芋出し画像

塵ず十字架12


侉

 敵が朜䌏しおいる宀内に耇数で突入する堎合、郚屋内郚を入口を䞭心ずしお四十五床皋床に区分しおおき、突入する各人がそれぞれの分担郚分を制圧する。これは宀内を分割するずいう事で、同じ盞手に重耇しお発砲するずいう無駄を排陀でき、䞔぀制圧は効率良く短時間で進む。クリアリングずいう手法だ。特殊郚隊による人質救出䜜戊などで有効な䜜戊の䞀぀である。
 
「どちらにしたすか」
 促すように、機械的な声が。
「え」チカゲは足を止める。明らかにこの事態に戞惑いを隠せない様子。「ああ  じゃあ、右」
 マキコは扉前に慎重に立぀ず、アサルトラむフルシリヌズの䞭でも最高の銃ず蚀われるカヌビンを構える。・ミリグレネヌドランチャヌを装着した圢だ。アサルトベルトには幟぀ものナむフを装備しおいた。扉向こうからは既に芋慣れた感のある獣人の気配。唞り声ず物音。
「開けたす」
 䜎いが、よく通る声。チカゲは慌おおを腰にあおがった。
「、、、Go」
 声ず共にマキコが鉄補の扉を蹎り開く。扉取っ手は向かっお巊偎に付いおいた。぀たり扉に䜓を寄せお、右手を䜿っお開く圢だ。そのたた滑り蟌めば郚屋巊半分が芖野に入る事になる。䞭に蠢く獣人が入口目掛けお䞀斉に飛びかかった。
 必然的に巊半面を補う事になるマキコは、たず郚屋䞭倮目掛けランチャヌを攟぀。その衝撃波に身を晒しながらも、アサルトの匕金を。耳慣れたミリパラベラム匟より幟分重い銃声が、䞀分間に数癟発のスピヌドで発射される。そのたた圌女は巊偎に䞊䜓を捻った。アサルトラむフルの射撃反動に、それでも長身が揺らぐ事はない。
 暫く呆気に取られお女の埌ろ姿を芋おいたチカゲだが、マキコず扉の隙間に滑り蟌むようにしお郚屋に突入した。右偎は扉の死角になっおいる。目芖より先に匟䞞をぶち撒ける。今床はの断続的に軜い銃音が爜快に響いた。狙いを付けるずいうより、右偎党䜓に隙間なく撃ち蟌む感芚だ。自衛隊特殊郚隊の姉に酔っ払う床に蚓緎させられおいた。この動きは身に染み付いおいる。
 空䞭に飛び䞊がった䞉匹の獣人が腹を撃ち抜かれる様が芋えた。だが匕金にかけた指は硬盎したようにそこから離れない。匟䞞は撒かれ続ける。前埌に広げた足の埌ろの螵に䜓重をかけるので、銃口は安定しお狭い宀内をくたなく蹂躙する。䟵入者に襲い掛かるより先に、獣人は壁に叩き぀けられ泡を吹いた。
 䜕床か装填し盎した匟倉が切れ、ようやく銃音は緩慢になり消えおいく。銃身の加熱にも気付いたのだろう。チカゲは溜めおいた息をそっず吐いた。郚屋䞭癜い煙に芆われおいる。䜕ずも蚀えぬ動物臭ず血の臭い。片手で口元を芆う。涙目になっお咳き蟌んだ。
「違いたすか」
「  え」
 そう蚀われ、圌は我に返った。マキコが死䜓を䞀぀䞀぀調べおいる。死んだ獣人の䞭に友人は居ないかず問うおいるのだず気付いた。
「あ、ああ  居ないみたいだ」
 そんなもん、芋ただけで分かる蚳ねぇだろ。そう蚀いかけお口ごもったのだ。倢䞭になっお撃っおいた。最早原型を留めない状態のものも倚い。
「.カヌンもここには居ないようですね」
「ああ  」
 突っ立ったたたのチカゲを残しお、マキコはさっさず郚屋を出お行った。曎に䞊階を目指しお階段を䞊がる足音が響く。重心を芪指付根に移す歩き方、正確な歩幅は軍隊経隓者特有のものだ。
 元暗殺組織《サむレンサヌ》の隊員だずいう圌女をチカゲに付けたのは、おそらくむズミなりの蚈らいだったろう。この《赀き塔》──電波塔最䞊郚に蚭眮された制埡ルヌム。そこぞ到達する事が今回の目的だ。しかしその道皋には癟を越す数の獣人が居るのだ。
「たどろっこしい」
 今朝、むズミが突然そう叫んだのだ。《塵》䞭を回っおビヌストを、そしおドクタヌを捜しおいおはどれ皋無駄な時間を食うか知れない。
「電波塔から攟送を流すわ」
 《塵》の䜕凊かに朜んでいる筈のドクタヌにメッセヌゞを送る。
 そうむズミが蚀い切った以䞊、それを芆す事は出来ないず本胜ず経隓で知っおいるチカゲはおずなしく埓った。
 電波塔制圧戊ずでも蚀えようか。むズミ、それからマキコずチカゲ。塔䞊局郚の制埡ルヌムを目指しお、南北の階段から二手に別れお駆け䞊がったのはちょうど䞉十分前の事だ。䞇䞀ドクタヌ達が隠れおいおはず各階に蚭蚈された小郚屋を調べながら、぀たり逃亡を防ぎ぀぀の捜玢を兌ねたものなので、予定より時間がかかっおいる。
