
となりのトップランカー #57 | 「○○が好きだからこの仕事をしてるの?」
ある新規のお客様から、
お会いして早々に言われた言葉です。
その方に限らず、このお仕事をしていると、
時折同じような質問を
無遠慮にぶつけられることがあります。
「男のモノが好きだから、この仕事をしてるの?」
あらかじめ申し上げておきますが、
決して耳にして気持ちのよい言葉ではありません。
そこには風俗というお仕事、
そしてそこに身を置く女性に対する、
あまりにも身勝手な偏見が
透けて見えているからです。
無遠慮な60分
お客様の中には一定数、
「風俗で働く女性は、
男の身体や性行為そのものが好きで
自ら進んでやっているのだろう」
と思い込んでいる方がいらっしゃいます。
その日のお客様も、まさにその一人でした。
部屋に踏み入れた瞬間から、
すでに境界線が壊れていました。
「お姉さん、どんなことしてくれるの?」
「下は剃ってる?」
「もうムラムラしてたりする?」
普通なら、インコールを済ませるまでは、
皆様ある程度の距離感を図っていてくださいます。
しかし、ごく稀に、
部屋に入った瞬間から身体を密着させ、
卑猥な言葉をささやいてくる方がいます。
(ああ、これは完全に
自分を制御できていないタイプだな……)
そう察した私は、
内心では警戒心をマックスにしながら、
この60分のコースをどう無傷でやり過ごすか
だけを考えていました。
部屋に入り、インコールを済ませると、
私はそっとタイマーを40分
(通常は45分のプレイ時間)
に縮めてセットしました。
その間にお客様はすでに服を脱ぎ捨て、
私に力任せに抱きついてきます。
胸を掴かみ、露わになった欲望を腰に押し当て、
そのままベッドに押し倒そうとしてきます。
幸い、背丈はあまり大きくない方だったので、
私はなんとか振り切ることができ、
うまく浴室へと誘導しました。
シャワーで身体を流し始めると、
その方は多少大人しくなりましたが、
今度は口元が止まりません。
そして、あの言葉が飛んできたのです。
「男のモノが好きだから、この仕事をしてるの?」
表情は笑顔を保ちながらも、
胃の腑に冷たいものが落ちていくのを感じながら、
私は「そんなわけないですよ」と受け流しました。
けれど、その方は火がついたように
さらに卑猥な言葉を重ねてきます。
「一日に何本くらい相手にするの?」
「どんなのが好きなの? 太いの? 長いの?」
「旦那のじゃ物足りないから、
わざわざこんな仕事してるんでしょ?」
既婚であると知るや、
詮索はさらに露骨さを増していきました。
私はただ心を無にして、
淡々と身体を洗い流すことだけに
意識を集中させました。
さすがの私も、これほど不躾な相手に対して、
心のこもった温かいおもてなしを
提供することはできません。
そして案の定、
ベッドに移ると強引に本番行為を迫られ、
きっぱりと拒絶すると、
今度は「後ろの穴ならいいだろう」
と無理難題を突きつけてきました。
それも冷ややかに退けると、
その方は「じゃあ、俺のほうを触って」
と自らの後ろを向いて、私に差し出してきました。
言われるがまま、
私は要求に応じて背後からその身体に触れました。
どこが刺激になるのかわからないまま
手探りで触れていると、
お客様はあっという間に熱を吐き出し、
果ててしまいました。
欲望の滓を吐き出してしまったあとは、
まるで憑き物が落ちたように、
どこにでもいる穏やかで明るい
中年男性に戻っていました。
先ほどまでの執拗な下品さは影を潜め、
むしろ話しやすいほどです。
残りの時間はベッドの上で並んで腰掛け、
世間話に笑い合いながら、
穏やかに終了のタイマーを迎えました。
性欲というものは、
これほどまでに人の理性を狂わせ、
幼稚な怪物に変えてしまうものなのか。
ある種の冷めた感銘を覚えながら、
私はお客様を見送ってお店に戻り、
そっとNGを出しました。
こうして一方的に自らの欲求を
ぶつけてくるお客様は、
気に入ったキャストがいても
