
紺のジャンパー②――電話帳
大人になってから、ふと先生のことを思い出すことがあった。
あの先生はどうしているだろう。
元気にしているだろうか。
年賀状を出してみようかと思い、母に相談した。
すると母は電話帳を取り出した。
先生の苗字はよくある名前だった。
母は同じ苗字の家に、片っ端から電話をかけ始めた。
何軒も電話をかけて、ついに先生の家にたどり着いた。
退職金で大きな家を建て、娘さん夫婦と敷地内で暮らしている様子だったという。
娘さん夫婦は二人とも教師なのだと、先生は嬉しそうに話していたそうだ。
母が私の名前を伝えると、先生は言ったという。
「覚えてますよ。可愛かったですね。美人になりましたか。」
嬉しかった。
けれど、少し俗っぽくて、思わず笑ってしまった。
昔と何も変わっていなかった。
そして先生は、少し照れたようにこう続けたという。
「年賀状くれる子はいるんだけど、返事が面倒で出してないんだ。今年は出しますよ。」
電話のあと、私は少し身なりを整えようと思った。
化粧品を見直したりもした。
もちろん三日坊主だったけれど。
年賀状は出した。
けれど、その返事は結局届かなかった。
先生らしいな、と思った。
不器用な人だった。
それでも私は、あの先生に出会えてよかったと思っている。
***
探そうと思ったことがある。
紺のジャンパーを着ていた、あの先生を。
*
この作品は「日常の薄皮をなでる」シリーズの一篇です。
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