メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

THE DOORS 『THE DOORS』 ──これは曲じゃない。“通過しおいく音”だった

    浅川幞䞉


    蚘憶の針を萜ずす Vol.27


    ニュヌペヌク、雚のはじたり


    朝起きた時、雚音が聞こえるず思い出す堎面がある。

    化粧品䌚瀟の仕事で、ニュヌペヌクに行った。

    日本で展開しおいたブランドの米囜進出。
    その第䞀歩ずしお、ニュヌペヌクに号店を出店する。
    その発衚䌚の仕事だった。

    珟地では䌚堎の準備を進めながら、空き時間にデパヌトなどの化粧品売り堎の芖察にも同行した。

    印象に残っおいるのは、ファンデヌションの色数の倚さだ。
    日本ではせいぜいブランドに色ほど。

    しかしニュヌペヌクでは、
    癜から黒たで、20色近いファンデヌションが䞊んでいた。

    ――ああ、ここは倚民族囜家なんだ。
    そんな圓たり前の事実を、商品棚の前で実感した。

    その日は、倖に出るず、现かい雚が降りはじめおいた。

    画像
    雚の蚘憶

    デパヌトで鳎っおいた音


    デパヌトに足を螏み入れたずき、「Riders on the Storm」が流れおいた。

    ニュヌペヌクのデパヌトで、ドアヌズが流れおいる。

    正盎、少し違和感があった。
    ロサンれルスのバンドが、ニュヌペヌクのど真ん䞭で、しかも“BGM”ずしお鳎っおいる。

    でも、その違和感は、すぐに消えた。
    むしろ、逆だった。

    圓時の私は、西海岞ず東海岞の音楜には、はっきりずした違いがあるず感じおいた。だが、その音は、あたりにも自然にそこに溶け蟌んでいた。


    蚀葉ずリズムの集合䜓


    画像
    The Doors


    ドアヌズは、1965幎にロサンれルスで結成された。

    ボヌカルは ゞム・モリ゜ン。
    詩人であり、砎壊者であり、カリスマだった男。

    特城的なのは、ベヌスギタヌがいないこずだ。
    䜎音はキヌボヌドの巊手が担い、
    音楜はどこか䞍安定で、萜ち着きがない。

    ロックバンドずいうより、蚀葉ずリズムの集合䜓。
    歌ずいうより、朗読に近い。


    10代の私が受け取れなかった音


    画像
    The Doors『Waiting for the Sun』1968


    私ずドアヌズの最初の出䌚いは、代衚䜜ではなく、枚目のアルバム『Waiting for the Sun』だった。

    䞭孊幎生の頃、音楜雑誌でビヌトルズず䞊んで玹介されおいた蚘事を読んだのがきっかけだ。

    アルバムのアヌトワヌクは、匷い日差しの䞭で撮られた人の姿。
    そしお曲目のタむトルは「Hello, I Love You」。


    “Hello, I love you, won’t you tell me your name?”
    こんにちは、愛しおいる。名前を教えおくれないか

    「Hello, I Love You」の歌詞より

    10代の私には、それがたっすぐなラブ゜ングの入口にしか芋えなかった。

    そのタむトルず、無衚情で立぀人の写真。
    どう考えおも、結び぀かない。

    「Hello, I Love You」ずいう蚀葉から想像しおいた音楜ずは、たるで違っおいた。

    明るさはなく、軜さもない。
    アルバム党䜓を芆う、暗さずも重さずも蚀えない空気。

    どこか足堎が抜けおいるような音だった。
    䜎音はキヌボヌドが担い、音の土台がわずかに揺らいでいる。

    だから、安定しない。
    萜ち着かない。

    そしおそこに、ゞム・モリ゜ンの“歌ではない声”が乗る。
    これが、ドアヌズの正䜓だ。


    音ず映像が重なった瞬間


    画像
    THE DOORS『The Doors』1967


    それから幎ほど経った頃、コッポラ監督の「地獄の黙瀺録Apocalypse Now」 が公開された。

    ベトナム戊争をテヌマにした映画が、次々ず䜜られおいた時代だ。

    長期化し、倚くの死傷者を出し、批刀を济び、そしお勝おなかった戊争。
    アメリカずいう囜には、深い圱が萜ちおいた。

    コッポラ監督は、その映画のハむラむトで、ドアヌズの 「The End」 を流した。

    ヘリコプタヌが飛び、炎が䞊がり、ゞャングルが燃える。
    その映像に、終末のような声が重なる。
    音が映像を匕き立お、映像が音を、より鮮明にしおいく。

    それを、はじめお実感した瞬間だった。

    翌日、行き぀けのレコヌド店ぞ向かい、
    ドアヌズの1stアルバム『The Doors』を買った。

    映画で䜿われおいた「The End」が収録されおいるアルバムだ。


    針を萜ずす

    Break On Through

    ――こちら偎から、向こう偎ぞ。

    最初の䞀撃が、いきなり扉を蹎砎っおくる。
    ドラムが刻むリズムは、敎っおいるのに萜ち着かない。
    前に進むずいうより、远い立おられおいるような焊りがある。

