
魔王の母(闇堕ち回避して世界を救います!)2話
創作大賞2026 エンタメ原作部門 応募作、1話の続きです。(2/4)
1話はこちら
2話
カイル「行ってきます」
アイナ「行ってらっしゃい」(カイル…今日も尊い…)
目を細めながら、学校へ歩いていくカイルを見送るアイナ。
畑の野菜に水をやった後、アイナは外出の準備をする。
カイルの父親、ゾロに会いに行くためだ。
街を歩き、山へ入っていくアイナ。
M(カイルと地球を守るためのプランA…ゾロが殺されないように手を打たないと)
山道を歩くアイナ。
M(いつもはカイルと一緒に歩いていた山道だけど、一人だとこんなに心細いものなのね…)
空を見上げるアイナ。
M(いつも一緒にいるのが当たり前だったカイル。例えカイルが大人になって家を出ても、この地球のどこかでずっと繋がってる、そう思っていたのに…)
アイナが山の奥の洞窟の奥へ入っていくと、不気味な雰囲気に包まれている。誰かに見られていないか確認しながら、慎重に歩いていくアイナ。
ぬっと大きな魔物が現れる。
びっくりして叫び声をあげそうになるアイナ。
「今日はカイルはいないのか」魔物(ゾロ)は残念そうに呟く。
狼のような姿のゾロ、人間の姿になる。頭には大きなツノが生えている。
相手がゾロとわかって一安心するアイナ。
アイナ「カイルは今日は学校よ。今日は、大事な話があって来たの。」
洞窟のさらに奥へ行くと、ゾロの棲家が現れる。手作りのテーブルや椅子、ランプや本棚などが洞窟の一角に置かれていた。ここでゾロは自給自足の生活をしていた。
アイナが持ってきたお茶とお菓子をテーブルに準備する。
ゾロ「カイルは、元気にやっているのか?」
2人だと気まずいのか、落ち着かない様子で菓子をつまみながらゾロが話す。
アイナ「ええ、早くパパに会いたいって言ってるわ。」
ゾロ「そうか」と満足げな笑顔。
ゾロの笑顔はカイルに似ていた。
M(二人の馴れ初めについて、姉のシンシアから聞いたことがある。)
【回想…シンシアの思い出】
森で薬草を採る村娘のシンシア。
足元に紫色の血が垂れた跡があるのに気付く。
跡を辿っていくと、草むらに隠れていた、瀕死の狼ゾロを見つける。
驚くシンシアを鋭い眼光で睨みつけるゾロ。走ってその場を去るシンシア。
ここまでか…とゾロが諦めかけた時、シンシアが戻ってきた。
手には汲んできた水を持っていた。
水を飲ませようとするシンシアの手を、跳ね除けるゾロ。水はこぼれてしまう。
余計なことはするな、と言わんばかりに牙を剥き威嚇するゾロ。
泣きそうな顔のシンシア。その場を離れる。
再び水を持って現れるシンシア。 驚くゾロ。
再びシンシアの手を跳ね除ける力はなく、水を飲まされるゾロ。
安心した表情のシンシア。
その後も何度もやってきて、ゾロの手当てをするシンシア。(この頃のゾロは人間の姿)
ゾロ「人間が…なぜ魔族の俺を助ける?」
シンシア「目の前に助けられる命があったら助けたい。ただそれだけです」
ゾロ(ふん…人間の考えなど理解できん。体が回復したら噛み殺してやる)
動けるようになったゾロを見て、自分のことのように喜ぶシンシア。
それを見て心が揺らぐゾロ。
使われていない山小屋に場所を移動し、毎日のように献身的に手当てを続けるシンシア。
