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【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#12】5と22の休息日

    外の電気をつけたら、今日も店が開く。

    看板はない。
    でも、この店はこれでいいと思っている。

    Bar「青燈ノ記憶」。

    佐世保の四ヵ町アーケードを抜けて、三回くらい角を曲がった先の路地。
    説明するたびに遠くなる場所にある。

    中は薄暗い。
    というか、だいたい暗い。
    たぶん明るくする気がない。

    カウンターは4席。
    ボックス席が2つ。
    それだけ。

    あとは、DAZNを見るためのiPadと、
    壁に掛かったユニフォームが1枚。

    照山選手の48。

    今日は昼間の茹だるような暑さが残っている。


    扉が開く。

    「こんばんは。」

    「いらっしゃいませ。」

    いつもの常連だった。

    カエデは氷をグラスへ落とす。

    カラン。

    「今、オランダって何時なんでしょうね。」

    グラスを磨きながら尋ねる。
    常連はスマホを取り出した。

    「ちょっと待ってな。」

    画面を眺める。

    「午後二時くらいみたいだぞ。」
    「あら。」

    少しだけ想像する。

    「じゃあ、午後のトレーニング中ですかねぇ。」
    「どうだろうな。」

    常連は笑う。

    「高木監督に扱かれてるかもしれないな。」
    「それは大変です。」

    ウイスキーを注ぐ。
    炭酸をゆっくり流し込む。
    シュワッという音が店に広がった。

    「そういえば。」

    カエデが思い出したように言う。

    「蛍さんと翁長選手の写真、見ました?」
    「ああ。」

    常連もうなずく。

    「オランダの街中で撮ってたやつだろ。」
    「そうです。」

    少し笑う。

    「二人で一緒にいるのに、別々にスマホ見てましたよね。」
    「まぁ、何か調べてたんだろ。」

    常連はグラスを受け取りながら笑う。

    「二人ともベタベタするタイプじゃないしな。」
    「そうですね。」

    カエデも笑う。

    「でも、何となくウマが合いそうですよね。」
    「ああ。」

    常連は少しだけ考える。

    「似てるところあるしな。」
    「似てるところですか?」
    「蛍はさ。」

    グラスを軽く回す。

    「昇格した時、『優勝できなくて悔しかった』って言ってたろ。」
    「そうでしたね。」
    「あの言葉、結構印象に残ってる。」

    カエデもうなずく。

    「私もです。」
    「翁長もさ。」

    少し笑う。

    「二位で悔しくて泣いたって言ってたじゃん。」
    「ああ。」

    カエデは思い出したように笑う。

    「私は最初、『昇格できて嬉しくて泣いた』んだと思ってたんです。」
    「違ったもんな。」
    「ええ。」

    少し照れ笑いを浮かべる。

    「悔しくて泣いたって聞いて、びっくりしました。」

    店の中が少し静かになる。

    「だから。」

    常連がぽつりと言う。

    「気が合うのかもしれないな。」
    「ストイックですもんね。」
    「嬉しいより先に、もっと上を見ちゃうタイプ。」
    「似てますね。」

    二人とも少し笑った。

    店の外を、夜風が通り抜けていく。

    オランダは、まだ午後。
    長崎は、もう夜。

    遠く離れた場所で、同じ一日が流れている。

    「今頃。」

    カエデがぽつりと言う。

    「何を話してるんでしょうね。」

    常連は肩をすくめた。

    「案外、夕飯のことじゃないか。」
    「夢がないですねぇ。」
    「サッカー選手だって腹は減る。」

    思わず二人で笑ってしまう。

    遠く離れた場所へ思いを馳せる。

    現地へ行けなくても、練習は見られなくても。
    こうして誰かの写真一枚で、その向こうの時間を想像できる。

    それも、サポーターの楽しみなのかもしれない。

    オランダでは、まだ午後。
    Bar「青燈ノ記憶」は、今日も静かに時間が流れていた。


    グラスの中身はまだ残っている。
    でも今日はもういい気がした。

    また明日、店が開くかは分からない。
    
たぶん開く。

    でも保証はない。

    ただ、電気がついていればそれでいい。

    Bar「青燈ノ記憶」は、今日も閉店する。


    ◆あとがき

    Bar「青燈ノ記憶」第12話でした。

    オランダキャンプ中に日本からできることは、クラブや選手が投稿してくれる、写真や動画を見ることくらいです。

    でも、その一枚から「今頃何をしているんだろう」と想像してしまうのも、サポーターならではの楽しみなのかもしれません。

    山口蛍選手と翁長選手は考え方とか試合の向き合い方とかが何となく似ているなと感じています。

    長崎の夜はこれから更けていきますね。

    ……それでは、また店の電気がついた夜に。

    最初の扉🚪
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#1】無意識
    昨夜の話🕯️
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#11】てりたまバーガー
    次の一杯🥃
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#12.5】もう一度、同じ相手

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    V・ファーレン長崎サポーター。記録に残らないものを、記憶に残す。たぶん万人受けはしない。それでも、あなたの「好き」になれたら。 観戦記だけど、観戦記じゃない。 90分とその余白を綴っています。 初めての方は「青橙ノ地図」からどうぞ。

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