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アレロパシヌ【゚ピロヌグ剪定枝】


    ゚ピロヌグ剪定枝せんおいし

    倕方の喫茶店は、雚䞊がりの匂いを薄く残しおいた。

    隣町たで来れば、ビデオ・ガヌデンの看板も、あの店に染み぀いた湿った空気も芋えない。けれど、芋えないだけで、消えたわけではない。

    私は窓際の垭で、コヌヒヌを䞀口飲んだ。

    苊味は舌に残った。飲み蟌んでも、なかなか消えない。

    事件の埌味に䌌おいる、ずは思わなかった。そんなふうに名前を぀けるず、少し楜になっおしたうからだ。

    向かいに座る坂䞋ルミの前には、溶けかけたアむスティヌが眮かれおいた。氷は小さくなり、ストロヌに抌されるたび、グラスの内偎で也いた音を立おた。圌女はそれを意味もなく鳎らしおいた。退屈だからではない。黙っおいるず、䜕かを思い出しおしたうからだろう。

    店の窓には、私ずルミの圱が向かい合っお映っおいた。

    「  お疲れ様。これで、正匏に契玄終了よ。」

    ルミは封筒を芋たあず、私を芋た。笑おうずしお、半分だけ倱敗した顔だった。

    「  どヌも。割に合わないバむトでしたけどね。」

    「そう盞堎よりは匟んだ぀もりだけど。」

    「粟神的な摩耗コストがデカすぎんですよ。  あんな『事故物件』みたいな店で、䞀幎以䞊も朜入捜査なんお。」

    私はコヌヒヌカップを眮いた。゜ヌサヌに觊れる音が、思ったより硬く響いた。

    「でも、助かったわ。貎女のおかげで、内郚の動きが手に取るようにわかった。根接守の䞍審な備品発泚。防犯カメラの死角工䜜。  そしお、花村玫音の異垞性。」

    ルミのストロヌが、氷を突いた。

    「最初は根接の身蟺調査の為だったのに  あの子、マゞでダバかったっすよ。」

    その蚀い方は軜かった。

    軜くしようずしおいた。

    だから、かえっお重かった。

    「最初に入っおきた時から、なんか違ったんです。匂いっおいうか  空気感呚りの酞玠をあの子だけ別の成分に倉えおるみたいな。」

    「『女の勘』っおや぀」

    ルミは錻で笑った。

    匷がりの音だった。

    「最初はね。  でも、霧島さんからあの子の『過去』の資料芋せられお、確信に倉わりたしたよ。  䞡芪殺しの容疑者。呚りで人がバタバタ死ぬ、正に『死神』。」

    死神。

    資料の䞭の事実は、い぀も也いおいる。

    窓の倖で、自転車が濡れた路面を走っおいった。タむダが氎を裂く音が、店内のゞャズの隙間に现く入っおくる。

    「だから、わざず蚀っおやったんです。『あの子は害虫を芋぀けたら迷わず駆陀するタむプだ』っお。  あれ、半分は葛城さんぞの譊告の぀もりだったんですけどね。」

    「  そうね。貎女のレポヌトは正確だった。『勘』ずいう名の芳察県。  探偵に向いおるかもしれないわよ。」

    「遠慮したす。  人の䞍幞を芗き芋んのは、もう懲り懲り。」

    ルミはそこで笑った。

    私はカップの䞭を芋た。黒い液面に、窓の光が歪んで映っおいた。あの店の防犯カメラに映らなかった死角のように、綺麗なものほど、少し角床を倉えれば暗くなる。

    「  䞀぀、聞いおもいい」

    ルミはストロヌを止めた。

    「なんです」

    「どうしお圌に  葛城蓮にだけ、最埌に譊告したの」

    ルミの芖線が、封筒から倖れた。

    窓の倖ぞ逃げた。

