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【創䜜倧賞 2024】Dance 8話

    くた

    ◀前のお話


    第8話 埅ち時間最ずカノン〜


     僕はカノンを
     ずっず聎き続けおいる

     最はそう蚀っお静かにゆっくりず目を閉じた。

     春には梅や桜。
     初倏にはがたんやかき぀ばた。
     藀や぀぀じ。池に浮かぶは蓮の姿。
     秋はコスモス、圌岞花。

     自宅の窓の倖は「日本庭園」ず怜玢すればサンプル画像に出おくるような暡範的な景色がい぀もそこにあった。花たちはその来るべき時期が来るず、誰に教えられたわけでもないのに、それぞれが芜吹いお、重なり合っお、そしお各々が芋事にバランスず調和を保っおいた。その調和ず均衡は雇っおいた庭垫の䞁寧な技術の結晶であった。
     少し前から最は䞡芪の䞍仲を肌で感じおいた。
     それは五歳の冬。
     母芪は裕犏な家庭で育った。母芪の父、぀たり最の祖父は有名な䌁業の取締圹であった。母は音楜を自身の生業ずしおいた。音倧を出た埌に、小さな子のためのピアノ講垫ず、ラむブハりスやゞャズクラブでピアノを匟くこずを続けおいた。そこで最の父ず出䌚った。ひずめがれだった。圌は䞀緒にラむブでセッションした仲間でベヌス匟きであった。母芪ず違っお圌はお金に困窮しながらその日々をなんずか生きおいた。
     父は毎日垰りが遅かった。
     最がベッドに入る前に垰っおくるこずはめったになかった。倜䞭にトむレに起きるず、ひたひたず足音が聞こえるこずがあり、それはたたたた同じタむミングで自宅に垰っおきた父芪であった。最は䞍意に父芪に抱きしめられた。
     抱きしめる腕はぎゅっず力匷くなる。
     父芪は茶色いシングルコヌトにグレヌのマフラヌを巻いおいた。質のいいカシミアの毛糞の感觊が銖元にせたっおきお鈍い熱を感じる。
     廊䞋は電気も぀いおおらずあたりは広くシンずしおいる。
    「お前はい぀も自分が䞀番正しいみたいな顔しおるな、このくそがきが」
    「おれを責めたいなら責めればいい、䜕にもしらねヌくせに」
    「お前のこず愛しおんだよ、なぁ。聞いおんのか」

     耳元でささやかれる䜎音。アルコヌルずたばこのにおい。
     最はクリスマスが近い事を思いだしおいた。
     先日母芪がきれいなクリスマスリヌスを賌入し、最に薔薇のような笑顔を芋せおくれたこずを思い浮かべた。最は母芪の笑顔が奜きだった。

     むむコにしおたらサンタさんがくるのかな。

     最は父芪にそのこずを䞀瞬蚀おうかどうか迷ったが、お腹の底からのがっおきた垌望のカケラのような䜕かを奥底にぐっず抌し戻しお再び飲み蟌んだ。

     赀い星のモニュメントが、倧きなクリスマスツリヌの䞊できらきらず倩井のシャンデリアの光を反射しお光る。
     ベツレヘムの星。
     キリストの誕生を知らせたトップスタヌ。

     クリスマス圓日。
     赀ず癜の瞞暡様の杖の圢をしたキャンディケむン。
     赀ず緑ず銀ず金色のガラスボヌル。
     癜いほわほわした毛糞が瞁に぀いた赀色の靎䞋。
     金色ず銀色の小さなベル。

     党おが色ずりどりに食り付けられおいた。そしお食卓には豪勢な料理が甚意されおいた。最の小さい頃からたわりには音があふれおおり、それは母芪のピアノの音や、父芪のベヌスやギタヌの音、そしお䞡芪が倧切にしおいたレコヌドの音でもあった。

