
『戦国ラーメン記』②〜羽田空港で待っていた「ずんどう屋」と、軍師の涙〜
【あらすじ】
【タイムトラベルグルメファンタジー】
羽田空港への帰路。私たち親娘の前に現れたのは、官兵衛のルーツ・播州発祥の『ずんどう屋』。
赤い兜と赤いラーメン鉢が共鳴する時、400年の時を超えた魂の再会が起きる。
誰も彼もがタイムリープで人生をやり直すこの時代。
400年前から来たこの軍師は、現代(令和)という「未知の戦場」を、一度きりの命と背脂と共に、ただひたすら突っ走る——。
戦国と現代を繋ぐ、究極のタイムトラベルグルメファンタジー第2話!
【登場人物】
・姫(邪念クイーン): 本作の主人公。無類のディズニー好きで、脳内に戦国武将を召喚できる特殊能力(?)を持つ邪念クイーン。
・黒田官兵衛: 姫の脳内に召喚された優秀な参謀兼、過保護な執事。数多ある東京のラーメン店から、姫に仕えるべく至高の1杯を導き出そうとする。
・旅の仲間たち(娘): 姫の突飛な行動に巻き込まれる、リアルな旅の同行者。
(第2章:羽田編)
旅の終着地・羽田空港。そこで官兵衛を待っていたのは、自らのルーツ・播州の血を引く「ずんどう屋」。
赤い兜と赤い鉢が共鳴する時、官兵衛はついに魔法の板(スマホ)で……。
400年前の軍師が現代の羽田空港で背脂に溺れる、タイムスリップ・グルメ・エンターテインメント!
1. 切なき帰路と、次女の「運命の一言」
2025年4月某日 PM4:00
羽田空港 第1ターミナル
....ゴロゴロ...ゴロゴロ......
「なんでもう帰らなあかんのぉ?」
「えー!いやや、いやや〰︎」
「一昨日来たばっかりやのにぃ〰︎」
「帰りたくないーーー!!!」
一昨日、空港に降り立った時は、期待に胸膨らませてた私たち親娘3人だったというのに、
帰路に着く為に訪れた空港とは、こうも切ない場所になってしまうのか。
キャリーケースの回転率も、今日はご機嫌斜めだ。
それだけ今回の旅も、私たちにとって特別なものだったと言うことの裏返しなのだろう。
...そう。
それもそのはず、今回の旅は、私にとって一生忘れられない旅となったから....
まさか、私の身にあんな事が起こるなんて、数日前には思いもしなかった......
出発ロビーの電光掲示板をぼんやり眺めながら、特別なあの夜を思い出していた.......。
ほんのちょっぴり、目頭がじーんと熱くなった。
「なあ、お姉ちゃん。ママ、東京に着いた日からなんか変やと思わへん?」
「分かる!なんかボーっとしたかと思えば、急に笑い出したり。」
「そうなんよ!私らの話し聞いてへんし。」
「心ここに在らず、って感じやな(笑)」
「ママ!先に荷物チェックインしとく?ねえ、ママ!!聞いてる?」
次女の声でふと我に返り、
平静を装いながら「...そ、そうやね。」と言うのが精一杯だった。
荷物を預け、チェックインも済ませ身軽になった私たち。
お目当てのご褒美お菓子も買ったし、少し早めの晩ごはんでも食べておくとするか。
「ちょっと早いけど、晩ごはんでも食べとこか。何にする?」
「うーーん、何がいいかなぁ......。」
と、優柔不断な長女が悩みだすと、すかさず次女が、
「あのね、私、関西で働いてた時に食べた『ずんどう屋』って言うラーメン屋が結構おいしかったんやけど、
たまたま調べたらその店が羽田空港にオープンしたみたいなんよ。しかも、今私らがおる第1ターミナルにしかないんよ!あのラーメンまた食べたいわ〜」
(ず、ずんどう屋!?それはまさしく官兵衛が『ぐぐる』で得た情報ではないか!※『ラーメン記①参照』
しかも官兵衛の生まれ故郷・播州がルーツ。なんたる偶然!!
