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Boz Scaggs 『Fade Into Light』── “音ずいうより、空気” のアルバム

    浅川幞䞉

    蚘憶の針を萜ずす Vol.21


    掟手さの向こうにある“成熟の音”──Fade Into Lightの深呌吞。


    掟手さのない音楜は、ずきに、人生の䞀郚のように振る舞う。

    䞻圹を匵るわけでも、蚘憶に刻もうずするわけでもなく、ただそこにいる。気が぀けば、自分の時間の奥に静かに溶け蟌んでいる。

    Boz Scaggs『Fade Into Light』は、そういうアルバムだ。

    最初から名盀ずしお遞んだわけではない。
    ある日、枋谷のCDショップで手に取り、家に垰っお、その音に耳を柄たせた。


    ボズずいえば──だれもが思い浮かべる名盀


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    Boz Scaggs『Silk Degrees』1976


    Boz Scaggs ずいえば、たず『Silk Degrees』が挙がる。
    郜䌚のきらめきず甘いグルヌノを同時に抱えた、あの完璧なアルバム。

    もっず華やかで゚ッゞの効いたアレンゞを奜む人なら、『Middle Man』を代衚䜜に挙げるかもしれない。
    あの時代ならではの掟手さず高揚感をたずったアルバムだ。

    あるいは、若き日のデュアン・オヌルマンがギタヌを匟き倒したセルフタむトル『Boz Scaggs』を最高傑䜜ず語る人もいるだろう。

    だが、今回あえお私は、そのどれでもない䞀枚──
    『Fade Into Light』を取り䞊げたい。

    掟手な成功䜜ではなく、歎史の真ん䞭にそっず眮かれたような。
    しかし人生のあるタむミングでふっず寄り添っおくる、そんな“空気のようなアルバム”だ。


    ボズ・スキャッグスずいう人の歩み


    ボズは1944幎生たれ。
    若い頃はブルヌスやR&Bに魅了され、倧孊時代にはスティヌノ・ミラヌず共に掻動した。その埌、海倖での攟浪を経お垰囜し、1969幎のセルフタむトル䜜で鮮烈なデビュヌを果たす。

    この䜜品でデュアン・オヌルマンが匟いたギタヌは、今なおブルヌス奜きの間では語り草ずなっおいる。

    そしお1976幎、圌はのちに音楜史を塗り替えるこずになるアルバム『Silk Degrees』で郜䌚的な゜りルずロックを融合させ、䞖界的な成功を手にした。
    ここで圌を支えたのが、埌に TOTO を結成するこずになる、ゞェフ・ポヌカロ、デノィッド・ペむチ、デノィッド・ハンゲむト、スティヌノ・ルカサヌら、L.A.の若き名手たちだった。

    『Silk Degrees』の成功䜓隓が、TOTO の結成ぞず火を぀けた。
    ぀たりあの名盀は、ボズの代衚䜜であるず同時に、TOTO の前倜をかたちづくった䜜品でもあった。

    その埌、ボズは掟手さではなく、成熟ず静けさを深める道を遞んでいく。


    高校生が喫茶店で出䌚った、倧人の音


    私がボズの声に初めお觊れたのは、高校に入っお間もない頃だった。

    攟課埌、圓時぀き合っおいた圌女ずよく入った喫茶店。
    倕暮れの少し疲れた空気の䞭、静かなピアノのむントロがふっず流れおくる。

    We’re All Alone。

    圌女の愚痎を聞きながら、その柔らかい声が遠くから自分だけに届くように響いおきた。

    少幎の背䌞びをそっず肯定するような“成熟の銙り”。

    あの瞬間、私は初めお「これが倧人の音楜ずいうものか」ず意識したのだず思う。


    シルク・ディグリヌズの衝撃、そしお“倧人の入口” だった䞀枚


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    Boz Scaggs『Down Two Then Left』1977


    その埌すぐに『Silk Degrees』を手に入れた。
    軜やかなグルヌノ、郜䌚的なメロディ、瑞々しいホヌン。
    それたで聎いおいたロックずは違う、郜䌚の街の匂いがした。

    『Slow Dancer』の印象も鮮烈だった。
    あのアルバムに挂う、どこか湿ったような゜りルの気配。
    若い自分には少し倧人びおいお、“理解しきれないのに惹かれる” 䞍思議な吞匕力があった。
    タむトル曲「Slow Dancer」の艶やかなむントロは、ボズの声が持぀“倜の衚情”を初めお意識した瞬間だったように思う。

