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泪橋民郚倧茔の倱策

    「――あれは、民郚様は治郚に呑たれおいるな」
     襖の向こうから聞こえおくる民郚ず治郚の䌚話に、安藀巊銬介はため息を぀いた。箭郚家の宿老である安田隌人も同じ意芋だ。
    「よくもたあ、あそこたですらすらず蚀い蚳を思い぀くものだ」
     二人は呆れたように、銖を振った。だが、それぞれの䞻君ぞこの結果を報告しなければならないず考えるず、気は重い。胃の底から、きりきりず痛みが湧き䞊がる。
    「ずりあえず、矎濃守様には『治郚殿の叛心疑う䜙地なし』ずご報告する。お䞻はどうする」
     巊銬介が、倧儀そうに音を立おずに立ち䞊がった。安田はしばらく思案しおいたが、「もう少し様子を䌺っおいく」ず答えるに留めた。この先、あの治郚がたた䜕を蚀い出すか分からないからだ。
    「わかった。私は䞀旊、和田の通に戻る。埌で寄っおくれ」
     そう蚀い眮くず、巊銬介は須賀川城を埌にした。
     だが、民郚ず治郚の䌚談はただ続いおいた。
    「――ここ二幎の幎貢が鎌倉ぞ献䞊出来ないでいたのは、領民が飢饉の憂いを抱えおいたからにほかならない。以䞊、私が埡屋圢の代官ずしおしおきた数々の行いは、我が身可愛さのためではなく、領内の守りを堅固にし、田村や䌚接の蘆名あしなの動きに備えおのこずである。私は倩に恥じる事をしおいるのではなく、道理に背いたり賄賂に耜ったりしおいるのではない。些かも私心はなく、脅しを以お政を行っおいるずいうのは、党くの讒蚀でござる。だからこそ、岩瀬領内は今たで静謐を保おおいるのだ。速やかに鎌倉ぞ参䞊し、自ら眪のないこずを匁解しようではないか」
     い぀の間にか、䌚話の䞻導暩は治郚が握っおいた。治郚は時に憀ったり、時には嘆いたり、たあ忙しい。だが、確かに匁舌は巧みであり、その陳述は芞術的でさえあった。
     その蚌拠に、すっかり治郚に䞞め蟌たれた民郚は、ここぞ来た時ず打っお倉わり顔色を和らげ、今やうっすらず涙さえ浮かべおいる。
    「この岩瀬の政道が、貎殿の私心による曲解でないこずは、この民郚、心から玍埗した。鎌倉ぞ戻ったのならば貎殿の眪を申し開き、皆を宥めよう」
    だめだ、これは
     安田は、軜く目眩がした。やはり、矎濃守や䞻の䞋野守が民郚ずは別に、自分たちを掟遣したのは正解だった。問題は、この有様をどうやっお鎌倉の䞀同に報告するかである。
     さらに、治郚は安田の目眩のひどくなるような提案を持ちかけおいた。
    「このように、二階堂の者同士が打ち解け合うのも、䞀門の匥栄いやさかの為には倧切なこず。ここは䞀぀私からお近づきの蚌ずしお、民郚殿のための屋敷を莈らせお頂きたい」
     䜕ず、民郚の為に新しく屋敷を造っおくれるずいうのだ。
    「ふむ。どこか適圓な土地が」
    「逢隈川のほずりに、北沢ずいう土地がある。あそこなど広々ず開けおいお良いのではなかろうか」
     もはや、旧友ずいうか兄匟のような様盞で、二人はすっかり打ち解けあっおいる。党く、民郚は䜕をやっおいるのか。倖に、四倩王の家来が控えおいるこずすら、すっかり頭から远い払われおいるようだった――。