もしやお主たち、密かにLINE交換などして繋がっていたのではあるまいなニヤリ)
と、私と長女の胃袋を強烈に刺激するひと言をポツリと呟いた。
食いしん坊の長女が、その言葉を聞き逃すはずもなく、
「えー!!ラーメン?!そんなん…、食べるっきゃないやろーーー!!」
「ええやん!ええやん!!」
「えぇ!これはもう運命やん~(笑)」
食いしん坊親娘は、お互い満面の笑みで顔を見合わせた。
旅の疲れもどこへやら、急にパワーが漲ってきたぞ!!
食のパワー、恐るべし(笑)
「どの辺にある?」
すぐさまスマホの地図アプリで確認する次女。
「もうちょっと先にありそう」
「あっちかな?じゃあ行ってみよ~」
「方向音痴やから、自分が今どこにおるか分からへんわ(笑)」
(まさか、この時の次女の「関西で食べて美味しかった」という一言が、運命の歯車(官兵衛のルーツ)を回し始める事になるとは、この時は思いもしなかった……。)
『パオぉ〜ん📯』
ラーメンか...笑
思いがけず、ここへ来て、再びラーメン。
東京の地で、再びラーメンを食べる事になるとは。
しかも、九州に続き播州を制圧。
一度で二度美味しい旅になるとは、全くの計算外。
播州といえば、たしか、官兵衛の出身地じゃなかったかのう?
(官兵衛、お主はまだ知らぬであろうが……これから私が食べるらうめんは、お主が生まれ育った播州(姫路)の血が流れる一杯なのだぞ。ククク、これもまた運命の悪戯(いたずら)じゃな。)
羽田空港に着いた時から、いや、『一蘭』を出た後から、頭の片隅であの日私の身に起きた不思議な出来事をずっと思い返していた。
官兵衛....
今頃どうしておるのか。
あれから『一蘭』に食べに行ったのであろうか...?
それとも、次の戦の戦略でも練っているのであろうか?
そう言えばあやつ、『一蘭』で私たちが、らうめんの写真や店内の様子をスマホでパシャパシャ撮ってたら、腰抜かしおったなぁ。
『クイーン様!何をしておられるのですか!目の前にある物がそのまま小さい板に吸い取られておりまするぞ!!謀反じゃ!謀反にござりまするーーー!!!』
と、慌てておったのう。
ふふっ。思い出したら笑いが込み上げて来るわい。
「あのな、官兵衛。
これは『スマホ』と言うて、目に映る物を墨と紙で書き表さなくても、一瞬で写し撮ったり、はたまた、伝書を何日もかけて相手に渡しに行かずとも、画面に触れるだけで、遠く離れた相手ともすぐに話す事が出来るのだぞ。何なら、地図も見れるぞ?
お主たちが生きる世界から、およそ400年後ぐらいにはこのような文明になっているんだぞ」
と説明した時、これまた随分と羨ましそうな顔をして見ておったからのう。
まあ、官兵衛にはこの旅で随分と世話になった故、礼と言ってはなんだが、『一蘭』を出た後にスマホを遣わせたのだが。
これがあれば、わざわざ召喚しなくとも、官兵衛と話が出来るからのう。
これぞ、まさしくWin-Winってやつじゃ。
ちゃんと使えておろうか?
2. 時空を超えた「魔法の板(スマホ)」テスト
そうじゃ、
ちょっと試しにかけて驚かせてみようか。
いくら官兵衛の朝が早い(虎の刻起床)とはいえ、現在時刻は申の刻(17時)。
きっとまだ起きているであろう笑
「プルルルルル......プルルルルル.....」
どうしたのだ?出ないぞ?
まさか、もう寝ているのであろうか?
官兵衛もそこそこのおじさんだ。武将とは言え、寄る年波には勝てぬか笑
そう思い電話を切ろうとした瞬間、
「う、うぉっほん......も、申す、申す。」
「あ!官兵衛?私だ!分かるか?」
「はっ!ク、クイーン様!!いかがなされた!?