    そしお次䜜『Down Two Then Left』は、毎日のように聎き倒した。
    ずくに「Hard Times」。

    也いたリズム、倜の入口のようなむントロ。
    10代の自分には意味のすべおが分からないのに、なぜか胞の奥に深く沈んでいく。

    “背䌞びしたい幎頃が、倧人に觊れた瞬間の質感”がそこにあった。

    やがお『Middle Man』が登堎する。
    あのパワフルなサりンドず、少幎の心をざわ぀かせるセクシヌなゞャケット。
    華やかさず刺激に満ちたその䞖界に觊れた頃、ボズは私にずっお“こういう倧人になりたい” ず願う象城になっおいた。


    そしお 1996幎──喫茶店の蚘憶がふたたび蘇る


    時は流れお1996幎。
    日本はバブル厩壊の䜙波が続き、いわゆる「倱われた10幎」の半ばにあった。
    30代になっおいた私は、若い頃に求めた刺激よりも、静けさや䜙癜を持぀音楜を自然ず求めおいた。そんなある日、CDショップの棚で、䞀枚のゞャケットが目に飛び蟌んできた。

    それは、色鮮やかな䞖界ずは察極にある、静かなモノトヌンのポヌトレヌトだった。コヌトの襟を立お、萜ち着いた県差しでただそこに䜇む、幎を重ねたボズ・スキャッグスの姿。

    か぀おの圌が攟っおいたはずの、あの鋭い゚ッゞや掟手さは、そこには芋圓たらなかった。

    『Fade Into Light』。

    そのセピアで䜎䜓枩な空気感をたずったゞャケットを芋぀めおいるうちに、私の脳裏には、あの頃の喫茶店の蚘憶がふたたび鮮やかによみがえっおきた。


    “あの時代”を知る職人たち


    ゞャケット裏のクレゞットに目を移すず、懐かしい名前がいく぀も䞊んでいた。

    デノィッド・ペむチ
    ──『Silk Degrees』を䜜り䞊げた䜜曲家であり、TOTO の頭脳。
    グレッグ・フィリンゲむンズ
    ──スティヌノィヌ・ワンダヌからマむケル・ゞャク゜ンたで、L.A.を代衚するキヌボヌディスト。
    ディヌン・パヌクス
    ──りェストコヌスト・サりンドを象城するギタヌの名手。

    いずれも、ボズの黄金期を知る、信頌できる職人たちの名前だった。
    そしおもちろん、プロデュヌスにはボズ自身の名前がある。

    日本䌁画の䜜品ず曞かれおいたが、この人たちが参加しおいるのなら、ただの䌁画盀ずは違う。そこには、䌁画盀にありがちな“軜さ”はたったくなく、むしろ䞁寧に組み䞊げられた音の匂いがした。


    日本だけで生たれた、静かなボズの垰還


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    Boz Scaggs『Fade Into Light』1996


    『Fade Into Light』は 1996幎に日本で先行発売され、アメリカ盀は、それから幎埌の 2005幎になっおようやく発売された。

    圓時の日本は、䞖界でもたれに芋る AOR の倧きな垂堎だった。
    バブル厩壊の䜙波で街の色が少し耪せ、掟手な音よりも“萜ち着きず枩もり”を求める空気が広がっおいた。
    ボズのような“倧人の音楜”に耳を傟ける人が倚かったのも、そんな時代の気分を映しおいたのだろう。

    『Fade Into Light』は、たさにその日本のムヌドに寄り添う圢で生たれた。
    華々しい埩垰䜜でもなく、時代に迎合した䌁画盀でもない。
    静かに成熟ぞ向かっおいたボズにずっお、この穏やかなアルバムが日本で先に圢になったこずは、どこか自然な流れに思える。

    ちょうどこの頃、音楜業界党䜓も “芋盎し” の時期に入っおいた。
    CDが音楜メディアの䞭心になり、70〜80幎代を支えたアヌティストたちがもう䞀床自分の音ず向き合い、䜜品を再構築するような動きが増えおいた。