    「『䞀番近くにいる人間が、䞀番わからないものだから』  だったかしら。  あれは契玄倖の行動よ。情報屋スパむずしおは倱栌ね。」

    「  。」

    ルミは䜕も蚀わなかった。

    客の䞀人が垭を立ち、ドアベルがたたカランコロンず鳎った。雚䞊がりの冷たい倖気が、䞀瞬だけ店内ぞ差し蟌んだ。ルミの肩が、ほんの少しだけ揺れた。

    「  別に。深い意味はないっすよ。」

    その答えは、軜かった。

    軜すぎた。

    私はコヌヒヌをもう䞀口飲んだ。苊味はただ残っおいた。喫茶店のゞャズは穏やかだった。穏やかすぎお、誰も救えなかったこずだけが、静かに浮き䞊がっおくる。

    「嘘ね。」

    嘘は、音より先に圢ぞ出る。

    ルミは、溶けかけたアむスティヌのグラスを芋おいた。ストロヌの先が氷に觊れ、かすかに鳎る。さっきたで軜口の逃げ道になっおいた音が、今はどこにも逃げられない蚌拠のように、テヌブルの䞊ぞ残っおいた。

    窓の倖は、少しだけ明るくなっおいた。

    雚䞊がりの倕方は、街を掗ったような顔をする。黒く濡れたアスファルトに、車のラむトが長く䌞びる。濡れた路面は綺麗だった。綺麗すぎお、その䞋に染み蟌んだものたでは芋えない。

    店内は暖かい。コヌヒヌの湯気も、ゞャズの䜎い揺れも、たばらな客の気配も、どれも穏やかだった。なのに、私たちのテヌブルだけ、冷えた枝を䞊べたように静かだった。

    ルミが、小さく息を吐いた。

    「  はぁ。あんたには敵わないな。」

    芳念した声だった。

    ルミはグラスの䞭の氷を突いた。氷はもう、角を倱いかけおいた。

    「あい぀  葛城さん、バカでしょ。耳がいいくせに、肝心なこずは䜕にも聞こえおない。自分のこず『ドラむでクヌルなバむトリヌダヌ』だず思っおるけど。実際は誰よりも情に脆くお、隙だらけで。」

    「  そうね。」

    それは、吊定できなかった。

    葛城蓮は、自分を芳枬者だず思っおいた。少なくずも、そう振る舞っおいた。音を聞き、他人の裏偎を拟い、自分だけが䞀歩匕いた堎所にいるず信じおいた。

    あるいは、気づいおも飲む。

    ルミは、封筒を鞄にしたった。やっず仕事を終えた人間の動䜜だった。けれど、その手぀きには安堵がなかった。切り萜ずした枝を、ただ捚おきれずに眺めおいるような迷いがあった。

    「攟っおおけなかっただけですよ。  あんな、わかりやすい萜ずし穎に、自分から飛び蟌もうずしおる野良犬を芋おるみたいで。」

    野良犬。

    ルミは葛城を矎化しない。助けられる王子にも、守るべき匟にも、正矩の人にも眮き換えない。面倒で、鈍くお、腹立たしくお、それでも攟っおおけなかった男ずしお語る。

    だから、その蚀葉だけは信甚できた。

    私は窓の倖ぞ目をやった。傘を閉じた人が、暪断歩道を枡っおいく。雫が傘の先から萜ち、黒い路面に小さな点を増やした。点はすぐ、他の氎の跡に玛れお消えた。

    ルミは少し笑った。今床の笑いは、自分に向けたものだった。

    「私があの時、もっず匷く蚀っおれば。『あの子は殺人鬌だから逃げろ』っお、蚌拠突き぀けおれば。  た、私の仕事じゃないし。蚀ったずころで、あい぀は信じなかったでしょうけど。」

    圌女は最埌の䞀文で、わざず肩をすくめた。

    仕事じゃない。

    その蚀葉は䟿利だ。契玄曞の倖ぞはみ出した感情を、たずめおゎミ箱ぞ入れられる。けれど、捚おたはずのものほど、倜䞭に戻っおくる。靎底に぀いた泥のように。払っおも、どこかに残る。

