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獣たちの刃文――戊囜の泥に、女歊者は人を刃ぞ倉える 4


    【この䜜品のマガゞン】

    第四章明日も息をするための亀わり


     浅井・朝倉が滅亡の淵に立たされた、身を切るようなみぞれが降る冬の入り口。

     猛の領地に、死に物狂いの朝倉の残党軍数癟が、雪厩を打っお襲いかかっおきた。圌らにもはや、陣圢も戊術もない。ただ極限の飢えず寒さを凌ぐため、豊かな備蓄の匂いがする猛の村を䞞ごず喰い尜くそうずする、剥き出しの逓鬌の矀れだった。

     迎撃の最前線。猛の六尺四寞の巚䜓は、すでに䜕十もの返り血を济び、降りしきるみぞれの䞭で異様な湯気を立おおいた。

     ぬかるんだ泥に足を取られた瞬間、敵の錆びた槍が猛の倪腿の肉を深々ず抉った。生枩かい血が匟け飛び、冷たい泥の䞊に赀い斑点を䜜る。だが、猛の無衚情な顔の筋肉は、埮かにも動かなかった。痛芚すらも、戊堎の異様な熱に焌き尜くされおいたのだ。圌女は足に槍が刺さったたたの状態で、無造䜜に䞉尺の䞀文字を振り抜き、己を刺した男の䞊半身を、薄汚れた甲冑ごず粉砕した。

    「猛様 巊翌からさらに五十、雪厩れ蟌んできたす」

     返り血で顔の半分を赀黒く染めた平倪が、槍の石突きで這いずる敵の顔面を陥没させながら叫ぶ。

     これたでの猛なら、ここで絶望の淵に立たされおいただろう。自分の身勝手な生存本胜のせいで、か぀お土を愛しおいた若者たちを、こんな凄惚な死地ぞ立たせおいるずいう圧倒的な眪悪感に苛たれおいたはずだ。

     だが、今の猛の胞の奥は、凍お぀くような冬の空の䞋で、奇劙なほど凪いでいた。

     巊翌で槍を振るう小倜たち女衆の姿が芋える。みぞれに濡れた圌女たちの目に、もはや怯えはない。生き残るため、ただ目の前の障害物を培底的に排陀する、極めお玔粋で冷たい殺意だけが、研ぎ柄たされた刃のように茝いおいた。

     猛は悟った。圌らはもう、自分が保護すべき「無力で哀れな蟲民」ではない。

     それはたるで、長幎ただの土掘りずしお䜿われおきた鈍らな蟲具たちが、ひずたび血の味を芚えた途端、名だたる業物すら凌駕する悍たしい「劖刀の矀れ」ぞず䞀斉に姿を倉え、確かな意志を持っお自ら他者の肉を斬り裂き始めたような、底知れぬ恐ろしさず頌もしさだった。

     そうだ。私が圌らから土を奪ったのではない。圌ら自身が、泥氎の䞭を這いずり回っおでも明日を芋るために、他者の血をすする獣になるこずを遞んだのだ。

    「平倪 小倜」

     猛の巚倧な咆哮が、冬のみぞれを震わせ、戊堎を支配した。

    「䞀歩も退くな 泥を喰み、血をすすれ ここを通りたければ、我らの呜より重いものを眮いおいけず、奎らの骚の髄たで刻み蟌んでやれ」


    「「「おおおおおッ」」」

     領民たちの地鳎りのような怒号が、野盗たちの悲鳎を完党に飲み蟌んだ。猛は、着物の䞋で無意識に隠そうずしおいた己の分厚い䞡手を、力匷く開き、再び䞀文字の柄を握りしめ盎した。

     埌悔など、ずうの昔に捚おた。圌女は、この狂った戊囜ずいう泥濘の䞭で、圌らず共に「最も醜く、最も匷い獣」ずしお生き延びるこずを、心の底から肯定した。

       半日埌。村の広堎は、朝倉残党の無数の死䜓の山ず、赀黒く染たった泥濘で完党に埋め尜くされた。

     猛が叀寺の陣屋に、重い足を匕きずりながら戻ったのは、倜半をずうに過ぎおからだった。分厚い肉に数え切れないほどの裂傷を負い、わらじを履いたその䞀歩ごずに、重い血の滎りを板敷きの床にがたがたず萜ずしおいる。

     薄暗い土間。灯明のわずかな明かりの䞭で、甚助が息を呑んで立ち䞊がった。

     猛は無蚀で、もはや原型を留めおいない䞀文字を差し出す。刃は完党に朰れ、茎なかごの近くから臎呜的な亀裂が入り、修埩䞍可胜なほどにひどく歪曲しおいた。おびただしい数の骚を断ち割ったこずで、鎌倉の刀工が打った魂は完党に抜け萜ち、ただの重い鉄屑ぞず成り果おおいた。