まさか、敵に包囲されたのでござるか?!殿中でござる!殿中でござるー!!」
「そんなわけなかろう笑 ここは現代だぞ笑」
「で、では何事でござるか?」
「うぬ。これは所謂テストじゃ。お主がちゃんと電話に出れるか気になってのう。」
「てすと?…ふふん。クイーン様、拙者の事を試したのでござるな。はてさて、それではこれは合格ですかな?」
「まあ、電話に出るのは、初歩中の初歩の操作だからの。そう威張るでない。」
(まったく、すぐ調子に乗りよって…)
「御意っ!」
(…拙者、クイーン様と話しておると、どうも調子が狂うでござる。)
電話の向こうでお辞儀をしながら頭を掻く官兵衛
「ところでクイーン様、先ほど、この『すまほ』とかいう魔法の板から、けたたましい音がしたのてござるが、あれは何でござるか?拙者、周りの者達に悟られぬよう、自慢の兜の中に隠し入れて厠に駆け込んだんでござるよ。」
「はははっ!驚いたであろう。あれはのぅ、着メロと言うてのぉ、官兵衛のために仕込んでおいてやったのじゃぞ」
(フッフッフッ。武将の着メロにはやっぱり「暴れん坊将軍」のテーマ曲がピッタリであるからのぅ笑)
「クイーン様!悪戯が過ぎますぞ!…ところで、今どこにおられるのですか。」
「どこであろうのぅ。お主が想像もつかない場所にいるぞ。ニヤリ」
「どこにおられるのかは存じませぬが、世の民に気付かれぬよう、くれぐれもお気を付け下され。さもなくば、拙者、夜も眠れぬではないですか。」
「官兵衛はほんに心配性じゃのう。池袋に行った時も大丈夫であったろう。ところでじ
ゃ、今日はこれから『飛行機』という鉄の塊に乗って空を飛び、四国に帰るからな。世話になったな。」
「てつのかたまりでそらを・・・?また面白いことを言われおる。
鉄と言えば刀でござろう。そんなもので空を飛ぶとな。」
「信じておらぬのか。ま、無理もないか。移動手段が籠や馬の官兵衛らに言うても分からぬよのう。
お!そうじゃ!良いことを思いついたわ!お主、暇にしておるのなら、今から見に来ぬか?『てつのかたまり』を」
「クイーン様、拙者は天才軍師と言われ、秀吉様の戦の戦略を練ったり、他の武将殿との折衝など、やらねばならぬことが山ほどあるのですぞ。お分かりかな?」
「そう、怒るでない。実は、官兵衛に電話したのは、他でもない。今から『らうめん』を食べるのじゃが、せっかくだからお主もお供せんか?」
「ら、らうめんとな!拙者はまだ『一蘭』へも行けておらぬというのに、クイーン様
はまた行かれるのですか!?狡いですな。因みにでござりますが、また『一蘭』でござるか?」
「はははっ。官兵衛は『一蘭』が殊の外お気に入りのようだな。だが、残念ながらここにはないのだぞ。この羽田空港にあるのは『ずんどう屋』というらうめん屋だ。」
「ず、ず、ずんどう屋――――!!!??
ずんどう屋と言えば、我が故郷、播州で産声を上げ、今や天下を狙って勢力を拡大中の『播州の雄』ですぞ!
濃厚な『特製背脂』をふんだんに使い、『飲む背脂』とさえ言わしめた、そのらうめん、食さない理由はないですぞ!しかも、拙者が『ぐぐる』にて進言した情報ではござらんか!!
し、しかし、な、なぜにクイーン様がそこへ!?」
「官兵衛、興奮しすぎて早口になっておるぞ?笑
お主がそんなにらうめんが好きだったとはのう。」
「これが興奮せずにいられようか!我が故郷のらうめん屋が江戸の地に居を構えるとは、国盗りに成功したのであるな。なんとも誇らしい。拙者、なぜか目の前が歪んで見えるぞよ....」
「お取込み中すまぬが、飛行機の出発時間も迫っておる故、そろそろ『ずんどう屋』に行かねばならんのだが。では、私たちだけで行ってくるぞ。」
「お待ち下され、クイーン様!江戸の地で故郷を味わわぬうつけ者はいますまい!!拙者、すぐに参上つかまつりまする!」
『パオぉ〜ん📯』
「ずんどう屋、どこら辺にあるんやろ?全然見つからへん。」
「せやねん。地図アプリで見てるんやけど、確かに私らがいるこの辺りでマークは付いとんやけど…」
「もうちょっとあっちかなぁ?」
「羽田は広いから移動も大変やわ」
「ママ、どうしたん?そんなにキョロキョロして」
「あ、う、うん。ほんまや。この辺にありそうやのにな」
官兵衛遅いなぁ。ちゃんとスマホの位置情報も同期させたし、地図アプリの見方も教えたんやけど….