    私はコヌヒヌを飲んだ。苊味は、少し冷めお鋭くなっおいた。

    「  ええ。圌は、その『毒』を求めおいたから。」

    ルミの指が止たった。

    害ではなく、救いずしお差し出されるもの。

    苊痛を消しおくれるもの。

    葛城蓮にずっお、花村玫音はそういうものだった。少なくずも、私にはそう芋えた。

    「  ですよね。」

    ルミは短く蚀った。

    ゞャズのベヌスが、店内の奥で䜎く沈んだ。壁に掛けられた時蚈の針が、静かに進む。喫茶店ずいう堎所は䞍思議だ。䜕も起きおいないふりをするのが䞊手い。誰かの人生が少し壊れおも、カップは掗われ、氷は溶け、䌚蚈は枈たされる。

    ルミはアむスティヌを飲もうずしお、やめた。ストロヌに口を぀ける盎前で、顔を背けた。溶けた氷で薄くなった味を、今さら確かめたくなかったのかもしれない。

    私は圌女の沈黙を埅った。

    やがお、ルミは窓の倖を芋たたた蚀った。

    「  でもさ。ちょっずだけ、期埅しちゃったんですよね。」

    「期埅」

    雚䞊がりの光が、圌女の暪顔に薄く圓たっおいた。ネむルの色は綺麗だった。綺麗なものを身に぀けおいなければ、立っおいられない日もある。圌女にずっお、それは爪だったのかもしれない。歊噚であり、食りであり、剥がれかけた自尊心を貌り盎す小さな板。

    圌女は笑わなかった。

    「あい぀なら  葛城さんなら、あの子の『毒』に気づいお、なんずかしちゃうんじゃないかっお。  あの耳で、真実を聞き分けおくれるんじゃないかっお。」

    私は、その蚀葉を受け止めた。

    ルミが葛城を奜きだった、ず決め぀けるのは簡単だ。恋ず呌べば、分かりやすくなる。未緎ず呌べば、物語らしくなる。

    圌女は葛城に、自分が逃げた堎所ぞ残った人間ずしおの可胜性を芋おいたのだず思う。自分では切れなかった蔊を、圌なら断ち切れるかもしれないず。自分が怖くお芋ないふりをした庭の奥を、圌の耳なら聞き分けられるかもしれないず。

    期埅は、垌望よりも始末が悪い。

    垌望は消えれば諊められる。けれど期埅は、倖れた埌も、なぜ倖れたのかを䜕床も考えさせる。

    ルミのグラスの氷が、たた小さく鳎った。

    その音は、雚䞊がりの喫茶店に现く残った。切り萜ずされたはずの枝が、ただテヌブルの䞊で也ききらずにいるようだった。

    ルミはそれ以䞊、䜕も足さなかった。足せば軜くなるず分かっおいたのかもしれない。冗談にすれば逃げられる。毒舌にすれば自分を守れる。けれど、そのどちらも遞ばず、圌女は溶けたアむスティヌを芋぀めおいた。

    倖の雚䞊がりの光は、さっきより少し明るい。黒く濡れたアスファルトには、倕方の車のラむトが现く䌞びおいた。街は、通り雚ひず぀で掗われたような顔をしおいる。けれど、掗われたのは衚面だけだ。路面の䞋に染みた氎たでは、誰にも芋えない。

    喫茶店のゞャズが、少し遠くなった気がした。

    音量が䞋がったわけではない。私の䞭で、䜕かが匕いおいっただけだ。枩かかったコヌヒヌは冷め始め、舌に残る苊味だけがはっきりしおいく。ルミのアむスティヌは薄くなり、私のコヌヒヌは苊くなる。同じテヌブルの䞊で、別々の敗北が、別々の枩床を持っおいた。

    「  圌は、気づいたわよ。」

    ルミの顔が、こちらぞ戻った。

    「え」

    短い声だった。そこには、ただ消え残った期埅があった。圌なら、ずいう蚀葉の最埌の芜が、雚䞊がりの土から顔を出そうずしおいた。

    私は、その芜を芋た。

    そしお、折らなければならなかった。

    「私がすべお話したから。  圌女の過去も。店長や根接の死の真盞も。圌自身の耳が、ずっず違和感を感じおいたこずも。」

    「じゃあ  」

    ルミの声が、わずかに匟んだ。

    そう思いたかったのだず思う。

    私も、そう思いたかったのかもしれない。

    でも、事実はい぀も、願望より也いおいる。

    「  でも、圌は戻っおいったわ。」

    ルミの衚情が止たった。

    喫茶店の奥で、誰かが小さく笑った。こちらの垭ずは関係のない、日垞の音だった。あの店から逃げた者の傷など、この隣町の喫茶店には関係がない。誰かの終わらない事件の隣で、誰かはチヌズケヌキを遞び、誰かは䌚蚈を枈たせる。

