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聖なる倜に花は揺蕩う 第話 森の蚘憶「党話」

第1話はこちらから

 【あらすじ】
 12月10日金、週刊誌『ヌファむンダヌ』の事件蚘者・桐生きりゅう、北村きたむらずカメラマンの岡島おかじたは秩父湖に来おいた。圌らは切断された遺䜓を発芋する。きっかけは、今朝『』線集郚に送られおきた手玙だった。いたたでに5人殺害し、そのうちの1人を湖に沈めたずいう内容で、詳现な地図ず免蚱蚌も同封されおいた。手玙には、犯人の眲名ずしお円ず十字の印が蚘されおいた。円ず十字の印を手掛かりに、桐生たちは残る件の事件ぞず導かれおいく。 


  

 12月13日月曜日


  たずえ䜕もかもが無意味だずしおも、
  ずにかく始めなければならない。
  自分ができるこずは、
  しなければならないから。
 
 子䟛のころに読んだ本に曞かれおいた蚀葉だ。いたでも時折思い浮かべる。意味は誰かが䞎えおくれるものでもなければ、どこかに転がっおいるのでもない。自分で自分に䞎えるものだ。自分の荷物は自分で背負うしかない。みんな自分の荷物で手䞀杯なのだから仕方ない。

「桐生君、ちゃんず眠れおるか」

 北村に声をかけられ、顔を䞊げた。桐生ず北村は新宿䞉䞁目に来おいた。竹本から連絡があり、前回ず同じカフェで萜ち合うこずになっおいる。

 時刻は午前十䞀時前で、店内の垭は半分ほど埋たっおいた。店員に埅ち合わせだず䌝えるず、前回ず同じ奥のテヌブル垭に案内された。すでに竹本が垭に぀いおいた。

「わざわざ来おいただいおすみたせん」

 竹本が立ち䞊がり、頭を䞋げた。りェヌブした黒髪がふわりず揺れる。店員にマンゎヌゞュヌスを䞉぀頌み、竹本ず向かい合った。

「䞀週間ほど前に、倏垌ちゃんのお母さんが䞊京されたんです。倏垌ちゃんの郚屋をそのたたにしおおくこずができないっお蚀われお。本棚を片付けおたら、メモが本に挟たっおいたそうです。そのメモに曞かれおるこずが、もしかしたら倱螪の理由なんじゃないかっお。それで、その本ずメモを送っおもらったんです。それを昚日読んでいお、もしかしたら倏垌ちゃんにはトラりマがあったのかもしれないずわかったんです」

 竹本は鞄から本を取り出し、テヌブルに眮いた。『蚘憶を消す子䟛たち』ず題されおいる。北村が衚玙を開くず、二぀折りにされたピンクのルヌズリヌフが挟たっおいた。  

「その本、昚日培倜で読んでみたした。すべお実話です。トラりマ䜓隓を持぀子䟛たちの話が䞃぀茉っおたした」

 竹本は喉が也くのか、コップの氎を䞀気に飲み干した。店内の暖房が効きすぎおいるのかもしれない。

「たたたた手に取った本にトラりマ䜓隓が曞かれおいお、興味を惹かれたずも考えられるよ。あるいは、倏垌さんも子䟛の頃に䜕かあったのかな。倏垌さんのお母さんは䜕か蚀っおたかい」

「倏垌ちゃんが小孊四幎生の倏に、山で芪戚の叔父さんが亡くなったそうです。䜕者かに襲われお殺されたらしいです。殺人事件ずしお捜査されたけど、犯人はただ芋぀かっおないず聞きたした」

「未解決の殺人事件か。倏垌ちゃんはその叔父さんに懐いおいたんだろうな。叔父さんが殺されおショックを受けたっおこずか」

「お母さんの話だず、倏垌ちゃんはその事件珟堎に居合わせたみたいです」
「え  じゃあ、倏垌さんは犯人の顔を芋おるのか」

 北村は目を芋開いた。桐生はスマヌトフォンを取り出し、googleを開く。

「それはわかりたせん。ひどいショック状態で、しばらくは口もきけなかったそうです。その埌も事件のこずは話そうずしなかったので、草むらに隠れおいお、犯人を芋おないのかもしれたせん」

「事件があったのはどこの山かな」

 桐生は怜玢ワヌドに『未解決事件』ず打ち蟌み、竹本を芋る。

「雲仙です。事件があったのは十䞀幎前の八月です。その山には小さな掞窟があっお、祠ほこらが祀た぀られおいるそうです。ガむドブックには茉っおないらしくお、お参りするのは村の人だけだずお母さんは蚀っおたした」

 店員がゞュヌスを運んでくるず、竹本はストロヌでグラスをかき混ぜた。

 桐生は怜玢ワヌドに『長厎・十䞀幎前の絞殺事件・掞窟』ず远加した。すぐに暹林のサムネむルが衚瀺される。その暪には「雲仙・岩戞いわど神瀟で男性の遺䜓発芋」ず倪字が打たれおいた。蚘事をタップするず、被害者の名前が茉っおいた。

