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【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#11】てりたまバーガー

    外の電気をつけたら、今日も店が開く。

    看板はない。
    でも、この店はこれでいいと思っている。

    Bar「青燈ノ記憶」。

    佐世保の四ヵ町アーケードを抜けて、三回くらい角を曲がった先の路地。
    説明するたびに遠くなる場所にある。

    中は薄暗い。
    というか、だいたい暗い。
    たぶん明るくする気がない。

    カウンターは4席。
    ボックス席が2つ。
    それだけ。

    あとは、DAZNを見るためのiPadと、
    壁に掛かったユニフォームが1枚。

    照山選手の48。

    今日は少しだけ蒸し暑い夜だった。


    扉が開く。

    「こんばんは。」
    「いらっしゃいませ。」

    いつもの常連が席に座る。

    「そういえば、今日、仕事の合間にピースタへ行ってきたよ。」
    「あら、いいですねぇ。」

    氷をグラスへ落とす。

    カラン。

    「ちょうど芝を張り替える前だったみたいだ。」
    「そういえば、先週末、ピッチを使ったイベントをしてましたもんね。」

    グラスへウイスキーを注ぐ。

    「それでな。」

    常連が少しだけ笑う。

    「マスターのために岩崎本舗も確認してきた。」
    「え?」

    思わず顔を上げる。

    「てりたまバーガー、まだあったぞ。」
    「わざわざ確認してくださったんですか。」

    少しだけ嬉しくなって笑う。

    「食べたんですか?」
    「いや。」
    「え?」
    「俺、とろたまバーガー派だから。」

    カエデは少しだけ肩を落とす。

    「てりたまバーガーも、おいしいですよ。」
    「食べたことはあるんだよ。」
    「じゃあ、なんでですか?」
    「だって、中はハンバーグだろ?」

    炭酸をゆっくり注ぐ。

    シュワッという音が店に広がる。

    「……はい。」
    「どうせ岩崎本舗へ行くなら、やっぱり角煮を食べたいじゃん。」

    返事に少し困る。

    「まぁ……角煮は、おいしいですけど。」
    「岩崎本舗といえば角煮まんだしな。」
    「それは、その通りです。」

    常連はニヤリと笑う。

    「じゃあさ。」

    グラスを持ち上げる。

    「照山がコラボしてなかったら、てりたまバーガーと、とろたまバーガー、どっち食べる?」

    店の中が少しだけ静かになる。

    カエデは考える。

    考えて。

    考えて。

    そして、小さく答えた。

    「……とろたまバーガーです。」
    「ほら。」

    常連が笑う。

    「マスターも角煮食べたいんじゃん。」
    「そ、それは……。」

    照れ隠しみたいにグラスを磨く。

    「角煮は、おいしいですから。」
    「だろ?」
    「でも。」

    カエデは少しだけ顔を上げる。

    「てりたまバーガーは、私の忠誠の証なんです。」

    一瞬だけ店の中が静かになる。
    常連はハイボールを一口飲んでから、小さく笑った。

    「そういう理由で食べてる人、初めて見た。」

    カエデもつられて笑う。

    「私も、たぶん初めてです。」

    二人の笑い声が、店の中へ静かに溶けていく。

    壁の48番は、今日も何も言わない。

    それでも、応援の仕方なんて人それぞれなのだろう。


    グラスの中身はまだ残っている。
    でも今日はもういい気がした。

    また明日、店が開くかは分からない。
    
たぶん開く。

    でも保証はない。

    ただ、電気がついていればそれでいい。

    Bar「青燈ノ記憶」は、今日も閉店する。


    ◆あとがき

    Bar「青燈ノ記憶」第11話でした。

    今日は、てりたまバーガーのお話です。

    実は、私は本当は角煮の方が好きなんです(笑)。
    でも、照山選手がコラボしているなら、そちらを選ばないわけにはいかないですよね。

    サポーターやファンをしていると、みなさんもそんな経験が一度くらいはあるのではないでしょうか。

    「忠誠の証」というと少し大げさですが、応援って案外、そういう小さな積み重ねなのかなと思います。

    ……それでは、また店の電気がついた夜に。

    最初の扉🚪
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#1】無意識
    昨夜の話🕯️
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#10】灯りが戻る夜
    次の一杯🥃
    【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#12】5と22の休息日

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    V・ファーレン長崎サポーター。記録に残らないものを、記憶に残す。たぶん万人受けはしない。それでも、あなたの「好き」になれたら。 観戦記だけど、観戦記じゃない。 90分とその余白を綴っています。 初めての方は「青橙ノ地図」からどうぞ。

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