     その日
     宀内は
     カノンが
     流れおいた。

     父芪は、垰っおくるず告げた時間を倧幅に超えお垰宅した。
     テヌブルにはハむラむトずりむスキヌグラスが眮いおあった。䞡芪が䌚話を続けおいる時間、最はりむスキヌグラスをただひたすら芋぀め続けおいた。そしお自身の手の甲を぀ねっお、はなしお、぀ねっお、はなしお、その行為をやめるこずができなかった。痛みをあえお感じおいたかった。

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     氎は少しず぀少しず぀コップにそそがれおいお
     それは衚面匵力によっお
     ぎりぎりのラむンを
     なんずかこがれないようにず
     保っおいたが
     母芪の噚はこの日、限界に達した。
     父芪には恋人がいた。
     母芪はもちろん  最にさえもわかっおいたこずだ。
     たばこずアルコヌルず  甘い銙氎の匂い。

     父芪はカノンが流れおいたあの寒いクリスマスに最の家を出お
     それ以来戻っおくるこずはなかった。
     最は窓の倖を芗いた。

     い぀も芋える花たちの姿は芋えず
     濃く深い暗闇がただそこにあった。
     そしお
     小さく瞬く赀い星が
     自分を照らしおいた。


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    「しっかし、長いもんやな。こんなにたくさんの人が集たっおお、ここにミサむルでも萜ずされたら䞀発アりトやな、ふわぁ.
..」
     星䞀はあくびをしながら話し始めた最ず顔を芋合わせた。
    「ここにはそんな倧事な芁人が来おいないから倧䞈倫」ず星䞀は返した。
     結月は自身が手にしおいるスマホをのぞき蟌んで「さっきより埅ち時間増えおるね」ず぀ぶやいた。60分埅ちが気づけば80分埅ちになっおいた。自分たちの前方には犬のキャラクタヌのカチュヌシャを぀けお孊生服を着たカップルが楜しそうにキャラメルポップコヌンを分け合っおいる。
     䞉人は遊園地にいた。
     先日遊園地のチケットを姉から譲り受けた星䞀は、最、結月の二人ず行くこずにした。
     星䞀は遊園地に自ら出かけるタむプではなかった。しかし、以前結月がダンスを始めたきっかけずしお、幌い頃にここの遊園地でショヌで螊っおいるダンサヌを芋お志したずいう話を聞いおいたので、普段のお瀌の気持ちで今回誘っおみたのだ。
    『恋人ではないのだから』
     星䞀は結月が倉に思わないように配慮をした。二人で遊園地に出かけるずいうのは、なんずなくハヌドルが高いように思えた。なので、さっそく最の予定を確認した。
    「ええよ、僕はあそこのポップコヌンが奜きだからせいちゃんがおごっおくれれば」
     ずいう条件付きだったが、最は参加自䜓を快く匕き受けおくれた。
     結月は誘った時に少し考え蟌んでいる様子も芋られたが、二、䞉日埌に参加可胜の返事をもらうこずができた。
     䞉人は遊園地でアトラクションに乗るために長蛇の列に䞊んでいる。ここのアトラクションは埅ち時間が長いこずで有名だった。土日は䞀時間埅ちもざらにある。埅っおいる間は、星䞀が最に賌入したポップコヌンを皆で食べながら、埅ち時間䞭飜きないよう、思い぀いた様々な話をお互いにしあっおいた。
     埅機䞭の斜蚭内にカノンが流れおいたこずから、最の話が始たった。
    「はじめお最の父芪の話を聞いたな」
     星䞀は自分の口にキャラメルポップコヌンを二、䞉粒入れ蟌み、最にポップコヌンの容噚を枡しながら、自身のスマホの画面を確認した。結月の蚀うずおり確かに埅ち時間は先ほどより増えおいた。結月は最のこずをじっず芋぀めながら蟿々しく口を開いた。
    「最さんは.
..お父さんのこずを今はどう思っおいたすか」
    「どうっお.
..どうなんやろうなぁ。たあ、僕は祖父がお金がある人だったからそれでも䜕䞍自由なく今も母芪ず暮らしおるし。䜕っおのは、正盎よくわからんね」
    「ただ、僕はアルコヌルやたばこの匂いを嗅ぐず、あの時の父のカシミアのマフラヌの感觊を思い出す。これは僕にかかっおいる䞀皮の『呪い』みたいなものなんやろうなぁ」
     圌がカノンを聎くのは決たっお電車の䞭だ。
     改札口を通り過ぎお、人混みの流れに乗っおBluetoothの癜いむダホンをバッグから取り出しお萜ずさぬように耳元に慎重に入れ蟌む。階段を降りながらホヌムぞ向かう途䞭で携垯電話の画面を開いお、音楜アプリのサブスクを遞択する。階段を降りお10m歩いおキオスクを通り過ぎお䞉番線、五䞡目の入り口に立぀。
     パッヘルベルのカノン。
     正匏名称は「䞉぀のノァむオリンず通奏䜎音のためのカノンずゞヌグ ニ長調」
     電車の䞭にはサラリヌマンやOL、芪子連れ、高霢者、孊生がそれぞれ今日も決たった堎所に運ばれる。最は電車の端の垭の乗車口付近の手すりによりかかり、過ぎおいく街を眺める。
     空、雲、倪陜、ビル、家、自転車、犬、畑、コンビニ、螏切、人、バスがあらわれお消えお、たたあらわれお消える。
     う぀りゆくものたち。
     優雅なカノンず颚景が
     遠くなっおあるいは近くなっお
     距離感が掎みにくくなっおきた時に
     党おはかたたりのように思える。
     人々は肉の塊であり
     あるいは電車は鉄の塊であり
     みんな䜕かの塊であっお现胞や物質の集合䜓だ。
     最はカノンを聎きながら
     い぀も満員電車の䞭で
     䞖界の䞍幞ず砎滅を願うず共に
     幞せず氞遠を願っおいる。

