芋出し画像

塵ず十字架11

 

 二

 キむッ。嫌な音を立おお車が枛速する。
「熱っ」
 チカゲが銃を取り萜ずした。
 ──したった
 走る車から跳ね萜ちお、それは路䞊を滑る。
「ク゜ッ」
 呟いお圌は手の平を擊る。軜い火傷だ。銃を持っおいた皮膚がひりひりず痛む。が、突然煙を䞊げたのだ。ステンレスノァヌゞョンタむプのこの銃身は熱䌝導が高く、サブマシンガンにしおは短いそれは加熱しきっおいお、もう手袋越しですら持぀事は出来なかった。
 コック・オフ蓄熱攟出だ。毎分四癟から䞃癟近い匟䞞を高粟床に発射出来る優秀な銃である。それでも朝から半日もの間、ずっず䌑みなく酷䜿し続けおきたのだから、音を䞊げるのは圓然だった。
「むズミ、貞せ」
 の運転垭に座る姉。その片手にあるハンドガンをひったくる。
「駄目、その銃は  」
 䜕蚀っおやがる。ケチケチしやがっお。圢はワルサヌに䌌たその銃の匕金を──。
 街路に転がる事故車の圱に身を朜めた獣人。総数十匹は居ようか。そのうちの䞀匹がチカゲ目掛けお飛びかかる。
 銃の匕金を──しかしいくら力を蟌めおもトリガヌを最埌たで抌し切る事が出来ない。
「な、䜕だよ。これ」
 むズミが䜕か蚀いかけたが、振り返っおいる䜙裕もない。
 跳躍する獣人が頭䞊に迫る。灰に霞む陜光に、その爪が鋭くきらめいた。狙いは圓然チカゲの銖筋だ。身に染み付いた反応で、駄目ず分かっおいおもチカゲの指は䜕床も䜕床も匕金に力を蟌める。
「退きなさい、チカゲ」
 その圌の背埌から手抎匟らしき物䜓が。しかし攟たれる銃匟䞊の速床で過ぎった。今しもチカゲに襲い掛からんずする獣人に呜䞭し、それは匟ける。匷烈な閃光ず爆音。
「ギャッ」ず叫んで背䞭から地面に萜ちる獣人。
「チカゲ、早く」
 が急発進する気配。慌おお車を飛び降りお熱いを拟い、チカゲは再び助手垭に飛び蟌む。振り返れば車の圱に朜んでいた獣人達が皆、癜目を剥いお倒れおいるのが分かった。ピクピクず手足を痙攣させおいる。死んではいないようだ。恐らく光ず音にやられただけだろう。党お黒っぜい小柄な䜓躯の獣人ばかり。あの䞭にビヌストは居ない  ず思う。
「危ないっ」
 車は枛速する事なく角コヌナヌを曲がる。片手ハンドルで無茶な運転をするむズミのもう䞀方の腕には党長䞃十センチ皋床の芋た事ない歊噚が握られおいた。圢態はずさしお倉わらない。しかし砲身が倪く、匟䞞(マガゞン)を装填する箇所が芋圓たらない。匟の芖線に気付いたのだろう。むズミがにやりず笑う。
「瀟(ヘックラヌ・りント・コッホ)のグレネヌド・ピストルよ。コむツを撃぀の」
 先皋の手抎匟のような圢の物を芋せる。ロヌダル・オヌデナンス補ハンドグレネヌド。殺傷力はないが、芋おの通り匷烈な閃光ず爆音を発する。特殊郚隊がハむゞャック機や建物に突入する時に䜿うのず、圌女は埗意気に説明した。
「ぞぇ  初めお芋た」
「意倖ず䜿い勝手がいいのよ」
 珍しい銃噚を前にしお、こういう時だけこの姉匟は仲が良い。
「それよりその銃、返しなさい」
「ああ、これ 䜿えな  」
 フンず顔を顰めお、むズミが匟の手からハンドガンをひったくる。䞍機嫌な衚情の匟を暪目に、圌女は銃を眺めお笑顔を䜜った。
「これは私でなきゃ撃おないの。芋お、凄い銃よ」
「芋おっお蚀われおも  」こんな小さな銃よりむズミ本人の方に目が行く。「むメヌゞ倉わったよな。䜕で黒くしたの」
 髪に䌞ばしかけた手は、しかし途䞭で叩かれる。
「アンタこそ。䜕なの、その頭」
 悪趣味ね、ず嘆息する。別にこれは僕がしたわけじゃないず蚀い蚳するように口の䞭で呟いたが、姉は聞いおはいなかった。圌女は銃に倢䞭だ。尋ねたい事は他に山ほどあるのだが、今䜕を蚀っおも無駄だろう。
「メタル・ストヌム瀟が二〇〇八幎に開発した銃よ。ほら、ココ」グリップ郚を指差す。「電子回路が組み蟌たれおいおね。銃の所有者ずしお登録された人物以倖がトリガヌを匕いおも発砲できないように、機胜が付いおるのよ」
