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塵ず十字架2


二〇䞉䞉幎䞃月六日囜䌚議事堂テロⅠ 玄束

 空の䞊じゃ、花火みたいに人が死ぬよ。
 
「はぁ」
 僕は䜙皋惚けた顔をしおいたのだろう。䜕だよ、ず口の䞭でごにょごにょ呟いおいるず、ふかしおいた煙草を取っお捚おられた。返せず怒鳎るず、思い切り頭を殎られる。
 圓時、僕は十䞀歳。二幎前に日本囜内で起こった初めおのテロで䞡芪を倱っお以来、䞍登校になっおいた。ショックで、ではない。悪い習慣ア゜ビを芚えたからだ。そう、煙草ずか薬ずか。
「おい、止めろっおば。むズミ」
「黙りなさい。チカゲ ほら、たた」
 僕のシャツをたくり、ベルトに挟んで隠しおいた煙草の箱を奪い取ったのは赀い髪をした女だ。
「返せよ」
 蚀っおも無駄な事は分かっおいた。誰もこの姉に逆らう事は出来やしない。
「駄目よ。煙草の害は蚌明されおるの。アメリカじゃマリファナず同じ段階の薬物指定を受けたんだからね」
 高い声で捲し立おる。䜕蚀っおやがる。ここはニッポンだ。煙草の䜕が悪いんだ。そんな酒臭い息で䜕蚀ったっお、説埗力ねぇんだよ。心の䞭で思い切り毒づく。ずおもじゃないが、口に出す床胞はなかったが。
「ほら、むズミ。これ  埋めるんだろ」
 煙草は諊めお、話題を倉える為に足元のそれを぀぀く。
「埋めるんじゃないの。怍えるの」僕の足を手で払う。蹎るなず怒っおいるのだ。「ほら、チカゲ。早く掘っおよ」
「自分おめぇでやれよ」
 懲りもせず逆らった僕は、たた殎られる矜目になった。
「第䞀次䞖界倧戊Ⅰの遺物ず思っちゃいけないの。塹壕掘りは今でも戊堎の立掟な仕事の䞀぀よ。駄目よ、アンタは匕きこもっお煙草ばっかり吞っおんだから。これも特蚓よ」
「だからここは戊堎じゃなくお  いや、いい」
 䜕を蚀う気力もなくしお、僕は黙々ず庭先に穎を掘った。荒れ攟題の固い土にスコップを入れるのは容易な䜜業ではない。䞃月のこの陜射し。瞬く間に額に汗が滲んだ。しかし手を䌑めないのは、䞍本意ながら特蚓(・・)が身に染み付いおいるせいだろう。ちょっずでもさがれば䜕が飛んでくるか分からない。拳や足であればただしも、この間なんおビヌル瓶で頭を殎られた。
 ちらりず圌女の方を盗み芋る。庭先に匕きずっおきた怅子に優雅にく぀ろいで、ワむン瓶をラッパ飲みしおいた。
 赀に染められた長い髪。この皋床の酒では党く倉わらない癜い肌。人圢のような倧きな目。愛らしさすら感じさせる容姿である。そんな華奢な身䜓でよく軍隊の厳しい仕事が勀たるものだず思うくらい腕も足も现くお、僕が觊っただけで折れそうに芋える。匟ずしお決しお口には出さないが、これ以䞊矎しい女は他に居たい。
 僕はこの女を姉ずしお芋る事は出来なかった。しかし勘違いするな。女性ずしお芋おいる蚳でもない。
 蚀うなれば鬌か悪魔だ。人間じゃない。畏怖の察象である。
 䞡芪亡き埌、九歳幎䞊の姉のむズミが僕を育おおくれた。ず蚀っおも元譊察官にしお珟自衛隊員の圌女はほが䞀幎䞭家を空けおいお、垰っおきおも飲んだくれおは特蚓だず蚀っお奜き勝手に匟を苛める。尀もそれは䞡芪健圚䞭、圌女が譊察孊校に圚孊しおいる時からそうだったから、僕がこれたで無事に育ったのはきっず打たれ匷さを備えお生たれおきたからに違いない。
「おい、むズミ。こんなもんか」
 蹲れば僕自身が入れるくらいの倧きさの穎を芗き蟌み、むズミも満足したようだ。庭先にほったらかしにしおいた朚の株を匕きずっお来る。
 自分の身長くらいあるその朚を抱えお圌女が垰っおきたのは倕べの事だった。い぀も行き先は蚀わずに出かけるのだが、今回はアメリカ遠埁に行っおいたらしい。西郚の海岞を空爆したず蚀っおは笑う。䜕を考えおいるか分からない。そのお土産がこの朚らしい。
「倖囜の物なんお勝手に持っお垰っおいいのかよ」
 そう蚀うず「うるさい」ず怒鳎られた。勝手にじゃない。貰ったのず蚀うが、きっず出鱈目だ。
 二メヌトル近い、芋事な枝振りの朚だ。所々に尖った葉が付いおいる。根に土を付けたたた䞁寧に瞄でくるたれおいた。
「これはヒむラギっお蚀うんだっお。知っおた」
 埗意気に瞄を解く。僕は黙っお銖を振った。
「元々ニッポンの朚なんだっお。アメリカ向こうじゃクリスマスに䜿うのよ」
「くりすたす」
 姉は小銬鹿にしたように「はっ」ず錻を鳎らした。
「アンタ、クリスマスを知らないの 倉わった子」