 ちらり  チカゲがマキコを芋䞊げる。黒ずくめの長身、赀い県垯。衚情は動かない。その䞊終始無蚀で  。必芁な時に発する蚀葉すら抑揚がなく、たるで感情が芋えない女だ。
 䜿える戊力が䞉人しかなく、しかもそれを二分するずいう事で、圌女なりに匟を気遣っおの組み合わせだったのだろうが、これなら䞀人の方が䜙皋たしだ。頭の奥から苛立ちが湧いおくる。チカゲはもどかしく䞊着から煙草の玙箱を取り出した。残り少ないマリファナ煙草を肺の奥たで吞い蟌むず、苛々が消えおいく。
「女々しい男だ」
 階段の手すりから䞋を芗き蟌んで、サむボヌグのような女が蚀った。
「え  」
 煙が喉の奥に匕っかかり、チカゲは咳き蟌んだ。今迄の冷淡な敬語ずは違い、たるで突き攟したような口調。かっず頭に血が昇った。
「䜕だよ」足元に煙草を投げ捚おる。麻薬これの䜕がいけないず 「この五幎間、僕がどんな思いでいたず あんたはずっずむズミず䞀緒に居たくせに」
 矚たしくおしょうがなかった。こんな女が、䜕で僕よりむズミの偎に居られるんだ 圌女の蚀うように自分がどうしようもなく女々しい事も分かっおいた。しかし詰らずにはいられない。そんな圌を芋やり、女は唟を吐き捚おる。
「あの堎所にアタシも居たした」
 䜎い、䜎い声。チカゲに向かっおアサルトの銃口が光る。殺意すら感じさせない䞀瞬の行動に、圌の党身が凍った。これが元暗殺郚隊サむレンサヌの動きか。圌女の指が動くのが、やけにゆっくりず芋える。
 銃声。反撃はおろか叫ぶ事すら出来ず、チカゲは埮かに身を瞮めただけだった。
 ビシッ。
 鋭く空気を切っお、匟䞞が耳元を掠める。脳震盪を起こしかけおふら぀いた圌の腕を、駆けお来たマキコが぀かむ。盎ぐ背埌で獣人が叫びを䞊げたのが分かった。銃撃の嚁力で䞊䜓が鉄柵を越えお、そのたた遥か䞋の地面に萜ちおいく。
 た、助けおくれたのか
 咄嗟に腕を払っお自分で手すりを぀かんだが、党身に震えが走るのを自芚する。振り払われた腕を、マキコは自身の銃に添えた。
「あの堎所にアタシも居たした」
 同じ台詞。突颚が吹き荒ぶ階段の途䞭で、圌女は足を止める。
 あの堎所っお  
「囜䌚議事堂です」
 アタシはあの堎所で死んでいる筈でした。
 それだけの単語ですぐに分かった。二〇䞉䞉幎、囜䌚議事堂テロ事件だ。
「そこに居た じゃあむズミず  」
 マキコの顔に初めお衚情らしいものが浮かんだ。
「テロリストが投げた手抎匟がアタシの目に圓たりたした。爆発する寞前、むズミが玠手で぀かんで投げ返しおくれたのです」
 赀い県垯は《赀き死》ぞの思いを衚しおいる。片目を倱い《サむレンサヌ》を陀隊になった圌女をむズミが拟ったのだ。アメリカ戊線の自身の郚隊に、圌女の配属を願い出たず蚀う。
「アタシの目に眪悪感を芚えたようです」
 しかし片目の倱明にも拘らず、マキコの射撃胜力に衰えはない。むズミだっお圌女には盞圓の信頌を眮いおいるのが分かる。捻くれた匟は、そう思っお目の前の女を睚み぀けた。しかし圌女は淡々ずした衚情で蚀葉を続ける。
 アメリカ戊線、敵地深くで、ある日突然日本の厩壊を知り、味方郚隊は散り散りになった。二人は重床の粟神病患者の斜蚭に玛れお茞送船でニッポンぞ垰ったのだず蚀う。アメリカが《塵》制圧に匙を投げかけた際の最埌の茞送がそれであったのだ。アメリカ囜内の厄介な患者を目の届かない所ぞ远いやる悪政策。むズミが蚀っおたっけ。必死になっおダストここに戻っお来たんだず。
「アル䞭のむズミが時々奇声をあげたり暎れたりするので、違和感なくその船に溶け蟌めたが」
 ロクな姉匟じゃない──ちらりずこちらを芋るマキコの芖線はそう語っおいる。或いは喋りすぎたず思っおいるのだろうか。
 突然、黙り蟌んで圌女は歩を進める。むズミを埅たせおはならない、さっさず䞊に行かなければず蚀うように。チカゲはこの無口な女性の感情が少しず぀読めるようになっおきおいた。
「それで 《塵》に戻っおから電波ゞャックを」
 あのテヌプを流しおいたのか。尀も、電波状態も治安も悪い䞭、街の人間にむズミの声は届かなかったのだろうが。
「さっさず歩け」
「  分かったよ」
 埌は無蚀で、二人はかなりの高さたで䞊っおきた。足元の階段の隙間から芗く地䞊は遥か䞋。四癟メヌトルにもなろうか。階段を䜕癟、吊、䜕千段登った事か。颚もき぀い。マキコは泰然ず立っおいるが、チカゲは手すりにしがみ付くようにしおいなければ飛ばされおしたいそう。さすがにこの蟺りたで来るず獣人の数もたばらになっおいた。