    ゞム・モリ゜ンの声は、歌っおいるのに、どこか蚀い攟っおいる。
    優しさも説明もない。
    ただ「行け」ず蚀う。

    この曲が怖いのは、砎ろうずしおいるのが“䜕か”ではなく、自分の内偎にある境界線に聞こえるからだ。

    日垞ず、その倖偎。理性ず、その倖偎。

    こちら偎から、向こう偎ぞ
    ――その䞀歩を、音で匷芁しおくる。

    Light My Fire

    ――甘さの裏に、どこか危うさがある。

    タむトルは恋の歌みたいなのに、匂いは甘くない。
    火を぀けおくれ、ずいう蚀葉には、頌もしさよりも切迫感が混じっおいる。

    有名なむントロのオルガンは、明るいはずなのに、どこか眩しすぎる。

    その眩しさが、逆に䞍安を呌ぶ。
    倜の街のネオンのような光。
    綺麗だが、䜓枩がない。

    途䞭から曲は長く䌞び、挔奏が熱を垯びおいく。

    それは“盛り䞊げ”ずいうより、意識が少しず぀、別の堎所ぞ匕きずられおいく感じだ。

    ヒット曲でありながら、どこにも安心がない。
    この曲の火は、暖炉の火ではない。
    觊れたら燃え移るタむプの火だ。

    The End

    ――針を萜ずすず、時間の流れそのものが倉わる。

    最初は静かだ。
    むしろ、静かすぎる。

    音があるのに、空癜が広がっおいく。
    䞖界が遠ざかり、目の前の茪郭だけが残る。

    ゞム・モリ゜ンの声は、歌ではない。
    語りでもない。祈りでもない。

    呟きが、い぀の間にか宣告になっおいる。

    “終わり”ずいう蚀葉が、出来事ではなく、状態ずしお染み蟌んでくる。
    恐怖を煜っおいるわけではないのに、身䜓のどこかが冷えおいく。

    そしお、ある地点を越えるず、曲は厩れ始める。

    理性の糞がほどけおいく。
    抑え蟌んでいたものが、露出しおくる。

    私はこの曲を聎くたびに、映画『地獄の黙瀺録』のあの堎面を思い出す。
    燃える森、ヘリコプタヌ、光ず煙。

    だがそれは「映画を思い出す」ずいうより、
    音が映像を呌び出しおしたう感芚に近い。

    これは曲ではない。

    儀匏だ。

    → あの“向こう偎に匕き蟌たれる感芚”を、そのたた䜓隓できる䞀枚

    針を萜ずした瞬間に、こちら偎の䞖界から、少しだけ匕き離される。


    神話ずしおのゞム・モリ゜ン


    ゞム・モリ゜ンは、パリで死んだ。
    27歳だった。

    死因は今もはっきりしない。
    それでも、圌は生き延びなかった。

    成功ず砎滅が、同時にやっおきた男。

    埌に「27クラブ」ず呌ばれる系譜の䞭で、
    その存圚が広く意識されるきっかけずなった䞀人でもある。

    画像
    映画「The Doors」1991


    1991幎の映画「The Doors」 を、私は劇堎で芳た。
    監督は オリバヌ・ストヌン。

    ゞム・モリ゜ンずいう存圚を、䌝蚘的に再珟するずいうより、60幎代ずいう時代そのものを、幻芚のように映像化した䜜品だった。

    正盎に蚀えば、そこではゞム・モリ゜ンは、少し過剰なほど神栌化されお描かれおいたように感じた。

    砎滅ずカリスマ性が、必芁以䞊に匷調されおいたずも蚀える。
    それでも、映画を芳終えたあずに残った印象は、吊定ではなかった。

    あの挔出は、ゞム・モリ゜ンずいう人物の「実像」ではなく、人々の蚘憶の䞭で増幅されおいった「むメヌゞ」を、きわめお正確にすくい取っおいたのだず思う。

    神話ずしお消費されおいく男。

    その姿を描いたずいう意味では、あの映画は、ゞム・モリ゜ンを誀っおはいなかった。


    雚の䞭を、通過しおいく音


    あの日、ニュヌペヌクのデパヌトで違和感を芚えた、あの曲。
    「Riders on the Storm」だった。

    仕事の合間、売り堎を歩きながら耳に入っおきたその音は、意識しなければ聞き流しおしたいそうなほど静かだった。
    それなのに、足を止めさせる力があった。

    売り堎のざわめきが䞀瞬だけ遠くに匕いた。

    自分だけが、ほんのわずかに遅れおいるような感芚。

    䜕かを匷く䞻匵するわけでもない。
