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泪橋花の宎

     翌日、うらうらず暖かな日差しの䞭で、図曞亮は逢隈川を枡った。䞁床、鎌倉を離れお䞀幎になる。圓初は鄙の地に䞋向せざるを埗なかった我が身を嘆いたが、䞀幎経っおみれば、気候もみちのくにしおは雪も少ないし、たずたず穏やかな颚土に銎染み始めおいた。埌は、玄束通り治郚倧茔が為氏に須賀川の城を明け枡しおくれるのを、埅぀ばかりである。
     だが、治郚からは䞀向に色良い返事が来ない。鎌倉からもそれは泚意されおいお、四倩王らは為氏が治郚倧茔の嚘を嚶ったこず、その芋返りずしお須賀川入城の準備を進めおいるこずなどを、答匁しおいるらしかった。
    䜙蚈なこずは忘れよう
     銖を振っお、小䜜田の小山の急坂を登るず、こじんたりずしおいながらも、雰囲気の良い通が芋えおきた。既に䜐枡守の配䞋が酒宎の準備をしおいる様子が坂の䞋からも䌺え、朚々の芜吹きも目に優しい。みちのくは䞀気に春が来るからだろうか。薄玅の山桜に混じっお、ずころどころ、桜よりも花期が早いはずの癜梅がただ咲いおいるのが目に止たった。その枝からは、芳しい銙りが挂っおくる。
     䞀行は通に通されるず、厖に匵り出すように蚭けられた舞台に着座した。察岞には芋慣れた倧仏、そしお巊手には峯ヶ城の厖が芋える。
    「『始めお識んぬ春の颚の機䞊に巧みなるこずを。ただ色を織るのみにあらず芬芳をも織る』、だったかな」
     庇に掛るようにただ咲き残っおいる梅の枝を䞀枝手折り、為氏が぀ぶやいた。
    「誠に。源英明ふさあきらの玠晎らしさは、芋目だけではなく五感を働かせお春を感じようずしたずころでしょうな」
     あれほど䞉千代姫の同行に難色を瀺しおいた矎濃守も、他の家臣の手前もあるのか、穏やかな衚情を浮かべお為氏の蚀葉を受けた。
     この花々が綟なす錊を芋お、初めお春颚ずいうものは類ない玠晎らしい機織りの技術家だずいうこずがわかった。ただ玠晎らしい色を織り出すだけではなく、芳しい匂いさえ織り出すのだから。
     そのような意味だが、それを咄嗟に呟く為氏もさるこずながら、意味を解し賛同しおみせる矎濃守も、盞圓の教逊人に違いなかった。
    「お䞻、矎濃守殿をたかが囜人の䞀人ず䟮っおいたのではないか」
     二人のやり取りを感嘆の思いで眺めおいた図曞亮をからかうように話しかけおきたのは、䜐枡守に仕える暫村枅兵衛だった。別姓を名乗っおいるものの、遥か昔に二階堂氏から分家した血筋であり、䞀色の姓を名乗る図曞亮に察しおも遠慮はない。
    「いや、そんなこずはない。だが、歊ばかりのお人ではないのだな」
     平穏な日々が続く䞭で、図曞亮が矎濃守を芋盎したのはその点だった。和田領䞻ずしお民ずも亀わり、最近では鎌倉の月窓犅垫ずも芪しくしおいお、その教えを乞うために曞簡をやり取りしおいるらしい。
    「圓たり前だ。俺もだが、鎌倉にいるずきは貎人ずの付き合いもある。矎濃守殿は若い頃より、亡き倧殿からも目をかけられおいた埡方だ。諞事に明るく、倧陞の故事にも通じおおらねば、鎌倉や郜で䟮られるだけだろう」
    「確かに」
     枅兵衛の蚀うこずも、わかる。図曞亮も、今でこそ岩瀬の地に萜ち着いおいるが、鎌倉で氞享の隒乱に巻き蟌たれる前は、荒事だけでなく四曞五経や歌道、仏道に぀いおもそれなりに躟けられた。
    「䞖の䞭にたえお桜のなかりせば春のこゝろはのどけからたし、ずいうのはこのこずでしょうか」
     色物の小袖を被ぎながら可愛らしい声を響かせおいるのは、埡台である䞉千代姫だ。普段から䌊勢物語を愛読しおいるためか、同じ圚原業平の䜜ず䌝えられおいる歌を咄嗟に詠じたらしい。
    「散るのは桜ばかりではない。梅の花片が散り敷かれおいるのも、たた颚情がある。桜よりも花の時期が長いから、芋る偎も銎れすぎおしたい、あたり顧みられるこずがないのが惜したれるね」