同じ女性に通い続けることはできません。
その無遠慮な振る舞いから、
キャストにNGを出され、
二度と指名できなくなり、
果てはお店すら出禁になってしまうのです。
その方も、
「気に入った子ができてもすぐいなくなる」
「HPには出てるのに、
受付に聞いても誤魔化されて案内してくれなかった」
とこぼしていました。
私からすれば、身から出た錆だ
と言いたいところでしたが、
本人は全く気づいている様子はありませんでした。
私を気に入ったのかどうかはわかりませんが、
きっとこれからも、夜の街を転々と
さまよい続けるのでしょう。
安寧の止まり木を、
自ら枯らしていることを知らずに。
あなたのすべてを見ているのに
その日の仕事を終え、
自宅に戻り今日の汗をシャワーで流しながら、
私は投げつけられたその問いかけを、
もう一度胸の中で反芻してみました。
『男のモノが好きだから、この仕事をしているの?』
そんな訳がない。
お金のため、生活のためであることは、
言うまでもありません。
失礼な客の大した意味のない質問だと
片づけてしまえば、それまでです。
けれど、私はこの言葉に強い反発とともに、
悲しさを覚えてしまったのです。
それは、「男のモノ」という身体の一部分だけで
この仕事に従事する意義を括られたことに対して、でした。
私は、男性のその部位だけを欲して
お客様と接しているわけではありません。
顔の表情、骨張った手、声の抑揚、
仕草、肌の匂い。
それらすべてが組み合わさって、
世界に一人しかいない「その人」という男性を
形作っています。
私はいつだって、その人の全体を受け止め、
感じようとして向き合ってきました。
それなのに、たった一つの器官が好きだから
身体を売っているのだと決めつけられることは、
私自身が「ただそれだけに群がる浅ましい雌」
として扱われたような、
深い侮辱に感じられたのです。
そして、それは同時に、
お客様にとっても
本当に望ましいことなのでしょうか。
もし私が
「はい、大好きなんです!」
と媚びを売って応えたとして、
その言葉は本当にお客様の心を救うのでしょうか。
私なら、例えば私に豊満な胸があったとして、
女性の象徴たるその胸に向かって「大好きだ」
と言われても、虚しさを覚えてしまいます。
男性も同じで、
「それさえあれば、俺じゃなくても
誰でもいいのだろう」
という孤独に行き着くだけではないでしょうか。
人は誰しも、多かれ少なかれ
「自分という存在そのもの」をまるごと肯定されたい
という承認欲求を抱えているはずです。
けれど、それは途方もなく難しいこと。
だからこそ、せめて自分が持って生まれた
肉体の一部だけでも
誰かの「好き」の枠組みに押し込み、
価値を見出そうとしてしまうのでしょう。
単に性を処理するだけなら、道具で事足ります。
わざわざ生身の女性の体温を求める姿は、
心の奥底で「誰かに自分を丸ごと見てほしい」
と叫んでいるようにも思えるのです。
2026年9月27日
KANA
「男の身体の一部分」を褒められる快感の裏に、ふと「俺自身を見てもらえているのだろうか」という虚しさを感じたことはありませんか?
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ありのままの自分を受け入れてもらいたい。
そう願う気持ちは、もちろん私にもあります。
しかし、今回のお客様のように
「ありのまま」を「身勝手」と履き違えてしまえば、
残念ながらその願いは遠のいてしまいます。
「愛される」というのは、
ときにとても面倒なものかもしれません。
自分自身が満たされるためには、
まず他者を慈しみ、心を配らなければ、
あたたかい愛は返ってこないからです。
けれど、そもそも人は簡単に手に入るものには
価値を感じにくい性質を持っています。
もし愛が何の努力もなく手に入るなら、
誰もこれほど悩んだりはしないでしょう。
私は、風俗という場所は
「愛される練習」にとても適していると思っています。