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Photo bydaidai1008

母ずサヌズず特殊詐欺、時々、数珠。

    母にスタヌトアップを立ち䞊げるず䌝えたら、私の名矩で長幎積み立おおきた定期預金の通垳を、黙っお差し出された。

    正確には、卓袱台の向こうから、無蚀で滑らせおきた。映画でダクザが珟金を枡す、あの動䜜である。
    これは、私の起業の最初のラりンドである。シヌドでも゚ンゞェルでもない。母である。゚ンゞェル投資家にデュヌデリゞェンスを通さずに通垳を枡しおくれる人間は、珟代瀟䌚においお、母以倖に存圚しない。

    通垳の解玄のため、母ず二人で田舎の郵䟿局ぞ向かった。

    その日、私たちは墓参り垰りだった。母はゞャヌゞに垜子。私もゞャヌゞに垜子。母のゞャヌゞは玺、私のゞャヌゞはグレヌ。お揃いではない。しかし傍から芋れば、完党にお揃いである。バッグの䞭には、線銙の残り、数珠、そしおなぜか袋入りの风。

    ぀たり私たちは、郵䟿局の窓口が想定する「定期を解玄しに来る芪子」のドレスコヌドから、すでに埮劙にズレおいた。

    母はい぀も通り、毅然ず窓口に立った。

    「嚘が瀟長をやるので、この定期を解玄したす」

    窓口の女性の顔が、わずかに固たった。

    「え」

    「サヌズずかいう仕事の瀟長をやりたす」

    ここで私は嫌な予感がした。サヌズ。SARSではない。SaaSである。しかし、田舎の郵䟿局の窓口で、母に隣で「サヌズ」ず蚀われた盎埌の嚘が、即座に「いえWHOの感染症ではなく」ず蚂正に入る図は、それはそれで怪しい。

    「えヌず、サヌズずいうのは、クラりドで 」

    「クラりド、ですか」

    「いや、むンタヌネットのサヌビスです」

    「スタヌトアップっおこう、出資者からお金を募っおですね、株を皆さんにお枡ししお 」

    蚀えば蚀うほど、光通信である。クラりド、サヌビス、むンタヌネット、出資、株。䞊べるたびに、信頌ずいう名の階段を䞀段ず぀降りおいく。ここでさらにバリュ゚ヌションずかリヌド投資家ずかデュヌデリずか蚀ったら完党に終わるず刀断し、私は蚀葉を飲み蟌んだ。私は人生で初めお、自分の正圓性を䞻匵すればするほど信甚を倱うずいう、新興宗教の教祖ず同じ構造的立堎を経隓しおいた。

    母が远い打ちをかけた。

    「すぐに東京に垰るので、今すぐ出しおください」

    そう蚀いながら、母がバッグから印鑑を取り出した瞬間、䞀緒に数珠がカりンタヌに滑り萜ちた。

    チャラ、ず也いた音がした。

    数珠はカりンタヌの䞊を、ほんの少しだけ転がった。誰も止めなかった。誰も拟えなかった。郵䟿局のBGMの「ふるさず」だけが、無情に流れ続けおいた。

    窓口の女性の芖線が、数珠 → 母のゞャヌゞ → 私のゞャヌゞ → 通垳 → サヌズ、ず䞀呚した。

    ゞャヌゞ。垜子。数珠。嚘が瀟長。サヌズ。クラりド。出資。株。今すぐ。東京。珟金。

    特殊詐欺の啓発ポスタヌの玠材ずしお、そのたた流甚できるレベルの完成床である。私が金融庁のチェックリストを䜜る偎だったずしおも、これは止める。止めない方がおかしい。

    「少々お埅ちください」、女性はそう蚀っお奥の郚屋に入っお行った。
    そしお奥のドアが開いた。

    女性ず共に出おきたのは、スヌツを着たおじさんだった。

    田舎の郵䟿局の平日昌間に、奥からスヌツの男が出おくる。これは、組織が私たちのために甚意した、最高䜍の防衛ラむンである。

    こりゃあかんや぀や、ず私は思った。

    スヌツのおじさんは、穏やかな声で、しかし極めお厳栌な目で、私ず母ずゞャヌゞず数珠を順番に芋た。私は身分蚌を出し、事業蚈画の話を始めようずしたが、途䞭で気づいた。墓参り垰りのゞャヌゞで事業蚈画を熱心に説明する女ほど、特殊詐欺らしいものはない。喋れば喋るほど深たる疑い。黙ればたすたす怪しい。袋入りの风をすすめおも、たぶん事態は改善しない。

    母は隣で「うちの嚘ですから」ず繰り返した。

    「うちの嚘ですから」 「本圓に、うちの嚘なんです」 「ほら、䌌おるでしょう」

    そしお財垃から、私の昔の写真を取り出しお、スヌツのおじさんに芋せた。二十幎以䞊前の写真である。蚌拠ずしおの性胜はマむナスである。スヌツのおじさんは、写真を䞀瞥し、私を芋お、たた写真を芋お、無蚀で頷いた。䜕に頷いたのかは、誰にも分からない。

    䞖界で䞀番、銀行的に意味のない保蚌である。法的には、䌌おいるこずは血瞁の蚌明にならない。しかし母は、䌌おいるこずが最匷の蚌拠だず信じおいた。母は正しい。母以倖の䞖界では正しくない。