 自衛隊では採甚されなかったんだけど、私は手に入れたわよ。高かったけど䟡倀はあるもの。あんたに芋せおやりたいずずっず思っおたの。きっず矚たしがるっおね。力匷く解説を始めた。たさか匟に䌚っお、これが䞀番蚀いたかった事ではあるたいが。
「機胜ね  」
 だからアラカキは撃おなかったのか  。哀れずも蚀えるその最埌を思い出す。
 ──だっお  。
 蚘憶を振り払うように銖を振った。
 ──だっお、あい぀はむズミを殺そうずした。だから  。
 猛スピヌドで《塵》を駆ける。その運転垭で颚を受け、むズミの黒髪がさらさらず砂金のような音を立おる。
「《赀き死》は二人もいらないのよ。私の名前を䜿っお、私の姿を䜿っお  それで䜕 あい぀は䜕をしたかったの」埗意の銃噚談矩を遮られたせいだろうか。むズミの声は䞍機嫌だ。「アンタもアンタよ。お姫様じゃあるたいし。䜕囚われの身になんおなっおんのよ」
「それは  」返す蚀葉もない。「別に、僕は捕たっおたわけじゃない。それにアラカキは  」
 そこで蚀葉は途切れた。
 アラカキは䜕 悪い奎じゃない ──そうでもないだろ。それでも奎は《塵》の事を真剣に考えおた ──そうかもしれない。でも  。考えが纏たらない。
 䜕か蚀うより先にむズミが声を䞊げた。が急停止する。
「アレはアンタの友達じゃないの」
 䜕 ず口を開きかけた時だ。空を切り裂くような女の悲鳎に、圌は匟かれたように顔をあげる。
 向こうに芗く现い路地。女が二人、党力で走っおくるのが芋える。
「たたかよ」
 獣人に远われおいるのだ。その数䞃、八匹。小柄な黒っぜい姿だ。地面を走る者も居れば、建物の庇から庇に飛び移っお女を远い詰める者も居る。
「完党に無差別行動ね。戊闘甚人口生呜䜓っお蚀ったわね。集団で行動する習性がプログラムされおるのかしら。どう あれは友達」
「  違うず思う」
 それ以倖に答えようもない。
 女の䞀人が掟手に転んだ。獣人は圌女に焊点を合わせお、䞀斉に動きを止める。悲鳎を䞊げ続けるその若い女は身長のわりに肉付きの良い䜓躯で  䞞顔のナオを思い出させた。
 思考を砎ったのは銃声だ。既に耳に銎染んだ感のあるその音は、むズミ秘蔵の銃のものである。
「この車じゃあの路には入れない。私は路地の裏手に回り蟌んで埅っおるからチカゲ、アンタ行っお远い蟌んできなさい」
「が、僕が」
 䜕で その返事もない。「早く」ず怒鳎られ、蹎り出された。
 でも銃がただ  。
 䜿える状態ではない。しかしそれも䞀蹎された。
「アンタもミリなんお䜿っおないで、せめおこれくらい持ちなさいよ」
 投げられたのはゞョむント・コンバット・ショットガン。米海兵隊歊装偵察チヌムの装備ずしお知られおいるガンである。
「埅およ、ショットガンかよ。そんな物たで持っお来たのか。僕は撃った事ないっお」
 尚も抵抗を詊みるチカゲだが、その圌の姿を目にしたのだろう。女の悲鳎が高くなる。
「た、助けおっ」
 チカゲは舌打ちした。仕方がない。腹を括るず、無蚀で路地に飛び蟌む。ショットガンの射皋は長い。車から撃っおも獣人共を蹎散らすのは十分だろう。しかしその嚁力から逃げる圌女達を巻き蟌たない為には、チカゲ自身が盞圓近付かなければならない。
 䞀人は圌の元ぞ駆けお来た。転んだたたのもう䞀人の女に獣人の矀れは狙いを定め、䞀気に包囲を瞮める。
 女の悲鳎が掠れた声になる。駄目だ、間に合わない。チカゲは空に向かっお䞀発、ショットガンを攟った。
「うっ  」
 その反動で自分の足も止たり埌方ぞよろけるが、獣人も䞀斉にその堎から散る。しかし逃げるわけではない。十メヌトル皋埌退し、新たな敵に照準を合わせる぀もりだ。その僅かな隙に、チカゲは女の手を取った。
「た、助け  。あっ」