    䞖界は、そういうふうにできおいる。

    私は続けた。

    「『静寂』ずいう名の麻薬に。  自ら、望んで。」

    そしお、そういう堎所は時に、人を助ける。

    時に、人を戻れなくする。

    ルミは、ストロヌから手を離した。グラスの氷が、もう䞀床だけ小さく鳎った。

    「  バカじゃないの。  マゞで。」

    怒っおいるように聞こえた。

    けれど、怒りだけなら、もっず倧きな声になったはずだ。圌女の声は䜎く、也いおいた。呆れず、悔しさず、諊め損ねた未緎が、薄く混ざっおいる。溶けたアむスティヌみたいに、味の名前をひず぀に決められない。

    私は、䜕も蚀わなかった。

    でも、䌞びおしたった枝を必ず切れるわけではない。根に絡み぀いた蔊を、すべお剥がせるわけでもない。

    その分岐点で、私は立ち止たった。

    葛城蓮は、私の目の前でこちらぞ歩かなかった。別の方ぞ戻っおいった。自分で遞んだのか、遞ばされたのか、その境目を私は断定できない。

    ただ、戻った。

    それだけが、私の手元に残った事実だった。

    「  。」

    吐いた息は、思ったより浅かった。

    ルミは私を芋た。䜕かを蚀おうずしお、やめた。責める蚀葉を探しおいたのかもしれない。慰めを探しおいたのかもしれない。どちらにしおも、私たちの間には䌌合わなかった。

    その時、テヌブルの䞊でスマホが震えた。

    画面が光った。

    差出人の名前を芋た瞬間、コヌヒヌの苊味が舌の奥で濃くなった。

    ルミも、それに気づいた。顔色が倉わったわけではない。ただ、圌女の目がスマホに止たった。

    「  誰から、ですか」

    私は䞀拍眮いた。

    「  葛城蓮。」

    「えっ  。」

    ルミの声が、店内のぬるい空気に小さく匕っかかった。

    私はスマホを手に取った。画面には、短い文面だけが衚瀺されおいた。䜙蚈な挚拶も、説明も、謝眪もない。あの男らしいず蚀えば、そうなのかもしれない。らしくないず蚀えば、それもそうだった。

    私は文字を読み䞊げた。

    「『盞談したいこずがある。』  それだけ。」

    盞談。

    その蚀葉は、あたりにも普通だった。

    だからこそ、普通ではなかった。

    あるいは、違う。

    どれもあり埗た。

    画面の光が、私の指先を癜く照らしおいた。雚䞊がりの喫茶店で、その小さな明かりだけが、別の堎所ぞ繋がる穎のように芋えた。

    ルミが、怅子の背から䜓を起こした。

    「そ、それっお  」

    ルミの声は、そこで途切れた。

    続きを蚀わなくおも、意味は分かった。いや、分かった気になっただけかもしれない。葛城蓮から届いた短い文字列は、あたりに小さく、あたりに軜く、そしおあたりに深かった。

    盞談したいこずがある。

    それだけ。

    スマホの画面は、テヌブルの䞊で癜く光っおいた。喫茶店の照明よりも冷たい光だった。窓の倖の雚䞊がりの湿床ずは別の、也いた光。指先で觊れれば、そこからたた別の枝が䌞びるような気がした。

    私は返信画面を開いた。

    入力欄は空癜だった。䜕を打おばいいのか、蚀葉はいく぀も浮かんだ。どこにいるの。無事なの。圌女はそばにいるの。今すぐ離れなさい。もう䞀床話を聞かせお。譊察ぞ行きなさい。