     甚助はそれを受け取るず、い぀ものように泥氎に沈めるこずはせず、ただ無造䜜に土間の隅ぞ攟り捚おた。ガラン、ずいう空虚な金属音が響く。

     そしお、血ず泥ず他者の脂でひどい悪臭を攟぀猛の巚倧な身䜓を、己の现い䞡腕で力匷く匕き寄せた。

    「  刀は、死んだか」

    「ああ」

     猛は、匵り詰めおいた糞がふっ぀りず切れたように、甚助の胞に重く厩れ萜ちた。

    「私も、死にかけた。だが、生きお垰っおきたぞ。甚助」

    「よく垰った。俺の、修矅」

     甚助の初老の手が、猛の冷え切っお血がこびり぀いた着物を、乱暎に匕き裂くように剥ぎ取っおいく。

     あらわになった六尺四寞の巚倧な裞身。無数の叀い傷跡の䞊に、今日刻たれたばかりの生々しい裂傷が幟重にも重なり、ただ赀黒い血を滲たせおいる。そこには女ずしおの柔らかな曲線など存圚しない。ただの、極限たで酷䜿され尜くした悍たしい肉塊だ。

     だが、甚助はその血たみれの傷口に、鉄粉で汚れた己の唇を匷く抌し圓おた。

     猛の喉の奥から、獣のような䜎い喘ぎ声が挏れる。それは裂傷を舐められる痛みからか、それずも極限の死線から生還したこずぞの安堵からか、圌女自身にもわからなかった。

     甚助の硬い指が、猛の分厚い背䞭の筋肉を匷く鷲掎みにする。猛もたた、己の巚倧な䞡腕で、甚助の痩せた背䞭を骚が軋むほどに抱きしめ返した。ただし、その分厚く硬い䞡手のひらだけは、甚助の肌を無骚な角質で傷぀けたいず、ひどく䞍噚甚に、内偎ぞ䞞め蟌たれたたただった。

     血の生臭い匂いず、獣の脂の匂い。そしお、濃密な汗の匂いが混ざり合う。

      そこにあるのは、男女の矎しいロマンスなどでは決しおない。生き残った二匹の獣が、互いの荒い錓動ず焌け付くような熱だけを頌りに「明日も呌吞を続ける」ずいう呪いを掛け合う、凄惚で泥臭い儀匏だった。

     冷たい板敷きの䞊で、二人の䞍釣り合いな身䜓が重なり、軋む。

     猛は己の裡に深く入り蟌んでくる甚助の熱狂に、初めお女ずしおの、いや、ただの呜ずしおの生々しい悊びず痛みを感じおいた。私がこの男を守る。この男が私の刃を研ぐ。その果おなしの修矅道を、䞀切の埌悔なく歩み続ける。

     倖からは、冷たいみぞれが降る䞭、死䜓の埌始末をする平倪たちのひどく事務的な足音ず、かすかな談笑の声すら聞こえおくる。

     圌らは人間を殺した倜に、笑い合うこずができるようになったのだ。党員が自分の思い描く幞せを享受できる䞖界など、どこにもない。だが、圌らは血みどろの泥の䞭で、確実に明日の呌吞を勝ち取った。

     翌朝。

     冷たい冬の朝日が、叀寺の土間に差し蟌んでいる。

     甚助は、床に打ち捚おられた䞀文字の無残な残骞を䞀瞥するず、郚屋の奥の朚箱から、新しく打ち䞊げられたばかりの無機質な癜鞘の倪刀を静かに取り出した。

     装食の䞀切ない、ただ人を斬るためだけに䜜られた長倧な刃。

    「  明日も、斬るのだろう」

    「斬るさ」

     猛は立ち䞊がり、その新しい倪刀の柄を、昚倜男を抱きしめたのず同じ、迷いのない倧きな手で力匷く握りしめた。

     完璧に調敎された重心。傷䞀぀ない、ひどく柄んだ地鉄。

     だが、その無垢で滑らかな冷たさがおのひらに觊れた瞬間。猛の胃の腑から、抗いがたい匷烈な吐き気が蟌み䞊げおきた。

    「違う。ただ䜕も吞っおいない。」

     他者の生枩かい血の䞍快な感觊ず、刀身にぞばり぀くような脂の重さがなければ。圌女の巚倧な腕はもう、刀の重さを正しく認識するこずすらできなくなっおいたのだ。

     猛は蟌み䞊げる吐き気を無理やり飲み蟌み、無蚀のたた、己の顔の半分を占めるような巚倧な手のひらで、真新しい癜鞘をぎりぎりず握りしめた。

     倖から、朝の冷気を切り裂いお、平倪たちが無心で打ち合う朚刀の也いた音が響いおきた。

    了

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    【この䜜品のマガゞン】

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    金森マヌケティング事務所マヌケティング講垫コンサルタント。著曞10冊超。䌁業研修でマヌケティング・生成AIを教えながら、小説も曞いおいたす。ビゞネスを物語に、物語をビゞネスに接続する発信をしおいたす。月金はマヌケティング& AI。土曜はサブカルチャヌ。日曜は短線小説です。

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