドラゴンです」

    「ドラゴンライダーと、
     ぶつかったんですか!?」

    【ドラゴンライダー】
    馬じゃなくてドラゴンに乗って移動する人。
    大国にはそれで構成された騎士団等も存在するが、
    田舎で見かけるのは、概ね金持ちの道楽w

    「てことは、責任割合で勝っても・・・」

    「お察しの通りです。
     こちらの駄馬、いや馬の査定は50万G。
     向こうのドラゴンは、
     ざっと500万Gはくだらないかと」

    「・・・・・」

    頭の中で試算する。
    まぁ、難しい計算ではない。

    こちらの取り分   50万G✖7割 = 35万G
    あちらの取り分 500万G✖3割 =  150万G

    最終取り分 35万G-150万G = ▲115万G
     

    「つまり、あちらに100万G以上支払うと」

    「そういう事になりますね」

    「あぁぁ、また大臣にネチネチ言われるぅ!」

    ケガ人がいなかっただけでも幸運。
    そう思うしかないのだが。
    大臣のネチネチ説教を想像すると、
    高くもないHPが削られていくのを感じていた。

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    「・・・で、王子はお咎めなしなんですか?」

    「明日大臣に報告してからだけど。
     どーせ、お前が注意しとけで終わりだね」

    「大臣が注意するべきじゃないですか?
     私ら下っ端が言ったって、ぬかに釘です!」

    「そうそう、そうなんだけどね・・・」

    まぁでも【安全乗馬管理者】は自分である。
    「しっかり管理しとけっ」と言われれば、
    「善処します」くらいしか言いようがない。

    「理不尽ですねー
     アイラは何もできませんが、
     いつもクリスさんを応援してますから!」

    「明日は城に上がって報告してくるから。
     アイラさん、残務処理は全部お願いね。」

    「あぁっ!アイラの【ラ】は混乱の【ラ】~」

    昨年、同僚が1人いなくなり、
    2人だけになったこの事務所。

    仕事は全く回っておらず、
    クリスは管理職でもないのに、
    この事務所の仕事の責任を背負っていた・・・

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    第1話終了時

    【第2話に続く】

     
     
     
    子供の頃は小説家になるのが夢だったおじさん。 日常をエッセイにしたり、小説にしてみたり。 面白おかしく書いてけたらと思います。 社歴25年の事務員なので、事務職にまつわることも。

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