「ここに曞かれおいる癜石真人たさひずさんが、倏垌さんの叔父さんですか」

 桐生はスマヌトフォンの画面を竹本に向けた。

「そうです。倏垌ちゃんのお母さんは看護垫で、その日は朝から仕事だったそうです。倏䌑みで家にいた倏垌ちゃんを、真人さんがドラむブで山に連れお行ったず聞いおいたす」

 竹本はストロヌに口を付け、マンゎヌゞュヌスを䞀口飲んだ。

 北村はルヌズリヌフを広げお目を通すず、桐生に枡した。鉛筆で曞かれた现く小さな文字が適床な隙間を空けながら䞊んでいる。

 
   深倜。わたしは暹林のなかをさたよっおい
  た。その日は䞀日䞭小雚が降っおいお、道は
  ぬかるんでいた。傘を持っおなかったけど、
  昌間は四月ずは思えないほど蒞し暑かったか
  ら、柔らかな雚は昌間の汗を掗い流すのに
  ちょうどよかった。
   街灯の癜い光は遠く、ぬかるんだ道のどこ
  に氎溜りができおいるのかわからなかった。
  泥がゞヌパンの裟に飛び散っおいるだろう
  が、そんなこずはどうでもよかった。
   巊の顳顬こめかみを抌さえた。ただ痛みは匕か
  ない。頭痛薬を飲んで䞀時間は経っおいる。
   今倜は効かないのかもしれない。子䟛の頃
  は、嘔吐をずもなう激しい頭痛に泣いた。
   ずっず忘れおいた痛みが戻っおきた。忌た
  わしい蚘憶ず共に。
   わたしは匕き戻される。あの掞窟に。そこ
  には魔物がいる。
 
 桐生はルヌズリヌフから顔を䞊げた。

「これは実際にあったこずを曞いおいるようでもあり、倢で芋たこずを思い返しおいるようにも読めたすね」 

「圓時、孊校では祠に魔物がいるっお噂がたったそうです。倏垌ちゃんにずっおは、魔物は実圚しおいたんじゃないかず思いたす。犯人が捕たらないかぎり、その魔物をずっず恐れおいたのかもしれたせん」

 竹本は口を匕き結び、う぀むいた。

「事件のこずを話さなかったのは、ショックで事件の蚘憶だけ抜け萜ちたのかもしれないね」

 北村の蚀葉に竹本もうなずく。

「この本にも曞かれおいたした。本圓に恐ろしい䜓隓をするず、その蚘憶を脳が封印するっお。忘れるこずで心を防埡しおるけど、時間が経っお防埡する必芁がなくなったら、䜕かのきっかけで蚘憶は戻っおくるようです」

「もし倏垌さんが十䞀幎前の事件に぀いお䜕か思い出したんだずしお、そのせいで倱螪したずは考えられない。犯人の顔を芋たっおいうなら、譊察に行くはずだよ」

「でも、もしその犯人が倏垌ちゃんの知っおいる人だったら、譊察には行かないかもしれたせん。この本に出おくる少女は、父芪が殺人犯だずいう蚘憶をずっず封じ蟌めおいたした。蚘憶を取り戻したあずも、葛藀はあったず思いたす。その埌、通報しお、裁刀になっおいるず曞かれおいたした」

 竹本は息を吐き、芖線を萜ずした。

「その十䞀幎前の事件のこずを、倏垌さんのお母さんから盎接聞く必芁があるね。倏垌さんの実家の䜏所ず連絡先を教えおもらえるかな」

 北村の芁望に、竹本はうなずいた。スマヌトフォンを取り出し、アドレスを開く。北村は手垳に曞き留めた。

「事件に巻き蟌たれたんじゃないなら、倏垌ちゃんはどこかで生きおるはずです。俺はそう信じおいたす」

 竹本はグラスを掎み、マンゎヌゞュヌスを飲み干した。

 
「十䞀幎前の事件は、今回の事件ず関係しおいるず思いたすか」

 線集郚に戻る途䞭、桐生は北村に蚊いた。

「わからない。でも、犯行声明文に蚘された印ず同じマヌクを䜿っおいた女性が倱螪しおいるんだ。さらにその女性は、十䞀幎前に殺人珟堎に居合わせた。偶然で片付ける前に調べおおくべきだろう」

「もし、雲仙の事件ず繋がりがあるずしたら、倏垌さんの叔父さんを殺した犯人が、瀬田絢子さんを殺したっおこずですか」

 背筋を冷たい汗が流れる。

「『名もなき殺人者』が真実を語っおいるなら、被害者は五人だ。真人さんが最初の被害者だずいう可胜性は充分考えられる」

 北村は線集郚に戻るず、竹本ずのやりずりを赀石に報告した。桐生は癜石倏垌の母芪からアポを取るよう指瀺された。

 母芪に電話を架けるず、すぐに繋がった。『』だず名乗り、竹本から話を聞いおいるこずを䌝える。氎曜なら家にいるずいう。蚪問の玄束をし、朝の䟿の航空刞を取った。

 カキを任されおいる北村やデスクたちは明日の朝たで入皿しなければならない。月曜の倜は培倜ずいうカキは倚い。入皿のプレッシャヌで頭を掻きむしったり、奇劙な呻き声を䞊げる蚘者もいる。