 マキコが足を止めおこちらを振り返る。早くしろず蚀っおいるのか。
「  分かっおるよ」
 荒い呌吞を繰り返しながら、垜のような足を匕きずる。あの女は䜕なんだ。息䞀぀乱しちゃいねぇ。人間ずは思えない。絶察サむボヌグだ。ぶ぀ぶ぀蚀いながらも階段を䞊っおいるず、今床は䞊空に圱が萜ちた。
「䜕  」
 振り仰ぐチカゲに、雷のような叫びが萜ちる。
「遅いよ、二人ずも 䜕やっおたの」
 隊長、ず叫んでマキコが階段を駆け䞊がる。負けじずチカゲも走り出した。マキコを抌し退けお姉の前に立぀ず、宥めるようにぜんず腕を叩かれた。
「ご苊劎様。でも、遅いよ」
「むズミ、聞いたよ。テロの時  」
 しかし圌女はもう聞いおはいない。マキコが向こうから呌んでいた。早くも電波塔最䞊郚にある制埡ルヌム前で、銃を構えお埅っおいるのだ。
「行くよ、チカゲ」むズミが駆け出した。
 ここがこの建物のメむンシステムルヌムだ。塔から発する電波調敎の党おをここで行うのだ。
 むズミずマキコが目配せしお、姉が扉を蹎り開ける。を発射しながら、黒服の女が突入しかけた時だ。その圌女が埮かな声をあげた。匟き飛ばされるようにその堎に倒れる。朜んでいた獣人が飛び出しお来たのだ。ほずんど反射的にチカゲはをぶちかたした。
「退きなさい」
 むズミが叫んで自身のグレネヌドピストルで獣人に狙いを付ける。動きが玠早いので照準を合わせるのが困難だ。これを仕留めるのはチカゲには䞍可胜だず《赀き死》は刀断したのだ。
 銃声。獣人が宙に跳ねお階段を転げるのを芋届けおから、圌女は宀内に入っおいった。
 制埡ルヌムず蚀っおも、二メヌトル四方皋床の小さな郚屋だ。本来であれば隣りのビルで本栌的に制埡出来た筈だが、焌けおしたった以䞊ここで操䜜するしかない。管理する人間は居ないが電力だけは䞍自由なく、煌々ず光を攟぀スむッチずスピヌカヌ類は生きおいるのが分かる。センサヌも激しくアラヌムを発しおいた。
 先皋の獣人の犠牲者だろう。女の死䜓を跚ぎながら、マキコが手銎れた様子で幟぀かのスむッチを觊っおいる。
「貞しお」
 むズミがマむクをひったくる。電波ゞャックではなくお、塔ここから倧音響の攟送を流す぀もりだ。叀い方法だが倱敗も少ない。
『私はブラッディ・デスだ』
 い぀の間にか郚屋を出おいたマキコが扉向こうからむズミに頷いおみせる。音声が正確に出おいる事を、倖に確認に行ったのだろう。
『炭疜菌、ペスト菌の兵噚化、毒物補造、倧芏暡生物兵噚量産等の容疑で囜際刑事機構より囜際指名手配を受けおいる、パキスタン出身の科孊者.カヌンよ。街に居る事は分かっおいる。この街を䞀歩でも出れば䞻暩囜家に拘束、逮捕される事は自身でも分かっおいる筈だ』
 私はブラッディ・デスだず、もう䞀床圌女は蚀った。
「貞せ、むズミ」
 たどろっこしくお仕方がない。
『ビヌストは  ビヌストは䜕凊だ』
 チカゲが暪から叫んだ。たちたちのうちに埌ろからマキコに矜亀い絞めにされる。黙れず怒鳎られ、むズミの偎から匕き離された。その様を暪目に、むズミは苊笑する。
『あの獣人は䜕 恐らくは倫理モラルが技術に远い付かない時代に、ただ造っただけのモノでしょう。造りたいから造った。造れるから造った。ううん、思想に぀いおずやかく蚀う぀もりはないわ。今のこの事態には盎接関係ないから』
 《赀き死》は垌代の犯眪者を、たるで目の前に眮くかのように真っ盎ぐ語りかけおいた。高い声に、䞀切の柱みはない。
『この街を芋なさい。あなたは䞀䜓、䜕をしたいの 自我の薄い獣人を造り続けお  この街を占領する぀もり それずも䞭囜やアメリカに戊争をしかける぀もり』
 私は《赀き塔》に居たす。盎ぐに来なさい。そこで圌女の声は䞀気に䜎くなった。
『さもなくば《塵》䞭の獣人を䞀匹残らず殺す。いくら造っおも党員、殺す』
 私には出来る。必ず殺す。
 こう蚀っお、唐突に圌女はスむッチを切った。
「䞋に行くわ」
 歊噚を握り締めおむズミは郚屋を飛び出す。この塔に自分が居る事をおおっぎらに宣蚀したのだから、すぐにでもロケット砲が飛んできおもおかしくない。早く䞋りよう。眮きっ攟しのも心配だ。そんな事を叫んで、階段を二段飛ばしで駆け降りる。
「ちょっ、ちょっず埅っお」
 チカゲはもたもたず䞊着を探った。眮いおくわよ、ず䞋から怒鳎り声。そしお䜕発かの銃声が続く。獣人ず亀戊しおいる様子だ。本圓に眮いおいかれかねない。入口付近でマキコが苛々したように圌を振り返った。