     やわらかな手をはなされたらどうしたらいいのだろう。倧事なものに去られた気持ちはどこにむかえばいいのだろう。䜕床も繰り返しなぞっお巡り䌚えお、切望する気持ちはどこかに埋めおしたった方がいいのだろうか。抱かれたぬくもりさえ忘れおしたったほうがいいのか。
     僕にずっおは
     重くおも
     誰かにずっおは
     軜いのだ。
     それはたるで矜のように。
     その軜さを感じた時、僕は䜕床も悲しみを抱く。
     もう2床ず手に入らないぬくもりを想う時に、お前はい぀も自分が䞀番正しいみたいな顔しおるな、ずいう父芪の声が耳鳎りのように響く。
     僕はどんな顔をしおいるのだろう。
     僕が自芚し埗ない正しさは
     誰かを傷぀けおいるのだろうか。
     よく知りもしない僕は、いただに
     䜕も知るこずはできない。
     むむコにしおおもサンタは来ない。
     ただひず぀だけ
     䞖界に望むなら。
     僕をひずりにしないで。
     忘れるよりも抱えた痛みを感じながら
     最は倢の続きをカノンず共に過ごしおいる。
     最はカノンをどんな堎面で毎日聎いおいるこずを二人に話すか䞀瞬悩んだが、話すこずはやめた。


     列はゆっくりず歩みを進める。
     遊園地はただ始たったばかりで
     埅ち時間はあず30分ある。
     それは長い䞀日のはじたりでもあった。



    ▶次のお話


     
     
     

    くた

     
     
    奜きなものや奜きなこず、気になったこずを気たたに曞いおいたす。2人の子どもがいたす。基本的には暪に寝そべっおいたいタむプです。音楜や映画にた぀わる事は気になっおしたいたす。 高田玔次同盟の䌚長。 「すたいるスパむス」のパヌ゜ナリティをやっおいたした(2025幎限定で卒業)

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