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なぜ人は物語に動かされてしまうのか?⑦

    第6節 新しいフレームワーク 

    ここまで、物語を知ろうと、物語を解体した結果、物語には強い物語と弱い物語がありそうだということが分かった。この「強い物語ー弱い物語」というフレームワークを使った場合、村上春樹作品は弱い物語、三島由紀夫作品は強い物語と分類された。

    ところが、ここで問題が生じる。宮崎駿の『もののけ姫』では、森側のサンと人間側のエボシがそれぞれ強い価値観を持って衝突する。しかし、主人公のアシタカはどちらの価値観も選択しない。この場合、『もののけ姫』は強い物語に分類するべきだろうか?それとも、弱い物語に分類するべきだろうか?

    K 
    『もののけ姫』の物語では「森を守る」「人間の生活を守る」という強い価値観を提示しながら、どっちも選択されない。この場合は強い物語に分類する?弱い物語に分類する?

    AI
    うーん……。

    K
    悩むんだ。

    AI
    弱い物語ではありません。

    K 
    じゃあ強い物語?

    AI
    そう言いたいんですが……。強い物語なら、どちらかの価値基準が選ばれるはずなんです。

    K
    うーん。せっかく強い物語と弱い物語で全部の物語を整理できると思ったのに、『もののけ姫』が分類できない。こういう結果が一番困るよね。

    AI
    どうやら私たちの分類には、何かが足りないようです。

    K 
    AIでも分類できないか。研究だと、説明できない実験結果が出るときは、大抵データが間違ってるんじゃなくて、考察が間違ってるんだよね。これまで『強い物語ー弱い物語』というフレームワークで考えてきたけど、このフレームワークはもう使えないのかもしれないね。

    AI
    そうですね。

    K
    ちょっと整理しなおしてみようか?
    これまで見てきた作家の物語を強い→弱いの順に並べると、
    三島は、価値観を強く固定化して、価値に焼かれた。
    坪内は、価値観を削って、生き延びた。
    高畑は、価値観を固定化せず、地獄を描いた。
    村上は、価値観を限界までなくして、彷徨った。
    で、
    宮崎は、価値観に強く惹かれつつも、1つを選択しなかった。
    ここまで、価値観を中心に取り扱ってきたのは間違いない…そもそもなんだけど、物語において価値観って必須なの?

    AI
    物語には価値観が必須です。たとえば、

    男が歩いた、コンビニへ行った、帰った。終わり。

    これでは、出来事の羅列で、物語にはなりません。
    読者が、何を目指しているのか、なぜ重要なのか、を判断できないからです。感情も生まれません。逆に、

    男は好きな人に告白しようとしている。

    これは、物語っぽくなります。恋愛は価値がある、成功したい、失敗したくない、という価値基準が見えるからです。不安や、喜びといった感情が生まれます。
    つまり、物語は「出来事」だけでは足りません。物語は「出来事→価値観による解釈→感情」で成立しています。

    K
    出来事があって、価値観による解釈があって、感情が生まれるんだね。価値観って何なの?

    AI
    たとえば、同じ出来事でも価値観によって行動の評価が変わります。

    「試験に落ちた。」
    「昇進できなかった。」
    「失敗した。」

    これらの出来事はただの事実です。しかし、価値観があると評価が生まれる。「努力すれば報われる」という価値観があると、こう見える。

    「試験に落ちた。」→「努力が足りなかった。」
    「昇進できなかった。」→「もっと努力しよう。」
    「失敗した。」→「もっと頑張ったら成功できる。」

    このように、出来事が「努力すれば報われる」という座標軸でよかったのか悪かったのか、次はどうすればいいのか解釈されます。

    K
    価値観って、何が正しいかを決めるだけじゃないんだ。出来事を評価するときの座標軸になるんだね。

    AI
    そうですね。出来事の解釈方向も決めます。

    K
    たとえば、こんな感じか。
    登場人物が白い地図の上にいるとする。地図の上には座標軸がないから、どっちに行くのを良とするかが分からない。でも、「努力をすれば報われる。」という座標軸の矢印を地図に描きこめば、どちらが前でどちらが後ろかが分かる、みたいなことか。

    AI
    そう、考えることもできますね。

    K
    だとすると、『もののけ姫』の物語では「森を守る」というサンの強い矢印と「人間の生活を守る」というエボシの強い矢印がぶつかっていると考えることができる。そして、その間をアシタカという弱い矢印がサンの矢印に寄り添ったり、エボシの矢印に寄り添ったり、くねくね移動してる。全部で3つの矢印があることになる!