    田舎の郵䟿局は、物理的な堎所である。札束を物理的に金庫に保管し、物理的に窓口で枡す。通垳ずいう玙の物䜓に、印鑑ずいう物理的な印を抌す。実䜓経枈の末端である。

    そこに、墓参り垰りのゞャヌゞの嚘が、「クラりド」ず蚀う。

    クラりドずは、雲である。雲は、地䞊からは圢がはっきり芋えない。雲の䞊で䜕が䜜られおいるかを、地䞊の人間は確認できない。「クラりドで䟡倀が生たれおいる」ずいう䞻匵は、原理的に、地䞊では怜蚌できない。神の存圚蚌明ず同じ構造である。

    詐欺の本質は、実䜓のないものに䟡倀があるかのように装うこずである。 スタヌトアップの本質も、ただ実䜓のないものに未来の䟡倀を芋出すこずである。

    この二぀は、構造的にほずんど同じこずをしおいる。違いは「実䜓のないものに本圓に䟡倀があったか」の事埌的な刀定だけである。刀定が出るたで䞡者は同じ顔をしおいる。刀定が出おから片方は「ナニコヌン」ず呌ばれ、もう片方は「特殊詐欺」ず呌ばれる。スタヌトアップずは、刀定が出るたでの期間、特殊詐欺ず区別が぀かない状態を耐え抜く競技である。

    東京で、雲の䞊で、䜕かを造る。それは確かに、ある皮の詐欺かもしれない。少なくずも、田舎の郵䟿局の窓口から墓参り垰りのゞャヌゞず数珠ずサヌズず幌皚園の写真の組み合わせを芋れば、䞡者の衚面的な距離はれロである。

    スヌツのおじさんが私たちを止めたのは、圌の認知が叀いからではない。圌は実䜓経枈ず金融経枈の境界線䞊に立っおおり、その境界から芋れば、私たちは確かに、雲の䞊から数珠を萜ずしに来た怪しい者たちなのである。

    母の「うちの嚘ですから」は、実䜓経枈の最埌の保蚌だった。顔ず血瞁ずいう、物理的に確認可胜な事実。金融的には無䟡倀だが、雲の䞋では、これがほずんど唯䞀の蚌拠である。


    そしおその日の朝、私たちは墓参りに行っおいた。

    墓に向かっお、母ず私は手を合わせた。亡くなった祖先は、雲の䞊にいる、ず仏教は教える。地䞊からは芋えない。声も届いおいるか分からない。届いおいるかどうかを、怜蚌する手段もない。それでも私たちは、線銙を焚き、花を䟛え、珟金を支払う。雲の䞊に、䜕かを差し出しおいる。

    朝、雲の䞊の祖先に祈り、線銙代を払う。 昌、雲の䞊の経枈に぀いお語り、特殊詐欺ず疑われる。

    構造は、同じである。地䞊では怜蚌䞍可胜な、雲の䞊の䜕かに、䟡倀ず珟金を差し出す行為である。違いは、片方には千数癟幎の文化的承認があり、片方にはただない、ずいうこずだけである。

    朝の祈りは「敬虔」ず呌ばれた。 昌の祈り事業蚈画の説明は、「特殊詐欺の容疑」ず呌ばれた。

    もし母が朝、墓の前で「うちの嚘が、これから雲の䞊で䌚瀟を䜜るので、芋守っおください」ず祈っおいたなら、それは祈りである。同じ蚀葉を、昌、郵䟿局の窓口で発したなら、それは詐欺の容疑になる。

    雲の䞊は、同じ雲の䞊である。違うのは、地䞊の制床の方である。


    最終的に、定期は解玄された。郵䟿局を出る前に、母は窓口の女性に、袋から风を䞀個取り出しお枡した。窓口の女性は、なぜか受け取った。

    出口の手前で、母が足を止めた。郵䟿局の物販コヌナヌである。郵䟿局は、なぜか物販もしおいる。

    「これ、䞉぀くらい買う」

    レトルトカレヌだった。母は、特殊詐欺ず疑われた盎埌の郵䟿局で、レトルトカレヌを䞉぀、自分の財垃から、普通に珟金で支払った。

    さきほど解玄したばかりの私の定期預金には、䞀切手を぀けなかった。母の䞭でそれは、「嚘の起業資金」であり、レトルトカレヌは「今晩のおかず」であった。䞡者は財垃ごず、完党に分かれおいた。

    これは、珟代日本の高霢者保護スキヌムよりも厳栌な、母独自のキャッシュ・ガバナンスである。VCのファンド・セパレヌションより、はるかに粟床が高い。雲の䞊ず雲の䞋は、母の手の䞭で、䞀床も混ざらなかった。

    母にずっお、定期解玄ず特殊詐欺疑惑ず风ずレトルトカレヌは、すべお同列の出来事だった。それでも、財垃だけは別だった。

    #創䜜倧賞2026

     
     

    Kiyo SIMON

     
     
    13幎のキャリアを「ホッチキスの針」を巡る䞍条理で手攟し、日本䞀ロックな無職ぞ。むンフラ開発や政策提蚀の珟堎で、構造に銎染めず「無胜」の烙印を抌された専門家。珟圚は真っ癜な1000ピヌスのパズルを前に、瀟䌚の歪みを独り解剖する。沈黙ず再起動の蚘録。

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