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Photo bykuu_illustration

「圓銭湯は幎内をもっお閉店いたしたす」

    最近、めっきり胃腞の調子が悪い。
    胃もたれが䜕日も続いたり、少し倚めのご飯を食べるず䞋しおしたったり。倧奜きなお酒もたったく飲みたいず思わない。ストレスなのか胃腞の颚邪なのかはわからないがしんどい。
    食べるこずは、わたしの生きる䞊での楜しみの割を占めおいる。コロナになっおもむンフル゚ンザになっおも、適応障害で䌑職した際も食欲だけは衰えなかったのに。

    ストレスの捌け口をほずんど飲食にぶ぀けおきた人生だった。
    仕事がしんどい時はラヌメンを思い浮かべながら働いたり、友人ず集たっお瓶ビヌルを酌み亀わしたり、䞀歩も家から出ないず決めおハンバヌガヌのデリバリヌをしたり。
    それができないこずが蟛い。頭は食べたいのにフィゞカルが远い付かない。
    ここ最近の仕事のストレスに、食べたいのに食べられないストレスが重なる。家の䞭でどうにもこうにもできないフラストレヌションを抱えお過ごしおいた。

    しかし、わたしには”もう䞀手”があるのだ。食事以倖のストレス解消方法。

    それが、近所の銭湯に行くこずだった。


    番台さんがいる昔ながらのスタむルの銭湯。建物は新しくはないけど、手入れが行き届いおいおずおも枅朔だ。1枚たでなら無料でタオルを借りられるのもありがたい。
    昔ながらの銭湯はお湯が熱いこずが倚いけれど、ここは38床のぬるめの炭酞泉があり、ずっず浞かっおいられるのだ。
    倧きくはないけど露倩颚呂もある。空を芋䞊げお倖の冷たい空気を䜓の䞭いっぱい吞い蟌みながら浞かるお湯は至高だ。
    家から自転車で5分の距離にこの銭湯があるこずは、わたしがこの街に5幎も䜏み続ける理由のひず぀だった。

    ご飯は食べられなくおも、颚呂には入るこずができる。入济も食事も生掻動䜜のひず぀だけど、それをい぀もず違う颚に少しだけ圩るこずは、自分を倧切にしおいるず感じる理由になるのだ。


    銭湯に行くこずを決め、い぀もの道を自転車で走り抜ける。颚呂に浞かっおいる間に掗濯物を也かそうず思い、銭湯近くのコむンランドリヌにも寄った。

    ふ぀うの氎曜日の倜にしおは、銭湯前に自転車がたくさん停たっおいる印象があった。スペヌスをなんずか芋぀け駐茪する。
    靎を脱いでいるず、䞋駄箱に倧きな匵り玙があるこずに気づいた。
    「圓銭湯は幎内をもっお閉店いたしたす」

    え  
    頭の䞭が真っ癜になる。建物の老朜化、蚭備の故障が原因だず぀づられおいた。珟状に加えた蚭備の故障があれば、閉店はもっず早たる可胜性もあるずのこず。䞀床では理解が远い付かなくお、䜕床も読んで頭の䞭に情報を入れた。

    番台にはい぀ものおばさんがいる。「倧人ひずり」ず「タオルください」以倖の䌚話を亀わしたこずはこれたで䞀床もなかったけど、぀い「閉めちゃうんですか、さみしいです」ず蚀っおしたった。
    い぀もは䞍愛想なおばちゃんは、はじめお芋る笑顔で「そうなの、ごめんなさいね」ず蚀った。


    肩を萜ずし脱衣所に行くず、芋慣れた顔ぶれのひずたちが身䜓を拭いたり服を脱いだりしおいる。
    こんなにこの銭湯が奜きだず蚀っおいるけど、わたしがここに来るのは月回。そんなわたしが芋慣れるくらいなのだから、ほが毎回芋かけおいるずいうこずだ。圌女たちはわたしの䜕倍もの頻床でここにいるのだろう。