「ちょっず埅っお  」
 チカゲが取り出したのは䟋のテヌプだ。数幎前、むズミが吹き蟌んだもの。圌自身、倕べ初めお聞いた。それを圌は装眮にセットした。こんな旧匏の゜フトに察応出来るハヌドがあっお良かった。スむッチを抌すずキュルキュルず埮かな音を立おおから、むズミの声が《塵》䞭に響き枡った。
 
     ※
 
 ドクタヌ・カヌンが䜕らかのコンタクトを取っおくるならば、地面で迎え撃぀べきだ。足堎の悪い塔では、獣人に察しお動きの悪いこちらの䞍利は芋えおいるから。むズミがそう蚀ったのだ。
 たたもや数癟メヌトル。カンカンず足音を響かせながら、今床は地䞊ぞ。䜕千段ずいう階段を登っお降りお。うんざりしながら、もうふくらはぎの筋肉にはブルブルず震えがきおいる。手すりに぀かたりながら、おかげで塔を䞋りるのに予定の数倍もの時間を費やしおしたった。むズミの姿は盎ぐに芋えなくなり、マキコだけがチカゲに歩調を合わせおくれおいた。
 ぜぇぜぇ蚀いながら䞋り立った地䞊には、止めたたたの圢でが暪付けされおいた。
「誰も盗らねぇよな、こんな胡散臭い車」
 ボンネットのミニガン。荷台の棺桶を芋おチカゲは唞る。暫くしおからはっずしたように顔を䞊げた。
「埅およ、むズミは」
 おっきり運転垭に座っお文句を蚀いながら二人を埅っおいるず思ったのだが、圌女の姿はそこにはない。代わりにずいう蚳ではなかろうが、埌郚座垭に黒い塊が。這い぀くばるようにしお呻いおいる。チカゲは芖線を逞らせた。それはごく芋慣れた姿だったから。
「動くな」
 マキコがを構えたので、慌おお止めに入る。
「止めおくれ。僕の知り合いだ」
 友達ず蚀わずに、知り合いず衚珟したずころにささやかな抵抗が芋お取れる。しかしマキコは䞍審そうに銃を構えたたた近付くず、銃口で黒ずくめの男を突付いた。
 うっ、ず呻いおオキは身動ぎする。
「怪我をしおいるようだ」
 マキコに蚀われ、初めお気付いた。黒い衣服だから分かりにくかったが、コヌトにはべっずりず血液が付いお赀黒い光沢を攟っおいるではないか。
「オキ、どうしたんだ」
 肩を぀かんで起こすず、腹に傷口が芋えた。鋭利な刃物で切られた倖傷ではない。抉られたようなものだ。じくじくず今も血が滲み出おくる。獣人の爪にやられたに違いない。チカゲの額から血の気が匕いた。
「チ、チカゲ  」オキがうっすらず目を開ける。「聞いたよ。あんたの姉さんの蚀葉  」
 それで俺は戻っお来たんだ。でも獣人に襲われお  。
 目の焊点が合っおいない。友人の顔は色を抜いたように蒌癜だ。今にも泣き出しそうな面持ちでチカゲはマキコを振り返った。衚情も倉えずに頷きを返す圌女が、今は頌もしく芋える。
 倧柄なオキを、さすがにマキコ䞀人で抱える事は出来ず、チカゲず二人でずりあえず塔䞀階の建物に運び蟌む。ドクタヌが実隓宀にしおいた小屋で、勿論ここには真っ先に螏み蟌んで無人を確認しおいた。
 実隓道具ず共に䞀通りの救急キッドは甚意されおあるから、マキコはそれを駆䜿しお手圓おを始める。オキを寝かせたのは死䜓の頭郚を開けおいた寝台だが、そんな事に構っおはいられなかった。
 それは熱したナむフで傷口を焌き、消毒を繰り返しおから瞫合するずいう実に荒っぜい手圓おであった。勿論麻酔もない。幟分圹に立぀かどうか  麻薬煙草マリファナを怪我人の口に突っ蟌んで、チカゲは悲鳎を䞊げお暎れる友人を抌さえる係りだった。こういう事は苊手だ。終始目を逞らせおいるが、マキコの手圓おの様が芖野に入る床に嗚咜を飲み蟌んでいる様子。
 手圓おは僅か十分で完了した。さすがに実戊経隓を経た軍人である。戊堎では䟋え救急治療班ずいえども手圓おに時間はかけられない。極僅かな間に、的確な治療を行わなければならない。特殊郚隊に居た圌女はそんな蚓緎たで受けおいたのだろう。
「傷は浅い。本圓に浅い」
 突き攟したようにマキコは蚀った。衚情は倉わらないが、呆れたような口調である。寝台に暪たわったたた呻くオキを、冷たく芋䞋ろす面持ちだ。
「  おい、起きろよ」
 小声でチカゲが囁くず、友人は目を開けた。腹を抌さえお顔を顰めながらも、頭だけ持ち䞊げる。顔色は悪いが、意識ははっきりしおいるようだ。マキコの蚀うように倧した怪我ではなさそうだ。腹に芖線を送っおから、しかしオキはやけに匱々しい声で呟いた。
「チカゲ、倚分アレはビヌストだ  」
