メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo byponz_mama_60

【創作短篇】立つ鳥跡を濁さず

    ちばのくまさん

    彼は、自分の家を持っていた。
    極めて一般的な、一軒家である。

    彼には、妻と3人の子がいた。
    仲睦まじい家族であった。

    彼はある日、転勤を言い渡された。

    「岡山に行くことになってしまったよ」
    「岡山?けっこう遠いね…」
    「一人で行ってくるよ」
    「そう…」

    子供たちのこともあり、妻は単身赴任させる気満々だった。しかし、子供たちはまったくそうは思っていなかった。

    「パパと一緒がいい!」
    「みんなで岡山に行く!」
    「ママも一緒に行こ!」

    「そうね…」
    夫婦は考えあぐねていた。
    岡山での初出勤まで1週間。ここは仙台。さあどうする。

    何も決まらないまま、時間は刻一刻と過ぎていった

    5日後、彼は言った。
    「みんなで行こう」
    「ほんとに?この家はどうするの?」
    「売るかどうにかする。持ちっぱなしにはしない」
    「向こうではどこに住むの?」
    「とりあえず俺が借りたアパートかな」
    「狭いじゃん」
    「そんなこと言ったって。子供たちが行きたいって言うんだから仕方ないだろ」
    「引っ越しの費用はどうするのよ」
    「どうにかするよ」
    「どうにかって、いまのうちの経済状況わかってんの?」
    「わかってるよ、そのくらい」
    「ほんとにわかってんのかね。まあいいよ、引っ越す準備するから」

    「みんなで岡山行こう!」
    「やったー!」
    「桃太郎いるかな!」
    「楽しみ!お友達たくさん作るんだ!!」
    「準備で大変だよ、ほら荷物まとめて」

    彼だけ先に向かうことになった。当然と言えば当然である。初出勤を延期するわけにはいかない。

    1月11日、彼が発つ前夜。彼は、朝4時には出てしまう。
    しばらく妻子の顔は見られなくなる。みんなでちょっとした夕食会をし、話したりゲームをしたりした。そして、みんな床についた。

    1月12日朝3時に彼は起きた。妻子はもちろんまだ寝ている。
    彼はスーツに着替え、その上からコートを着、たくさんの荷物を持って外に出た。

    「行ってきます」

    彼は、家に火をつけた。

     
     
     
    マーチング / ドラムコー / フロントアンサンブル / 作編曲 // アメリカ文学 / クリエイティブライティング / 詩 / 小説 / 作文 / 表現 // 旅行 // TUBE // 適応障害

    あなたへのおすすめ