この地図アプリがあったら、戦の時にめちゃくちゃ役立って、天下取って後世に名を残せるで!って教えたら、「ほんに魔法の板でござるな!」って。
目をまん丸くさせてスマホを凝視した後、不敵な笑みを浮かべてたっけな。
ま、こんな物がなくても世に名前を残してるけどな。
と、その時….
ズチャラ、ズチャラ……ズチャラ、ズチャラ
何やろ?この音…
何か金属が擦れ合うような、それでいて重厚な音。普段耳にすることがないような音がする。
音のする方へ振り向くと、なんと!!
そこには立派な甲冑と、赤い兜を被った官兵衛が、魔法の板を手にこちらに向かって歩いて来てるではないか。
さながら、ハリウッド映画のヒーローが登場するシーンのようじゃ!
「ありゃ、『ひとりアベンジャーズ』じゃないか(笑)」

プルルルル・・・・
おっ!官兵衛からだ。
「ハロハロ~!官兵衛、間に合ったな。さすが時間には正確じゃな」
「クイーン様、拙者、参上つかまつりましたぞ!それにしてもこの魔法の板は凄いでござるな。」
「いや、官兵衛。お主の出で立ちの方が凄いぞよ。まさか甲冑姿で現れるとは思わなんだわ。ハハハ」
「拙者、同郷の同士の店へ訪問するのであるからして、無礼がないよう正装してきたでござるよ。ささ、クイーン様。いざ、播州へ!」
「して、官兵衛よ。そなた、地図を読む力は長けておるのよのう?」
「ク、クイーン様、その不敵な笑みはどうしたでござるか?」
「実はの、『ずんどう屋』が雲隠れしおったのじゃ。お主を呼びつけておいてこのような事を言うのは忍びないのじゃがのぉ…チラッ」
「え、え、えーーー!?それは由々しき問題じゃ!なぜそのようなことになり申した!先程までは『ずんどう屋』が存在しておると申しておったではござらんか!拙者、火急の命を受けて、馳せ参じたのでござるよ!それを、それを…『雲隠れ』の一言で片づけるとは、いくらクイーン様でもお言葉が過ぎますぞ!!」
「なにを熱くなっておるのじゃ官兵衛。ほんのジョークではないか。」
「じょうく?」
「そう。ジョークだ、ジョーク(笑)あまりにも官兵衛が『魔法の板』をこともなげに使っておったから、からかいたくなったのじゃ。」
「拙者の叡智を結集させ、徹夜で習得したでござるからな。」
「なんだ、その満足げな顔は。それでは早う『ずんどう屋』へと案内せえ。お主、地図を見るのに長けておるじゃろ?地図アプリを見ておるのじゃが、一向にたどり着かぬのじゃ」
(ははーん。クイーン様は地図が苦手でござるのだな。ニヤリ)
「クイーン様!天才軍師と言われるこの官兵衛にお任せあれ!無事に『ずんどう屋』までお連れいたす!」
「持つべきものは官兵衛じゃの(笑)」
「じょうくとやらはよろしいから、早う地図を!」
「そうじゃったの。これなんじゃがの、この点滅しているところが『ずんどう屋』だが、わたしらは同じところに立っておるのに、四方八方見渡してもないのじゃ。」
「ふむ・・・」
腕を組んで考えている姿は、まさに戦国武将そのものだ。
赤合子がよう似合っておるのう。
普段の「おとぼけおじさん」とはわけが違うわい(笑)
「クイーン様。ひとつお聞きしたいことがござる。この鉄の要塞には、隠し部屋や隠し扉はござらぬか?」
「隠し部屋?そんなものは無いと思うが、またどうしてじゃ。」
「クイーン様。城というものは、いつ敵に襲撃されるやも知れませぬ。その為、敵を欺く様々な仕掛けをしておりまする。」
「ふむ。ここに敵はおらぬが...隠し部屋とはちと違うが、上と下にも部屋があるぞ?」
「...それでござる!!今、この目に見えている物だけが全てではござらん!敵を欺くにはまず味方から!『ずんどう屋』も罪なことをしてくれるわい(笑)
クイーン様、参りましょうぞ!!」
「ちょ、待てよ!」
ったくもう、勝手にズンズン歩いて行ってー!