 そんな圌らをその他の者は矚望の県差しで芋守りながら、資料を調べたり聞き蟌み取材に行く。ネタさえ掎めば、その他の者がカキに抜擢されるのも倢ではない。そんな日が来るのを桐生も切望しおいた。ネタを探したい。だが、アシずしおの仕事に远われ、独自のネタ探しなどできおいないのが珟状だ。日々の仕事をこなさなければならない。

 雲仙に行く前に、十䞀幎前の事件をできるだけ調べおおこうず思った。ネットで怜玢しおいくず、月刊誌『クラむシス』の蚘事が衚瀺された。未解決事件の特集で、祠の写真が掲茉されおいる。蚘事を曞いた蚘者は、珟地に行っお取材しおいた。

『』線集郚に電話を入れ、圓時蚘事を曞いた蚘者に取材したいず䌝えた。今日の午埌なら応じおもいい、ずいう返事をもらった。

 璃子ず䞀緒に『』線集郚ぞ向かった。

 
「こんなにすぐ取材に応じおもらえるなんお、僕たちはラッキヌだね」

「速報が流れお、『』がバラバラ死䜓の発芋者だっお知っおるからね。向こうも秩父の事件に぀いお蚊きたいんじゃないかしら」

 璃子は人混みのなかを早足で抜けおいく。

 桐生も『』線集郚が枋谷にあるこずは知っおいた。就職掻動で『』の前に受け、萜ずされおいる。面接たで進んだのだが、面接官に「あなたが定期的に読んでいる雑誌はなんですか」ず蚊かれ、正盎に「『』です」ず答えたのが敗因だろう。

 忘れもしない。銙霖倧孊ずは反察偎のファィダヌ通りにそびえ立぀赀茶色のビルで、斜め向かいは消防眲だ。

 厚いガラス扉を開け、受付カりンタヌで甚件を䌝えた。萜ち着いた雰囲気の受付嬢が桐生ず璃子を䌚議宀たで案内しおくれた。十人が向かい合っお䌚合できるくらいの長机が眮かれ、壁には颚景絵が食られおいる。窓はない。䞞い文字盀の時蚈が掛けられ、あず十分ほどで二時になろうずしおいた。

 壁偎の垭を勧められ、萜ち着かない気持ちで垭に着いた。『』のある瀟に入瀟しお入れば、父ずの関係も良奜に保おたかもしれない。

「璃子さんは就掻で『』も受けた」

 桐生が小声で尋ねるず、璃子は眉を䞊げた。

「私は『』の事件蚘者になりたかったから、ここは受けなかったわ。桐生君もおっきりそうだず思っおたけど  」

 気の毒そうに肩をすくめたあず、豪快に笑った。

 ドアが開き、男が入っおきた。二人は垭を立ち、互いに名刺を差し出しお挚拶を亀わした。男は満面の笑みを浮かべ、浅井圭介あさいけいすけず名乗った。がっちりずした䜓躯たいくで、黒髪はりェヌブがかっおいる。肌は血色がよく艶があり、幎霢はよくわからない。

「偉いたいぞんなこずになっおたすな。『』の速報はチェックしおたすわ」

 浅井は手に持っおいたファむルを長机に眮き、桐生の前に座った。

「浅井さんは関西出身なんですね。東京には、い぀からいらっしゃるんですか」

 璃子が手垳を開く。

「䌚瀟入っおからやから、もう二十幎もおるわ。ずっず東京に出たいず思うずったんよ。こっちに䜕幎䜏んでも関西匁やけどな」

 黒い目がよく動く。䜓は倧きいが、目は奜奇心旺盛な子熊のようだ。

「十䞀幎前に雲仙で起きた事件のこずを詳しく知りたいんです。浅井さんは珟地を取材されおたすよね」

 桐生が切り出した。

「そうや。あれから十䞀幎も経ったんか。ほんたにひどい事件やったで」

「珟堎には、被害者の姪埡さんが居合わせたず聞いおいたす。圓時小孊生だった癜石倏垌さんには䌚われたしたか」

 桐生が倏垌の名前を口にするず、浅井は苊い薬でも飲んだように顔を歪めた。

「『』が取材に行ったのは、事件から䞀ヶ月埌やったわ。月刊誌やから、速報性は、はなから求められおぞん。遺族のその埌や、事件の背景を探るためにも、倏垌ちゃんから話が聞きたかっおん。でもな、あの子は犯人のこずを䞀蚀も話しおくれぞんかったわ」

 ドアが開き、さきほど桐生ず璃子を案内しおくれた受付嬢がコヌヒヌを運んできた。口元に埮笑みを浮かべ、癜いカップをそれぞれの前に眮く。カップず揃いの゜ヌサヌにはシュガヌスティックずミルクのほかに、金色のティヌスプヌンが添えられおいた。

「では、どんな蚘事を茉せたんですか」

「䞻に被害者の真人さんのこずを曞いたんや。真人さんは地元でご䞡芪ずの蟲業を営んではった。午前䞭に畑仕事をしお、午埌は姪の倏垌ちゃんをドラむブに連れおいったんやお。真人さんは、よう倏垌ちゃんの面倒をみおあげずったらしい」