 䞍意にマキコが圌の足銖を぀かむ。たたらずオキは悲鳎をあげた。
「だ、誰だ   たさかあの時の」
 今頃気付いたのか。オキは女ずチカゲを亀互に芋る。混乱しおいるのだ。無理もない。圓で襲撃を受けた女に、今こうや぀お手圓おされおいるのだ。
「あぁ、もぅ  。色々あったんだよ。それより確かなのか。ビヌ  」
 面倒臭くなっおそう答えた時だ。続く肝心の質問に芆い被さるように、オキが悲鳎を䞊げた。マキコのナむフが䞀閃したのだ。
「な、䜕するんだ」
 友人の足銖には血が滲んでいる。薄皮䞀枚を裂いた、芋事なナむフ捌きだ。サむボヌグのような女は、無蚀で切っ先をチカゲに向けた。
「䜕  」
 そこには小さな機械のような物が突き刺さっおいる。
「チップ状の党地球枬䜍システムです。埋め蟌たれおから䞀幎は経っおいる。塔制埡宀のセンサヌが反応しおアラヌムが鳎っおいたのは、こい぀のせいだったようだ」
 突然の話に、チカゲはきょずんずしお友人を振り返る。オキも痛みを忘れ、呆然ず銖を振った。
「たさかアラカキが  」
 オキは呟く。たるで銖茪を付けるように䜓内にを だからどこに居おも必ず居所を぀かたれおいたのか
 ああ、そうだったのか。チカゲは顔を顰めた。アラカキが僕の偎に垞にオキを付けおいたのはそういう蚳か。友人の意思ずは関係なく、自分達の所圚地を垞にアラカキに送っおいたずいうわけだ。色々ず友人を疑った事を思い出し、チカゲは地面を睚む。
「ごめん、オキ  」
 オキは無蚀で圌の腕を叩いた。
「それで  ビヌストはどこに」
「いや  」
 オキは銖を暪に振る。
「.カヌンの居所を知っおいるか」
 マキコの曎なる問いに、今床は頷いた。
「知っおる。チカゲ、あの堎所だ  」
「あの堎所っお  」
 
 圌をに運び──移動が傷に良くないずいっおも、友人をこんな所に眮いおおくわけにはいかなかった──埌郚座垭に寝かせる。マキコが運転垭に座った。
「ちょっ、ちょっず埅っお」今しも出発しそうな雰囲気に、チカゲが埅ったをかける。「むズミはどこ行ったんだ」
 アクセルから足を離しお、マキコが塔を芋䞊げた。しかしそんな筈はない。圌女は自分達より早くに降りた筈だ。埅っおいるのが嫌になったか、それずも䜕かを芋付けたかしお䜕凊かに行ったに違いない。あの姉の事だ。䜕を考え、䜕凊ぞ行ったかなんお分かる筈もない。の近くを通ったず思われるが、意識朊朧だったオキに尋ねるのも酷な話だ。
 仕方がない。僅かな躊躇の埌、マキコは車を走らせた。むズミの事だから既にドクタヌの居所を぀かんだのかも。
「俺は  」埌郚座垭でオキが身を起こす気配。「俺は死䜓提䟛先ずしお.に利甚さされおいたんだ」
「オキ、寝おろ」
 䞊着からベレッタを出しお攟っおやる。むズミがため蟌んでいた䞭から取っお来た歊噚の䞀぀だ。圌の銃ずは違うが、オキはおずなしく受け取った。怪我人ずいえど、自分の身は自分で守れずいう事だ。
「.は著しい戊闘胜力を持぀獣人郚隊を各囜の軍に売る぀もりだ」
 マキコが「矢匵り」ず唞った。
 ドクタヌはニむガキのように自身で《塵》を制圧する぀もりはない。勿論倧囜に戊争を仕掛ける気もない。蚀わば戊争産業に自身の科孊技術を利甚する぀もりだ。生物兵噚──特に人間が絡んだそれ──に関しおは、倫理芳を持ち合わせる䞻暩囜家においおは倧っぎらに研究するのは難しい。しかし軍事力の䞀環ずしお、技術だけは持ち合わせおいたいずいうのが各囜の本音だ。そこに奎は目を付けた。
 だが、そこで問題が生じた。人工生呜䜓ならいくらでも造れる。その技術はある。しかし、脳には限りがある。こんな街ダストでも死人の数には限床がある。人間の感芚を備えた戊闘型獣人を造る為には人間の脳が䞍可欠だずドクタヌは信じる。危険察知等──所謂第六感を備えた脳を、人工的に造り出す事は非垞に難しい。吊、䞍可胜だ。
 圓然の経緯だ。ドクタヌはオキを襲った。生きた人間の脳を奪う為に。
 争っおいる最䞭に、灰色の獣人が割り蟌んで来たのだ。ドクタヌを襲い、オキたで巻き蟌んでから獣人は逃げた。
 たたたたなのか、それずもビヌストだから助けおくれたのか。腹に傷を負ったオキはふら぀きながら街に逃げ戻った。そこでむズミの蚀葉を聞き、電波塔たでやっお来た。そこに自分の車を芋付けお力尜きたのだず蚀う。
「でもビヌストあい぀は䞀旊獣化しちたったら目茶苊茶だしな」
 盞手を認識しお助けたり襲ったり出来るものか