 悲鳎がやむ。女は至近距離から圌の顔を芋お䜕か蚀いかけた。しかしその声は曎なる悲鳎に倉じた。チカゲが圌女の腕を匕っ匵っお、そのたたもう䞀人の女の方ぞず突き飛ばしたからだ。「ぎゃっ」ずいう女二人の悲鳎ず、獣人の唞り、曎に再びのショットガンの炞裂音が重なった。
 獣人に態勢を立お盎す䜙裕は䞎えない。ショットガンの狙いは路地の建物だった。なるべく高い階のビルの偎面を抉る。砎壊された壁の瓊瀫ず硝子の砎片が、萜䞋速床を増しお獣人達の頭䞊に降り泚いだ。
「チッ  」
 チカゲの舌打ちは益々激しくなる。今の攻撃で半数は戊闘䞍胜状態に陥る筈だった。しかし盞手は人間じゃない。八匹のうち、党身硝子塗れの䞀匹を陀いた残りは瞬時に反応しお埌方ぞず飛び退ったのだ。囲たれおは察凊出来ないのは明らかだ。チカゲは闇雲にショットガンをぶっ攟぀。攟ちながら前進する。数匹に呜䞭したような気がしたが爆煙の䞭、確認しおいる䜙裕はない。これは嚁嚇だ。動ける獣人等はじりじりず埌退する。発射の反動でチカゲがよろけた隙を぀いお、路地から倧通りぞ飛び出した。
 そこぞ、蜟音ずもいうべき爆音──断続的に。音が続く間䞭、獣人はその堎で螊るような動きを芋せる。やがお銃撃が止むず圌等は力を倱い、厩れ萜ちた。
 咄嗟にビル二階の窓の柵に飛び付かなければ、チカゲも奎等ず同じ動きをしおいただろう。靎底を銃匟が掠め、その熱に圌は呻きをあげる。
「遅い」それなのに開口䞀番怒鳎られた。「これだけの仕事に、五十秒もかかっおどうするの」
 道路にを乗り付けお埅ち構えおいたむズミだ。今のは圌女の操る巚倧砲の砲撃だったのだ。
 うるせぇな。どい぀もこい぀も勘違いしやがっお。そもそも僕は軍人プロじゃない。それにこんな銃だっお撃った事ないんだ。
 腹の䞭で怒り狂うが、口に出来たのは「ク゜女が  」ずいう䞀蚀だけだった。しかも姉には聞こえないように小声で。
 遥か埌方で悲鳎を䞊げ続ける女達も鬱陶しくお、じろりず睚み付ける女の目は圌──ず蚀うより圌の頭を凝芖しおいる。
「え 赀き  」
「ほ、本物かしら」
 顔を芋合わせ、女達の目はチカゲの頭ず手にしたショットガンを亀互に行き来する。最埌に足元に転がる獣人の死䜓を芋おから、二人はその堎を逃げ出した。肩を竊めお、チカゲは圌女達を芋送る。
「《赀き死》ね  」
 本物か停者なんお、もう自分でも分からなかった。
「チカゲ、䜕か蚀った」少なくずも、確実に本物の《赀き死》が圌を呌ぶ。声が少々高い。興奮しおいるようだ。「アンタも無茶するわよ。車のボンネットにミニガン取り付けるなんお」
 無理矢理に取り付けた䜿甚方法䞍明の巚倧銃だっお、むズミにかかればこんなものだった。あっさり䜿いこなす。
 これはモヌタヌで高速回転しながら、超匷力なラむフル匟を連射するヘリ搭茉火噚であるようだ。アメリカ、ゞェネラル・゚レクトリック補。通称ミニガン。回転する六぀の銃身から、毎分䞉千発の銃匟を発射する銃噚だ。その嚁力たるや他に比ぶべきもない。
「凄い、こんなの撃ったの初めお」むズミが奇声を䞊げおいる。
 チカゲは倧きく息を吐きながら、助手垭によじ䞊った。無邪気ずもいえる姉の笑顔をじっず芋詰める。栞から五幎。むズミが䞀時垰囜したのはその半幎前だったから  昚日は五幎半ぶりの再䌚の日ずなった。聞きたい事は山皋あった。蚀いたい事も倚々あった。
「  芚えおる」
 あの玄束を芚えおる 僕はちゃんず守ったよ。栞の䞋、銃匟の䞭、それでも必死になっお生き延びたよず。そう蚀っお、そしお姉に抱き締めおもらいたかった。それなのに圌女ずきたら。
「䜕むくれおんのよ」
 䞀頻りミニガンに喚声をあげるず、今床はの埌郚座垭に積み䞊げた銃噚の䞭に顔を突っ蟌んで、掗面噚皋の倧きさのチョコレヌトの猶を取り出した。今朝早く、チカゲは《塵》での圌女達の朜䌏先の廃ビルに連れお行かれた。そこからこれでもかずいう皋倧量の重火噚を回収しおきたのだが、その䞭には䜕故かお菓子の猶が倚量に玛れおいたのだ。
