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【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#15】キャプテン・副キャプテン

    外の電気をつけたら、今日も店が開く。

    看板はない。
    でも、この店はこれでいいと思っている。

    Bar「青燈ノ記憶」。

    佐世保の四ヵ町アーケードを抜けて、三回くらい角を曲がった先の路地。
    説明するたびに遠くなる場所にある。

    中は薄暗い。
    というか、だいたい暗い。
    たぶん明るくする気がない。

    カウンターは4席。
    ボックス席が2つ。
    それだけ。

    あとは、DAZNを見るためのiPadと、
    壁に掛かったユニフォームが1枚。

    照山選手の48。

    今日は空が青い日だった。


    扉が開く。

    「こんばんは。」
    「いらっしゃいませ。」

    いつもの常連だった。

    カエデは氷をグラスへ落とす。

    カラン。

    「そういえば。」

    グラスを磨きながら、カエデが言った。

    「キャプテンと副キャプテンが発表されましたね。」
    「ああ。」

    常連は席に腰を下ろす。

    「まぁ、キャプテンは蛍しかいないだろ。」
    「ええ。」

    カエデも頷く。

    「そうですよね。」

    グラスへウイスキーを注ぐ。

    「ただ。」

    少しだけ考える。

    「副キャプテンは意外でした。」
    「マスター、副キャプテンの予想してたもんな。」
    「あれは……。」

    カエデが少し気まずそうに笑う。

    「てっきり、キャンプに行く時の写真に写っていたメンバーなのかなって。」
    「どの写真だっけ?」
    「蛍さんと翁長選手と関口選手、後藤選手、長谷川選手が一緒に写っていた写真です。」
    「ああ。」

    常連が思い出したように頷く。

    「そうだったな。」
    「だから、このメンバーが副キャプテンなのかなと思ってました。」
    「半分は当たってるじゃん。」
    「え?」
    「元希とマサは副キャプテンになっただろ。」
    「ああ。」

    カエデが少し驚いた顔をする。

    「そうですね。」
    「予想、半分正解だな。」
    「でも。」

    カエデは少しだけ首を傾げる。

    「江川選手と大南選手は、分からなかったですね。」
    「ああ。」
    「特に大南選手は新加入ですし。」

    常連は少し考える。

    「長崎に来て、いきなりだもんな。」
    「そうですよね。」

    カエデはグラスへ炭酸をゆっくり注ぐ。

    シュワッという音が店に広がる。

    「かなり信頼されているんですね。」
    「そうなんだろうな。」

    常連はグラスを受け取る。

    「新しく来たばかりで副キャプテンに選ばれるって、なかなかないだろ。」
    「ですよね。」

    カエデは少しだけ考える。

    「チームの中で、何か感じるものがあったんでしょうね。」
    「何かって?」
    「分かりませんけど。」

    カエデは苦笑する。

    「人柄とか、練習中の姿勢とか。」
    「ああ。」
    「そういう、私たちからは見えないところで。」

    常連は一口飲む。

    「まぁ、そういうのもあるだろうな。」

    少し間が空く。

    「でも。」

    常連が言う。

    「蛍も加入してすぐキャプテンになってたけどな。」
    「ああ。」

    カエデが思い出したように笑う。

    「そうでしたね。」
    「まぁ、蛍さんは神戸でもキャプテンでしたし……。」
    「優勝チームのキャプテンだもんな。」
    「そうですよね。」

    カエデは少しだけ遠くを見るような顔をする。

    「逆に、蛍さんがキャプテンじゃなかったらビックリです。」
    「それもそうだな。」

    二人とも笑った。

    壁に掛かった48番のユニフォームは、
    今日も静かに二人の会話を見ている。

    キャプテン。
    副キャプテン。

    きっと、ピッチの上だけでは分からないこともある。

    試合で目立つ人もいれば、
    そうではないところでチームを支える人もいる。

    「そういえば。」

    カエデがふと思い出したように言う。

    「キャプテンって、大変ですよね。」
    「急にどうした?」
    「だって。」

    カエデはグラスを磨きながら続ける。

    「試合に出て、プレーして、それだけでも大変なのに。」

    少しだけ間を置く。

    「チームのことまで考えないといけないんですから。」

    常連はグラスを眺める。

    「まぁな。」
    「勝った時はみんなで喜べるけど。」

    カエデは壁の48番を見る。

    「負けた時は、きっと誰よりも考えることが多いんでしょうね。」
    「そうかもな。」
    「……私だったら、耐えられないです。」
    「急に弱気だな。」
    「だって。」

    カエデは少し困ったように笑う。

    「責任重大じゃないですか。」

    常連は少しだけ考える。

    「マスターがキャプテンじゃなくて良かったな。」
    「え? なんですか急に?」
    「マスター、すぐ酔っ払うだろ。」
    「それは……。」

    カエデが言葉に詰まる。

    「負けた日なんて、俺に酒作らせるし。」
    「……。」
    「キャプテンどころか、マスターとしてもどうなんだ?」
    「ひどい!」

    カエデが頬を膨らませる。

    「私はちゃんと店を開けてますよ!」
    「不定期営業じゃん。」
    「うっ。」

    言い返せない。

    「照山が移籍した日も開けてなかったし。」
    「あ、あの日は気持ちを整理したくて……。」
    「店の外に看板もないし。」
    「そ、それはお金の問題で……。」
    「どうせ遠征費に充ててるんだろ?」
    「うっ。」

    図星だったのか、カエデは目を白黒させる。

    「まぁいいか。」
    「何がですか?」

    常連はグラスを持ち上げる。

    「マスターはマスターで。」
    「なんですか、それ。」

    カエデは少しだけ笑った。

    キャプテンにはなれない。
    副キャプテンにもなれない。

    でも。

    誰かが選手を応援することも、
    誰かと試合について話すことも。

    きっと、それもチームを支えるものの一つなのだろう。

    壁の48番を見上げる。

    キャプテンも。
    副キャプテンも。

    そして、スタンドにいるサポーターも。

    それぞれの場所から、
    それぞれのやり方でチームを支えている。

    「まぁ。」

    カエデが小さく呟く。

    「今シーズンも、応援しましょうか。」

    常連はグラスを傾ける。

    「ああ。」

    短い返事だった。

    でも、それで十分だった。


    グラスの中身はまだ残っている。
    でも今日はもういい気がした。

    また明日、店が開くかは分からない。
    
たぶん開く。

    でも保証はない。

    ただ、電気がついていればそれでいい。

    Bar「青燈ノ記憶」は、今日も閉店する。


    ◆あとがき

    Bar「青燈ノ記憶」第15話でした。

    今回は、キャプテンと副キャプテンの発表を受けて、カエデと常連さんに話してもらいました。

    蛍さんがキャプテンなのは、やっぱり納得ですよね。
    一方で、副キャプテンに選ばれた江川選手と大南選手には少し驚きました。
    特に新加入の大南選手は、それだけチームから信頼されているということなのかなと思います。

    チームを支えるのは、キャプテンや副キャプテンだけではありません。

    選手には選手の。
    スタッフにはスタッフの。
    そしてサポーターにはサポーターの。

    それぞれの場所から、それぞれの形でチームを支えているのだと思います。

    今年もまた、私なりの場所から応援していけたらと思います。

    ……それでは、また店の電気がついた夜に。

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    V・ファーレン長崎サポーター。記録に残らないものを、記憶に残す。たぶん万人受けはしない。それでも、あなたの「好き」になれたら。 観戦記だけど、観戦記じゃない。 90分とその余白を綴っています。 初めての方は「青橙ノ地図」からどうぞ。

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