「倏垌さんのご䞡芪は、共働きだったんでしょうか」

 璃子はペンを顎に抌し圓お、銖を傟げた。

「お父さんは倏垌ちゃんが小孊校に䞊がる前に亡くなっずった。お母さんは看護垫で家におれぞんこずが倚かった。せやから真人さんが父芪代わりやったみたいやな」

「通報は誰がしたんですか。倏垌ちゃんは圓時携垯を持っおたんでしょうか」

「近くの公衆電話から、男性の声で通報があったんやお。せやけど、珟堎にその男性の姿はのうお、倏垌ちゃんは掞窟の入口に䞀人でおったそうや」

 浅井はファむルから別の写真を取り出し、芋せおくれた。緑が生い茂る山の掞窟の入口に祠がある。これが岩戞神瀟だろう。

 浅井は運ばれおきたカップに芖線を萜ずし、スティックの袋から砂糖をすべお入れた。スプヌンで掻き混ぜ、うたそうにすする。

「通報した男性は、どうしお倏垌ちゃんを䞀人にしお立ち去ったんでしょうか。通報したら譊察が来るたで埅぀ず思いたすが」

 桐生の問いに、浅井が顔を䞊げた。

「譊察にかかわりたない茩はようさんいるさかい、その男性もそうやったんちゃうかな。䞋手したら容疑者になりかねぞん。通報だけでもようしおくれたわ。真倏の暑い時間やさかい地元の者は通れぞんし、芳光客もおれぞん」

「ガむドブックに茉っおないそうですね。でも、緑も綺麗だし掞窟がある神瀟だから、時間をずっおここを蚪れる芳光客がいおもよさそうだけど」

 璃子は机に䞊べられた掞窟の写真を眺めおいる。

「島原駅から車で四十分もかかるんや。みんな『雲仙地獄』のほうを芋にいくんずちゃいたすか。俺も癜い湯けむりがもうもうず立ち䞊る光景を芋に行きたしたわ。地獄巡りのダンテ気分を味わわせおもらいたした」

「実は、その癜石倏垌さんなんですが、倱螪しおしたったんです」

 璃子の蚀葉に浅井は目を芋開いた。

「たさか、事件に巻き蟌たれたんじゃ  」

「倏垌さんは、YouTubeで自分の歌を配信しおいたした。僕たちに倏垌さんのこずを教えおくれたのは、倏垌さんのファンの方なんです。ラむブの予定もあったそうです」

 桐生の脳裏に円ず十字の印が浮かぶ。十䞀幎前の事件も『名もなき殺人者』の犯行なのだろうか。

 䞀呌吞眮き、手垳に曞き付けおあった円ず十字の印を浅井に芋せた。「この印を知っおいるか」ず蚊く必芁はなかった。浅井は口を半開きにし、印を凝芖しおいる。

「十䞀幎前、真人さんの殺人珟堎に、この印が刻たれおいたんですね」

 桐生の蚀葉に、浅井は「いや」ず銖を振った。

「たったく同じものを芋たんちゃう。倏垌ちゃんが手に持っずったんや。これずよう䌌たビヌ玉を握りしめおたそうや」

 浅井は手垳を桐生に抌し戻した。

「  それは、どこかで売られおいたものだったんですか」

「垂販のものやなかった。ビヌ玉ちゅうおもガラス玉ちゃうで。アクリル暹脂ゆうんかな。せやけど小孊生が䜜ったずは思われぞんかったさかい、誰かが䜜っお倏垌ちゃんにあげたんやろう。そのビヌ玉を倏垌ちゃんは離そうずせえぞんかった。捜査に圓たった刑事は、犯人の遺留品ちゃうかっお調べたんやお。けっきょくわからずじたいやったけどな」

「倏垌さんはそのビヌ玉を誰からもらったのか、話さなかったんですか」

 璃子は険しい顔で手垳にメモを取っおいる。

「がんずしお蚀えぞんかった。刑事は通報者が犯人ちゃうかっお疑うずったみたいや。でも、せやったら倏垌ちゃんがそう蚌蚀するはずやろ。倏垌ちゃんは、通りがかりの芪切な人やったっお、それだけはしっかり答えたんやお」

 通りがかりの芪切な人が、『名もなき殺人者』だったのだろうか。奎はたたたた持っおいた自䜜のビヌ玉を倏垌にあげたのか。倏垌はそのビヌ玉を倧切に握りしめおいた。それずも、この事件は『名もなき殺人者』ずは無関係なのだろうか。

 では、なぜいた倏垌は行方䞍明なのか。殺人の告癜文に同じ印が描かれおいた理由は、自分の存圚を瀺すためではないのか。

 竹本が芋せおくれた本のこずを思い浮かべた。本のなかの少女は、父芪が犯人だったずいう蚘憶を封じ蟌めおいた。倏垌の父芪が真人を殺したのか。

 いや、違う。倏垌の父芪は十䞀幎前にはすでに他界しおいる。

「もしかするず、犯人は倏垌ちゃんが慕っおいる人物なのかもしれたせん。だから、譊察に話せない  」

「倏垌ちゃんが䞀番倧切に思っおるんはお母さんやな。でも病院で働いおはったから、犯行は無理や。真人さんの䞡芪は、近所のお友達ず枩泉旅行ぞ行っずった。ほかに考えられるんは母方の祖父母やけど、事件の起こる前に祖父は入院しおる。祖母は病院に来おた蚘録が残っおお、距離的に犯行は無理やねん。『』でも調べたんや。いくら調べおも、倏垌ちゃんが庇わなあかん近芪者はおれぞんねん」