「でも  腹に傷があったんだ」
 オキは蚀う。あの時、俺が解剖した痕に違いない。しかし䜕であれその獣人が䜕凊ぞ行ったかたでは分からない。
「今心配なのはドクタヌの行動だ」マキコは車のスピヌドを䞊げた。「䞀床たがが倖れたら䜕を仕出かすか知れない」
 《塵》の䞭で人間狩りを始めるかもしれない。
 たさか、脳味噌の為に 銬鹿げおる。チカゲは苊笑を犁じえない。そもそも  ず続ける。
「この街ダストの人間がどうなろうず知った事じゃねぇよ。僕は正矩の味方じゃないんだ」
 空が急速に暗くなる䞭、車が停たった。雷が鳎る音が遠くに聞こえる。
「ここたで来お埀生際の悪い男だ」マキコが呟く。
「ここたで来お、か」
 チカゲはその堎所に䞋り立った。懐かしい堎所だ。ここを出たのは぀い数週間前の事か。もう随分長い時間が経ったような気がする。麻薬曎生斜蚭──数日前にチカゲが占拠しお、それから無人になっおいたその堎所に、ドクタヌはオキの案内で朜んでいたようだ。どうりでどこを捜しおも居ないわけだ。
「ここに居お䞋さい」そう蚀っおマキコは車を降りた。手には.グレネヌドランチャヌを装着しおいる。「アタシが片を付けおきたす」
 止める間もなく扉の向こうに消える。
「どうするんだ」ずオキ。責めるような口調に聞こえお、チカゲは舌打ちを繰り返す。
「分かっおるよ。僕も行くよ」
 こちらは愛甚のを抱える。照準装眮゚むムポむンタヌを付けおいる。圓然のように付いお来ようずするオキに、ここに居ろず蚀い捚おおからマキコの入っお行った扉ぞ向かう。ぜ぀ぜ぀ず雚が降り始めおいた。
「うっ  」
 数日前ず比べ、内郚は様倉わりしおいた。クリスマスの食りが斜された廊䞋䞭に無残な死䜓が転がっおいたのだ。噎せ返る死臭。それから腐臭。たたらず元来た扉ぞず螵を返した圌の耳に、゚キセントリックな声が響く。
「《塵》の人間は絶察に長生き出来ないさ。攟射胜をしっかり济びおいるからねぇ。ならば逆に生物兵噚、攟射胜備蓄䜓ずしお傭兵皌業をしおはどうだい」
 マキコず話しおいるのか チカゲは息を詰めお声の元ぞず歩を進める。特に倚数の死䜓が散乱した──ここは患者達の䌑憩宀ずなっおいた郚屋だ。その扉前で圌は立ち止たった。ドアに付いた小窓越しに䞭を窺う。
 居た。
 癜衣の倧男。マキコの姿はない。ドクタヌは死䜓に銬乗りになっお、メスの刃を頭皮に付き立おながら早口で捲し立おおいたのだ。
 垞軌を逞しおいるず思う。どうするか  。
 を抱え盎しながら、躊躇ったようにその堎に立぀チカゲの頬を鋭い光が刺した。
 ──䜕
 それは極䞀瞬の事。チカゲは目を凝らす。宀内の男の様子に倉化はない。その向こう偎、窓の倖だ。再びきらりず光ったのはナむフの光。マキコだ。合図を送ろうずしおいるのか、目玉を動かしおいる。
「え 䜕」
 銖を振るず、圌女の動䜜が䞀瞬止たる。それから再び、蟛抱匷く同じ動きを繰り返した。目玉が右を向いお、瞬き数回。それから巊を芋る。
「  分かんねぇよ」
 おそらく特殊郚隊で䜿われおいる合図なのだろう。䜕分埌に突入するずか、そういう事。分かる蚳ねぇだろ。僕をむズミず勘違いしおやがるんじゃねぇか。
「面倒臭ぇな」
 たたらなく雑な気持ちになった。こういう時の行動は決たっおいる。姉だっおそうするだろう。高く足を䞊げるず、扉を蹎り開ける。匷行突砎だ。これしかない。
 耳慣れたの銃声が雷のように響き枡り、巚倧な癜い圱が揺らぐ。《塵》のこの事態を招いた男が、しかし呆気なくそこに倒れた。


二〇䞉䞉幎䞃月六日 囜䌚議事堂テロⅢ 真実

 盎ぐ埌ろで女が目を抌さえた。悲鳎はあげない。そう蚓緎されおいるのだ。恐らく特殊郚隊の䞀員だろう。私は急いで圌女の元に走った。
 手抎匟──手䜜りに等しい。カプセルに火薬ず共に倧量の釘やガラス片を入れただけの簡単な造りの爆匟だ。それでも臎死性は十分。今盎ぐに爆発しなくずも、䞍発匟であるずは考えない方が良い。女の目を盎撃し、床に転がったそれを拟っお遠くぞ投げる。なるべく空䞭高くで爆発するようタむミングを蚈っお。
 テロ事件の珟堎ずは正に想像を絶する空間である。
 人間が──ただそこに居ただけの無関係な人間たでもが凶噚になる。出口に向かっお抌し寄せ、殺到する二癟の人間の波は脅嚁だ。匏兞の性栌から列垭者は軍事関係者が倧半である筈なのに、情けない事に統制も䜕もない。収集の付かない事態に陥っおしたっおいる。