薬の準備をしているシンシアの背後から狼の姿のゾロが近付き、喉元に牙を立て、噛み殺そうとする。
シンシア、一瞬驚くが、目を閉じ、全てを受け入れようとする。ゾロに身を委ねるシンシア。
躊躇するゾロ。
ゾロを優しく抱きしめるシンシア。
そのまま倒れ込む二人。
固く結ばれた手、恋に落ちる二人。
時間経過。シンシアに心を許すようになり、笑顔を見せるゾロ。それを見て微笑むシンシア。
反対する両親。駆け落ちする二人。それを睨みつけるアイナ。
【回想終わり】
ゾロとお茶を飲むアイナ。
M(2人が愛し合っていなければ、私がカイルと出会うことはなかった。だから2人に感謝もしている。でも…やっぱり身勝手すぎる…)
ゾロ「それで、大事な話とは何だ?」
お菓子を一つ食べ終わったゾロがアイナに問う。
アイナ「実は…」
事の経緯をゾロに説明するアイナ。
ゾロ「にわかには信じがたいが…あんたは冗談を言うようなキャラじゃないしな」
アイナ「本当に、なんで私だけが全てを知って、時間が戻ったのか…神様の仕業なのかしら…」
ゾロ「神にそんな力があるとは思えんがな。しかし我が子が魔王になるとは…鼻が高いな。でも巨大隕石は良くないな。そんなことしたら魔族も滅亡してしまうからな」
アイナ、呆れた顔でゾロを睨みつける。
アイナ「そんな気楽な話じゃないのよ。未来を変えなきゃいけないの、そのために協力して欲しいのよ」
ゾロ「俺が殺されるのがきっかけでカイルが魔王になって暴走して困るってんなら、俺は殺されないようにすればいいんだな。」
アイナ「そうなの…それが一番。まだ4年あるから、場所を移動したり対策を考えましょう」
ゾロ「とりあえず人間たちが俺を殺しにくるのがわかってるんなら、迎え撃って返り討ちにすれば解決するんじゃないか?」
アイナ「それでは、根本的解決にはならないのよ。いずれはきっと…」
ゾロ「じゃあどうすればいいんだ?ずっと逃げ続けるのか?」
アイナ「カイルやあなたを取り巻く環境を変えていかなくちゃいけないと思うの。そのためには魔族のイメージアップも必要かと…」
ゾロ「イメージアップ?人間と仲良くしろってことか!?俺はシンシアとカイルのことは愛しているが、他の人間のことは受け入れられない。あんたはしょうがなく受け入れてるがな。俺は魔族なんだ。それは変えることはできない。」
アイナの表情がこわばる。
アイナ「しょうがなく受け入れてる、ね。」
M(間にカイルがいることで誤魔化されてたけど、私とゾロは、家族でもないし種族も違う。わかりあうことなんて、できるわけ…)
はっと気付くアイナ。
M(そうか…こういう私とゾロの関係も、カイルの心に良くない影響を与えていたのかもしれない、これはプランBにも関わるわ…!)
立ち上がるアイナ。ゾロに近付き、真面目な表情で訴えかける。
アイナ「私たちの関係は、カイルにとって、たぶん人間と魔族の縮図になってるんだと思う。私も努力するわ。魔族に偏見を持たず、愛せる存在になるようにする。だからあなたも、人間という種族を愛せるようになって欲しいの。」
アイナ、訴えかけるようにゾロの手を取る。
アイナ「シンシアとカイルだけじゃなくて、他の人間も愛せるようになって欲しいの。まずは身近なとこから、そう私でいいわ。私のことを、愛してほしい。」
ゾロ「…は?」