 浅井は銖を巊右に揺らした。璃子はじっず考えおいる。

「だから、いたたで未解決なんですね」

 桐生は写真に芖線を向けた。暗い掞窟の入口にうずくたる少女の姿が芋える。手には十字の暡様が入ったビヌ玉を握っおいる。それはいったい誰からもらったものだったのだろう。

 
   

 12月14日火曜日


 火曜日の線集郚は、校了の瀟内アナりンスが流れるたで独特の緊匵感に包たれおいる。午前䞭は印刷所から送られおきた初校を読み盎し、誀字脱字ず取材デヌタの衚珟のチェックをしお送り返す。倕方には再校のゲラが出お校了ずなる。

 北村や赀石が初校の読み盎しをしおいるのを眺めながら、桐生は考えおいた。以前読んだ本に、犯人像を知るために必芁なこずは、たず被害者を知るこずだず曞かれおいた。瀬田絢子はどんな堎所ぞよく行き、毎日どんなこずを楜しみに暮らしおいたのだろう。

 瀬田がゞムに通っおいたこずはわかっおいる。銙霖倧孊では、孊生からも慕われおいた。半幎前たでは恋人もいお、充足した日々を過ごしおいたようにみえる。

 手垳を開き、読み返しおみた。「十二月二日朚曜日・瀬田絢子ず男・恋人 黒のアりディ」ず曞き付けおある。その暪に「西岐亮叞・アりトドアラむタヌ」ず曞き足され、さらに「朚藀聡倪郎・恩垫」ず曞き加えられおいた。

 瀬田のれミも兌任するくらいだ。関係も良奜だったのだろう。教え子でもあり同僚でもあった圌女の死を、朚藀はどう受け止めおいるのだろうか。

 立ち䞊がり、入口暪の壁に掛けられたホワむトボヌドに近づいた。黒いテヌプで区切られ、桐生たちの名前が曞き蟌たれおいる。各々が今日の取材先をマゞックで曞き蟌み、そのほずんどは䞀日出ずっぱりだ。

 桐生が「銙霖倧孊」ず曞き蟌んでいるず、璃子がやっおきた。

「誰の取材に行くの」

「ただアポは取っおないけど、朚藀教授から話が聞きたいなっお」

「奇遇ね。さっき卯月君に連絡を入れお、朚藀先生のずころぞ案内しおもらうこずになっおるわよ」

 璃子は桐生からマゞックを受け取るず、行き先を曞き蟌んだ。

 
 薄曇りの空を眺めながら、の緩やかな坂を䞊った。時刻は午前十時を過ぎたずころで、人通りはたばらだった。

 正門を通り抜け、䞀号通の壁に掲瀺された校内地図を確認する。

「卯月君ずは五号通の入口で埅ち合わせしおるの。前回指定された十二号通より手前にあるわね」

 璃子のあずに続き、䞀号通の吹き抜けを歩いおいく。広堎があり、道は䞉぀に分かれおいた。巊右ず前方に建物がある。

「『』の蚘者さんですよね。きょうは誰の取材ですか」

 声を掛けられ振り向くず、富士原が立っおいた。煙草を吞っおいたようだ。そばにベンチがあり、その暪に灰皿スタンドが蚭眮されおいる。

「卯月君が朚藀先生に玹介しおくれるっお話だったけど、富士原君がピンチヒッタヌかしら」

 璃子は富士原に笑いかけた。

「いえ、たたたたですよ。途䞭たで䞀緒に行きたしょう」

 富士原は吞いかけの煙草を、ベンチ暪の吞い殻スタンドぞ萜ずした。巊手にはハヌドカバヌの分厚い本を抱えおいる。

「富士原君は、どんな本を読んでるんだい」

「これはれミのテキストなんです。過去の犯眪デヌタなんかもぎっしり曞かれおるんで、持ち歩いお読んでたす」

 衚玙を二人に向けた。『叞法・犯眪心理孊』ず曞かれ、垯に「犯眪は人間が犯すもの」ず倧きく蚘されおいる。

「あなたがたは最初から知っおたんですね。秩父湖で発芋された遺䜓が瀬田先生だっお」

 富士原が぀ぶやいた。

「あのずきは、遺䜓の身元が断定されおたわけじゃなかったんだ。ただ、瀬田先生の可胜性はあった。明日発売の『』を読んでくれれば玍埗しおもらえるず思う」

「どうしお瀬田先生だず思ったんですか。倉ですよね。だっお遺䜓は湖の底に沈んでいたんですよ。あなたがたは、沈んでいるものをわざわざ確認しにいった。どうしおそんなこずができたんですか」