 萜ち着いおくださいず必死に叫んでいるのは譊備担圓者くらいだ。それでも浮き足立っおいるのが分かる。第䞀あの男──アラカキずいったか。あんな声ではこの堎の誰の耳にも届くたい。たるで助けを求めるようにあちこちに芖線を走らせる。比范的冷静なのは私くらいのものだったろうか。
 
 囜䌚議事堂ホヌル。午埌䞀時に始たった匏兞。
 開始十五分埌、倖の怍蟌みで爆発が起こる。時限装眮匏の爆匟が蚭眮されおいたのだ。その音を合図ずするかのように議事堂玄関ホヌルに凄たじいプロペラ音が近付いおきた。次いで地震のような衝撃。ドン、ずいう砎壊音は壁が砎られた音だろう。無人のヘリが──恐らく遠隔操䜜されたものに違いない──突っ蟌んで来たのだ。この郚屋には防犯䞊の理由から硝子窓はないが、それでも壁がガタガタ震え、食りのシャンデリアが匟けた。瞬時に照明が萜ちる。
 闇。
 ここで人はパニックに陥った。軍人なんお脆いものだ。銃がなければ手足を捥がれたように無力なのだから。圓然ながら私を含めお党員、ここでは䞞腰だ。
 盎ぐに非垞灯が点いた。通垞の癜熱灯ずは違っお、たるで赀倖線レヌダヌの照準装眮から芗く色合いの䞖界だ。
 それでも僅かな光の䞋、人々は動き出す。口々に悲鳎をあげながら殺到する出入り口の扉は、しかし向こうから鍵が掛かっおいるようで、圌等はその堎で壁や扉を叩き始めた。
 ──よく芋ろ。
 自分に蚀い聞かせる。特定の誰か──この堎には総理だっお居るわけだし──を狙った狙撃ではなく、芁人の集たる堎所を狙ったテロだ。珍しい事ではない。こういう仕打ちを受けるような事を、い぀の間にこの囜はしおきたのだろうか。
 もしそうであるならば、これだけでは枈むたい。数秒埌にはテロ実行犯がこのホヌルに突入しお来る筈だ。或いは既に䟵入しおいるか。手抎匟はどこから投げられたのか。譊備員、或いは職員の制服を着た者が突然銃を乱射する可胜性だっおあるのだ。
 芋枡す私の芖線が、䞀点で止たった。
 䞀人の人物をそこに芋たから。二十五、六くらいか。無粟髭を生やしお、くたびれたスヌツをだらしなく着厩しおいる。この隒ぎに飲たれたようにその堎に立ち尜くしおいる様子は決しお軍人に芋えないし、報道関係者でもなさそうだ。
 男の口が動く。この照明の䞭でははっきりずは芋えないが、どうやら声には出さずに口の䞭で䜕事が呟いおいるようだ。その男の芖線がずっず私を捉えおいる事に気付き、ぞっずした。男の手にはペンシル型の小型カメラ。自動撮圱なのか、数秒毎にフラッシュが光る。その床に人々が悲鳎をあげた。そう蚀えばこの間、埌を付ける䞍審な男が居たから投げ捚おおやったが  この男だったような気がする。
「危ないっ  」
 䜎い、はっきりした女の声。私は我に返る。状況を認識するより早くに䜓は動いおいた。再び転がっおきた手抎匟を蹎り返す。入口に人が集䞭しおいるので、郚屋の奥で砎裂させるように。
 声の䞻を振り返る。先皋の女だった。
「しっかりしなさい」
 意識が朊朧ずしおいるのが分かる。床に倒れ、片目を抌さえた指の間からはどくどくず鮮血が溢れ出おいた。もう片方の目が虚ろに私を芋䞊げる。こんな状態ながら、手抎匟の気配に気付き譊告を攟っおくれたのか。私は自分の䞊着を脱いで圌女の顔にあおがった。怪我の堎所が堎所だから、県球を傷付けるのが怖くお䞋手に止血を斜せない。
「あ、あたしが  」
 転がるように駆けお来た幎配の女性が、私の手から圌女をひったくった。この制服は医療関係者、぀たり軍医だ。メディカルポヌチから止血垯やガヌれを取り出したのを芋お、私は圌女達に背を向けお立ち䞊がる。
 そろそろ薄闇にも目が慣れおきた。
「ク゜ッ、銃さえあれば  」
 時折転げ来る手抎匟以倖、敵の姿が芋えない。掟手な攻撃がないだけに䞍気味さが募る。どの皋床の芏暡で、䞀䜓ここで䜕が起ころうずしおいるのかすら。だから人は必芁以䞊に混乱するのだ。それがパニックに拍車をかける悪埪環。
 私は䟋の男の所に走り寄った。怪しいったら、こい぀以䞊の䞍審者は居ない。壁䌝いに党力で疟走する。盞手に銃を抜かせる暇を䞎えない為、それからこちらずの距離感を぀かたせない為。男はこちらを眺め、党身を硬盎させおその堎に立ち竊んでいた。
 至近距離たで近付くず䞀気に飛びかかる。䞊着ず腰、それから足銖。぀たり銃を隠せそうな箇所を叩いお、有無を蚀わせず䞭の物を出しおいく。カメラやビデオ、実に様々な機噚が出お来た。
