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Photo bydorobe56

脳筋

    大学生活も三年目の後期となると、いよいよ高度な内容の実習が入ってくるようになった。
    専門の施設で朝から夕方過ぎまで、卒業後の職務と同様のことをする、という実習が始まったのだ。
    一週間まいにち、規則正しく学校に通う。
    (ただそれだけ?短くない?)
    と侮ることなかれ。
    それだからこそ、一日でも休むと単位の修得が、かなり難しくなる。そして、この実習は必修科目である。そのため、落とすことはすなわち、留年を意味する。
    (いや、だからちゃんと出ればいいんでしょう?)
    もちろんそんな事はわかっている。
    でも、こちらはダメ学生なのだ。
    まいにち朝早くに起きて時間通りに学校に行き、長時間実習を受けて、さらにはレポートまで提出しちゃうなんて、考えるのも恐ろしい苦行である。
    (実習期間は飲み会には行けないよな。しゃーない、家で飲むのも控えめにしとこ)
    この期に及んで飲むのを止めるつもりはない。
    こういう所がダメなんだろうな。

    ともあれ、最初の三日はなんとかかんとか実習をこなした。
    もともとその職業につきたくて大学に通っているのだから、めちゃくちゃ楽しいとまではいかなくても、(なかなかいいじゃん)くらいの気持ちで受けられるはずである。
    現に同級生は楽しくて仕方がない、というツワモノもいた。
    いや、それが本来のあるべき姿なのか。
    自分もそのようにありたい、とは思う。

    人は運動不足で急に体を動かすと大怪我をすることがある。
    ては、急に頭を使うとどうなるか?
    まさか、だからと言うわけではないだろうが、四日目の朝に酷い頭痛が始まった。
    普段は頭が痛くなることなんて全く無いのに、尋常では無いくらいにズキズキする。
    頭の血管が異常に拍動して、そのたびに血管の内腔が無理矢理広げられるような感覚である。
    それでもなんとか学校に行き午前中の実習を終える頃には、痛みがひいているといいな、と願った。
    ところが、むしろズキズキは酷くなってきた。
    (もしかしてコレ、ヤバいやつなんじゃ無いのか?)
    頭痛に慣れていない身としては、生まれて初めて感じるレベルの疼痛に、もはや恐怖を感じてきた。
    (脳の血管が破裂する寸前なのではないか?もしそうなったら、死ぬぞ…)
    それでもなんとか朦朧としながら午後の実習をやりとげて、レポートの提出も終えた。

    帰宅して横になって寝てしまうことも頭をよぎったが、(そのまま死ぬパターンあるぞ、これ)という恐れから、大学から直行で救急病院に駆け込んだ。
    尋常じゃない頭の痛みという主訴に、医師はすぐさまCTを撮るという判断を下した。
    何が出るか気が気じゃなかったが、出てきた画像を見た医師はこう言った。
    「CTでは脳の異常は見つかりませんでした」
    (おお、それは良かったです。でも、どうしてこんなに痛いんでしょう?)
    もう一度頭を触らせてくださいね。
    医師は触診しながら、ふんふんなるほど、と言うふうに肯いた。
    「おそらく、筋肉痛ですね」
    (え?筋肉痛?)
    「ええ。頭皮の筋肉痛です」
    (は、はぁ・・・)
    思わず気の抜けたような声が出てしまった。
    そして今の一言を聞いたからなのか、あれほど酷かった頭痛がすっかり消えていることに気づいた。
    病は気からということか。
    「じゃあ、痛み止めのお薬出しておきますね」
    (あ、はい。ありがとうございます)
    筋肉痛なんかであれほどの痛みが出るのものなか、流石に半信半疑ではあった。
    そもそも頭の筋肉痛というモノがあるのかどうかも。
    少なくとも今までに聞いたことは無い。
    それでも痛み止めだけで完全に痛みは落ち着いた。
    無事に実習を終える頃には、体は頭痛など無かったかのように、すっかりいつも通りの状態になっていた。

    後日の飲み会で、早速ネタにした。
    死ぬんじゃないかという頭の痛みが、実は頭皮の筋肉痛だったのだ。
    盛り上がらないわけがない。
    そして案の定友人たちは、
    「頭を使い過ぎたからだろうね」
    と笑った。



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