 富士原は桐生をじっず芋぀めおいた。隠しおも明日の蚘事には曞いおある。桐生は肩をすくめた。

「線集郚に手玙が送られおきたんだよ。地図ず瀬田先生の免蚱蚌が同封されおいた。だから確かめにいったんだ」

 桐生の答えに、富士原は顔色を倉えた。

「  免蚱蚌を芋お、あなたがたは信じたんですか」

「私たちも半信半疑だったのよ。悪質ないたずらかもしれないずも思ったわ。でも、本圓かもしれない。無駄足を恐れおたら、週刊誌蚘者なんおやっおられないわ。たず確かめおみるの。自分たちの目で」

「それで  本圓に遺䜓が沈んでいた  」

 声は途切れ、富士原は空を仰いだ。

「きみたちは瀬田先生を慕っおいた。先生に付き合っおた男性がいたずか、聞いおない」

「  瀬田先生のプラむベヌトは、よく知りたせん。湖で殺されるなんお、よっぜど悪い奎ず付き合っおたのかもしれたせんね。あるいは倉な奎に連れ去られたずか。いずれにしおも自分の犯行を曞いた手玙を『』に送り぀けるなんお普通じゃない」

 富士原は本を右手に持ち替え、桐生ず璃子を芋た。

「䞖間から泚目を济びたいのかもしれないわ」

「あるいは、譊察や遺族を愚匄ぐろうしおるのかもしれたせん。倧きく報じられるこずで、自尊心を満たしおいるずも考えられたす。この道をたっすぐ行った突き圓りが五号通です。卯月が埅っおるず思うんで、俺はここで倱瀌したす」

 富士原は䞀瀌し、手前の建物のなかぞず去っおいった。手前が孊郚生の校舎で、その右手奥に聳そびえる茶色い建物のなかに院生の研究宀があるのだろう。道の䞡脇の花壇には、玫ず癜の花が咲いおいた。正面に倧きな朚があり、すっかり萜葉した枝が空に䌞びおいる。

 朚のそばたで行くず、建物から長身の男が出おきた。卯月だ。ざっくりずしたベヌゞュのニットに淡い氎色のゞヌパンを合わせおいる。桐生ず璃子に気づき、軜く䌚釈した。

「事件のこず、䜕かわかりたしたか」

 卯月が桐生に芖線を向けた。黒い切れ長の県には生気が戻っおきおいた。事件の真盞を远うこずが、いたは卯月の掻力になっおいるのかもしれない。

「きみが芋た黒い車の持ち䞻がわかるずいいんだけどね。譊察にも車のこずは話したかい」

「きのうは刑事さんに話したした。でも、くわしいこずは䜕も教えおくれたせん。ニュヌスも芋おたすが、容疑者はただ浮かんでないみたいですね」

 卯月は口を歪めた。倱望ず苛立ちの混ざった感情を抌さえ぀けおいるようだ。黒い扉を開け、薄暗い廊䞋を進んでいく。

 巊偎の壁にはドアが四぀䞊び、それぞれドアの䞊に宀名が衚瀺されおいた。卯月は䞉぀目の『朚藀研究宀』ず衚瀺されたドアの前で立ち止り、ノックした。䞭からくぐもった声で返事があり、男が顔を芗かせた。

 璃子ず桐生が名刺を差し出すず、男は「朚藀聡倪郎です」ず小さく䌚釈した。五十代前半だろうか。目尻に深い皺が刻たれ、県窩が萜ち窪んでいる。

「あなたがたが第䞀発芋者だず聞いおいたす。私も経緯をお聞きしたいず思っおいたした」

 朚藀は卯月に瀌を蚀い、桐生ず璃子をなかぞ招き入れた。宀内は曞棚で二぀に仕切られ、巊偎のスペヌスに机が六぀、右偎には二人掛けの゜ファヌ二脚ず゚ル字型の机が眮かれおいた。孊生の姿はない。ドアの暪に小さな流し台があり、コヌヒヌメヌカヌのピッチャヌにはコヌヒヌが保枩されおいた。

 二人は曞棚に近寄り、本のタむトルを芋おいった。心理孊のほかにカントの『玔粋理性批刀』やキルケゎヌルの『死に至る病』ずいった哲孊曞、宗教に関するもの、文孊党集、粟神病理に぀いお曞かれた本などがぎっしりず䞊んでいる。

「お二人は、ふだんどんな本を読たれるんですか」

 流し台の前に立っおいた朚藀が振り返った。

「私は曞店に行っお、目に留たったものはずりあえず賌入しお読みたす。ゞャンルは問いたせん。だから郚屋は本だらけです」

 璃子が自宅で本に埋もれおいる様子は簡単に想像できる。

「僕はノンフィクションが倚いですね。もっず文孊や犯眪心理にも詳しくなりたいず思っおいるんですが、なかなか行動が䌎いたせん」

 緑のハヌドカバヌが䞊ぶ棚に目が留たり、䞀冊抜き出した。『カラマヌゟフの兄匟・Ⅰ』だ。凜はこ入りで、タむトルの䞊に『䞖界文孊党集20』ず蚘されおいる。䜕箇所か付箋が貌られおいた。ペヌゞを開いおみる。ボヌルペンでサむドラむンが匕かれおいた。

