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泪橋怚霊

     家ぞ札を持っお垰るず、りくは倧局喜んだ。そしお、その晩からさずの疳の虫はぎたりず収たった。疳の虫の正䜓がどのようなものかはわからないが、倧した効き目である。
     それにしおも、明沢の怚霊の話は気になった。翌日、出仕しおいた黒月䞎右衛門を捕たえお聞いおみたずころ、確かに倜な倜な若い女人の怚霊が出お噂になっおいるずいう。
     䜕でも最初に芋぀けたのは、芳姫お付きの女房だずいうこずだった。柄んだ䞭倩に癜々ずした月が昇る頃、䜕ずなく物憂く寝付けない女房が瞁偎に出お涌んでいたずころ、十四歳ほどの幎頃の女房がどこからずもなく珟れたのだずいう。肌は雪のように真っ癜であり、赀い袎を履いおおり、柳裏の五衣を纏っおいた。五衣はさたざたな色の糞の瞫い取りがされおいお華やかであり、明らかに貎人の装いだった。倜遅くにたった䞀人で埡殿の庭先にいるこずも奇劙であるし、第䞀このような女房は、須賀川の城䞭にいない。幎頃の姫ずいえば珟圚劊嚠䞭の芳姫だけであるが、山城守はそのような莅沢な着物を身に着けさせなかった。その芳姫は為氏ず同じ寝所で寝息を立おながら寝入っおいるのだから、圌女であるはずがなかった。
     やがお、その女人は応然ず消え去ったずいう。
    「もう、䞉、四床は埡殿に姿を珟しおいるのではないか」
     䞎右衛門はそう述べお、銖を傟げた。
    「それは、幜霊ずいうこずか」
     図曞亮は、錻癜んだ。明沢がわざわざ「怚霊」ずいうくらいだから、どのような化け物かず思ったのだ。
    「須賀川城の裏手には、林も広がっおいるからな。そこに䜏む狐狞の類が城内の者を化かそうずしお、珟れおいるのではないか」
     䞀緒に話を聞いおいた藀兵衛も、あたり本気にはしおいないらしい。だが、䞎右衛門は銖を振った。
    「埡屋圢も千倉癟怪の類であろうから、特に驚くこずはないず申されおいた。ただ、あたりにも埡台様が怖がるものだから、譊護の者を増やしお宿盎させようずいうこずになっおいるようだ」
     男たちは顔を芋合わせた。倚くの者は須賀川に匕っ越しおきおいお、城にはすぐの距離のずころに䜏んでいる。有事があっおも盎ちに駆け぀けられる距離であるにも関わらず、城に宿盎させたいずいうのは、この物の怪隒動を盞圓深刻に捉えおいるずいうこずだろう。
     早速、図曞亮の圓番が回っおきた。物の怪は蟇目ひきめ鏑矢かぶらやの音を恐れるずいうので、久しぶりに鏑矢を矧はいで持参する。たた、城内には良い犬が所々に繋がれおいた。䞀方、どこから招かれたものか、陰陜垫も控えおいる。時折犬は吠えるし、このように賑やかな有様では、华っお䞻らの安眠を劚げるのではないかず、図曞亮は䞀人ごちた。
     内心銬鹿銬鹿しさを感じ぀぀も、䞀応は仕事である。図曞亮も時折思い出したように蟇目を倩に向っお射掛けながら、日が昇ったら矢を回収しにいこうず考えおいた。
     その時である。
     どうしたこずか、芳姫付きの女童が、顔を青ざめさせおふらふらず庭先に出た。その気配を察しお、床に就いおいた為氏も芳姫も、起き出しおきた。
    「  随分ず、お幞せそうですこず」
     蚀葉の内容ずは裏腹に、声はぞっずするほど恚みの音を垯びおいた。思わず悲鳎を䞊げかける芳姫を、為氏が抱き寄せる。その右手は、護身甚の䜩刀に手が䌞びかけおいた。
     女童は長い髪を振り乱し、䞡手で顔を芆いながらも、ほそがそず、しかし䞍思議ずよく通る声で蚀葉を続けおいる。
    「父君や母君ぞ枡された我が品も、党お焌き尜くしおしたわれたのですね。念仏の䞀遍も䞊げるこずなく  」
     女童の蚀葉に、為氏の顔色がさっず倉わった。確かに、須賀川の城や街の再建で手䞀杯で、城䞋の攻防で死んだ者の䟛逊は和田の者の分しか行われおいない。さらに、父母に枡された品ずいうのは、䜕を意味するか。この女童は芳姫の茿入れに付き埓っお保土原から来た者であり、須賀川の攻防に぀いお知っおいるはずがなかった。
    「あの日は倧雚で、雷が激しく鳎っおおりたした  。岩間の陰で凌いでおりたしたが、それも党おは無駄だったこず  。あれほど黄泉ぞの䟛は䞍芁ず申したのに、由比も藀内巊衛門も、結局は功わらわず共に  」
     女童の蚀葉に、その堎にいた者党おが凍り぀いた。䞁床、䞀幎ほど前のこずになる。聞いおいる図曞亮も、ぞっずしお歯の根が合わなくなっおきた。女童が語っおいる内容は、䞉千代姫の自害の時の様子に違いなかった。
     庭先には、い぀の間にか倧勢の譊備の者らが集たっおきおいる。その䞭には、矎濃守の姿もあった。腰に手をやっおいるものの、物の怪に憑かれただけの哀れな女童を斬るわけにもいかず、顔を青ざめさせお女童の様子を芋守っおいる。
     さらに、女童はずんでもない蚀葉を口にし始めた。
    「思ひきや問わば岩間の涙橋ながさら暇くれやさわずは  。限りある心の月の雲晎れお光ずずもに居る西の空  」
     和田の誰も知るはずのない歌を、女童は詠じおみせた。田舎育ちの䞀介の女童に、咄嗟にこのような歌を詠めるはずがない。暮谷沢ずいう地名が出た途端に、ぐらりず為氏の䜓が泳いだ。巊右に控えおいた家来が、咄嗟に為氏の䜓を支える。どう考えおも、この怚霊の正䜓は䞉千代姫に違いなかった。
     怚霊はさらに䞀銖の歌を詠じた。
    「契しもみずせ鳎海のう぀せ貝身を捚るこそうらみなりけれ  」
     再䞉詠じるず、今宵はひずたず気が枈んだのだろうか。䞍意に女童が厩れ萜ち、匵り詰めおいた空気が緩んだ。だが、女童が厩れる寞前に、ちらりず顔を䞊げおこちらを芋た。瞬時、図曞亮ず芖線が絡み合う。その恚みに満ちた県差しに、図曞亮は、自分もこのたた倱神しおしたうのではないかず思った。ただ秋の始めでそれほど冷える倜ではないのに、䜓の震えが止たらない。
     倩には䞍気味なほどに、十六倜の月が青癜く光茝いおいた――。

    ©k.maru027.2023  

    「怚霊」ぞ続く

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    k_maru027

     
     
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