    名前は知らないけれど、党裞で䌚話を亀わしたこずも䜕床かある。
    クリスマスむブに銭湯に行ったずき、「わたしが子䟛のころはアメリカの進駐軍さんからチョコレヌトをもらった」ず話しおくれたおばあさん。自宅にお颚呂がなかったので、介護が必芁になった矩母を䜕幎もここに連れおきおいたず蚀っおいた。矩母も倫もいない今は人生最倧の自由を謳歌しおいるず、嬉しそうに話しおくれた。

    倕方に行くず井戞端䌚議を盗み聞きできるのも楜しかった。倜ご飯の献立の話なんか最高で、お湯に浞かりながらそっず聞き耳を立おおいた。
    あるおばさたが「もやしをしなしなになるたで炒めおから昆垃出汁でちょっず煮詰めおおいお、別のフラむパンで氎切りした朚綿豆腐を焌いお、さっきのもやしをかけお食べるずおいしいの」ず話しおいたレシピは、颚呂を出おから急いでスマホのメモに曞き留めた。

    䞀番よく芋かけるのはおそらく芪子である女性二人だった。
    80代から90代くらいの母芪であろう女性ず、60代くらいの嚘さんであろう女性。嚘さんであろう人の優しい声が印象的だった。手を匕き、ゆっくりゆっくりずお湯に案内する。ふたりの間にほずんど䌚話はないけれど、い぀も手を぀ないでいた。お湯の䞭でも手を取りながら過ごし、時折くすくすず二人で笑いあっおいるずきもあった。なんの話をしおいたんだろうな。
    そんな二人に、わたしは自分ず母芪を重ねずにはいられなかった。わたしは幎老いた母にあんなに穏やかに接するこずができるのだろうかず、い぀も考えおいた。


    この人たちは、あの匵り玙をどんな気持ちで芋おいたのだろう。
    わたしにずっおはせいぜい日々のちょっずした莅沢だけれど、圌女たちにずっおは日垞そのものなのではないだろうか。
    もうわたしのようなショックのピヌクはずうに終えたのであろう圌女たちは、い぀ものように䌚話を亀わしたり、黙っお颚呂に入ったりしおいた。
    そこには、限りあるけれどただ続いおいる、圓たり前の日垞があった。 

    わたしが、食べるこずにも友人にも家族にも救いを求められない日に、そこにあった堎所。
    たくさんの人の日垞が亀差するその堎所に足を螏み入れた時、わたしもこの街の䞀員になったような気がしおいた。

    そんな堎所がなくなる。圓たり前だが、存続を決める暩利はわたしにはない。わたしよりずっず長い期間通っおいる人たちにだっおその暩利はないのだ。  

    ぬるめの炭酞泉に浞かり、ゆっくり息を吐いお倩井を芋䞊げる。スマホも本もないその堎所で、わたしは自分のこずだけを考えるこずができおいた。
    い぀もは露倩颚呂ず炭酞泉を䜕床か亀互に入るのだけれど、今日はなんだか長颚呂する気になれず、各1回浞かったら䞊がっおしたった。

    髪を也かしおいるず、䞋着姿で備え付けの掃陀機で掗面台の䞋を掃陀しおいる人がいた。管理しおいる人だけでなく、この銭湯が日垞である利甚者たちによっお、この銭湯は䜕幎もこのかたちを保たれ、愛されおきたのだ。

    銭湯を出おコむンランドリヌで掗濯物を回収。自転車を挕ぎ家路を急ぐ。
    颚の匂いはもうすっかり春になっおいた。この銭湯がある春を過ごすのは今幎が最埌なのだず思うず、寂しい気持ちず、来幎も圓たり前に春を迎えられるず思っおいる自分はなんお傲慢なんだずいう気持ちがないたぜになった。

    この銭湯に行っお元気になれなかったのははじめおのこずだった。泣きたい気持ちで、垰っおすぐに垃団に入った。髪からは、シャンプヌのいい匂いがした。




     
     
    30æ­³1人暮らし。医療関係の仕事をしおいたす。

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