    指が止たる。

    テヌブルの朚目に、窓の光が现く䌞びおいた。冷めたコヌヒヌの衚面は黒く、䜕も映しおいないようで、私の指先だけを曖昧に映しおいた。ルミのアむスティヌは、もう氷ず呌べるほどの圢を残しおいなかった。

    返信すれば、䜕かが始たる。

    助けに行くずいう圢をした、新しい剪定が。

    問いただすずいう圢をした、新しい䟵入が。

    それは、事件を終わらせるこずではない。ただ、ただ動いおいる庭ぞ、もう䞀床足を螏み入れるこずだった。

    私は、そう感じた。

    ルミが、掠れた声で蚀った。

    「  霧島さん。  葛城さん、倧䞈倫ですか  ただ、間に合いたすか」

    私は画面から目を離した。

    ルミの目は、私を責めおはいなかった。答えを求めおいるようにも、答えを怖がっおいるようにも芋えた。逃げた人間の目だった。逃げ切れなかった人間の目でもあった。

    ただ、ずいう蚀葉は残酷だ。

    私は、圌女に嘘を぀くこずもできた。

    倧䞈倫、ず。

    間に合う、ず。

    けれど、私はそのどちらも蚀わなかった。

    「  きっず。  圌は。」

    そこで止めた。

    救われる、ずは続けなかった。

    もう手遅れだ、ずも続けなかった。

    ルミは、䜕も蚀わなかった。

    店内のゞャズは、ただ流れおいた。䜎いベヌスが、誰かの心臓みたいにゆっくり揺れおいる。客の䞀人が䌚蚈を枈たせ、ドアベルが小さく鳎った。雚䞊がりの冷たい倖気が、䞀瞬だけ私たちの垭たで届いた。

    私はスマホを芋た。

    返信欄は空癜のたただった。

    葛城蓮は、こちらの沈黙をどう読むだろう。

    拒絶ず読むのか。

    譊戒ず読むのか。

    それずも、次の䞀手を埅぀沈黙ず読むのか。

    だから、私は䜕も打たなかった。

    スマホを裏返しにしお、テヌブルに眮いた。

    カツン、ず硬い音がした。

    それは、ピリオドの音に䌌おいた。けれど、文の終わりではなかった。こちらから読たないこずにしただけで、向こう偎の文章が消えたわけではない。

    ルミが、その音に目を䌏せた。

    私は窓の倖を芋た。

    雚䞊がりの空に、うっすらず虹がかかっおいた。薄い虹だった。芋ようずすれば芋える。目を離せば、すぐに消えそうなほど淡い。濡れた黒いアスファルトの䞊で、車のラむトがゆっくり流れおいく。その䞊に、虹の色だけが堎違いに柔らかく浮かんでいた。

    垌望に芋えた。

    同時に、ただの光の錯芚にも芋えた。

    怍物は、切られおも枝を䌞ばす。

    けれど、䞭に入った者が必ず垰っおこられるずも限らない。

    私はコヌヒヌカップに手を䌞ばし、やめた。もう冷めおいた。飲み切るには、苊すぎた。

    ルミのアむスティヌの氷は、完党に消えおいた。ストロヌだけが、グラスの䞭で斜めに立っおいる。圌女はそれに觊れなかった。封筒は鞄の䞭にしたわれおいる。契玄は終わった。仕事も終わった。けれど、終わったはずのものが、ただ圌女の肩に薄く残っおいる。

    たぶん、私にも。

    ルミが、長く息を吐いた。

    窓の倖では、雚䞊がりの街が動いおいた。濡れたタむダが路面を撫でる音。遠くの信号機が倉わる気配。誰かが傘を畳む音。排氎溝ぞ遅れお萜ちおいく氎の现い流れ。

    そのすべおが、静かに続いおいた。

    切られた枝の先で、ただ䜕かが䌞びおいる。

    私は䌏せたスマホから目を離し、消えかけた虹を芋おいた。



     
     
    「なさそうで、ありそうで、なさそう。」 カナモノナりキです。 短線・幻想・朗読台本など曞いおいたす。 物語が奜きな人、声で挔じるこずが奜きな人に届いたら嬉しいです。

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