
サロンバー外伝 Season 1-3|寸止めの情念――門仲、霧煙る夜の特別実演講義
レイと桐谷の裏側に流れる、10年分の因果と、ある夜のせめぎ合い。
後輩の前で「男の佇まい」を豪語する桐谷に、レイが仕掛けた挑発。
「――じゃあ、夜の講義をしてよ」
塾生・純平の目の前で、桐谷はどこまで平静でいられるのか。
※今作は単体でも読めます。
最初から読みたい方は、サロンバー外伝 Season 1-1からどうぞ。
-居酒屋のテーブルに、ジョッキの結露が小さな水溜まりを作っていた。
「……で、飯には誘えたんですけど、そっから先にどうしても行けなくて」
純平が頭を抱える。
「桐谷先輩、俺、何がダメなんすかね?」
桐谷がハイボールを飲んだ。
「お前なあ」
「はい」
「飯に誘えただけで満足してんじゃねえよ」
「はい」
「LINEだの誘い文句だの、言葉ばっか必死なんだよ。佇まいで語れ、佇まいで」
「佇まい……!」
純平の目が輝いた。
私は少し離れた席から、その講義を聞いていた。
ずいぶん大きく出たな。
「ねえ」
「あ?」
「そこまで言うなら、桐谷塾やればいいじゃない」
桐谷がこっちを見る。
「何だよ、それ」
「前に若い女の子から相談受けて、絶大な信頼を勝ち取ったんでしょ?」
「絶大とは言ってねえ」
「純平くんに教えてあげれば?」
「余計なこと言うな」
「男のハイクオリティなコンテキスト」
「お前、絶対バカにしてんだろ」
「まさか」
私は笑った。
「深夜に『冷たい風が五臓六腑にしみる』なんてSNSに書いて、健康気にしてハイボール薄めにしてる塾長を?」
「おいコラ! 人の私生活を勝手に教材にすんな!」
純平がテーブルを叩いた。
「桐谷塾!」
「食いつくな」
「お願いします! 俺に男のイロハを教えてください!」
「純平、お前落ち着け。こいつの口車に――」
「いいじゃない」
私はグラスを置いた。
「後輩が待ってるわよ、塾長」
「……」
「実演してあげたら?」
純平が止まった。
「実演?」
「そう」
私は桐谷を見る。
「私を相手に」
「……お前、本気で言ってんのか」
桐谷が背もたれに身体を預けた。
「いいぜ」
「お」
「純平。よく見とけ」
純平が慌てて手帳を開く。
本当に開くんだ。
「男の格好良さってのはな」
桐谷が言った。
「言葉を削って、佇まいで女の芯を狂わせるもんなんだよ」
「なるほど……!」
純平が書く。
私は吹き出しそうになった。
「へえ」
「あ?」
「佇まいで語るんだ」
「そうだよ」
「じゃあ」
私は少しだけ身を乗り出した。
「その塾長の力で、私の防衛線、破ってみせてよ」
桐谷の眉が動いた。
「純平くんの前で」
「……」
「言葉を使わずに、私を落としてみせて」
「レイさん!?」
純平が赤くなる。
私はもう一歩だけ踏み込んだ。
「私を使って、今ここで――」
桐谷を見る。
「理性飛ばすくらいの、夜の講義してよ。桐谷塾長」
言った。
あ。
ちょっとやりすぎたかもしれない。