『パオぉ〜ん📯』
「ママ!待ってーー!急に走り出してどうしたん?!」
「こ、こっちな気がするんよ!時間もないし急ごっ!!」
「官兵衛、スマホばっかり見てたら人にぶつかるよ!戦国時代と違って、東京は人だらけなんやから!」
ドシンっ!!
「アタタタっ.....。な、何?!きゅ、急に止まったら危ないやん!しかも、鎧が...痛っ...」
「クイーン様。このすまほの点滅が、拙者の今居る場所を指し示しておるが、クイーン様の申す通り、四方八方見渡してもそのような店は見当たらないでござるな......所であれは何でござるか?人がどんどん消えて行くでござる。あれは、蟻地獄ですかな?」
と、不思議そうな顔をした官兵衛が指を差した方を見た。
「あれか?あれはエスカレーターと言うて、自動で動く階段なのじゃ。現代人は自分の足を動かさなくとも、機械の力で上がったり降りたりできるのだぞ。すごいであろう。まあ、その分、足腰が弱ってしまうという欠点はあるが。気になるか?どうじゃ、戦国時代への土産話として乗っとくか(笑)」
「いえ、そうではござりませぬ。あれこそ、あれこそ隠し階段でござる!......してやられたり!!」
と、うなだれてガクリと膝を着く官兵衛。ご自慢の赤合子もうなだれている。
(珍しく官兵衛が落ち込んどるわい。)
と思ったのも束の間、
「クイーン様!見えましたぞ!この点滅の謎が!!
拙者が見渡した所、上には『ずんどう屋』の看板は見えませぬ...
とすれば、残されたのは下でござる!皆が吸い込まれて行く、あの蟻地獄に本丸がござりまする!!」
「まことか!官兵衛!!」
「武士に二言はござりませぬ!!さあ、参りましょう!」
「うぬ。しかし官兵衛、お主、目が良いんじゃのう。羨ましいの。私など、近頃は近視もあるし老眼も進んでおるから、
近くも遠くも見えにくうていよいよ困っておると言うのに。」
「クイーン様、拙者が生きる時代で目が悪ければ、それは即ち死を意味しますぞ。敵じゃと思い刀を抜けば、多数の味方を失うことになりまする故。」
「そうじゃの。武士にとって目が悪いのは死活問題じゃな。まあよい、さあ、下の階に行くぞ!」
ズチャラ、ズチャラ、ズチャラ......
ズチャラ、ズチャラ......
広い空港内に、鎧の金属音が響き渡っておるわい(笑)
3. 天才軍師、現代の「鉄の要塞」に挑む
「さあ、官兵衛。これが現代の階段じゃぞ。お主、本当にこれに乗れるのか?」
「......く、くいーんさま......。こ、これは困りましたぞ。この階段、どんどん湧いて来よるぞよ。拙者、目が回るでござる〰︎!!」
「ははは。無理もないよのう。現代人でもエスカレーターに乗るのは難しいものじゃ。官兵衛はまだひよこじゃからのぅ。では、付いて参れ。」
『パオぉ〜ん📯』
「よいか、官兵衛。横にあるのは『手すり』じゃ。これに手を添えると自然と体が前に行く。ただし、強く握ると体が持って行かれるから、絶対に添えるだけにするのだぞ。」
「この手すりはどこから出てきてどうなっておるのじゃ......」
「ま、それはまた今度『すまほ』で、ぐぐるしておけ。今はエスカレーターに乗ることだけに集中するぞ!」
「御意!!」
「まずは、手すりに軽く手を添える。次は足じゃ。これも手すりと同じで、次から次へと板が出てくるから気を付けろ。最初は平らな状態で鉄の板が出てくるから、そこに方足を一歩素早く乗せる。そして反対の足も、先程と同じ板に素早く乗せるのじゃ。そうすると、鉄の板がどんどん勝手に階段状になって行く。無闇に動くと危ないから、ひとたび足を乗せたらその場でじっとするのじゃぞ。分かったか?」
「ぎょ、御意にござりまする...」
「緊張しておるのか?まあ、無理もないが。大丈夫じゃ!お主は天才軍師。必ずお主を地下へと導いてやるぞよ。いきなり乗るのもたいへんじゃろ。ここは一度イメトレをするか。
「い、いめとれ...?胃を娶る...のですか?」
「んな訳なかろう!(笑)頭の中で想像することをそう呼ぶのじゃ。難しく考えんでよい。
ほれ、左手を軽く胸の辺りまで上げるのじゃ。」
「左手でござるな。...はて?右手ではござらぬのか?」
「良いところに気が付いたのう、官兵衛。流石だぞ!