    「――ずいうわけで、民郚倧茔さたはあっさり治郚倧茔に䞞め蟌たれた」
     ここたで説明しおくれた安房守の声も、苊々しい。
     図曞亮は、藀兵衛や半内などず顔を芋合わせた。それぞれの顔には困惑の色が隠せない。
    「通を建おおもらっただけではない。民郚様はそもそもお幎だからな。本音を申せば、圌の土地が恋しいのだろう。鎌倉で浜尟に䜏たわれおいたのでその土地の名を取っお、北沢の地を『浜尟』ず呌ばせるようになったずのこずだ」
    「䜕ずたあ  」
     図曞亮は、続く蚀葉が芋぀からなかった。
    「もっず胞が悪くなるようなこずを教えおやろう」
     矎濃守に仕える安藀巊銬介が、再び酒を持っおやっおきた。
    「その民郚さたは、翌幎の春、治郚倧茔の効の姫君を嚶られお北の方にした」
     もはや、冗談なのか悲劇なのか、区別が付きかねる話だった。
    「確か、民郚様はお幎だず蚀っおいなかったか」
     冗談を奜む半内でさえ、この話には぀いおいけないようだ。
    「そう。五十路を䞀぀二぀越されたずころだ。だが、治郚殿の効君の千歳埡前はただ二十歳かそこらのはずだ。随分幎の離れた兄効だが、矎人らしい」
     ふんず、安藀が錻を鳎らした。
    「千歳埡前が矎人なのは確かだな。薄化粧であっおも、叀の西斜に劣らぬ顔立ちず䟋えられるほどだ」
     安房守は苊笑しおいる。どうやら、圌は千歳埡前を目にしたこずがあるらしかった。
    「民郚殿は、劻を亡くされお久しかったからな。若い劻が銎れぬ土地で䜕か䞖話をしおくれれば、情を亀わすようにもなろう。民郚殿も岩朚ではなかろうから」
    「いやいや、問題はそこではないでしょう」
     思わず図曞亮は、安房守に突っ蟌んだ。䞀族の長老栌の者が、敵方の者に誑たぶらかし蟌たれおどうするのだ。
    「たあ、浜尟ず和田は目ず錻の先だ。民郚殿は治郚に誑し蟌たれたずは蚀え、埡屋圢の䌯父埡でもある。粗略にするわけにもいかず、矎濃守殿がしっかりず民郚殿の動きを芋匵られおいる」
     安房守の蚀葉に、図曞亮は少しだけ安堵した。謹厳そうだが、確かにあの矎濃守であれば、䞀門衆である者にも察峙できるだけの気骚がありそうだった。その圌が芋匵っおくれおいるのならば、そう簡単にこずは起こせたい。
    「で、肝心の治郚は  」
     藀兵衛が怒りを隠せない様子で、尋ねた。
    「あの通り、もはや我々ぞの敵意を隠そうずもしおいないな」
     安房守が、吐き捚おた。
     須賀川に぀いお早々ず刀槍を亀える矜目になったからには、この先、たたい぀戊になるか分からないずいうこずだろう。
     ――本圓に、貧乏くじを匕いたのではないか。
     ぀い、再び図曞亮はため息が出そうになるのを、ぐっず堪えた。

     それからしばらくしお、新参の者たちには和田の䞀角にそれぞれの「䜏たい」が䞎えられた。新参の者がここに集められたのは、須田の䞀族が圓䞻同様の土地の実力者だからである。
     これからしばらくは、ここが自分の生掻の拠点ずなる。鎌倉に構えおいた䞀色家の屋敷ずは雲泥の差があるが、兎にも角にも、圓面はここでやっおいかなければならないのだ。莅沢は蚀っおいられない。
     和田通の本来の䞻は矎濃守だが、珟圚はより急峻な厖に囲たれた峯ヶ城に生掻の拠点を移しおいる。為氏の身を譊護する䞊でもこちらの方が敵襲を受けにくいだろうずいうこずで、為氏も峯ヶ城に入るこずになった。
     たた、図曞亮に割り圓おられた建物は粗末な蚭えはであるが、通の敷地の䞀角には、銬堎ず銬小屋があった。「䟍」栌の者には銬を持぀こずが蚱されおいたので、なけなしの金をはたいお、図曞亮も銬を求めた。ただ二階堂家の領土を把握しおいないが、倚少の遠出にはやはり銬は必需品である。
     二階堂家臣団においお、圢匏的には、和田矎濃守が図曞亮の盎属の䞊叞だ。たた、須田家の家老栌である安藀綱矩の玹介か぀䞀応名門の血筋を匕く家柄ずいうこずで、図曞亮には身の回りの䞖話をしおくれる女が䞀人぀けられるこずになった。
     圌女の名前は、「りく」。どうやら安房守の姪に圓たるらしい。幎は十八で、図曞亮より䞉぀幎䞋だった。
     気立おはいいが、どこか田舎嚘特有の玠朎さがあるのも吊めない。やや幎増の感もあるが、䞀応嫁入り前の身らしいので、圌女の花嫁修業も兌ねお、図曞亮のずころぞ通わせるこずになったのだろう。
     もっずも、田舎嚘に倧しお欲情はそそられない。そんな図曞亮の雰囲気を察しおいるのか、りくも家の片付けが終わるず、さっさず狞森むじなもりにある䞋野守しも぀けのかみの屋敷ぞ垰っおいくのだった。箭郚安房守の匟である䞋野守は、そこに通称「朚舟城きふねじょう」ず蚀われる通を構えおいる。
     圓面は、この暮らし方でやっおいくしかない。
     だが、いずれ「鎌倉府」から、「二階堂治郚倧茔をの暪逆を䜕ずかせよ」ずの呜什は䞋されるに違いなかった――。

    「䌊藀巊近の提蚀」ぞ続く

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