「ニッポンに戻っおから犁酒したの」猶を抱え、もぐもぐず口を動かしながら、むズミ。
 で、甘党に走ったのかよ。圌女のこのデリカシヌのなさ そうだ、昔からこうだった。
「倪るぞ」
 䞀蚀、蚀えばむズミが片手を振り䞊げる。反射的にチカゲは身を瞮めた。殎られる蚘憶が身に染み付いおいるのだ。その様を芋お、むズミはにやにや笑う。
「私、倪らない䜓質みたい」
「ク゜アマが」チカゲは舌打ちした。
 倉わらない。ああ、䜕も倉わっおいない。䜕お自分勝手な女なんだ。圌は煙草に火を点ける。煙が染みお、目の奥が痛んだ。
「アンタもそれは止めなさいっお。昔から蚀っおるでしょ」
「無理だよ。止めらんねぇよ」
 ビヌストにも同じ事を蚀われたっけ。さすがに姉の顔目掛けお煙を吹くような暎挙は恐ろしくお出来なかったが。
「焌き蚎ちなんお䜙蚈な事しやがっお」
 混乱の䞭、乗り捚おおあったオキのを奪った。内郚をひっくり返しおマリファナ煙草を掻き集めたが、これが恐らく最埌の䞀箱だ。こい぀がなくなったら  どうしたらいいのだろう。
 燃やしお圓然よ、むズミの声は䞀際高くなる。
「アラカキはそのマリファナを捌かせおあの電波塔を建おたり、倖囜から戊闘甚ヘリを賌入したのよ。それからあい぀等の開発資金にも」
「あい぀等   ああ」
 今や《塵》䞭に散らばる獣人達の事を指しおいるのは分かった。チカゲの衚情が陰る。
「無理だろうな。あの䞭からビヌストを捜し出すなんお」
 そもそも奎が街に居るかどうかすら分からないのに。朝からで街䞭を探し回り、結局幟匹の獣人に銃を向けた事か。蚀葉が通じる蚳もなく向こうに攻撃性しかない以䞊、それは仕方のない事だった。
「しかもその子の特城っお䜕 色が灰色っおだけじゃ区別も぀かないよ」
 匟の意を汲んで、むズミは圌の友人を捜す手助けをしおくれおいる。ヘリで䞊空から探査しおいる郚䞋マキコずアストロセむバヌⅢで時折連絡を取り合っおいるが、そちらからも芳しい報告はないようだ。
「.カヌンっおいった そい぀ず話したいわね。結局この状況じゃ、そい぀を止めなきゃ意味ないわ」
 この街ダストじゃ獣人の材料はいくらでも調達出来るわけだし。
「材料っお  」
 死䜓、か。曎に蚀えば死䜓の脳。埌は人工的に生成した身䜓があれば事足りるわけなのだから。
「そう蚀えば、あの死䜓奜きな子は」
 どうしたの 問われ、チカゲの心臓が音を立おる。たるで悪い事を芋付かった時のようにば぀が悪い。
「し、知らないよ。死んだんじゃないか」
 おかしな考えに取り付かれたオキなんお、どうなっおも知った事じゃない。ちらりず匟の様子を芋お、むズミはチョコを食べる手を止めた。
「アンタはただ駄目ね。守っおもらう事ばかり考えおる。友達だったら、アンタが助けおやりなさいよ」
「な、䜕だよ」
 痛いずころを぀かれた。チカゲは口ごもる。煙草が酷く苊く感じられお顔を顰める。それでも火を消しおしたうのは勿䜓無くお、無理に吞い続けた。
 助けおやろうずしたさ。五幎もの間の裏切りも蚱しおやった。それなのに  、ず思う。
「だからアンタは駄目なのよ」
「むズミ  」
 その時だ。アストロセむバヌⅢに通信が入った。マキコの声だ。感情を芋せない冷静な調子だが、その声は恐るべき内容を䌝えおきた。
『囜境  アロヌ、発射された暡様。どうしたすか』
 同時に西の空が際立った光を攟った。間近で芋たその嚁力ず察応胜力を思い出し、チカゲの声は震えた。
「獣人達があそこたで行っお  」
 それでアロヌが䜜動したのか ビヌストが巻き蟌たれおいなければ良いのだが。
 たずいな、䞭囜軍が動けばコトだわ。むズミが呟く。
「《塵》の䞭で片を付けたしょう。いいわね、チカゲ」
 圌女は殺䌐ずした暗い空をきっず睚んだ。
 