江戸という大都会では、この動く階段に乗る時には、皆左側に立つのじゃ。
すると、右側がガラ空きになろう?急いでる者はそこを通って降りて行くのじゃ。」
「先ほどから、なぜに皆が一列に並んでおるのか不思議に思っていたところでござるよ。武士の鞘当てと同じでござるな。現代でも引き継がれていたとは、実に感慨深いのう...」
「左手を手すりに添えたらそのまま足を一歩出すのじゃ。すると、自然に階段がお主を下へと運んでくれるからの。あとは、前の人をよく観察しておけ。」
「御意にござりまする!」
(ほほう、官兵衛のやつめ、「鞘当て」のルールと同じだと理解した瞬間に、先程までの不安げな表情が消えおったわい。)
「さ!何事も経験じゃ!参るぞ!私が先に乗るからついて参れ!」
「......(ごくり)」
『パオぉ〜ん📯』
「よし!今なら人の波が途切れておる。行くぞ!!」
「御意!(あ、あのようにヤマタノオロチのように蠢くものに乗れとは、現代も戦国ですな。)」
「私が乗ったらすぐさま後に続け!行くぞ!」
トンっ。
「く、くいーんさま〰︎」
「何をしておる!早く足を前に出せ!そのままじゃ前につんのめって転がり落ちてしまうぞ!」
「ぎょ、ぎょいっ...(えいやっ!)
乗れたっ!乗れましたぞ!!ついにヤマタノオロチを乗りこなしたでござるよ!」
「見事なもんじゃ!どうじゃ、楽チンであろう〜」
「絶景かな、絶景かな〜!こりゃいいでござる。」
「さ、もう着くぞ!着いたら足を一歩前に出して歩かないと、つんのめって後ろの旅人がお主にぶつかるからの。」
「クイーン様、もう一度乗りませぬか?このオロチに。」
「なんじゃ、ハマりおったか(笑)初めてにしては見事じゃったわい。」
「クイーン様のご指導の賜物でござるよ。(これがあれば、小田原攻めも容易(たやす)かったはず泣……)」
「じゃろうて。さて、肝心の店はどこかいの?」
(ふふっ。実は私な、地下へ行くにはエレベーターもあるの知ってたんやけど、官兵衛があたふたするとこ見たくてあえてエスカレーター選んだんよニヤリ)
キョロキョロ....
