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Székely István『Hyppolit, the Butler』背伸びをしすぎた成金夫婦

    原題は"執事のヒポリット"。1930年代を中産階級向けコメディ色に塗り上げたハンガリー映画史に残る傑作コメディ。ハンガリー映画20世紀ベスト12、通称"ブダペスト12"に選出されていることからも重要性が伺える。監督のセーケイ・イシュトヴァーン(Székely István、後のスティーヴ・セクリー)は本作品によって時代の寵児となるも、1939年の所謂"ユダヤ人法"によって職を追われ、アメリカへ亡命した。(詳しくはハンガリー映画史の記事参照)

    事業に成功した成金のマーチャーシュ・シュナイダーとその妻は、上流階級の仲間入りを果たそうと思い立って執事を雇うことにする。そして、27年間伯爵に仕えていたというヒポリットが家にやってくる。彼らの会話が面白い。夫妻は上流階級が決まった時間に風呂に入っていることも食事制限をしていることも知らないのだ。ヒポリットにはそれが当たり前であるので、涼しい顔で指摘する。あたふたする夫妻に対する冷静な執事というのが、執事の職業であれば当然であるのに面白いのである。毒が凄いんだよ、これが。

    シュナイダー夫妻の娘テルカは議員の甥である成金のMakátsから言い寄られていたが、彼女は専属運転手のベネデクのことが大好きだ。両親はベネデクが貧しい青年だからMakátsと結婚して欲しいと思っているが、ベネデクは身分を隠して働く上流階級の青年であり、ヒポリットの知り合いでもあったのだ。んな設定あるかよ、と思うがコメディなんで許したってください。

    背伸びをしたシュナイダー夫妻はツケを払うこととなる。妻は、朝からハードなエクササイズをさせられ、鳥の餌並に少ない朝食に耐えられなくなり、夫は朝から自慢の口髭を剃られて、これまた鳥の餌並に少ない朝食に加えて好きなバーの歌手ミミに電話までされそうになって既の所で回避する。背伸びをしすぎた成金夫婦がキッチリ伏線を回収する様に爆笑するのが本作品のキモなんだろう。

    現代の映画では語ってしまいそうな中間部分が一切なく、貧しい→次のカットでは裕福になっていたり、貧相な家具の部屋→次のカットで豪華な部屋になっていたりする"ご都合主義"的な部分も散見される。そんな伏線も夫の"俺、住所間違えたっけ?"という一言によって回収される。

    一番面白かったシーンは、ベネデクとテルカの会話で"誰が結婚するなんて言った?"→母親がレストランで大量に注文するクロスカットだろう。中々毒の多い本作品でも猛毒に近いシーンだ。

    物語はテルカとMakátsの婚約発表に用意されたパーティにベネデクや議員、ミミまで突入して大団円という昔っぽい終わり方を迎える。私は一言、嘘やん、と呟いた。

    1931年といえばハリウッドですらヘイズ・コード制定以前であり、エルンスト・ルビッチの『極楽特急』(1932)とかローウェル・シャーマンの『わたしは別よ』(1931)みたいな過激な映画が多かった時代でもあるんだが、本作品も現代と比べても過激な皮肉で覆い尽くされている。というか、成金をこれでもかと嘲笑っている。そういうの大好きだけど。会話としてはそこまでウィットに富んているわけではなかったし、常識知らずのおとぼけ系の会話みたいな量産型コメディの枠組みから出ていないのは残念だった。しかし、よく考えて欲しい、本作品が後の枠組みを作ったのだ。てことで、多少は物足りないけど、全体としては満足です。

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    ・作品データ

    原題:Hyppolit a lakáj
    上映時間:72分
    監督:Székely István 
    公開:1931年11月27日

    ・評価:70点

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    東欧/旧ユーゴ/カフカス/中央アジア映画研究家。好きな女優は必ず寡作。筋金入りの非線形天邪鬼。2026年はブルガリアを中心的に。2020年代はカンヌ映画祭のコンペ作品をコンプするぞ! 依頼等はknightsofodessa0715 at gmail まで!