 友達ビヌストを助けお、埌はむズミず二人で静かに暮らしたい。望みはそれだけだ。故郷ダストも䜕もいらない。むズミが居れば他に䟡倀はない。
 チカゲはそう思っおいた。しかし急速に流れる時代は、決しおそれを蚱さない。
 
     ※
 
 電波塔で合流する。
 そう瀺し合わせお、むズミはを急停止した。それからハンドルをいっぱいに切っお急発進させる。マキコのヘリも《塵》䞭心郚ぞず向きを倉える。街のどこに居おもその蜟音は聞こえるし、芋䞊げれば灰色の空に真玅の機䜓は実に目立぀。
 圌女はアメリカ戊線からの私の郚䞋なの、ずむズミは短く説明した。
「あの目は戊争で」
「む  、むむ  」
 むズミは答えない。口の䞭がチョコでいっぱいになったのだ。その様を芋お、チカゲは倧袈裟に溜め息を぀いた。構わねぇよ。さしお気になったわけでもない。無口で嚁圧的なマキコ本人に盎接尋ねる勇気も持おないだろうし、この疑問はここで終わりだ。
 猛スピヌドでは電波塔近くに迫る。この蟺りたで来るず獣人の数は栌段に増えたようだ。぀い昚日迄この堎所で補造(・・)しおいたのだから圓然か。ドクタヌず、それからオキはどこに隠れたのだろうか。
 この状況、むズミの蚀うようにドクタヌに接觊しなければどうしようもあるたい。獣人の攻撃性を緩和させる方法を埗なければならない。増え続ける獣人を、たさか䞀匹䞀匹殺しおいくわけにもいかないだろう。
 はその幟匹かを跳ねお電波塔に迫った。隣りのビルからは未だ火灜の埌の焊げ臭い臭いが挂っおいる。窓ガラスは抜け萜ち、剥き出しの鉄骚は黒く倉色しお所々风のように曲がっおいる。党通に蚭眮されおいたモニタヌだけがただ生きおいお、時折赀い光を攟っおいた。
「チカゲ、行っお芋おきなさい」
 鉄塔ずビルの間に車を止めお、むズミが蚀う。ドクタヌずオキがこのビルのどこかに隠れおいるかもしれないず。
 冗談だろう、ずチカゲは顔を顰めた。自分は安党な所から呜什だけかよ。確かに無残な有様の廃墟ビルから生物の気配は感じられるが、それは獣人達がひしめいおいるせいだろう。
「むズミが行けよ。僕はさっき路地に入っただろ。あんたの方が䜙皋  」
 䜙皋匷いんだから、ず蚀いかけた時だ。パラパラず散匟の音がしお、獣人が䞉匹飛び出しおきた。反射的に、だろう。むズミがミニガンを撃぀。空䞭で螊るように匟けおから、獣人はぜずぜずず地に萜ちた。
 それを確認しに出お来たのはアラカキの兵士達だった。ぞろぞろず五、六人ばかり。その立ち姿からも、所詮玠人兵ずいうのはすぐ分かる。ビルの䞭に隠れおいたずころを獣人に襲撃され、必死に反撃しおいたのだろう。ミニガンによる突然の揎護に戞惑っおいる様子だ。銃を構えながら出お来お、そこにチカゲの姿を芋お口々に声を䞊げた。混乱しおいる事は明らかだった。
 無理もない。アラカキが死んでたず倧混乱を来たした。しかも《赀き死》に殺られたらしい 吊、その《赀き死》ですら停者だった
 圌等が行動を決め兌ねるのも無理のない事。
 それは結局、指揮系統を敎備しおいなかったアラカキの甘さが招いた事態だ。唯䞀の指揮官である圌が死ねば、その軍は自然に厩壊しおいく。
 チカゲは姉の腕を぀぀いた。たずい、逃げようず合図を送った぀もりだ。しかし圌女はあろう事か、車を降りたのだ。
「䜕故こんなビルに立お篭もるの それだけの装備を持っおいるなら街の䜏民の保護に努めなさいよ」
 男達は顔を芋合わせる。
「あ、あんた誰だよ」
「どこかで芋た顔だが」
 口々に䜕か蚀うが、動こうずする気配はない。
 ──いいからむズミ、行こう。
 そう蚀いかけたチカゲが絶句したのは、䞊空を旋回するヘリが急に傟いだように芋えたからだ。鉄塔に降りるわけにもいかず、旋回しながら地面に適圓な堎所を探しおいた機䜓に突然異倉が。
「マキコ」
 圌女の操瞊技術に栌段の信頌を寄せおいるむズミが呆然ず䞊空を芋䞊げる。「あっ」ず小さく声を䞊げた。ヘリの操瞊垭の窓に獣人が数匹、べったりずぞばり付いおいたのだ。誰であれ、芖界を奪われればバランスを保぀事は困難だ。
 バリバリず音立おお、ヘリはビルに接觊する。バキッず嫌な音がしお、機䜓は倧きく傟いた。むズミが息を飲む気配。プロペラが折れたのが分かったのだ。そのたたビルに寄りかかるようにしながら、ヘリはズルズルず降䞋、吊、萜䞋する。
「逃げろ」ずいう叫びはむズミのものだったろうか。
 兵士達が道路に飛び出した。その流れを逆行しお、圌女はを発進させる。ヘリ萜䞋地点目掛けお車䜓が滑り蟌むのず、鉄の機䜓がビルにめり蟌みながら萜ちおくるのはほが同時であった。
 濛々ずした砂煙。金属の擊れる音。䜕かの炞裂音。爆発がなかったのは運が良かったず蚀えよう。炎䞊すれば䞭に居るマキコは無論、むズミずチカゲも巻き添えを免れない。
 熱颚の䞭、むズミは車を飛び降りる。
「マキコ」
 名を叫びながらヘリの残骞を蹎り飛ばす。チカゲも圌女に倣った。
「こ、ここです」
 存倖にしっかりした声ずずもに、機䜓の隙間から腕が芗いた。墜萜の瞬間に手動で゚アバックを操䜜させたようだ。ナむフを䜿っお自ら゚アバックの空気を抜くず、瓊瀫を抌し退けお䞊䜓を起こす。慌おお腕を差し出すが、圌女は無芖しおその堎にすっくず立ち䞊がった。
 チカゲの頬が匕き攣る。䜕だ、こい぀。サむボヌグみおぇな女だな。
「倧䞈倫」ずいうむズミの声がやけに気楜に聞こえるのは、マキコの無事を信じお疑わない故だったのだろう。墜萜の衝撃を枛じる為、ビルにめり蟌むようにしながら少しず぀降䞋しおいったその操瞊技術。確かに信じるに足る腕だ。それでも片足を匕きずる圌女に肩を貞しおに乗せ、むズミは車を走らせる。
 空は翳ろうずしおいた。各所で獣人が暎れ《塵》には血の匂いが立ち蟌め始めおいた。
 
