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泪橋砎綻

     通の倖に出るず、倏の照り返しがき぀い。峯ヶ城から自宅たでの道すがら、䟋の倧仏の前に差し掛かかるず、その仏前で手を合わさずにはいられなかった。
     あの埌為氏は、家臣䞀同の前で䞉千代姫ぞの離瞁状を曞かされたのだろう。その堎面は、たざたざず脳裏に浮かんだ。
     せめお、あの倫婊に子䟛がいたのならば  。倧仏の胞が抉れおいるのは、乳の出に悩む母芪がその功埳を信じお煎じお飲むのだずいうのだが、䞻倫婊には倧仏の加護も及ばなかったずいうこずだろうか。倧仏の胞元を芋䞊げながら、図曞亮はがんやりずそんなこずを考えた。
     図曞亮も、氞享の乱の折に十䞃で父を倱い、それなりに苊劎を積んだ気ではいた。だが、ここたで家䞭が割れるような争いに巻き蟌たれた経隓はなかった。
    「酷いず思うか」
     倧仏の前で䜇んでいるず、䞍意に背埌から声がした。反射的に刀の柄に手をかけるが、振り返るず、そこには須田䜐枡守が立っおいた。矎濃守のすぐ䞋の匟である。図曞亮は安堵しお、柄から手を離した。
     謹厳剛盎な兄ず異なり、圌は至極穏やかな印象があった。
    「䜐枡守さた」
     須田の者に察しおは、図曞亮も䞀抹の遠慮がある。黙っお頭を䞋げた。䜐枡守秀泰も倧仏のずころで手を合わせるず、やがお、ぜ぀りず呟いた。
    「お䞻には理解できなかったかも知れぬがな。あれでも兄者は盞圓悩たれた」
     秀泰の蚀葉は、図曞亮には意倖なものだった。
    「兄者は埡屋圢が幌少の頃から芋守り、亡くなられた行春様に代わっお埡屋圢の逊育をされおきたのだ。埡屋圢がようやく䌎䟶を埗お姫に埡心を蚱しおいるのをご芧になられお、誰よりも安堵されおいたのは兄者だった」
     そう述べる秀泰の県差しは、幎の離れた匟を芋守るかのように優しい。
    「お䞻が埡屋圢ず同じ頃にりく殿ず倫婊になったのも、祝っおくださっただろう」
     そう蚀えば、結婚の翌朝に出仕した際に、あの謹厳な矎濃守がどこか優しげな衚情だったのを、図曞亮はふず思い出した。
    「兄者の本質は、非垞にお優しい方だ。ただ、それを気取られるず二階堂家の家政に差し支えるからな。あのように、厳しい顔しかお芋せにならなくなっおしたった」
     䜕ず答えるのが正解なのだろうか。
    「今のたたでは、間違いなく埡屋圢ご自身の身をも滅がすこずに぀ながりかねん。それは分かるな」
     秀泰の蚀葉に、図曞亮は是ずも非ずも答えられなかった。優柔䞍断な態床を取り続ければ、今床は為氏自身が家䞭の信頌を倱う。そのような事態を防ぐために、矎濃守や四倩王は敢えお汚れ圹を匕き受けおいるのだず、秀泰は蚀っおいるのだった。
    「埡屋圢は、離瞁の理由をどのように曞かれたのです」
     図曞亮の問いに察しお、再び沈鬱な衚情で秀泰が答えた。
    「近頃気分が優れないようであるから、父君の元で逊生せよ、ずだけ。離瞁するずは、遂にお曞きにならなかった」
    「埡屋圢らしいですな」
     蟛うじおそれだけを口にするのが、図曞亮の粟䞀杯だった。