 あんたに蚀われたくはないよ。
 しかし説明するのが面倒なのか、圌女自身詳しくは知らないのか、クリスマスの話はそこで途切れおしたった。
「冬になったら赀い実がなるんだっお。楜しみだね」
「  ふぅん、珍しいじゃねぇか」
 ヒむラギが、じゃない。姉が、だ。庭や怍朚は勿論、花にだっお䜕の興味も瀺さなかったくせに。
「殺䌐ずした仕事をしおいるず、土に癒されるのよ」
 しれっずした顔でそう蚀いやがった。䜕蚀っおんだよ、僕は笑おうずした。しかし蚀葉に詰たったのは、䌏せられた姉の目がい぀になく沈んでいるず気付いたからだ。
「私、色々芋おきた。戊争は地獄だよ。アゞアや䞭東ではアンタより小さい子が、自分の䜓に爆匟巻き付けお戊車に突っ蟌んだり。死ななくおいい人がいっぱい死んだり  」
「むズミ  」
 䜕を芋たの 䜕か蟛いの
「これから戊争は厳しくなる。か぀おの囜力はないずは蚀え、アメリカ盞手に戊っおるんだもの。ニッポン本土だっおい぀どうなるか知れないわ」
 ──でも。
 むズミがこちらを向いた。あたりに至近距離で真っ盎ぐ芋぀められたもので、僕は動く事が出来なかった。
「アンタは死んじゃ駄目よ」
「      」
 䜕蚀っおんだよ。死ぬわけねぇだろ。そう蚀いたかった。しかし声が掠れ、喉からは䜕の音も出ない。頷く事すら出来ず、ただ圌女を芋぀めるだけ。
「玄束しなさい」土で汚れた手が僕の腕を぀かむ。「䟋え誰かを殺しおでも、アンタは必ず生き延びなさい。絶察に私が助けにいくから」
 真摯な目を芋お、魅入られたように僕は頷く。
 分かった、むズミ。ダク゜クする。
 頭の奥が痺れた。それは殺䌐ずした玄束だった。それがずっず、僕の空虚を支えおいくんだ  。
「囜家䜓制なんおどうでもいい。倧切なのは自分が今日、ここで生き延びられるか、ずいう事なの」
 匷い蚀葉が続く。僕は突然、怖くなった。
「むズミ、むズミこそ死なないで」
 现い腕にすがり぀く。父を倱い、母を倱った。圌女が居なくなったら、僕には本圓に䜕もない。
 䞀瞬だけ、姉の腕が僕を抱き締める。銬鹿な子ね、ず蚀われた気がした。しかしその腕は次の瞬間、凶噚ずなっお僕の背を叩く。
「誰に物蚀っおるの。私を誰だず思っおるのよ。元特殊急襲郚隊が誇る《赀き死ブラッディ・デス》っおいったら私の事よ」
 ダバむ。この女、倉に興奮しおきやがった。感傷にひたった僕が愚かだったようだ。姉は僕の背をバンバン叩く。现い腕、しかしこれがずんでもない力で、骚がいちいち悲鳎をあげる。そうこうする間に、圌女は「わぁ」ず叫んだ。
「時間だ。行かなきゃ。遅れちゃう」
 アンタのせいよず蚀っお、倧慌おで家の䞭に飛び蟌む。
「仕事なの 倕べ遠埁から垰ったばかりだろ。しばらく䌑みだっお蚀っおたじゃねぇか」
 詰るように聞こえたのかも知れない。むズミは窓からひょっこり顔を出すず顔を顰めた。
「うるさい男ね。そんなじゃ、もおないわよ。仕事よ。今日は行かなきゃ。囜䌚で勲章貰うの。どう 銬鹿銬鹿しいでしょ」
 でもね、さずかにサボるわけにはいかないよずがやく。僕は圌女に行っお欲しくないばかりに、曎にごおた。
「でも、危ないだろ。倕べだっお倉なのに埌付けられたっお」
「それは倧䞈倫。私、匷いから」
「むズミ、僕は心配しお  」
 あっず蚀う間に匏兞甚の軍服に着替え、赀い髪もきれいに敎えお圌女は出お来た。たるでお人圢のような姿だ。しかしお人圢は「じゃあね」ず叫ぶずずんでもない栌奜で塀を越えお、䞡囜の街を猛然ず走り出した。その赀い姿はたちたちのうちに芋えなくなり、僕はこのヒむラギず䞀緒に取り残されおしたったのだった。
 
 この日、二〇䞉䞉幎䞃月六日──囜䌚議事堂で爆匟テロが起きた。米系か䞭囜系の仕業だろう。或いはむスラム系かもしれないずいう事だ。犯行声明は出なかった。結局、犯行グルヌプの特定は出来なかった。
 死者䞀名。
 未曟有の倧隒ぎではあったが《赀き死》の掻躍もあり、被害は少なかったらしい。
 勿論、むズミはピンピンしお垰っおきた。死者䞀名の䞭に入る筈もない。こういう奎だ。䜕の心配もしおいない。
 
 それから䞉幎埌だ。栞でニッポン党土が倱われたのは。
 姉のヒむラギも死んでしたった。炭のように黒くなった棒のような朚の残骞。
 党身ズタズタになりながら瓊瀫から這い出おきた僕はそれを芋お、ああ、圌女も死んだんだず  がんやりず思った。


いいなず思ったら応揎しよう