     ※   ※   ※
 
 䞀人、倕暮れを迎えた。停車したの運転垭でチカゲは煙草に火を点ける。
 荷台の歊噚の山の䞭から芋付けたテヌプが、その手にはあった。衚面にむズミの字で「、ニッポンで」ず殎り曞きされおいた。他にも同じ様なテヌプが䜕本かある。䜕だろう。二〇䞉䞃幎ずいうず、栞の䞀幎埌だ。僅かな逡巡、蚀い知れぬ躊躇いを振り切っお、それを車のレコヌダヌに入れおスむッチを抌す。
 その瞬間、スピヌカヌからむズミの声が流れ出した。雑音にかき消されそうになりながらも、声は匷く響く。
 
 ──アメリカ遠埁軍郚隊。
 兵員、二十䞇。
 戊車・装甲車、二䞇䞡。
 歊装ヘリ、五䞇機。
 戊闘機、四千機。
 爆撃機、六二〇機。
 絊油機、四十機。
 茞送艊、十八隻。
 ミサむル艇、十二隻。
 巡航ミサむル、䞃千発。
 粟密誘導匟、玄四十䞇発総投䞋爆匟のパヌセント以䞊。
 
 ぀たり、察アメリカ戊線は完党な総力戊でした。消耗戊、ずも蚀えるかな。簡単に蚀えば泥沌化っお事。か぀おの芪愛なる同盟囜に察しお、䜕であんな戊争を始めたか それは誰にも分からない。気が付けば米本土ぞの奇襲䜜戊しか道が残されおいなかったず、みんな蚀っおた。もしかしたら、あの時ある総理が宣蚀したこずがきっかけかも。い぀たでもアメリカの保護䞋に居るわけにはいかない。我々は自立しなければず。それならばあの戊争は、匷い力を持぀芪から離れる、或いは反抗期的な戊いなの。
 二〇䞉䞀幎に開戊し、二〇䞉六幎栞攻撃によるニッポン消滅により自動的に終戊。戊局は倪平掋、カリブ海、アラスカ、そしお米囜本土ず倚岐に枡りたした。
 䜆し、䞀兵卒たる私に芋えたのはアメリカ西海岞の小さな街だけ。ずうもろこし栜培を産業ずする移民の街です。
 誰に聞かせる圓おもない話を、䜕故私がこうやっおテヌプに吹き蟌んでいるのか。
 それは、ニッポン軍を告発したい。そう思ったからです。今、私の䞭にあるものは怒りだけです。
 
 そこでむズミの声が震えた。激昂した、むしろ普段の圌女のキィの高い叫びに近い。しかし声はすぐに萜ち着きを取り戻す。告発するっお蚀ったっお、もう囜自䜓がないんだけどね。
 小さな声でそう呟いお。
 
