
【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#2】黒のユニフォーム
外の電気をつけたら、今日も店が開く。
看板はない。
でも、この店はこれでいいと思っている。
Bar「青燈ノ記憶」。
佐世保の四ヵ町アーケードを抜けて、三回くらい角を曲がった先の路地。
説明するたびに遠くなる場所にある。
中は薄暗い。
というか、だいたい暗い。
たぶん明るくする気がない。
カウンターは4席。
ボックス席が2つ。
それだけ。
あとは、DAZNを見るためのiPadと、
壁に掛かったユニフォームが1枚。
照山選手の48。
正直、それだけで店として成立しているのかはよく分からない。
まあ、していないかもしれない。
この店はそれでいいのだ。
今日は、少しだけスマホを見すぎた。
今週も栃木シティの練習風景が上がっていた。
というか、もう慣れてきたはずだった。
最初の頃みたいに「探す」感じではない。
今はもう、最初から「そこにいる前提」で見ている。
そして、ちゃんと映っている写真もあった。
前回よりはっきりと。
普通に、そこにいた。
黒の練習着。
長崎のときとは違う色なのに、
それでも、あまり違和感がなかった。
むしろ似合っている気さえした。
「また見てるの?照山。」
カウンターの奥から、常連がグラスを置きながら言った。
今日は来るのが少し早い。
カエデはスマホを伏せる。
「ええ、まあ……見ちゃいますね。」
常連は、氷を落としながら笑う。
「もう普通に写ってるじゃん。」
「そうなんですよね。」
「で、どう?」
「……黒、似合ってますね。」
自分で言ってから、少しだけ間があった。
常連は「ふーん」とだけ言って、勝手に冷蔵庫を開けた。
こういうのはもう、注意するタイミングでもない。
スマホをもう一度開く。
そこには、もう「探す」必要もない写真がある。
そして気づいてしまう。
この間、注文した栃木シティのユニフォームは
──3番だった。
長崎の48とは違う数字。
たったそれだけなのに、少しだけ遠く感じる。
「ユニフォーム、もう頼んだんでしょ?」
常連が言う。
勝手にグラスに酒を入れている。
「はい。届くの、ちょっと楽しみです。」
「浮気じゃん。」
「浮気って言わないでください。」
カエデは少し笑う。
その笑い方は、たぶん店の笑い方だ。
「届いたら店に飾るの?」
「…どうでしょう、栃木シティのユニフォームですからねぇ。」
「いいじゃん、飾っても。俺も見たいし。」
「そうですか。」
グラスの中で氷が一度だけ音を立てた。
その音が終わる前に、常連が一言足す。
「でもさ、それ、結局同じ人でしょ」
その言葉には返事をしなかった。
できなかったというより、しなかった。
ただ、グラスを拭く手だけが少しだけ遅れる。
今日はそれで十分だった。
また明日、店が開くかは分からない。
たぶん開く。
でも保証はない。
ただ、電気がついていればそれでいい。
Bar「青燈ノ記憶」は、今日も閉店する。
◆あとがき
寝る前に読む少しだけお洒落なショートストーリーを目指しているのですが、どうでしょうか…。
現実の筆者は、移籍が発表された翌日、真っ先にレプリカユニフォームを買いました。
彼のユニフォーム姿が楽しみでもあり、ちょっぴり切なくもあります。