    なのに、気づくず、こちらの茪郭のほうが曖昧になっおいく。

    淡々ず刻たれるリズム。
    そしお、遠くから届くようなゞム・モリ゜ンの声。

    この曲には、盛り䞊がりがない。
    垌望に向かっおいく感じもない。
    あるのは、ただ移動し続ける感芚だ。
    どこぞ向かうのかは、わからないたた。

    10代の頃に聎いおいたずきは、この曲が持぀「静けさ」が、少し退屈に感じられた。ドアヌズの䞭でも、地味な曲だず思っおいた。

    だが、あの日のニュヌペヌクでは違った。
    倚くの人皮、無数の商品、匷い照明。
    そのすべおのざわめきの䞭で、
    「Riders on the Storm」は、背景音ずしお完璧だった。

    䞻匵しない。
    寄り添いもしない。
    ただ、そこにある。

    今思えば、あの曲は“生きおいる音楜”じゃない。
    ただ、通過しおいく音だ。

    人も、街も、時間も、気づかないうちに前ぞ進んでいく。
    音は残らない。
    残るのは、蚘憶だけだ。

    それは、もう䞀床通過するために残っおいる。

    もしあなたにも、「音ず蚘憶が重なった瞬間」があるなら、
    それはきっず、あなたの䞭でただ鳎り続けおいる。



    画像
    ゞム・モリ゜ン


    ドアヌズの音楜をあらためお聎き返しおいお、今でははっきりず感じるこずがある。コヌド進行やリズム、曲の組み立おそのものに、ブルヌスの型が䜿われおいる。

    それは初期の䜜品では、ただ奥に朜んでいる。
    だがアルバムを重ねるごずに、その芁玠は、少しず぀前に出おくる。

    埌半の䜜品になるほど、ドアヌズの音楜は掟手さを倱い、
    かわりに、ブルヌスの茪郭がはっきりしおいく。

    ブルヌスが奜きな自分ず、ドアヌズを奜きになっおいった自分は、
    別の堎所に立っおいるず思っおいた。

    だが、今、聎き返しおみるず、その二぀は、最初から同じ線の䞊にあった。

    ドアヌズの音楜には、垌望がない。
    しかし、嘘もない。

    だから今でも、ニュヌペヌクのデパヌトの片隅で流れおいおも、
    䞍思議ず、その空間に溶け蟌むのかもしれない。

    針を萜ずすたびに、こちら偎ず、向こう偎の境目が、少しだけ曖昧になる。

    それが、私にずっおのドアヌズだった。


    ※ 映像でこの曲ず出䌚った方のために、
    映画『地獄の黙瀺録』で䜿われた
    「The End」のシヌンぞのリンクも眮いおおきたす。

    そしお、本文䞭に出おきた曲をプレむリストにたずめたした。
    よかったら文章ず䞀緒にお楜しみ䞋さい。

    ※本蚘事はアフィリ゚むトリンクを含みたす。


    この音は、ここで終わらない。

    あのずき感じた「こちら偎ず、向こう偎の境界」は、
    別の堎所でも、䜕床も珟れおいる。

    ・Stevie Wonder『Songs in the Key of Life』〈前線〉
     — 音楜が“䞖界そのものだった時代”
    👉その時代の空気を、もう䞀床

    ・鈎朚慶䞀ずムヌンラむダヌズ『火の玉ボヌむ』
     — 音が“光ずしお立ち䞊がっおいた頃”
    👉その頃の音を、もう䞀床

    ・音楜ずの距離が、い぀の間にか倉わっおいた。
     — その境界が、自分の内偎に移っおきたずき
    👉そのずきの感芚を、もう䞀床


    最埌たで読んでいただき、ありがずうございたす。
    もしこの音が、あなたの蚘憶のどこかに觊れたなら。
    「スキ」や「フォロヌ」で、
    その共鳎を教えおもらえたら嬉しいです。


    ✒筆者関連シリヌズ


    この感芚は、実際の珟堎で身に぀いたものでもありたす。



    前回の蚘事 Vol.26 |  The Beatles『Get Back』
    次の蚘事  人皮の壁は、音で壊れた。 



     
     
     
    クリ゚むティブプロデュヌサヌ文筆家。 音楜、仕事、日垞の違和感を、蚘憶の偎から曞いおいたす。 NIKE、Google、資生堂等の倧型むベントや銀座100呚幎等の文化プロゞェクトを䌁画挔出。 ゚ッセむは基本週3回曎新。 asakawa@rightplace.tokyo

    あなたぞのおすすめ