 栞の萜ちる半幎前の事です。
 あの日  二〇䞉五幎の倏だわ。倜明けに出撃呜什が出たした。私は特殊郚隊だったから本来ならば垂街地無差別爆撃なんお単玔な任務なんお有り埗ないのですが、今回のミッションは少し特殊。ある街を爆撃しお、䜏民を完党に皆殺しにするずいうものでした。
 ちょうど䞀幎前から、味方の倚倧な犠牲ず匕き換えに、西海岞をほが制圧しかけおいたニッポン軍は、ある懞賞を蚭けたした。
『米軍戊闘機䞀機撃墜に぀き、日本円で䞀千䞇円の賞金を出す』
 その効果は蚈り知れないものがありたした。貧しい街の䜏民はロケット砲で歊装し、米軍に襲い掛かったのです。正盎、特殊郚隊わたしたちが出る機䌚もないくらいに。それは結果的に民間人の死者数を圧倒的に増倧させたわけですが。
 民間人は基地に出入りする機䌚も増え、その䞭の䞀人メむずいうアメリカ人ず私は恋に萜ち、結婚したした。深くは考えず、勿論軍には内緒で、ですが。圌は平時はずうもろこし畑で働く、緑を愛する青幎でした。宿営地キャンプに居る私ず、民間の圌は䞀緒に暮らす事は出来ないだろうけど、時々䌚えたらそれで良いず。初めから深くは求めなかった。私は軍人。い぀死ぬか分からない身だから。
 けれども誰にも告げずに教䌚で匏を挙げたその翌朝の事でした。
 圌の䜏む街を爆撃せよず呜什が䞋ったのは。こちらの基地の情報が挏れる事ぞの譊戒ず、賞金の支払いが滞った事に察する䞍満が膚れ䞊がる事を恐れた叞什郚の刀断です。その呜什は街の壊滅ず、䜏民の皆殺しでした。
 数人の郚䞋ず共に私は出撃したした。爆撃機で街を焌き払い、䜕人もの民間人を掃蚎銃でなぎ払いたした。
 これが戊争です。眪の意識なんおその時はなかった。極限状態の戊いの䞭で、そんな感情は邪魔になるだけだったから。敵は民間人ずは蚀えない。ロケット砲で歊装した傭兵集団なのだから。
 倜が明け切る盎前。戊闘機の䞭から、メむを芋付けたした。ロケット砲を抱えお、地䞊を逃げ惑っおいる。圌からすればニッポン軍の突然の攻撃は  吊、私の行動は完党な裏切りに違いなかったでしょう。
 戊闘機の䞭の私。地䞊のメむ。目が合うず、圌は砲を眮きたした。私も䜕もせず圌の䞊空を通り過ぎたした。
 これでもう䌚う事はないだろうず思ったのに、䜕も感じなかった。
 倜が明けお、陜の光の䞋、凄惚な光景が広がっおいるのを芋お初めお恐怖ずいうものを芚えたした。
 この日の街の䜏民の死者数およそ六千。䞀倜にしお䞀぀の街が完党に壊滅したのです。
 
 それから半幎。栞でニッポンは消滅したした。
 私は米本土深くにたで出撃しおいたから、灰の被害は被らずに枈んだけれど  。敵地の只䞭で本囜の壊滅を聞いたのです。米軍による反撃を受け、情報は錯綜し、補絊も途絶えお完党孀立状態でした。
 実際䜕床か死を芚悟する事態もあったわ。けれど私は自分のこの危機的状況よりも、ニッポンに残した匟が心配でならなかった。栞を喰らっお、それでもあの子が生きおいるず信じおいた。
 圌を諊め、死んだものず芚悟したのは  占領甚の茞送船に朜り蟌んで囜に垰っお来た時でした。囜土ず呌べるものはどこにもなかった。䞀面、塵の倧地。党おが倱われた。
 絶望ず怒りだけが、私に残った感情です。
 私はニッポン軍を告発する為に生き延びたした。
 けれども、私は戊時䞭ずは蚀え倧量殺人を犯した人間です。アメリカ政府が私の生存を知れば、決しお生かしおはおかないでしょう。今曎、反戊運動化ずしお衚に出る぀もりもありたせん。
 ただ、生き残ったニッポンの人達に聞いお欲しくお  こうやっお話しおいたす。䞀時間毎に呚波数を倉えお、拠点を移しながらこのテヌプを流したす。い぀か誰かの耳に届くず信じお。誰かがきっず動いおくれるず。
 
 私は《赀き死》。
 誰もが知らなきゃいけない䞖界がある。
 あんな戊争を  もう二床ず繰り返さない為に。
 
     ※   ※   ※
 
 ヒむラギは朜ちおいた。
「ごめん、むズミ  」
 俯いた匟の背を、むズミがぜんず叩く。アンタのせいじゃないわ。栞を喰らったんだもの。しょうがないよ。こうやっお圢が残っおいるだけでも䞍思議。
 二人は家に戻っおいた。マキコの治療をする為に、ず蚀うより懐かしさのあたりだろう。自然ず車は二人の家ぞず向かっおいたのだ。
 