「クイーン様!あれではござらぬか?!」
官兵衛の指差す方に目を凝らすと、確かに赤色の店構えが視界に入った。
なんとそこは、想像していた店構えとは違い、空港の中という状況からか、オープンエアな店構えだ。
とんこつラーメンの香りがす〜っと鼻腔に入り込んで来て、なんとも香(こうば)しくて胃袋を刺激する。
「このスープの香り...急に腹が減って来たのう。」
「せ、拙者もでござる...(な、生唾が...)」
『パオぉ〜ん📯』
「ママー!!あれちゃう?あの店ちゃうー!?」
「あ!そうそう!あの赤色よ!お腹空いた〜」
「まさか地下にあったとはなぁ。席空いてるかなぁ?(官兵衛も入れて4席分よ!)」
小走りで店に向かう娘たち。
私もその後に続きつつ後ろを振り返ると、重い鎧に身を包んだ官兵衛が、子供のように無邪気で嬉しそうな表情をしていた(笑)
「ママ!思ったより席数少ないけど、今ちょうど空いてるわ!」
長女が素早くチェック。
オープンエアな店だから、一瞬で混雑状況が分かっていいな。
4. 赤合子(兜)と丼が共鳴する奇跡
「っらっさいやせーー!」
店内から威勢のいい女性の声が聞こえた。
どことなくイントネーションに違和感を覚え店員さんの方に目をやると、
なんとアジア系の女性が湯切りをしてた。
「クイーン様、あのおなごは我が国の民ではなさそうじゃのう。」
と、不意に後ろから声がした。
「官兵衛も気が付いたか。現代では、日本もグローバル化というものをしておって、今じゃ多くの外国人が日本に押し寄せてるのじゃよ。日本のマンガやアニメというものが外国人に人気なのじゃよ。」
「はぁ、左様でござるか。拙者が暮らす時代とは随分と様変わりしたのでござるなぁ。」
「さ、官兵衛、そこに座れ。」
「ところで、クイーン様。ここは隠密席ではござらんが、世の民に顔を見られても良いのでございますか?こんなことなら、兜をもう一つ持参すれば......拙者、何たる失態。クイーン様、どうぞこの赤合子をお被りくだされ!!さもなくば、拙者この場で切腹いたす!」
「腹切りなど止めてくれい!らうめんが不味くなるわい。よいよい、官兵衛、気にするでない。ここ羽田はの、旅する人の中継地。誰も周りの者の事など気に留めておらんのじゃ。気にしておるのは、己の飛行機の出発時間や運行状況だけじゃ。だから私の事など気にも留めておらぬ笑」
「軍師として失格でござる。故郷のらうめんの事に気を取られ、クイーン様がどういうお立場であるのか、承知しておったというのに。」
「そんなに興奮するな。顔の色が、兜の赤と同じ色になりよるぞ笑
さ、卓の上にある辛子高菜でもつまんで落ち着くがよい。」
「ありがたき幸せ。」
「ところで官兵衛、お主、『一蘭』には行ったのか?」
「いえ。」
「なんじゃ、せっかく休みをやったのに、行ってないのか。」
「はぁ。行こうとしていた所へ、クイーン様に呼び出されてしまいましたので...」
「それはすまんかったのう!(笑)そのお陰で、初めてのらうめんが故郷の味とは、感慨深かろう。」
「あ、ありがたき幸せにござりまする。」
『パオぉ〜ん📯』
「アノー、オキャクサマ、ジツハ、サッキドンブリバチヲワッテシマイ、ヒトツタリナイノデスガァ、ヨカタラ、ソチラノオキャクサマノアタマニカブテッイルドンブリバチヲ、カシテクレマセンカ?」
と、さっき威勢のいい挨拶をしてくれた店長さんらしき女性が、申し訳なさそうに官兵衛の赤合子に目をやりながら聞いてきた。
「い、嫌でござるよ!この赤合子は拙者の戦闘服ですぞ!?これに、これにらーめんを?!殿中でござる!電柱でござる!拙者の赤合子を麺の器にするなど、前代未聞の不調法!切腹!切腹にござるー!」
思わず鞘に手をかける官兵衛。
「(電柱?...いや、電柱はお主にぶつかった時のやつじゃろ笑)官兵衛、落ち着け、落ち着け。お主の故郷の店が、江戸の地で困っておるのだぞ?これも人助けじゃと思うて貸してやれ。それとも、またお主だけお預けを食らいたいのか?ニヤリ」
「ぐぬぬ......せ、背に腹は変えられぬ。拙者、男官兵衛!故郷播州のため、ひと肌脱ぎ申てたもう!!」
「それでこそ武士の鏡じゃ!!」
恭しく赤合子の紐をほどき、店長さんにそっと渡す官兵衛。
「これでお主の面目が保たれるのであれば、どうぞ使い給え。」
「どうした、官兵衛?泣いておるのか?」
「辛子高菜がちと辛いだけでござる。ズビッ」
(ふふっ。強がりおって)
5. 400年の時を超えて受け継がれる「播州の血」
「お待たせしやしたー!」
『トン!』と、目の前に置かれたらうめんを目にして驚愕した!