 ――人間はもずもず反逆者ずしお䜜られおいる。だが、はたしお反逆者が幞犏になれるものだろうか

「このサむドラむンは朚藀先生が匕かれたんですか」

 桐生は本から顔を䞊げた。

「本に線を匕くなんお冒涜だず、怒る方もいらっしゃいたすよね。この曞棚にある本は、孊生たちに読んでもらいたくお自宅から持っおきたものなんです。もし線が気になるなら、自分で買っお読んでくれたらいいず思っおね」

 朚藀は台の䞊に眮かれた二段匏の食噚棚からマグカップを䞉぀取り出し、コヌヒヌを淹れた。癜ず黄緑色、もう䞀぀は鮮やかな朱色だ。食噚棚にはほかにも青や黄色のカップが䞊んでいる。

「僕も本に線を匕きたす。すぐ読み返せるように付箋も貌っお、わかったこずを曞き蟌んだりもしたすよ。ここに曞かれおいる〃人間はもずもず反逆者〃ずは、どういう意味なんでしょう」

「ああ、それは倧審問官がキリストに蚀ったセリフです」

 朚藀は二人に゜ファヌを勧めた。桐生の前に黄緑色のカップ、璃子の前に朱色のカップを眮いた。

「堎面は十五䞖玀スペむンのセノィリアで、異端審問がもっずも厳しい時代です。ここぞキリストが降り立ち、人々は再び奇跡を目の圓たりにしたす。亡くなった少女を生き返らせるんです。秩序の危機を感じた枢機卿すうききょうはキリストを投獄しおしたいたす。倧審問官は枢機卿でもあるんです。奇跡は誰にずっおも感動ず喜びを䞎えるのではないんですね」

「倧きな暩力を持っおいる者のほうが、奇跡を恐れるずいうこずでしょうか」

 桐生は開いた本を璃子に芋せた。

「奇跡によっお自分の暩嚁が脅かされるず感じるんでしょう」

 朚藀は癜いカップに口を付けた。

 璃子は桐生から本を受け取るず、芖線を萜ずした。ペヌゞをぱらぱらずめくり、残り数ペヌゞのずころで手を止める。ペヌゞを開いたたたテヌブルに茉せた。
 
   䜕が善であり䜕が悪であるかを、自由な心でみずから決めなくお
  はならなくなった。
 
「善悪は決たりきったものじゃない、ず曞いおいるんですね。でも、そうなるず、誰かにずっお正しいこずが、ほかの誰かには悪かもしれない」

 璃子は朱色のカップを手に取った。

 カップの色に䜕か意味があるのか考えながら、桐生も自分の前に眮かれた黄緑色のカップからコヌヒヌをすすった。深みのある銙りが口の䞭に広がり、ほどよい苊味が心地いい。

「瀟䌚秩序は安定を䞎えおくれるず同時に芏制し、ある意味では私たちを支配しおいたす。䞀方で、個人を尊重し䞻䜓的に生きるこずは、䞀芋自由で玠晎らしいこずのように感じたす。ですが、自分の身は自分で守らなければならず、善ず悪を自分で考えなければなりたせん。それはたいぞん荷が重いこずです」

 朚藀の話を聞きながら、桐生は子䟛の頃に挠然ず考えおいた『壁』を思い浮かべた。壁が倱くなれば、奜きな堎所ぞ行ける。だがその自由を守るためには銃がいる。

「朚藀先生が瀬田さんず最埌に䌚ったのはい぀ですか」

 璃子が切り出した。質問が盞手の頭に入り、思考が回り始める。朚藀は゜ファヌの背にもたれ、芖線をさたよわせた。

「たしか、䞉日の金曜日だったず思いたす。あの週の週末は研究宀には行きたせんでした。その埌、圌女の姿を芋おいたせん」

「朚藀さんが瀬田さんに䌚ったのは、金曜の䜕時頃でしたか」

「午埌でしたよ。私が垰るずきに、廊䞋で少し話したした。䞉時過ぎだったず思いたす」

 桐生は手垳に時刻を曞き぀けた。

「どこかぞ出かけるずか、人ず䌚う予定があるなど聞いおたせんか」

「それなら圌女は、この近くのスポヌツゞムぞよく行っおいたしたよ。䜓を動かすず頭もすっきりするず話しおたしたね。金曜も行っおいたのかはわかりたせんが、䌚員だず聞いたこずがありたす」

「明治通り沿いにあるポヌツゞムですね。管理人は朚曜日の朝、挚拶したず話しおいたしたが、翌日の金曜たで無事だったんですね」

 桐生は手垳に曞き留めた。

「ああ、でも圌女は論文を曞いおいたので、自宅ぞたっすぐ垰ったかもしれたせん」

 朚藀は手を顎に圓お、うなずいおいる。

「瀬田さんは、どんな論文を曞かれおいたのでしょうか。参考たでに教えおいただけたすか」

 璃子の問いに、朚藀は姿勢を正した。

「人間行動に぀いおです。圌女は孊生の頃から、人間行動に䞍可避ず思われる基本的な倉化に興味を持っおいたした。が行なっおいるプロファむルはご存知だず思いたす。特城的な習慣が個人の隠れた偎面を衚すずいう考えのもずに、犯行から犯人像を描き出す。これは、切り裂きゞャックの時代から行われおいたした」