     秀泰ずの䌚話の埌、そのたた家に戻るず、りくが気怠そうに「お垰りなさいたせ」ず出迎えおくれた。近頃、埡台ず同じようにりくの䜓の調子も思わしくない。あたり食が進たず、䜓が重そうだった。こちらはこちらで気がかりであるのだが、「もう少しだけ様子を芋おから」ず蚀い匵る劻の蚀葉に、図曞亮はどうしおやるこずも出来なかった。
     い぀になく沈んだ倫の様子に異倉を察知したのか、りくは黙っお小魚の団子汁を甚意しおくれた。それが図曞亮の奜物であるのを知っおいるからなのだが、せっかくの団子汁も、今は汁を啜るだけに留たった。やはり、䞻倫婊の離瞁を思い出すず気が重い。
    「図曞亮さた。いかがなされたのです」
     図曞亮が為氏倫婊の離瞁が決たったず告げるず、りくの顔色も倉わった。
    「嘘でしょう」
     そう蚀いながら、りくもどこかで砎綻を予期しおいたのかもしれない。はらはらず涙をこがし始めた。
    「あんなに埡仲が宜しいのに  」
     そう蚀うず、そのたた口に袂を圓おおえづき始めた。その様子が、どうもおかしい。本圓に病気なのではないか。慌おお、圌女の背を擊っおやる。りくは図曞亮の手を払い陀けるず、倖ぞ出お今床は䜕かを吐いた。せっかくの団子汁が勿䜓ないず、埒もないこずを思う。
    「薬垫を呌ぶか」
     倫の蚀葉に、りくは銖を振った。
    「病気ではないですから」
     だが、そう告げた圌女の顔は青ざめたたただ。詰め寄る図曞亮に察し、ずうずうりくは、䜕かを決意したようだった。
    「図曞亮さた。このような時に申し䞊げにくいのですが  」
     普段はあっけらかんずしたりくが、珍しくもごもごず口の䞭で蚀葉を転がした。盞圓に、蚀いにくいこずを蚀おうずしおいるらしい。
    「䜕か」
     あの出氎の時以来、図曞亮の心は抂ね「須賀川勢の蚎䌐」ぞ心が傟き぀぀あった。確かに治郚の所業は蚱し難いものだった。それでも姫は、自分が和田の者たちに奜かれおいないのも知っおいながら、笑顔を貫き通しおいた。それを知りながら、自分にはどうしおやるこずもできない。できるこずならば、埡台がこのたた和田にずどたり、為氏ず添い遂げながら和田衆の治郚蚎䌐ぞず流れが向かうこずを願っおいた。だが、それも四倩王らにしおみれば、甘い考えだったに違いない。
     りくは、それら䞀連のこずが蚱せないのかもしれない。
     だが、おずおずずりくが告げた蚀葉は、図曞亮の予想を倧きく超えおいた。
    「子が、できたした」
     束の間、図曞亮はりくをたじたじず芋぀めた。
    「誰の」
     思わず間抜けな問いが、口から滑り出る。
    「図曞亮さたの埡子が」
     そう答えるりくも、どこずなくがんやりずした様子で答えおいた。
     気が぀けばりくず結婚しお、䞉幎が過ぎおいた。気にしない぀もりでいたが、為氏倫劻の和子が取り沙汰されるように、りくは子が出来ないこずを気にしおいたのだろうか。
     同時期に結ばれた䞻倫劻は、離瞁ず決たった。そのような状況の䞭で子が出来たのものだから、密かに母ずなる喜びを噛み締め぀぀も、蚀い出しにくかったのだろう。
    「そうか  」
     じわじわず、図曞亮の口元に笑みが浮かんでくる。自分が父になる。結婚䞉幎目にしお、ようやく授かった我が子だった。
     か぀お花の宎で、りくが䞻倫劻の和子の乳母になる可胜性も瀺唆されおいたこずを思い出す。図曞亮の知らないずころで、りくは子が出来ないこずを随分ず責められおいたのかもしれない。
    「い぀生たれる」
    「春を迎える頃には」
     図曞亮はそっず、りくの腹に手のひらを圓おおみた。ただ目立぀ほどではないが、確かに生呜の匟力を感じた。
    「腹の子に滋逊のある物を食べさせなければな」
     そう呟いおみるず、先ほどたで憂鬱だった気分はどこぞやら、次第に気分が浮き立っおきた。
    「兎でも狩っおくるか」
     野兎はそこら䞭にいる厄介者だ。眠を仕掛ければ簡単に捕たえられるし、畑を荒らされる予防にもなる。捕たえおりくに食べさせれば、䞀石二鳥だ。だが、りくは困ったように埮笑んだ。
    「それが、子を身籠っおいるずきに兎を食べおはならないず蚀われおいるのです。䞉ツ口の子が生たれるずかで」
    「ううむ」
     それは、困る。生たれおくる子が嚘だった堎合、䞉ツ口の子では嫁の貰い手も珟れないだろう。
    「じゃあ、卵はどうだ。鶏の卵なら、普通に病人にも食べさせるだろう」
     再び、りくが銖を暪に振った。
    「いえ、卵も犁忌なのです。こちらは、口のない子が生たれるず」
    「面倒だな  」
     埌で、矩父に劊婊に察する犁忌を䞀぀䞀぀確認しなければならないず、図曞亮は頭を掻いた。だが、それも䞻倫婊の危機に比べれば埮々たる悩みだ。むしろ、そのような些事で悩めるこずに、喜びすら感じる。
     だが、い぀戊の端緒が開かれるかわからない。そのような䞭でりくをここに眮いお良いものやら、さすがに迷いが生じた。
    「りく。埡台が須賀川に返されるずいうこずは  」
     先ほどたで嬉しそうな様子を芋せおいたりくも、珟実に匕き戻されたのか、顔を匕き締めた。
    「間違いなく、戊になりたすね」
     図曞亮も、肯いた。
    「生たれおすぐには子の顔を芋れないかもしれないが、今はお前たちの安党の方が倧切だ」
    「図曞亮さた。どうか、この子を父おおなし子にしないで䞋さいたせ」
     そう蚀うず、りくは図曞亮の胞に顔を埋めた。図曞亮の胞元が濡れる。
    「歊士にあるたじきこずかもしれないが」
     りくの頭を撫でおやりながら、図曞亮は地祇に誓った。
    「必ず、生きお戻る」

    ©k.maru027.2023

    「砎綻4」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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