    AI
    なるほど、座標軸が3軸になるのですね。

    K
    地図の上を移動する矢印だと、数学のベクトルみたいでちょっと分かりづらいな。
    う~ん。
    矢印の形をした船をモデルとして使って、考えてみようか?
    登場人物は、海にいて、矢印の形をした船に乗っている。
    登場人物は、矢印の方向の景色を見る。
    登場人物は、矢印の方向に航海する。

    AI
    そうですね。ここでいう矢印の形の船は、登場人物が世界を理解し、行動するために依拠している価値観ということですね?
    矢印の方向がよく見え、矢印の方向に進む船。
    船から見える景色は登場人物の世界観であり、
    航海はそれぞれの登場人物の物語になる、ということですね。

    K
    そうそう、よくわかったね。
    『もののけ姫』という大きな物語の中には登場人物1人に1つ、全部で3つの船がある。

    AI
    そうですね。物語は3人の登場人物の小さな物語で構成されている。

    K
    次に考えるべきことは、これまで使ってきた『強い物語』というのを、この船モデルを使うと、どう説明することができるか?だ。

    AI
    大きな船の航海、ということではないですかね?
    そして、大きな船を少しずつ削っていくと、小さな船になる。
    すると、大小の船はそれぞれ、
    大きな矢印の船は大きいので推進力は強いけど、よく曲がれない。
    小さな矢印の船は小さいから推進力は弱いけど、小回りがきく。

    K
    それ、いいね。一旦採用!
    大型船は小回りが利かないから、動き出すと船首の方向に進むしかないもんね。それは、まるで強い価値観があるとその物語に従わざるをえないように。

    AI
    そうですね。

    K
    じゃあ、
    強い物語 = 価値観が登場人物の行動を強く支配している物語
    ってことだよね。

    AI
    その定義はかなり本質に近いと思います。船の例に戻すなら、船の大きさによって航海が強く支配されている状態と考えられます。それぞれの作品も、主人公の船の航海に見立てることができますね。
    『金閣寺』 = 溝口の巨大戦艦の航海
    『ドラゴンボール』 = 悟空の大型クルーザーの航海
    『ねじまき鳥クロニクル』 = 岡田トオルの自力の水泳
    のように、それぞれの登場人物の船が見えてきますね。

    K
    岡田トオルひどい。船にも乗ってないww
    でも、矢印がないから360度見渡せるね。

    AI
    ずっと猫やら妻やらを探してましたからね。きっと、漂流して彼女らの船を探してたんじゃないでしょうか?

    K
    そうすると、『もののけ姫』には3隻の船が出てきて、サンの乗る大型客船とエボシの乗る大型客船、そして、その間をアシタカが小さな船に乗って渡り歩いた。と考えることができるね。

    AI
    そうですね。アシタカは他の二人の客船に乗りこんでは、衝突しないように懸命に説得し、行ったり来たりしてそうですね。

    K
    こう考えると
    大きな船はたくさんの人を乗せられるけど、眺めは一つ。
    でも、小さな船は自由に操舵していろんな方向の世界が見れる。
    アシタカのように自分の船を持ちながら、他の船も渡り歩けるようになれば、自分の船の景色も見れるし、サンの船、エボシの船からの景色も見れる。
    そういえば、アシタカが言ってたね「曇りなき眼で見」るって。
    自分の船からだけじゃなくて、いろんな船に乗ってみて広い世界を見るって意味だったのかもしれないね。

    AI
    そうですね。すると、アシタカは自分の船だけではなく、他人の船からも景色を見ていることになりますね。結果として、広い視野角の景色が見れる。

    K
    あ。

    AI
    どうしました。

    K
    それだ。
    大事なのは船の大きい小さいじゃない。
    見えている景色の広さだ。大きな世界観!
    こう考えるのはどうだろう?
    「価値観」を中心とした「強い物語ー弱い物語」というフレームワークでは、『もののけ姫』を分類できなかった。でも、「世界観」というフレームワークで改めて整理すれば、これまでのすべての物語を1直線に分類できるじゃない?

    AI
    そうかもしれませんね。たとえば、どうなりますか?

    K
    そうだね、まず注意しなければいけないのは誰の世界観か、ということだ。ここでは、主人公の世界観を中心に考えよう。
    主人公の世界観が狭いものから広いものの順に並べると
    ①『金閣寺』 = 溝口の絶対的な世界観の物語
    ②『ドラゴンボール』= 悟空の単純な世界観の物語
    ③『ねじまき鳥クロニクル』 = 岡田トオルの開放的な世界観の物語
    そして、
    ④『もののけ姫』= アシタカの多視点的な世界観の物語
    と、三島から宮崎作品までだんだん主人公の見る世界観が広がってきてる順番だと見ることもできるね!

    AI
    なるほど、「価値観」ではなく、価値観によって決まる「世界観」を尺度にして考えると、『もののけ姫』までフレームワークの適用範囲を拡張できますね。

    K
    そうだね!これで、『もののけ姫』をきれいに分類することができる!この「物語航海モデル」って、新しいフレームワークの発見じゃない!?大発見じゃない?文学部専攻じゃないけど、論文書けちゃうんじゃない?

    AI 
    そうですね。大発見です!!
    ・・・
    と、言いたいところですが、残念ですが、過去に類似したフレームワークが提案されています。

    K
    え?マジで?
    最近の文學界ではもう発見されてるフレームワークなの?うそーん。ショック。最近の話?三島よりも昔?坪内より昔ってことはないよね?

    AI
    それがですね、約2500年程前のフレームワークなんです…

    K
    え、なにそれ?

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    いわゆる理系の材料物性研究者。 専門を物語に適用して物語分析法を開発中。 趣味は雰囲気株トレードと日韓交流。 🇯🇵25年🇰🇷15年

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