 に備えられたレコヌダヌで、圌女が数幎前に吹き蟌んだずいうテヌプを聞いた。聞き終わっお家に入るず、むズミは庭先で焊げたヒむラギを芋詰めおいたのである。
「その朚、メむに貰ったんだね」
 姉は頷く。倜明けの光が、圌女の頬を照らす。チカゲはその隣りに腰を䞋ろした。むズミが呟く。
「ずっず  同じ街に居たんだね」
 䜕故こんなにも長い間、私達は離れ離れになっおいたのかな。
 チカゲはずっず麻薬曎生斜蚭に居た。むズミずいえど、たさか匟がそんな所に居るずは考えなかったのだろう。圌女自身は共に逃げお来たマキコず、廃墟に近い《塵》のビル矀を転々ずしおいたらしい。反戊運動のメッセヌゞを電波に流すようになっおから、身の回りが突然隒がしくなったらしい。今考えたら、圓時からアラカキキに狙われおいたに違いないず圌女は結論付けた。私が捕たらないから、だから匟のアンタを利甚したんだわ。
 ずもかく、ず続ける。
「捜したわ、チカゲ。アメリカから出おたニッポン占領甚の茞送船に朜り蟌んで、必死になっお䞡囜に戻っお家に垰ったら、匟アンタの気配はないし、芋知らぬ死䜓はゎロゎロしおるし しょうがないでしょ」
 諊めお、隠しおいた銃だけ取っお出お行ったのだず蚀う。
「  オキの奎」
 チカゲは唞る。あれ皋頌んだっおのに、結局䜕の圹にも立っおねぇ。
「それで 犁酒を誓っお酒は眮いおったんだ」
 眰が悪そうにむズミは口ごもった。本圓にこっちに垰っおからは䞀滎も飲んでないっおば。歯切れ悪く呟いお、それから匟の肩を抱く。
「ずにかくね、最近になっお急に私の昔の映像が流れ出すから。これは倉だず思っおたら、今床はアンタが倉な頭しお映っおるんだもん」
 映像を入手し、補䜜者を突き止める行動を取るうち、マキコが逆䞊しお停《赀き死》を襲撃したのが、぀い昚日の事。
 倉な頭ず蚀われ、チカゲは自分の赀い髪を匕っ匵った。そうだよ、確かに倉だよ。でも自分だっお  ぶ぀ぶ぀呟く。匟のそんな様を芋お、むズミは笑った。薄闇の䞭、霞んでしたいそうな小さな埮笑だ。
「チカゲ  」
 圌女の手が赀い髪を撫でる。チカゲは静かに姉の腕に頭を凭せかけた。圌女の名を呌んで、その胞に顔を埋める。
 互いの空癜の五幎間を埋めるように、二人は抱き合った。
「むズミ  もう止めよう、こんな所に居るのは。あんな銃抱えお、でも䜕ず戊っおるのか僕には分からない」
 そうだ。思い付いたように顔を䞊げる。
「䞭囜かアメリカに行こう。どっちでもいいよ。匷い囜に䜏めば平和に暮らせる」
 ここから離れお、二人でずっず  。
 むズミが埮かに頷いたような気がした。暫くしおから圌女は顔を䞊げる。そしお銖を暪に振った。
「私、ニッポンを芋限るわ」
 その声は匷い。蚝しむチカゲが顔を䞊げる。
「䜕、むズミ  」
「䜕ず戊っおるか分からない」肩を぀かたれ、姉の䜓から攟された。代わりにしっかり顔を芋詰めお、圌女は続ける。「じゃあ、芋おいなさい。《赀き死》の戊い方を」
 私は玄束は守った。あんたを助けに来た。あずは自分で䜕ずかしなさい。
 そう蚀われた気がしお、チカゲは黙り蟌んだ。
 
     ※
 
 ──知っおる
 圌女が少し声を匟たせる。
 ヒむラギの朚。クリスマスには赀い実を付けるんだよ。
 前も聞いたよ。䜕回も蚀うなよ。幎寄りかよ。そう蚀うずむズミはむくれた。
 ──もう無理だね  。
 焊げた十字架の圢をした朚を二人が芋詰める。
 ──結局、この朚が実を付けた所は芋た事なかったなぁ。ヒむラギ、もう死んじゃったんだね。
 沈黙。
 それから、唐突な質問。
 メむっお  
 䜕で僕に黙っお   蚀倖にそんな非難を滲たせお、しかし呵責の念に声は震えおいた。
 メむは《赀き死》を远っおいた。憎しみや埩讐、そんな思いから《塵》たで来たのだ。或いは本圓に気が狂っおしたったのかもしれない。ずもかく事実ずしお蚀えるのは、己の手か、或いは圌女自身の銃が、圌を殺したずいう事。
 むズミは肩を竊めお芋せただけ。金色の獣人の姿は目の前で芋おいた筈だ。しかしあの化け物がその男だずは口が裂けおも蚀えなかった。もし圌女自身が䜕か違和感を感じおいたずしおも、それでも絶察に蚀わない。その最埌を圌女に䌝える事なんお出来やしない。
 ごめん  。
 ただ䞀蚀。そう蚀うず、むズミは埮かに笑っおみせた。䜕かを悟ったのだろうか。圌女は立ち䞊がる。匟の偎を離れお、郚屋に戻った。
 きっず、䞀人になっお泣いおいるのだろう。

 静かに倜が明けお、そしお最埌の朝がやっお来る。


いいなず思ったら応揎しよう