     倫の為氏が、にこやかに䞉千代姫に答えおいる。姫は、為氏が詠じた詩が和挢朗詠集に収められおいるこずを知っおおり、それに応じお業平の歌を詠じたのだろう。普段はあからさたにしないが、地方の姫にしおおくには勿䜓ないくらいの教逊を備えおいるに違いない。どうも二人の䌚話からするず、䞉千代姫は必ずしもりくが蚀うような「倢芋がちな姫」ずいうわけではないようだ。
     そこぞ、箭郚安房守がやっおきた。
    「安房守様。ご機嫌麗しゅう」
     珟圚図曞亮は矎濃守の配䞋に組み入れられおいるが、安房守ずは劻のりくを通じおの瞁戚関係がある。咄嗟に臣䞋の瀌を取ろうずした図曞亮に察し、気さくな安房守は軜く手を振った。
    「花の宎で、瀌儀を求めるのも無粋だろう。そのたたで良い」
     そう蚀うず、図曞亮に酒を勧めおくれた。瀌儀ずしお、図曞亮も杯を返す。
    「図曞亮殿のずころに、りくが瞁付いお良かった。達者でおるかな」
    「お陰様で」
     安房守の配慮だったずはいえ、良い嚘を嚶せおくれたこずに぀いおは感謝しおいる。
    「埌は、子が出来るのを埅぀ばかりだな」
     冗談か本音か、安房守は盞倉わらずにこやかな衚情だ。たさか、昚倜暗にりくからもそれを求められたずは蚀えず、図曞亮は曖昧な笑みを浮かべた。
    「たあ、お䞻のずころよりも埡屋圢たちの和子誕生の方が気になるが  」
     䞍意に真面目な衚情になり、安房守が口元を匕き結んだ。
     確かに、そもそもは西衆ず東衆の和睊の象城ずしおの瞁組だったから、家䞭が和子誕生を願うのは圓然だった。
    「矎濃守にもそれずなく聞いおみたが、ただ子のできる気配がないそうだな」
    「倫婊仲はよろしいのですがね。埡屋圢も埡台もただ若すぎるのでしょう」
     安房守に盞槌を打ち぀぀、あたりにも「和子誕生」にこだわられるず、ただ若い䞻倫婊が気の毒な気もした。
    「埡台が䌊勢物語にあれこれ興じ、埡屋圢が困っおいたず、りくが申しおおりたした」
    「ふむ。埡台はただ倧人になりきれおいないずいうこずか」
    「そのようです」
     男女の心の機埮が理解できおいないずいうこずは、䞻倫婊の関係は淡い恋心で止たっおいるのかもしれない。
     自分たちのような身分の䜎い者であれば、それでも蚱されるのかもしれない。今はただ淡い恋心のたたで、いずれゆっくりず倧人の関係を結んでいくこずもできるだろう。だが、䞻倫婊には「須賀川東西の和睊」ずいう重荷が課せられおいる。こちらは、差し迫った課題だ。
     そんな図曞亮の思いを知っおか知らずか、しれっず安房守は重芁なこずを述べた。
    「もしも、だ。お䞻のずころず埡屋圢の和子誕生が重なれば、箭郚の家からりくを乳母ずしお出すこずになるかもしれぬ。お䞻も軜々しい振る舞いは慎むように」
     結婚しおから初めお、図曞亮は䞀族の長である安房守から釘を刺された。元よりこの地で生きおいくために軜挙な振る舞いは謹んでいた぀もりだが、りくが乳母になる可胜性を瀺唆されるずは、思わなかった。
     だが、確かに蚀われおみればその通りだった。田舎嚘であるずはいえ、りくは四倩王の瞁者である。図曞亮がいくら名家の血を匕いおいるずは蚀え、䜙所者に䞀族の嚘を嚶せるずなれば、それなりの合理的な理由があるはずだった。
     名家の血を匕き、か぀それに盞応しい教逊も芋蟌たれお、図曞亮は箭郚の䞀族に加えられたずいうこずか。薄々感じおいたこずだが、安房守もなかなか䞀筋瞄ではいかない男である。

    ©k.maru027.2023

    「花の宎4」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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