「に行動科孊課ができるより䞀䞖玀近く前ずいうこずですか」

「ええ。䞀八四䞉幎にダニ゚ル・マクノヌテンずいう男が殺人眪に問われたんですが、心神喪倱を理由に無眪になりたした。この裁刀のあず、医垫たちが裁刀に関わる機䌚が増えおいきたした。犯眪者の性栌に぀いおも発蚀するようになっおいったんです。切り裂きゞャックに぀いおは、ボンド医垫が犯人像を掚枬したした。ご呚知のずおり事件は未解決ですが、が事件癟幎を蚘念しお掚枬した人物像は、ボンド医垫のものず䞀臎しおいたす」

 朚藀は息を぀いた。桐生は手垳に『人間行動・䞍可避の倉化が個性を衚す』ず蚘し、顔を䞊げた。

「朚藀先生は今回の事件をどう捉えおいたすか。瀬田さんは犯眪心理の専門家でしたが、犯眪の被害に遭われおしたいたした。『流し』の犯行ずいう芋方もありたすが、そうだずするず瀬田さんは芋知らぬ人物に誘拐されたか、自ら埓いおいったこずになりたす」

 璃子はメモを取らず、たっすぐ朚藀を芋぀めおいる。

「あなたがたは、瀬田さんのこずを誀解なさっおいるようですね」

 朚藀はカップに芖線を萜ずした。

「朚藀先生は、『流し』の犯行ではないずお考えですか」

「断定はできたせん。ただ、芋知らぬ男に埓いおいくようなリスクを、瀬田さんは犯さなかったず思いたす。たずえ盞手がどんなに魅力的だったずしおも。もし誘拐されたのなら、目撃者がいるはずです。激しく抵抗したでしょうし、人けのない堎所ぞ䞀人で行くなど、圌女に限っおは考えられたせん。犯人の偎から芋おも、瀬田さんを連れ去るのはリスクが倧きいでしょう」

 朚藀はカップから顔を䞊げた。『流し』の犯行なら、犯人はもっず誘いやすい盞手を遞ぶずいうこずか。

「では、朚藀先生は、犯人には瀬田さんを殺す動機があったず思うんですね。それを隠すために『流し』の犯行に芋せかけおいる、ず」

 手垳に曞き留めながら、桐生は眉を寄せた。『』に手玙が送られおきたこずや遺䜓が切断されおいたこずも、猟奇的なシリアルキラヌを停装するための眠だったず考えるべきなのか。

 西岐の顔を思い浮かべた。西岐が瀬田絢子を湖ぞ誘ったのだろうか。瀬田絢子も元恋人の誘いなら応じたかもしれない。瀬田は友人に戻った぀もりだったが、西岐には未緎があった。寄りを戻そうずしたがうたくいかず、怒りに駆られた西岐が瀬田を殺したのだろうか。

「朚藀先生は、瀬田さんが付き合っおいた男性のこずをご存知ですか」

「西岐君のこずなら知っおいたすよ。瀬田さんに西岐君を匕き合わせたのは、私でしたから」

「朚藀先生が西岐さんず知り合ったのはい぀頃ですか」

「西岐君ずは、四幎前にワむン䌚で知り合いたした。私の故郷は長野の束本でしおね。孊生時代は友人ず北アルプスや八ヶ岳でテント泊をしながら登りたした。西岐君ずは、登山の話で意気投合したものです」

 朚藀は北アルプスの倜空でも思い浮かべおいるのか、懐かしそうに目を现めた。

「じゃあ、そのワむン䌚で瀬田さんず西岐さんは出䌚ったんですね。西岐さんは瀬田先生にふさわしいず思いたしたか」

 桐生の問いに朚藀は腕を組み、蚀葉を探すように芖線をさたよわせた。

「西岐君はかなりの男前でしたから、女性にはモテたしたね。軟掟な男に芋られるこずも倚かったようですが、根は真面目な青幎でしたよ。誰にでも優しかった。そこが瀬田さんには䞍満だったのかもしれたせん。二人には幞せになっお欲しいず願っおいたんですが、こんなこずになっお本圓に残念でなりたせん」

 朚藀は芖線を萜ずし、銖を振った。

「瀬田さんが䜕かに悩んでいた様子はありたせんでしたか。自殺願望があったずか  」

 桐生の問い掛けに、朚藀はきっぱりず銖を振った。

「瀬田さんは、犯眪心理の探求に情熱を泚いでいたんです。そんな人が自殺を考えるずは思えたせん。圌女は、孊生の頃からよく私に蚀っおたした。“凶悪犯ず私たちの関係は、けっしお奎らず我々ではない”ずね。い぀か犯眪心理を解き明かし、䞖間に䌝えるのが圌女の䜿呜だったんですよ」

 朚藀は口を歪ゆがめ、苊そうにコヌヒヌをすすった。