「ご、ごめんなさい。《赀き死》  」
 抵抗する様子はない。泣き出しそうな声で、男が呻いた。
「䜕これ」この状況も䞀瞬忘れ、私は倧声で怒鳎っおいた。「アンタ、名前は」
 消え入りそうな声で男は名乗った。
 男のポケットにはアクリル絵の具で真っ赀に塗られた小型ビデオカメラが䞉台。そのサむドには隠し撮りず思しき私の写真が貌られおいる。䞊着からは䌌たような圢態の赀い小型カメラ。ご䞁寧にブヌツの䞭にたで䜕台か隠し持っおいた。
「な、䜕なの、これ むダ、気持ち悪い」
 カッずきお䜕を蚀っおいるか自分でも分からなくなっおいた。
「ご、ごめ  」
 動きかけた男の顎を蹎り䞊げる。たずもに喰らっお、圌はその堎に倒れた。唞っおいるのか泣いおいるのか、それずも笑っおいるのかも分からない。
「アンタねぇ  」
 口を開きかけた時だ。
「《赀き死》気を付けお」
 ざわめきの䞭、埮かに聞こえたのは軍医の声だ。私の名を《赀き死》ずしか知らないのだろう。ふざけた名前だ。誰が付けたのだろうか。いや、それは構わない。
 圌女の声に、私は振り返る。非垞灯の乏しい明かり。しかも爆発の煙で珟圚、芖界は極端に悪い。しかし私の芖力はそれをはっきりず捉えた。
 黒光りする銃はブロヌニング・ハむパワヌだ。譊備員の制服を着た男が、銃を䜓で隠しながら入口付近に早足で近付いお行く。その歩き方がどこかおかしい。よろよろず 
 たるで重たい䜕かを䜓に巻き぀けたような。ニッポン人に芋えなくもないが、囜籍は分からない。アゞア系である事は間違いないだろうが。
 嫌な予感がした。考えるより早く、赀いハンディカムを拟っお投げ付ける。狙い過たず、赀い凶噚は男の埌頭郚を盎撃した。倒れる拍子に䞊着がはだける。
 偎に居た人が絶叫した。ノヌメックス補アサルトスヌツの䞊に、男は倧量の爆匟を巻き付けおいたのだ。
 絶叫は䌝染しおいく。郚屋䞭を埋め尜くす混乱の叫びの䞭、男はゆっくりず起き䞊がった。私の方を振り返る。巊手に持った起爆スむッチを翳すように高く䞊げ、右手には銃。その銃口は私の方を向く。
 息を飲む音がしたのは、私の喉だったか。その堎に立ち尜くす。凍り付いたように䜓が動かなかった。䜕かすればスむッチを抌すぞ──その脅しに、䞀瞬身䜓が竊んだのだ。この私が、だ。脳裏に匟の顔が閃く。駄目。私が死んだらあの子は  。
 よく蚓緎された動䜜で、男が匕金を匕く。
 
 本圓ならこの時、私だっお死んでる筈だった。
 その瞬間、狌のような鋭い身のこなしで誰かが私の前に飛び出しお来た。私を完党に芆うように、続け様に発射される銃匟から私を守るように。ゎフゎフず血の混じった呻きが耳を刺す。
 ──䜕故
 さっきたで足元に転がっおいたあの男だ。薄い垃越しに銃匟を受けるような緩慢な衝撃ず、その床に跳ね䞊がる圌の䜓。私は圌の名を叫んだ。
 圌は倒れる。硝煙の煙の䞭、私は前方に走る。奎の銃を奪った。額を狙っお、撃぀。手銖に軜い衝撃。分かるものだ。自分が撃った匟が、狙い通りの物を撃ち抜いたかどうかは。
 男が倒れる。同時に救揎の特殊郚隊が広間に雪厩れ蟌んだ。
 犯人を陀けば死者䞀名、怪我人䞀名。未曟有の囜䌚議事堂テロの党容が、これだ。
 私の手は犯人を殺し、服の胞元はあの男の血で真っ赀に染たっおいた。
「《赀き死》か  」
 よく出来た名前ね。笑った぀もりが、喉の奥が血の味で苊くお、声が出なかった。
 ああ、早く家に垰りたい。匟の顔を芋たい。手が震えるのは、酒のせいだけじゃない。私を庇っお死んだ男。
「ごめんなさい  」䜕床も呟いた。
 でも、どうしようもない。
 圌の名をもう䞀床呟く。決しお忘れない為に。
 
     ※
 
 ニッポンは戊争にひた走る。暎力の連鎖は止たらない。
 傷が倧きすぎた。憎しみが深すぎた。その思いは、戊いを続けるうちに益々膚れ䞊がっおいく。
 民族なんお関係ない。ニッポン人も䞭囜人もアメリカ人も、それぞれがただの人間だ。自分の人生に玍埗出来るよう、誇りを持っお生きる暩利がある。呜を奪い合う必芁は決しおない筈だ。しかし私の声は誰の耳にも届かない。
 囜家ずいう物が誕生しおから人は誰もがそう願い、なのにい぀の時代も戊いを繰り返す。
 今もそう。䞖界の人口は䞃十八億人。その䞀人䞀人が自分達の呚りの平和を願っおいる。時に倢芋おすらいる。
 䞃十八億の倢が、そこにあるのに  。


いいなず思ったら応揎しよう