
手すりと桜の切れない絆 本編①
H2:手すりと桜の切れない絆
H3:桜
やめてー!
同じ朝のはずだった
隣にいるはずだった
明日も会えると思っていたのに
けたたましい音が空気を切り裂く
鳥たちはざわめきたつ
一斉に飛び立ち誰もいなくなった
焦げ臭い匂いが立ち込める
手すりはしかめているように見える
今にも泣き出しそうだ
枝が1本1本いなくなっていく
太陽は不思議そうに見ている
手すりはやめてよ、と震えているようだ
いつも隣で笑っていた木は
轟音と共に
倒れて行った
明日は、いない
ぼくの木の気配は消えていた
H3:ぼくも連れていって
いい様のない寂しさが胸を包む
おはようは
もう聞こえない
手すりは涙を流しているようだ
木の影を求めて
会いたいよぅ
置いていかないで
手すりは今にもこわれてしまいそうだ
ふと影がさす
手すりは顔をあげたように見えた
ぼくの木!
見ていたのは雲と太陽
泣かないで?
包むような声が
聞こえた気がする
そっと上を向く
いつまでも
きみを忘れない
H3:小さな命
風がそよぐ
今朝も、ひとり
鳥は鳴いている
ぼくは、ひとり
太陽と雲は優しく見守っている
手すりが壊れないように
居なくならないように
ぼーっとしていた
何かが視界を捉える
働かない頭を起こした
そこにはいなかったはずの木が
小さな小さな葉っぱが
ゆっくりと揺れている
ぼくの木!
小さな命が芽生える
小さくても力強い
そこには確かに、命があった
手すりには寂しさの気配は
もうない
もう、ひとりじゃない
H3:再び
小さな葉っぱは
笑っているようだ
ケラケラケラケラ
大笑い
風はくすぐり
影と追いかけっこ
蜘蛛はマジックのような動きをし
小鳥は歌を歌うように鳴いている
小さな葉っぱは優しさに囲まれ
どんどんどんどん大きくなる
手すりは
毎日おはようを言うように
もうすぐ
きみに手が届く気配へと変わる
ぼくの木
今度こそ離さない
力強く抱きしめる
H3:丸坊主
辺りの木は
オレンジ色で塗られていた
太陽には、眠りの気配が降りてきていた
風は冷たい
手すりは震えているようだ
今年も寒いね
ぼくの木も赤や黄色に染まってる
風が吹く
ハラリと落ちる
風が吹くたびに
落ちていく葉っぱ
遠くでは煙が空に向かってる
いく筋も空へ伸びていく
ふと隣を見る
そこには
丸坊主になったぼくの木!
手すりは大笑いをしているようだ
ぼくの木も笑っているみたい
ふたりで笑っているみたいだね
今年も一緒
そっと呟いた言葉は
風に流されていった
H3:遊びに来た風
強い風が吹き荒れる
山から吹き付ける強い風
震えている
今にも壊れそうだ
ぼくの木!
わっさわっさと枝が揺れている
今にも、折れてしまいそう
風が叫ぶような揺らぎを
空気に走らせる
今年も来たぞーー!
風は、手すりと木のあいだにある空気を揺らす
おーい!
おーい!
風は手を振るように
手すりはひゅーひゅーと
木はばっさばっさと
大きく大きく手を振っているようだ
風は嵐のような気配をし
まるでふたりと遊んでいるように
吹き荒れる
風には満ち足りたような揺らぎが触れている
またそのうち来るね
ふたりをそっと抱きしめて
あっという間に去っていった
残されたふたりは
頭はぼさぼさ
身体はぐったり
いっぱい遊んだねー
そっと、微笑みあった
H3:白い絨毯
ぶるっ
目を覚ました
目玉が飛び出した
あたり1面、銀世界
ふかふかの真っ白な絨毯
いつもなら
茶色いのに
すぅーっと息を吸い込んでみた
あ!鼻がいたい!
ぼくの木!
ぶるぶるぶるっと身体を揺すっている
下にはこんもり雪の山
おはよう
にっこり微笑む
息は白い
ぼくの心は、あたたかい
朝の光が辺りを包む
森は息を吹き返し
山の息吹が騒ぎ出す
光が包まれた白い絨毯は
ダイヤモンドのように
輝き出す
H3:満開の桜
あちらこちらに
小川ができていた
白い絨毯は溶け始め
春の匂いを運んでいた
小さな虫は顔を出し
若い緑もこんにちは
日差しは柔らかくなり
動物たちは伸びをする
ぼくの木!
丸坊主だったぼくの木は
なんだかおしゃれになってきた
うつらうつらとしている
手すりはそっと、目を覚ます
いい匂いがする!
ふと、上に目をやると
そこには優しい桜色
ぼくの木は
おめかし顔をしている
優しい香りに包まれる
ぼくの木が
いちばん綺麗
ほぅっと
息をこぼした
大好きだよ
一言を添えて
H3:手すりと桜
季節は巡る
暑い夏がやって来た
太陽はギラギラと光を放ち
白い雲は大きな大きな綿菓子のよう
溶けそうな暑さだ
口を開ける鳥たちは
今か今かと雨を待つ
真上の太陽
こんにちは
ふっと暗くなる
ぼくの木!
大きくなったぼくの木は
あっという間に手すりを超える
手すりに与える昼間の安らぎ
ぼくの木の影は
僕を抱きしめるように伸びていた
ぼくの木
ずっと一緒だよ
ぼくはそっと抱きしめ返した