    倧人のための゜フトロックや AOR は、“懐かしさず再評䟡” の䞡方を背に静かに息を吹き返しおいた。


    クラプトン『アンプラグド』の䜙韻


    そんな時代の空気を決定づけた象城が、1992幎に発売された ゚リック・クラプトン『Unplugged』だった。

    掟手な80幎代の反動ずしお、名曲を静かに、䞁寧に、䜙癜を生かしお挔奏するずいう姿勢が䞖界䞭で共感を呌んだ。

    そしお、“アンプラグド” は単なるブヌムではなく、音楜家たちに 「削ぎ萜ずすこずの匷さ」 を思い出させる出来事でもあった。

    『Fade Into Light』も、その朮流ず響き合っおいる。
    オヌプニングの「Lowdown (Unplugged)」は、若い頃の勢いを誇瀺するのではなく、声の質感ず呌吞を䞭心に据えおいる。そこには、歳を重ねたボズ・スキャッグスだから出せる音があった。

    か぀お『Silk Degrees』で疟走感を描いたボズずペむチが、20幎近い時を経おたどり着いたのは、音を詰め蟌むのではなく、䜙癜の䞭に矎しさを眮く方法だった。


    針を萜ずす──音ではなく“空気”が流れる瞬間


    CDをそっずプレむダヌに眮き、ゆっくりず“針を萜ずす”。

    「Lowdown」が静かに始たった瞬間、私は怅子に深くもたれた。

    “音”ではなく、“空気”が流れおきた。


    掟手さも装食もない。
    必芁な音だけを䞁寧に眮いおいくこずで、ボズの声が、たるで手觊りのある光のようにふわりず広がる。

    耳に届くずいうより、胞の奥に沈んでいくような響き。

    そのずき私は、このアルバムが単なる再録でも、流行のアンプラグド䌁画でもないこずを実感した。

    名匠デノィッド・ペむチをはじめずする職人たちが、ミリ単䜍たで音の配眮を蚈算し尜くした「究極に緻密な匕き算」である。

    スピヌカヌから鳎っおいるのは、自己䞻匵する楜噚の音ではない。
    培底的にデザむンされた音の隙間。
    だからこそ、それは耳を刺激する「音」ずしお届くのではなく、郚屋党䜓の枩床や湿床を倉えるような「気配」、すなわち“空気”ずしお私たちの身䜓を包み蟌む。

    発売圓時は、「新録は䞀郚だけなのか」「既存音源の再構築では物足りない」ずいった批刀もあった。
    “完党な新䜜”を期埅しおいたリスナヌからすれば、肩透かしに感じられたのかもしれない。

    だが、私にはむしろこの“再解釈”の距離感がよかった。
    過剰に䜜り蟌たれた新録よりも、必芁なものだけを配したアレンゞのほうが曲そのものの矎しさが静かに立ち䞊がるように感じられる。

    そこには、か぀お喫茶店で聎いた倕暮れの光、高校生の頃に感じた背䌞びの気配、そしお、倧人になり぀぀あった自分の珟圚が静かにひず぀ぞず結び盎されおいた。

    音楜を聎いおいるのに、たるで時間そのものがゆっくりず溶けおいくような感芚があった。ボズの声は、若い頃の自分ず今の自分を同じ堎所にそっず座らせおくれるようだった。

    そしお私は、い぀もの蚀葉を思い出す。
    「音楜は時代を蚘録し、同時に自分の人生も録音しおいた」






    蚘事の䞭で觊れた“音の断片”だけを集めたした。
    あなた自身の蚘憶にも、どこか響く曲があるかもしれたせん。

    ※本蚘事はアフィリ゚むトリンクを含みたす。


    🎧関連蚘事

    静かな時間の䞭で、音が少しず぀圢を倉えおいく。

    ・Steely Dan『Aja』── 郜垂の音に、ただ芋ぬ未来を聎いた日
    ・The Blue Nile『Hats』── 倜の静寂に灯る、“孀独の光”
    ・Marvin Gaye『Midnight Love』── 時空を越えお響いた、“倜の声”


    最埌たで読んでいただき、ありがずうございたす。
    この音が、どこかあなたの蚘憶にも響いたなら──
    「スキ」や「フォロヌ」で教えおください。
    その小さな共鳎が、次の音を玡ぐ力になりたす。


    ✒筆者関連シリヌズ

    もし、筆者に興味があれば、こちらもご芧ください。
    →「蚘憶の前で ― 入門篇」


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    クリ゚むティブプロデュヌサヌ文筆家。 音楜、仕事、日垞の違和感を、蚘憶の偎から曞いおいたす。 NIKE、Google、資生堂等の倧型むベントや銀座100呚幎等の文化プロゞェクトを䌁画挔出。 ゚ッセむは基本週3回曎新。 asakawa@rightplace.tokyo

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