ゾロの怪訝な表情を見て、自分が愛の告白をしてしまったような形になってしまったことに気付くアイナ。
アイナ「ちが…違う!そういう意味じゃなくて…」焦るアイナ。
アイナ「友好的な!友達!そう、友達になりましょうってこと!」
頭をかくゾロ。
ゾロ「友達ねえ…まあ努力はする。とにかく、カイルを人間として育てることはシンシアが望んだことだ。カイルには俺のせいで迷惑をかけたくない。」
アイナ「迷惑をかけないって言っても…難しいのよね、魔族の血を引いてることは隠せないし、そのせいでカイルはいじめられているし…」
ゾロ「いじめられている…?」
ゾロの瞳が怒りで凶々しく光る。闇の魔法を発動しそうになる。
空気が震え、岩壁にヒビが入る。
アイナは恐怖で肩がすくんだ。あの時と似ていた。
吐き気と目眩と寒気がする。震えながらしゃがみ込むアイナ。
アイナ「もう闇の魔法を…使わないで…」
アイナはそのまま気を失ってしまう。
気がつくと、ゾロのベッドで休んでいた。
ゾロ「目が覚めたか」ベッドの横の椅子に座っているゾロ。
アイナ(ゾロが…運んでくれたんだ…)
小さく微笑むアイナ。
(補足※)ゾロが今までアイナに優しさを見せたことはなかった。カイルがアイナを慕っていたので、ゾロもアイナに対して敬意のようなものは示すことはあったが。今回ベッドに運んだのも、優しさというよりは敬意によるものなのかもしれない、それでもアイナは、弱っている自分を気遣ってくれたゾロの気持ちが嬉しかった。
視線を落とし、アイナは呟く。
アイナ「カイルが魔王になる時も…あんな感じだった」
ゾロは、しばらくうつむいて黙っている。
アイナ「怖いとか、悲しいとか、怒りとか…カイルが魔王になったあの時、私には色んな感情があったと思うの。でもそれをぶつけられる相手がいなかった。カイルの唯一の理解者であるあなたも死んでしまったし。私はそういう感情はなるべく心の奥へ隠してしまって、カイルが元に戻る可能性を信じることでなんとか、6年間生活してきたの。それなのに…」
隕石の衝撃でバラバラになる魔王カイル。
滅びゆく地球。
ずっと閉じ込めてあった、あの時の感情がフラッシュバックして一気にアイナに押し寄せてきた。
アイナは泣いていた。
アイナ「カイルが…カイルが死んじゃったあ…死んじゃったよおお…なんで…なんでえええ…」
戸惑うゾロ。アイナの肩に手を回そうか少し迷ったが、やめた。
アイナが泣き止むまでただ隣に座り続けた。
しばらくしてゾロが口を開いた。
ゾロ「すまなかった…俺が闇の力を使ったことで、色々思い出させてしまったようで…だがこれは、どうしようもないのだ。魔族とは、そういうものだ。」
涙を拭きながら、アイナは尋ねる。
アイナ「怒りの感情が溢れてしまう時、闇の力が暴走するのを止めることはできないの…?」
ゾロ、しばらく考えてから、口をひらく。
ゾロ「魔族の中では、そういうのは聞いたことがない。だが人間の中にはそういう訓練みたいのをしている連中もいるんじゃなかったか…?」
アイナ「怒りをコントロールする…そういえば東洋の武術にそんなのがあったような…よく知ってるわね」
ゾロ「シンシアに聞いたことがある」
アイナ(シンシアと、色々な話をしてきたんだな…私の知らない話や表情も、してきたんだろうな…ん?なんか私、シンシアに嫉妬してる?)