「こ、こ、これはまさしく!!!」

「赤合子!?」
「か、官兵衛!!この、このらうめん鉢!お主の兜と瓜二つではないか!!」
「ま、まさに拙者の赤合子に瓜二つ!どうなっているのじゃ!」
ラーメン鉢の赤色と、官兵衛の赤合子が、目の前で重なって見えた。
「官兵衛。分かるか?」
「なんでござるか。」
「お主は約400年前、播州で生まれ、秀吉様のために天下取りの戦略を練った。
そして時が流れ、お主が去った播州では、『ずんどう屋』という店が生まれた。
それが今、江戸の地で、この羽田という地で、お主の赤合子と同じ赤色の丼に盛られて、私の目の前にらうめんとなり、現れた。」
「クイーン様…(泣)」
「つまりな、官兵衛。お主の魂は、決して消えていなかった。
400年の時を超えて、この赤い丼の中に、確かに息づいておったんじゃ。」
「ク、クイーン様…なんと温かいお言葉(泣)」
「これが、播州の雄、黒田官兵衛の本当の意味での天下取りなのかもしれんのう。
兵糧じゃなくて、らうめん。戦じゃなくて、食。
でも、お主の『血』は、確かに、ここに受け継がれている。因みに、大河ドラマにもなっておったぞ。」
「拙者…この現代においても生きておったのですな…」
「あっぱれじゃ!あっぱれじゃーー!!お主の魂は、400年の時を超え、しっかとうまい背脂へと姿を変え、ドラマにもなって世の民を楽しませ、現代に受け継がれておったというわけじゃ!」
「クイーン様!そ、そのような大声で。お静かに、お静かに!(拙者、背に脂は蓄えてはおらぬが…)」
そこへ先程のアジア人店長さんがラーメンを手に運んで来た。
「オマタセシマシター。オキャクサマ、サキホドハアリガトゴジャマシタ。ドウゾオメシアガリクダサイ。」
「......!?見ろ!官兵衛!!今度は正真正銘、お主の赤合子にらうめんが注がれておるぞ!こんなに似ておるとはのう(笑)」
「こ、これでは文句も言えぬではないか。」
「自給自足か?こりゃ愉快じゃ(笑)」
なんと、官兵衛の目の前に置かれたのは、先ほどの赤合子に注がれたらうめん(笑)

「播州の雄、黒田官兵衛ここにあり!だな(笑)」
「拙者の魂は、400年後の現代にも脈々と受け継がれているのですな!」
「そういうことじゃ。さあ、播州背脂の雄を、しっかりと腹に収めるぞ!!」
「御意っ!!」
『パオぉ〜ん📯』
「ママ、いつまでラーメンのこと眺めよるんよ。麺が伸びるよ笑」
「早く食べんと飛行機に乗り遅れるやん!」
「美味しそうやな~と思ってつい見惚れてた笑
あ!ちょっと待って!その前に写真、写真っと」
さあ、全員一緒に
「いっただっきまーーーす!!」
「ところでクイーン様。ポートレイトはどのようにすれば良いのでござるか。」
あとがき
世の中に食レポは五万とある。
普通に書いたら絶対に埋もれる。そう思った邪念クイーンが「なら、戦国最強の参謀を召喚して案内させればひと味違うのでは?」と思いつき、脳内で官兵衛を執事化させて始まったのがこの物語である――。
(追記)
本作はエッセイの形を借りておりますが、
実は全てが偶然で繋がった実話です。
次女が関西で食べた『ずんどう屋』が、羽田空港第1ターミナルに出店したのは、この旅の1ヶ月前。
本作制作にあたり、たまたまバディとして召喚した官兵衛が播州出身で、『ずんどう屋』の発祥地も播州。
400年の時を超えて、
本当に全部が繋がっていました。
戦国武将と現代人がラーメンを通じて魂を通わせる、究極のバディ・エンターテインメントを目指しております。
ぜひ、官兵衛の着メロにもご注目ください。
※このエッセイはnoteが初出です。
Threadsでは短編版のみ公開しています。
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