引き継ぎ書に手順は書いた。でも後任が困る「3つの抜け」
「手順は全部書いた。これで大丈夫なはず」
ところが、読み返すと少し不安になる。
いつもの資料が届かなかったら? 数字が合わなかったら? 確認する人が休んでいたら?
自分なら、その場で誰かに聞いたり、前回の対応を思い出したりできる。でも、その「いつも何となくやっていること」が、引き継ぎ書には入っていない。
そんなとき、最初から書き直す必要はありません。今ある手順に、「いつもと違う場合」「判断してよい範囲」「確認先」の3つを足してみてください。
手順書が道順だとしたら、この3つは「通行止めだったときの案内」です。一本道の説明だけでは困ってしまう場面に、次の動きを残しておくイメージです。
今回は、架空の「毎週、問い合わせ件数をまとめる仕事」を例に説明します。例の判断範囲や連絡方法は、そのまま職場のルールになるものではありません。ご自身の業務で決まっている内容に置き換えて使ってください。
1.「おかしいときは確認」で、後任は止まる
引き継ぎ書に、こんな一文はありませんか。
数字がおかしいときは、担当者に確認する。
書いた本人には通じます。でも、初めて担当する人には「何をもって、おかしいと判断するの?」という疑問が残ります。
例えば、問い合わせの一覧に、同じ受付IDの行が2つあったとします。内容は少し違う。片方を消してよいのか、別の問い合わせとして数えるのか、後任には分かりません。
そこで、あいまいな言葉を、目で見て分かる状態に変えます。
書き換え前
数字がおかしいときは確認する。
書き換え後
同じ受付IDで内容が異なる行がある場合は、該当するIDと相違点を控え、集計対象を窓口責任者に確認する。
これなら、どんな場面で確認が必要なのかが伝わります。
最初から、起こり得る例外を全部並べなくても大丈夫です。まずは「前に一度、迷ったこと」を一つ思い出してみましょう。
必要な資料が、予定の時刻になっても届かなかった。
一覧の数字と、報告用の数字が一致しなかった。
通常の作業日が、休業日と重なった。
その場面で、何を見て、誰に聞いたのか。そこに、手順だけでは伝わらない情報があります。
2.「適宜対応」の中に、判断の境目が隠れている
例外を書いたら、次は「確認までの間に、何をしてよいか」を足します。
「責任者に確認」とだけ書かれていると、返事が来るまで作業を全部止めるべきなのか、それとも分かるところまで進めてよいのか、迷ってしまいます。
先ほどの架空の集計業務なら、こんな書き方です。
確認前に進めること: 該当IDと、2つの行で異なる項目を整理する。
確認まで保留すること: どちらかの行を削除することと、集計結果を確定して配信すること。
「できること」と「保留すること」が分かれると、後任は次の動きを選びやすくなります。
ここで大事なのは、引き継ぎ書を書く人が、新しい権限を決めないことです。「たぶん、ここまでは大丈夫」と推測して書くのではなく、職場で認められている範囲を残します。決まっていなければ、上司などに確認する項目として扱いましょう。
「適宜対応」「臨機応変に」と書いた箇所は、見直しの目印です。その言葉の中に、自分だけが知っている判断が隠れていないか、確かめてみてください。
3.「○○さんに聞く」だけでは、まだ足りない
確認する相手の名前を書けば、ひと安心。そう思いがちですが、後任はその人が何を担当しているかを知らないかもしれません。
「何について、誰に、どう連絡するか」をセットにすると、相談の入口が分かります。
架空の例では、次のように残します。
相談内容: 問い合わせを集計対象に含めるかの判断。
確認先: 窓口責任者。現在の担当者は、社内の担当一覧を参照。
連絡方法: 社内で指定された業務用チャット。
伝える内容: 該当ID、異なっている項目、判断してほしいこと、提出期限。
質問の内容が違えば、確認先も変わります。集計対象の判断は窓口責任者でも、共有フォルダが開けない問題は管理担当、という場合があるでしょう。
そして、忘れやすいのが不在時です。代わりの相談先が決まっているなら添えます。未定なら「不在時の確認先は未確認」と残し、引き継ぎ前に確認する項目にします。勝手に誰かを代行者に指定する必要はありません。
後任が困るのは、答えを知らないときだけではなく、「誰に何を聞けばいいか」が分からないときでもあります。
4.今日は一つの「困った」を、この5行に
ここまで読んだら、一業務だけ選んで、次の5行を追記してみてください。
いつもと違う状態:
確認前に進めてよいこと:
確認まで保留すること:
確認先・連絡方法:
確認するときに伝える内容:
すべて埋まらなくても、空欄の理由が「まだ決まっていない」なら、それ自体が確認すべき点です。分からない部分を、もっともらしい説明で埋める必要はありません。
書けたら、通常手順の該当箇所にも「同じ受付IDが複数ある場合は、下の例外対応を参照」と一言添えます。別の場所に説明を置いた場合は、その見出しや保存場所を示しましょう。せっかく残した案内も、必要な場面で見つけられてこそ役に立ちます。
まだ通常の手順を書けていない方は、前回の記事『引き継ぎ書に何を書けばいい? 最初の一業務を整理する方法』で、一業務を選ぶところから始められます。
引き継ぎ書は、何でも一人で解決できるようにするためだけの資料ではありません。迷ったときに、次に何をすればよいかが分かる資料でもあります。
まずは「適宜」「おかしいとき」「担当者へ」のどれか一つを探して、具体的な5行に書き換えてみてください。 その小さな追記が、後任に渡せる、もう一つの手がかりになります。
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