
せつないひと
「しょうがないじゃん」
それが彼女の口癖だった。
まだ若いとき、彼女がその気のない男に口説かれていることを知った。
「どうすんだ?」
と聞くと、
「別に…友達としか思えないんだけど」
という彼女はカフェの窓の外を見ながら、ため息をついた。
その数ヵ月後、彼女はその男と付き合っていた。
「しょうがないじゃん…そこまでわたしを好きだって言うんだから」
しかしまたその数ヵ月後、彼女はその男と別れた。
振られたのは彼女の方だ。
「なんとか好きになろうと思ったんだけど…そういう気持ちになったかなぁと思ったんだけど…やりたかっただけなのかな」
と寂しそうに笑った。
「なんか腹立つより、そういう女に見られていたことが悲しいね」
自虐的に笑みを浮かべて、大きなため息をついた。
彼女は不器用だった。
だから上手く立ち回ることなんて出来ずに、一生懸命相手と向き合った。
ただ人を悪く思えない性格なのか、押しに弱いだけなのか、不誠実な気持ちも受け止めることを繰り返していた。
やがて彼女の過去を知らない男性が現れ、流れのままに花嫁になった。
毎日、同じことの繰り返しは、どこかに無理があったのだろう。
張りつめてた糸が切れてしまった。
ひとりになった彼女のところへ、学生時代の先輩が連絡してきた。
むしゃくしゃしていた彼女は酒の席に向かった。
そこでもやっぱり口説かれた。
彼女の辛い影はいつも人を惹きつけた。
「さすがに逃げたよ」
と笑っていた。
「まだそういう魅力があると思えばいいじゃん」
そう返すと、
「相変わらず軽い女だって?」
「そういう意味じゃなくて」
「進歩がないね。いつまでもそんな女に見られて…でもしょうがないじゃん、これがわたしなんだから」
とため息をついた。
「だけど、つけ込めば抱ける女だと思われるのは悲しいね。ほんとはちゃんと好きになってもらいたいのに。好きな人で…好きになってくれた人で、そう思ってもらえるのはうれしいけど、気持ちがこもってないのは寂しいだけだよ。それでも男は気持ちいいのかな?…ま、それが男かっ」
「オレも男だよ」
「そうだったね」
と笑った。
そして寂しそうに「しょうがないか」と少し小さな声でつぶやいた。
いつまで経ってもせつないひとだ。