さっきの誤爆の告白と、ゾロの前で泣いたせいかもしれない、慌てて嫉妬のような感情をもみ消すアイナ。
ゾロ「俺はとりあえず、4年後に殺されないように対策を考える。今日の話はここまででいいか?」
アイナ「そうね、そろそろ下山しないとカイルが学校から帰ってくるから。」
ゾロ「…歩けるか?」
少しふらつくアイナ。「たぶん大丈夫。」
そんなアイナを見てゾロは少し考え「いや、山を出るまで送ろう」
そう言うとゾロは狼に変身し、アイナを抱きかかえ、飛翔魔法を発動する。
アイナ「え?」驚くアイナ。
アイナが断る暇もなく、ゾロは魔法の力で背中に羽を生やし、高く跳躍する。
大空でアイナを抱えたまま翼を広げるゾロ。
アイナがあんなに時間をかけて登ってきた山が小さく見える。
アイナは落ちないようにしっかりとゾロにしがみつく。
アイナの頬に、ゾロのもふもふの毛並みが触れる。魔物とこんなに密着するのは、もちろん初めてのことだった。
アイナはゾロの体温を感じ、その体から発せられる魔法の力強さも感じた。
さっきのような凶々しい滅びの匂いはしない、生命の匂いだ。
ゾロは今、確かに生きている。
山を降りたところでゾロにお礼を言い別れ、街へ入るアイナ。
アイナ(ゾロの毛並…カイルの髪の毛に似てたな…)
空を飛んだ高揚感と、大きな体で包まれた安心感に浸るアイナ。
「アイナ!」声をかけられ振り向くと、
ママ友のミシャだった。後に勇者になる、ルートの母親だ。
ミシャ「出かけていたの?」
アイナの靴が汚れているのを見てミシャが問う。
ミシャの長くて美しい金髪が午後の日差しに照らされ輝いている。おっとりして見えるが、強力な魔法の力を持っているらしい。
M(ミシャは聖なる種族”天空人”で、いわゆる堕天をして人間と結婚した。異種婚に理解があり、私の唯一のママ友だ。)
アイナ「カイルの父親のところへ行って来たの。この間遊びに連れてった時カイルが教科書を置いてきちゃってね…」
ミシャに全てを打ち明けてよいのかわからず、とりあえず嘘をつくアイナ。
ミシャ「大変ね~ご苦労様。カイル君は元気?今度さ、ルートを魔法の塾に行かせようと思うんだけど、カイル君も良かったら一緒にどう?」
アイナ「塾か…いいね。でもカイルは…」
M(こういうお誘いはいつも断ってたんだよね。きっといじめられちゃうと思って。だけど、こういうとこも変えていけば、何か良い方向に変わるのかな…?)
ミシャ「いい塾らしいよ。東洋の武術を応用した教育を取り入れてて、魔力を高めたりコントロールする勉強ができるらしいの。」
驚くアイナ(東洋の武術!魔力のコントロール!)
アイナ「すごく良さそう!!カイルが帰ってきたら、聞いてみるね」
嬉しそうなミシャ。
ミシャ「うんうん、それじゃあもしカイル君が行きたいようなら教えてね!一緒に申し込みするから!」
帰って行くミシャを眺めるアイナ。
※ミシャはなぜ自分に優しくしてくれるのだろう、とアイナは考えたことがある。息子のルート君がカイルと仲が良いというのが一番の理由かもしれない。それと、弱い立場のものを救いたいという善意もあるのかもしれない。人付き合いが苦手なアイナだったが、ミシャはそれほど深く踏み込んでくるようなこともなく、何かを誘う時も、強引な誘い方はしなかった。それなのでアイナはミシャとの関係を心地良いと思っていた。
アイナ(カイルが魔王になってルート君が勇者になってからは、ママ友だったミシャとも気まずい関係になっちゃったのよね…)
夜。カイルの家。夕食を食べる2人。
カイル「魔法の塾?」
カイル、無表情だが顔が少し紅潮している。習い事などはずっと我慢してきたので、関心がないような態度をしていたカイルだが、本当は誘われて嬉しいのだ、とアイナは思う。
アイナ「そう、ルート君と一緒にカイルもどうかって。行ってみる?」
カイル「うん…」
気恥ずかしそうに小さくうなずくカイル。
アイナ「じゃあ申し込みお願いしとくね!」
塾へ行けば、カイルの魔力のコントロール力が上がり、闇堕ちを避けられるようになるかもしれない。小さな期待に胸が躍るアイナだった。
ミシャの家。
ルート「カイルんちも行っていいって言ってたの!?」
利発そうなルート。ミシャから塾の話を聞き喜んでいる。
横で聞いていたルートの父「カイル君?ああ、あの…」
(魔族の子か…)と、ルートにわからないように顔をしかめる。
壁に飾られた旗に描かれたマークは、反魔族組織のものだった。
3話へ続く